̄
___その一閃を見た時、はじめてこの世界の歪さを知りえた。
「【虹刃一閃】!」
……なんであんな技、使えるんだ?
30レベルにも満たないただの戦士職が、【
 ̄ ― _
対象の意識反応が消失したのを確認すると、次なる魔法を唱えた。
「__【
高次元からの介入を一時的に阻害する魔法【
すなわち――ー、この手のひらサイズの
(……ココでも、コレは変わらないんだな)
手の中に納まっているオーブを弄りながら、かつてと同じ外見ながらも違いがあるのか観察する。
あの法国の特殊部隊が使った【魔封じの水晶】に、雰囲気は似ている。あちらは名前通り水晶ぽい見た目とカットだけど、こちらは真っ黒な卵型の黒曜石だ。……作り方は、案外こんな感じなのかな。
(とりあえずコレで、盗人の始末はついた。後は――ー)
俺の不始末だけだ……。我がことながら、大ごとになってしまったような気がするも、コレで丸く収められるはずだ。……たぶん。
<モモンガ、再確認だけど…大丈夫なんだよな?>
<もちろんです。これ以上の縁はありません、【最上位】を使うまでもないでしょう>
ただ……、言葉にせず。確信のもてないことだからだろう。
100%でないのは、重々承知だ。
<確かに無茶ぶりではあるけど…、
ただ……、できてほしいとは思ってる。後味が悪いのは良くないことだ。
相手に選択をゆだねてるのは、重々承知だ。
決断が変わるわけではない。ただ、俺の心配が若干解けたのみ。――ーただそれが、後押しにもなった。
「さてと、まずは――ー【
魔法を発動させると、空いていた片方の手のひらに、オリジナルと瓜二つの黒いオーブが出現した。
作り出した複製品を一通り検分する。
あの魔法で大概のアイテムは複製できるも、モンスターやNPCなどの動的存在や聖遺物級以上の高レアアイテムは不可能だ。後者については運営側が阻害したからだろう、外見を正確に真似るのすらできない。……この異世界では、どうなるかは不明だった。
(大したモノじゃないと思ってけど、その通りだった)
魔道具に分類されるのだろうけど、聖遺物級ではない。高度な知性があり所有者を少なからず操れる呪物でもあるけど、魔法でコピーをつくれる程度の存在だ。レベルカンストの俺の魔力が特別なのかもしれないけど、唯一無二だろう「魂」とはほど遠いものではあるのだろう。
と言っても、本当に正確な複製品とも限らない。中身の知性が上手く可動してくれるかは、起こしてみなければ分からない。ただ今ソレを、確かめる必要はない。コレでも十分だ。
作り出したオーブ/コピーの方を掲げながら、さらに魔法を唱える。
「__スキル発動【
【
【触媒召喚】___。召喚魔法の一種。召喚するモンスターに関連するモノ/触媒(体の一部ならベスト)が必須だが、不得意/未収得系統のモンスターであっても召喚できる。ただし、自分のレベル以上はほぼ確実に失敗、ワンランク以下しか成功しない。加えて、触媒を消費しなければならないので、一度に一体しか召喚もできない。……産廃寄りのロマン魔法だ。
さらに今回呼び出したいのは、オーブに変えた奴ではなくその大元だ。同じ体の一部ゆえシステム上問題は無いはずだけど、某超古典名作RPGにでてくるモンスター/ノーマルスライムとキングスライムが別モンスターであるのと同じ、ノーマルが選ばれては困る。
そこで、付け加えた魔法二つ。大元の記憶を引きずり出し似姿を示しておけば、そちらを優先させられる。
(後は、俺のレベルが上回っているかどうか)
この異世界/現地産に、カンスト/100レベルを超えるモンスターなどいないはず。ただいたとしても、問題はない。それでも召喚自体は成功できる。召喚後の支配権は放棄したから。
かざしたオーブが自らの発光の中へ消失――ー
直後、遠くで/城壁の奥から光の柱が煌めいた。地鳴りが広がっていく、どんどん大きく震えていく――ー。召喚成功だ。
「___よし! 後は適度に痛めつけて、暴れ回ってもらうだけだな」
この大墓所に秘められ続けた闇を、抉り出す。いい感じに建物やら地面を抉ってもらって、大衆の目にさらけ出す。
もう少し穏便な方法/細かく事情を調べ上げて証拠を集めて/解体していくのも興味深かったけど、こちらの方が手っ取り早い。周囲への被害は考えなくてもいい、街の外で行わせている『別の作戦』の隠蔽にも使える。やらない手はない。
ただ――ー、地鳴りが立っていられぬほどの地震ともなった。噴火のような爆音をふきあらしながら、逆巻く白い渦滝が吹きあがっていく。…………思ったよりも、大物だった。
(……この街、下手したら更地になるかもしれないな)
できるだけ、そうはならないように調整したいが、自業自得といえばそうだ。
街の創建当初から溜め込まれた膿/肥え太り続けてきた癌。創立者が子孫に託したであろう課題を怠けてきた/あまつさえ滅びを早める悪行への加担までもしてきた。そのまま放置し炸裂させてやる方が、住民たちと未来にとって良い選択だったのかもしれない。……俺はいらぬお節介で、台無しにしてしまったのかも。
(それでもどうするかは、彼ら次第か……)
ただ、仕掛けたのは俺。それなのに、彼らに尻拭いさせる。そんなだらしなさに落ち着かなくなるも、仕方がない。……神様プレイは、案外難しい
見上げれば、白き大竜が空に鎮座していた。
墓所から離れ城壁の外のココであっても、粉塵が吹き込んできている。大気も2・3℃は冷え込んだかもしれない、空気は電荷を帯び少し動くだけで静電気にやられそうだ。……ただ現出しただけで、この街/大地すらも悲鳴を上げている。
(……俺が現地人だったら、腰抜かすだけな自信がある)
まるで神が降臨したかのような威圧感。ついに、この世の終わりを告げに来たとも。
かつていた自然ぶっ壊れ世界も終わっていたけど、こちらも人間が安心して住める世界じゃなかった。
無茶ぶりだったかもしれない……。超えるべき試練にしては少し、絶壁すぎたかな?
やはり神様の匙加減は、俺には難しかったかもしれない。
――◆――◆――◆――
あの絶望の終焉を切り裂いてみせた魔術士の背に向けて、感謝をつげた。
「___助勢痛み入る、ゴウン殿」
私は私の都合で動いたまでです……。そう謙遜しながら、小虫が飛び込んできた程度の異象でしかなかったと言わんばかり。いつもと変わらず、かの悪竜をかるく超えたというのに、馴染み深い日常すら感じさせてくる。
つけている仮面も、いつもとは違ってドラゴンの頭蓋骨を模したであろうもの。否定はしているようだが、このことを予期していたと、さらには滅ぼすつもりだったとも勘ぐって/期待してしまう。
そんな超常の大魔術士に見とれていたら、傷を負った悪竜が苦しみ暴れ回っているのが目に映った。大蛇のような体をくねらせ/鞭のように大地を打ち据えながら、負ったであろう痛みを大げさにも撒き散らしている。
その姿にはもう、神々しいまでの畏怖は感じられない。ただ甘ったれた悪ガキのごとく、辺りかまわず泣き喚き八つ当たりしているようにしか見えない。腹にまで響く声も、ただ耳障りな騒音だ。……そこまで致命傷だったのか?
額の三つ目は切り裂かれ血が止まらず、完全に潰されていた。確かに大ダメージだろう、暴威を振るうための重要な器官だったのかもしれない。それを差し引いても、みっともなさが浮き彫りになっていく。初接敵したときの威圧感は、幻か虚勢でしかなかったとさらけ出されていく。
ただそれでも――ー、まだ倒れていない。痛みを撒き散らしているがゆえにも、すぐに反撃してくるだろう。おそらく、傷つけられた倍の仕返しをするために。……次が読めてしまう分だけ、また恐怖が沸いてきた。
ただそれでも――ー
「__アレ以上、私から手を出すことは無い」
……彼が戦ってくれさえすれば。
ソレは甘えなのだと、改めて突きつけられてしまった。
「これからどうするかは、あなた方次第ですな」
「……随分と、半端なことだな」
「カルネ村の時とは、事情が大きく異なりますので」
彼らはただの被害者、しかし今回は……。最後まで言わずとも、読み取れた。
あの悪竜がなぜ現れたのか? ……直接の原因は、分からない。
だがここには/この街/強いてはこの王国には、現れうるだけの腐敗がある。建国期から溜め込まれてきた負債の総決算として、アレは相応しいものだと悟ってしまった。がゆえに、取り立ての怖れで金縛りにあってしまった……ともいえるだろう。どこまでも身の潔白を証明しきれない、脛に傷があるがゆえにも。
ただそれでも、生きている。生きていかねばならない。できれば、明日は今日よりも良い日になれるように、日々務めていく。遅い歩みであっても一歩一歩、改善していく。
そのためにも、今は――ー、
「__助けてほしいですか?」
……心の弱い部分を、正確に抉ってくる。
反抗心だろう。なけなしのプライドが首をもたげてくるが、我が身だけのことでは無い。この街の住民/強いては王国民全ての命に関わってくる。俺のプライドなど、その責務の重圧に比べればくず紙も同然だ。まっさきに捨てるべきものだ。
排気一つ……。吐き出しては覚悟を決めた。
「助けてくれるのか?」
「代価を払えれば」
「……代価とは?」
「この街の住民、全ての命」
……不覚にも、安堵してしまった。
これでもう、怠惰とは決別できる。その場しのぎでしかない成果を追い求めなければならない日々から、解放された。ただ己の心だけに、従えばよいだけになれる。
「…………滅びの先延ばしにしかならん、ということか」
「奴を生み出したのは、彼らの悪行と怠惰ゆえですので。今ここで祓ったところで、真に消滅させることはできない」
ほかに転移するだけ……。いたちごっこ。それも無意味では無いだろうが、生きることはあらゆる人間に課せられた使命だ。ソレを放棄して他人に依存しては、救いたくとも救いきれない。生きようとしない半端者が寄生できるほど、王国はもう富貴ではない。
「自分たちの手で、解決しなければ…ならんのだな」
言葉にして諦めるも、不思議と肩の荷だけが軽くなった。何よりも、大事なものだったはずなのに。
(もしかして俺は、無益な遠回りを…していたのか?)
思わず湧き上がってきた疑念、頭から振り払う。
反省は後だ。今はただ、目の前の絶望に集中しなければならない。
「不思議なものです。邪悪とはここまで強大になれるのに、あなたたちは何とも脆弱だ」
超越者ならでは、常世の自分たちには決して分かることのない感慨だろうが……、まさしく言う通りだ。
なぜ俺たちは、こんなにも弱いのか? ……悔し涙が焼け石に水なほど、どんな勇気も愚かな所業になってしまうほどにも、この心に比してなんと不自由を強いられることか。
(それでも――ー、生きねばならない!)
「__私にアレを、倒せると思うか?」
無遠慮にも人様の街を、ただ己の痛みを晴らすために壊しまくる悪竜を見上げ/睨みつけながら、背中越しに宣言した。
「貴方が無理なら、ほかの誰にも倒せないでしょうな」
おっと! 忘れていました――ー。少し芝居気味ながら、手を伸ばし亜空間に差し込むと……、一振りの漆黒の剣を取り出してきた。
「この一か月、あなたに無断であなたの部下たちで人体実験してしまった、そのわびです」
【魔剣キリネイラム】___。かの13英雄たちが使ったとされる、4大名剣の一振り。古今東西の名工であっても数えるほどしか扱いきれない
思わずも振り返る、視線も鋭くなっていた。
「……彼女を、どうしたのだ?」
「危険物だったので預かっておきました、少々強引な方法でしたがね。……ちなみに、足りなかったパーツも付け加えておいたので、安定はしています」
ソレならば、奴にもダメージは与えられるでしょう……。こちらの敵意などまるで頓着もせず、ただ魔剣の性能を説明するばかり、俺が振るうのを当然とばかりにも。……毒気を抜かれてしまった。
「貴殿にもらったこの剣では、奴に届かないのか?」
「奴にとってこの魔剣は、無視できない不快なものですので。必ず叩き割ろうと、向かってきてくれます」
……そうか。なら願ったりだ。
ただ一時であっても、奴の敵意を引き込むことができるのならば、この命も無駄にはならないだろう。
そうして魔剣を手渡してくると、取り出したもう一つも「こちらもどうぞ」と渡してきた。
何らかのポーションだろうか。魔剣に比べると見劣りしてしまうが、俺の浅はかな知識ゆえだろう。何か重大な効果がある薬品のはずだ。
感謝してそのまま、腰の背嚢にしまっておこうとして……、ふと気づいた。どこかで見たことがある。それもつい最近だったはず。見た目は確かに初めてだったが、漂っている匂いには覚えがある。
改めてもう一度見直してみると……、
「……、ッ!?
この小瓶の中身、まさかとは思うが――」
「ええ、【雪粉】ですよ」
今まで製造した中で、一番高純度な代物です……。かつて見たような真白な粉末ではなく、青みがかった半透明な液体にはなっている。
「【
……まさかここで、こんなモノを渡してくるとは。
コレはさすがに好意とは呼べない。こればかりは突っ返そうとすると――、止められた。
「道具はどこまでいっても道具。猛毒も時には良薬となりえる。不治の病を殺し、死者すら呼び起せるほどに……、すべては使い手の心根次第です」
静かに諭してくる言葉には、悪戯心ではない誠意を感じさせるも、こればかりは無理だ。受け取れない/受け取ってはならない。その一線を越えたら、もう……戻れなくなる。
さらに/強引にも、突っ返そうとするも――、
「今あなたの中に、アレを倒す以外の不純物は、ありますか?」
その程度の覚悟で、アレと対決するつもりだったのか? ……諭す言葉は、俺を咎める諫言だったと、気づかされた。
押し返そうとする手から、自然と……力が抜け落ちていた。
分かっていたことだ。分かってもなお、受け入れることができなかった。そうするしかないと覚悟を決めても、体は無意識にも拒絶してしまう。……情けない。あまりにも、情けない。
もっと痛感しなければならない。骨身に刻み込まねばならない。
俺は弱い。弱者にはたとえ命がけだろうとも、選べる選択肢は限られているのだと。
「…………部下たちにもそう言って、嗾けたのか?」
「彼らのことは、貴方が一番よく知っているはず」
……返す言葉もない。彼らの方が、俺よりも先んじていた。
「必ずしも、天使の召喚となるわけではありません。異形種の領域につながるだけ。彼らにとっては、アレがもっともふさわし力の形だっただけです」
貴方には、貴方だけのふさわしい力となるでしょう……。預言めいた言葉に、くじけかかっていた心が叩き起こされた。思わずも顔を上げていた。
(……まさか! 師匠すらついぞ至れたなかった
【虹刃一閃】___。伝授された【六光連斬】よりも上。ソレも今じぶんが使っているのは、全身の捻転を利用して真似ただけの紛い物。本来の使用法は、その場に踏みとどまって放つ【四光連斬】が正しい。それでは4つが限界であるのに、さらに3つ斬り込まねばならない。……言い伝えだけの絶技、流派の祖師さましか使えなかった人外の剣技とも。
あまりにも無根拠な連想、夢想と言ってもいい。すぐに苦笑いで横に退けた。……そこまで深謀遠慮では、さすがになかろう。
ただ、可能性は残っている。彼が放った『あの一閃』が目に焼き付いている。あれこそ目指すべき究極の形だ。言い伝えは幻ではなかった、確かにそこにあった。ならば後は、そこに至るための解法を見出せばよいだけ。必ずソレはあるのだから。
信じなければ全て死に絶えるのが現状。ならば……、飛びつくのに何の遠慮がいようか。
全身に活力が駆け巡る。恐怖ではない武者震いだと、今なら言い切れる。例え微塵の可能性であっても、勝利の道は繋がっている。
「……貴殿に出遭ったのが、俺の運の尽きだったようだな」
「悪運はいつか尽きるモノです」
本来の運命がやってきただけ……。どう受け止めるかは、本人次第。
全くだ! 運命がこれほど愉快なものだったとは。……今の自分は、腹の底から笑っているのだろう。
もはや後顧の憂いなし。ただ勝利に向かい、前進あるのみ。
酩酊でもしているかのような強勢で、あの悪竜へと立ち向かっていくと――、肩に褪せた金髪の少女魔術士を担いだガガーランが、声をかけてきた。
「___旦那、そいつはまさか……アインズさんかい?」
一見で言い当ててみせるも、当の本人は目を向けることもせず。もはや自分のすべきことは俺を見送るだけだと言わんばかりの泰然さ。……あるいはすでに、彼女らのことは把握していたのかもしれない。
「イビルアイ殿は…、無事か?」
「…気絶はしちゃいるが、死んじゃいないよ」
私らを守るために、自分の守りが疎かになっちまっただけさ……。悪竜の出現の余波、城壁が陥没するほどの衝撃波だったが、五体満足でいられた理由。その受けるべき負債を彼女一人に、背負わせてしまった形になっている。
感謝と申し訳なさが沸いてくるも、今は戦意が漲っている。謝罪は全てが終わった後で、まとめてするべきことだ。勝利は全てに優先される……。
ただそれでも、忘れてはならないことを思い出させてくれた。
「もしも、私が仕損じた時は……、部下たちだけでも守ってくれまいか?」
「カルネ村にいる限りは、カルネアが守ることでしょう」
かの大天使が相手ならば、アレも避けて通る……。しばらくの間は。
無情が過ぎるきらいはあるも、清々しくも感じられた。
(……ゴウン殿らしいな)
絶対に一線を越えない。例え善意からであっても、悪意に変わってしまう自らの強大さを自覚しているがゆえに。……敵わんな。
今度こそ省みず、踏み出した。前に/敵の元へ進む。
「旦那ッ!? いったい何を――」
「君らは逃げろ、できるだけ遠くに。
私はアレを――ー、倒す」
期待しておりますよ――ー。まるで勝つことを確信しているかのように、最高の励みを背に乗せてくれた。
(ならば、期待に応えねばな――ー)
かの絶大なる大魔導士が「できる」と太鼓判を押した。なら後は、俺の覚悟だけだ。
与えられた小瓶を見る。また一瞬ためらうも、すぐに呷り――ーゴクリ、飲み干した。
喉が焼ける/体中にしみ込んでくる。
効果が出るを待たずすぐ、駆けだした――ー直後、
自分以外のすべてが、混沌へと染色された。
無尽の巨空間に投げ落とされた様、意識はどこまでも墜落/加速/引き伸ばされいく――ー……
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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