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初っ端から『絶対の支配者』ロールプレイングが、蹴っつまずいた。
「―――なにッ!? ……外に出られない、だと?」
驚きのあまり、出した声には非難味が強く表れてしまった。
集めた面々にも、恐縮の色がありありと浮かんだ。……やっべ。
威儀を正すのも、渋られる。しばし自分が作ってしまった沈黙に、無いはずの胃がせめられていると、
「……厳密には、私の体感にて30秒ほどしかもたない、といった具合です。ソレから一秒でも超えると、まともに呼吸もできず体も岩のように重くなり、まるで―――」
溶岩の海の中へ、投げ出されたかのように―――。
巌のような顔面と鋼鉄の背筋をもった、ナザリックの執事長NPC【セバス=チャン】。そんな質実剛健が具現化しかのような執事が、我が身を恥じ入るように顔を伏せている。
ニュアンスは伝わったが、実際のところ/ゲーム内での彼ならば、溶岩の海など温泉に等しいだろう。焼け焦げるなり身動きが取れなくなるなどありえないはず。彼の創造者たる【たっち・みー】さんは、彼をそんな柔な造りにしていない。
「ナザリックの領域内……地表の中央霊廟の中に入れば、すぐに回復はしました。しかし、充分に心身を整えてからでなければ、次の滞在時間は大幅に減少しました」
転移系の魔法/スキルでの帰還は―――。尋ねる寸前、気づけた、セバスには使えなかったと。
「怠慢、というわけではないわね、アナタに限って」
「……そのように受け取られても、仕方のない不甲斐なさです」
こちらの黙考の接ぎ穂をしてくれるかのように、守護者統括の【アルベド】。セバスは表情こそ変えず/言い訳も混じえず、深々と謝罪するのみだ。
両者の無言の探り合い、といってもアルベドが一方的にだろう。
また緊張感ある嫌な空気が漂ってくると、
「せ、セバスだけを責めるのは、やめて下さいッ! ぼ、僕が外で……倒れて動けなくなったのに気づいてくれて、それで……助けてくれたから」
【マーレ・ベロ・フィオーレ】。第6層の階層守護者の片割れだ。
彼女…もとい彼には、ナザリックの地表部分の隠蔽を命じていた。[ドルイド]である彼には適任で、そう難しいことでもないとタカをくくっていた。
___その程度の危険にも気づけなかったなんて……、俺のミスだ。
何たる無能! 友人たちの大事な『子』を、壊したのかもしれなかった……。
《___悟様がお気になさる必要は、全くありません》
《ッ!?
…………ビックリした、急に話しかけるなよ》
申し訳ありません。忠臣としてつい、苦言せねばと……。
己の内なる声、このオーバーロードの身体に宿った本能の化身とでも言うべき存在か、名は無いと言ったけどあえて【モモンガ】と。
自分の精神世界?の様な仮想世界の中で、色々とレクチャーしてもらったことで、今の異常な状況を何とか飲み込むことができた。現実世界に戻り、自分の/骸骨の身体を動かしながら、NPCたちが求めているだろう『主君』を演じきることにした。
何時でも話せるし、同じ身体に宿っているので控えているとは、教えてはくれたけど、まさかこんな直接的にもできるとは。……ちょっと心強いじゃんか!
ちなみに、NPCたちに聞こえてるのかもとドキッとしたけど……、大丈夫だった。口に出す声と脳内だけの念話を分けられてる。
《主君たる者、配下への謝罪などせぬものです。
主君に間違いなどなく、進むその道は全て清新で故に正しい。主君がその『王道』を妨げられたのであれば、ソレは配下の力が足りないだけなのです》
とつとつと語るその苦言は、昨日までの自分とは全く/真逆といってもいい哲学だった。自他ともに自分を全肯定し続けるなんて……。
お前がやってくれないかなぁ……。そう弱音を吐きたくなるも、そこだけは頑として譲ってくれない。……やるしかない。
皆に気づかれぬよう呼吸を整えると、
「……マーレ。お前もやはり、30秒ほどで動けなくなったのか?」
「へ? あ、はいッ!
そのぐらいだった……かもです」
詳しくは、試していなかったです……。自分の『ミス』に気づき、慄えだした。いまにも泣き出しそうなほどに恐縮してしまう。
年端もいかない美少女……もとい少年を、いい歳こいたオッサンが暗にいじめているかのようで、いたたまれなさ過ぎて謝りたくて仕方がない。
顎に手を乗せながら/黙考するフリをすることで、ギリギリ誤魔化す。さらに心の平静さを取り戻すため、モモンガに声をかけた。
《……どういうことなんだ?》
《まだ情報は足りませんが、おそらくこういうことかと―――》
ナザリックが強制転移された場所は、VRではなく確かに実態ある異世界。
しかしNPCたちは、その異世界に相応しい実体を持っていない。
出入りは可能だが、ナザリックの内と外では、濃度が違いすぎる。守護者たちの身体を維持するにたる『何か』が、外では圧倒的に足りなすぎる。
《その『何か』てのは、何なんだ?》
《今のところは不明です。我らに相応しい魂魄をもたらし、この姿形に受肉させたモノと、深い関わりがあるとしか》
さすがに分からないか……。だとすると、
《外の調査は……、無理そうだな》
《いえ、続けるべきです》
珍しくまっこうから反対。
自分とナザリックの安全が最優先との方針から、ズレてしまいそうだけど、
《守護者でムリならば、他の者たちで。種族の違い、またはレベルの低い者たちならあるいは、問題なく動けるのかもしれません》
《……犠牲がでるかもしれないのに、か?》
《【デミウルゴス】と【コキュートス】に指揮を任せれば、問題はないでしょう》
ナザリックの軍師と将軍、『敵』との戦争に備えての防衛と警備を任せている。負担がさらに重くなってしまうけど、操作できそうにないこの現状を考えると、彼ら主導で解明・運用させていくのがベターだろう。
そんな考えだと思いきや、伝わって来るモモンガの黒い思念。
自分が主導して実験したら、権威に傷がつく恐れがある。変えられない仕組みならばなおのこと、わざわざ恨みを買う必要はない。奴らに任せれば、すべて奴らの責任にできる……。ちなみに、一人ではなく二人を指名したのは、万が一には互いに牽制/泥のかけ合いをさせるためとも。
《うわ……、えげつねぇ》
《配下達を統制するのは、主君の大事な勤めです。後顧の憂いを無くしてやっていると、お考え下さい》
背水の陣の方が近いような……。逆にそれを機に結託されないか、心配してしまいそうだ。
「―――モモンガ様。お加減を……悪くされたのでしょうか?」
心配そうに/恐る恐るながらも見つめてくるアルベド。……その美貌に一瞬、頭が真っ白になってしまった。
ただもう慣れたもの、すぐに周囲を見渡し、自分がどれほど脳内で耽っていたのか推察した。
アルベドがわざわざ声をかけてくるほどには長く、皆に自分が不安だと疑われ始めるほどには短い。沈黙はただ、支配者に相応しい重厚感を演出しているのみ。……大丈夫だ、問題ない。
「___デミウルゴスとコーキュトスを呼べ。周辺地域の調査とナザリックの偽装は、あやつらに引き継がせる」
御意―――。打てば響くような返事。そしてすぐに、命令を実行しはじめた。
少しは反対するのかと心配してたけど、素直に従ってくれた……。マーレはまだしょげているけど、後で何かしらの挽回の機会を与えれば済むだろう。
残る問題は―――
「セバス、ついて来い。―――外に出てみる」
「ッ!?」
自分もまた守護者たちと同じように、外には出られない身体なのか……。確かめなければならない。
暗にもそう含めて、立ち上がる/玄関へと向かおうとすると―――皆を代表してだろう、アルベドが慌てて追いすがってきた。
「お、お待ちくださいモモンガ様ッ! 御身をそのような危険な目には―――」
「おっと! 忘れるところだった―――」
言い切られる前に、中空に手を伸ばし/異空にある[アイテムボックス]から、一つの指輪を取り出した。自作で数が限られてる貴重な指輪。
それを―――
「【リングofアインズ・ウール・ゴウン】。このナザリック内の何処であっても、自由に転移できる指輪だ―――」
お前にやろう―――。アルベドの手を取り、そっと指に嵌めてやった。
一連の全てを彼女は、目を開けたまま気絶しているかのようにされるがままで……、嵌めた後も固まったまま。
かという自分も、一連を流れるよう/演技してではなしの滑らかさ。そのフワついた感覚をじゃっかん奇妙に思いながらも……、コレで全会一致だ。
「ではしばしの間、留守を頼んだぞ」
改めてセバスを伴い、玄関へと―――転移した。
―――
……
ナザリックの出入り口。古びて寂しげで、どことなく不気味な石造りの宗廟。そのよく見知った大墳墓への階段を登っていくと―――
そこから見える風景は、ゲーム内とは全くの別物だった。
《___悟様。外に出る前に偽装処置を》
踏み出そうとする足をハッと、止めた。地下と地上では、防御力が全く違う。……見蕩れすぎた、危ない危ない。
とは言っても、気合を入れて別人になる必要もなし。顔や異形の姿を隠せればそれでいい。いざという時、すぐに対応できる/逃げれるようにはすべきだ。
[アイテムボックス]から適当な装備でも無いかと探ってみると―――あった。
『ソレ』を見つけた時、いやな記憶が思い出されるも……致し方がない。今さら部屋に戻って見繕うのは恥ずかしすぎる。被って骸骨の顔を隠した。
準備整うと改めて、地下と地上の境界前に立つと、
《……いけると思うか?》
《もちろんです》
確信に満ちた返事に押され、一歩踏み出した―――
地上に出るとそこには―――、満天の星空が広がっていた。
荒廃しすぎた現実世界ではありえない、澄んだ大気と青々としげる草原。この骸骨の身体でもあっても分かるほど、清浄なる/生命力をたぶんに含んだ空気。生身でも問題なく暮らすことができる自然が広がっていた。
感動にうち震えながらも、胸の内で秒数を数え続けた。
ソレが『30』を切る―――
「モモンガ様! ―――、ッ!?」
助けようと飛び出すセバスを、後ろ手で制した。……全く問題ないと。
身体には何の違和感はない。重圧など何もなく軽やかに動き回れる。さらに、魔力の方も全く問題なく使えるのが、分かる。
自分はナザリックの外に出ても、何の支障もきたさないと。
「セバス。地上では私のことを……そうだな、【アインズ】と呼ぶように」
は! ……無作法をお許し下さい。
衝撃を完璧に押し殺しながらも、無礼を改める。
ソレも偽装処置の一貫/思いつきだったけど……、自分にしては案外に様になっているのではと、腑に落ちた。
「では、お前も外に出ろ」
「は! ―――」
迷わず踏み出してきた。……来るだろう不快感など、ものともしないと言い切るように。
地上に出て、後ろに控えなおすセバスにまた、命じた。
「私の手を取れ」
「はい―――」
差し出した手に、セバスが恐る恐るも、手を添える。
その直後、カチリと―――なにかのスイッチが入った、感覚が走った。
《……これで、いいんだよな?》
《はい。これで超位魔法【階層守護者召喚】が、発動いたしました》
ゲームでは聞いたことも、会得もしたこともなかった魔法。
しかし、ソレを会得していること/使いこなせることも、分かっていた。まるで自分の一部であったかのように、当たり前のものとして。
そして、その魔法効果とは―――
「……どうだ、先の違和感はあるか?」
「い、いえ。全く……ありません!」
30秒経っても、セバスは平然としていた。……この異世界による強力なデバフは、無効化されていた。
ただし、
「障害は無くなったわけではない。私の魔法にて、一時的に祓っているだけだ。おそらく……一刻、2時間ほどで効果はきれるはずだ」
そして超位魔法ゆえにも、魔力は消費せずともリキャストタイムがある。この魔法では、3日に一度しか使えない。効果時間の繰り越しもできなければ、回数も貯められない。
ただし今回のように、ナザリックから直接連れ出して付与するのは異例の使い方。本来は召喚術がそうであるように、ナザリックから直接に強制転移させられる。
ちなみに、新しく得た超位魔法は他に、【領域守護者召喚】と【戦闘メイド召喚】。そちらは一日一回30分だ。
(セバスは『階層守護者』じゃないはずなんだけど……、似たようなものか)
実力的には同格。なら、同じものとして扱われるらしい。
(だとすると……『あいつ』も、領域守護者じゃないのかも)
思い浮かびそうになって……、寸前でかき消した。必死で霧散させる。『アレ』は思い出すだけでも精神にダメージを与えてくる。
そんな『黒歴史』のことを払拭するためにも、眼前の素晴らしい異世界に目を向けた。
「___さて、効果が切れるまで暇だな。周辺を散策しようか」
「……あまりナザリックから離れるのは、おすすめしかねます」
「お前が共であってもか?」
困らせるようなセリフに、ぐっと飲み込まされた。
危険は重々承知だけど、過保護にされてはこの異世界を楽しめない。浮かれすぎるのはケガの要因だけど、この楽観には根拠があった。
「安心しろ、『敵』からの攻撃などない」
断言した、自分でも驚くほど自信をもって。
そもそも、『敵』が自分とナザリックを標的にしていたのなら、強制転移した直後に奇襲していたはず。今まで無事でいるのが証拠、手抜かり過ぎ。くわえて、ソレすら意にかえさない強敵だったのなら……、どうしようもない。誠意をもっての命乞いのため、早々に主たる自分がほぼ単身で『敵』の前にひれ伏さなければならないだろう。
ということで、この散策は/自分のワガママは正しくなるのだけど、
《___ご安心を。周辺に我らに脅威を与えられるような障害は、ありません》
脳内の邪悪な妖精が、太鼓判を押してくれた。
《……断言した理由は?》
《この地にコベりついている【死霊】どもが、伝えてきました》
しかしソレは、なぞの情報源からだった。
《【死霊】て……、[ゴースト]的なモンスターのこと?》
《いえ、ゲーム内にいた[それら]とは違います。完全に魂魄だけの存在です。
魂魄を感受できる者か、我のように死後の世界[冥界]に属している者にしか、感知しえぬ者共です》
魂魄だけの存在……。幽霊的な何かか。
ゲーム内では散々それっぽいモンスターを見知ってきたのに……ブルリと、寒気がした。
ソレで気づいた。今の自分も、ソレらと似たようなモノなんじゃないか、と。
《悟様は、例えるなら神霊。奴らとでは、比較するのも烏滸がましいほど別格の存在です》
《ッ!/// ……また読みやがったな》
失礼いたしました、この口がつい……。悪びれる様子もなく、礼で誤魔化してきた。
何とも言えない気恥ずかしさ。コチラも誤魔化すように、話を切り替えると、
《俺ができないのは?》
《申し訳ありません。誠に勝手ながら、我がその力を制限しておりました》
《……理由がありそうだな》
《はい。基本的に死霊どもとは、会話が成立しません。ただ喚き散らすのみで、悟様のお耳を汚すばかりになってしまうかと》
聞こえる9割9分が無駄な情報、赤ん坊や痴呆老人の喋りと同じ。
ただその量は膨大であり、嘘や騙しが混じっていない第一次情報のみ、込められてる怒りや嘆きに囚われず必要な情報を嗅ぎ分ける術さえ身につければ、最高の知恵袋にかわる……らしい。
「___モ…コホン、アインズ様。先ほどのご発言は、どういった意味なのでしょうか?」
セバスの声で、現実に呼び戻された。……そんなに耽り過ぎてたのかな?
気にしすぎるのはもう面倒だと、スルーしてしまうと、
「何も心配は要らぬ、ということだよセバス」
時間が惜しい―――。
まだ渋るセバスを無理やりに、散策に付き合わせる
―――
……
【上位アンデット創造】により召喚し/上空に飛ばした下僕より、付与した魔法【
《___おぉ……、すごいな!
【
【鏡】を自分で/単独で使うと、いちいち操作するのが面倒だった。見たい風景に視点を合わせるだけで大いに手間がかかる。ソレを下僕の【屍】に付与する形で任せると、自分の範囲数km内の全てが、リアルタイムでどんな角度からもいっぺんに眺められる。たとえ障害物があろうとも、X線での映像のように透過する。
この精密すぎるリアル立体映像からすると、【鏡】は一つだけじゃないはず。【屍】が持っている全ての眼の数だけあるのかもしれない。
《下僕や配下達にはそれぞれ、特技がございます。ゲームであった頃は無心ゆえに活かしきれませんでしたが、ここでは存分に活用することができます》
《そいつに相応しい魔法や装備をあてがってやれば、ゲーム以上のことをしてくれるて、ことか》
《全ては悟様への忠誠心ゆえ。己に相応しきを下賜されれば、あやつらもいっそう忠勤に励むことでしょう》
ソレはそれで重たいけど……、自分の才能が活かせるてのは良いことだ。伸ばす援助ができるというのは、『主君』として相応しい行いなはずだ。
「―――お! いたようだな」
どれどれ……。下僕へのオーダー。知的生物の生命反応を捕捉したら、自動的にその場所をズームイン。
期待踊らせ見たその光景に、しかし―――……、真っ白にさせられた。
《___これは……、お祭り的な何かか?》
《いえ、コレは…
え!? ソレはもの凄く……、
《この世界では、よくあることのようです。まぁ大抵は、魔物か野盗たちによって行われるのですが、
《いやいや!? 何でそんな冷静なんだ……て、そうだったな》
コイツは『そういう』奴だった……。
《……我もあのような所業には、不愉快を感じております》
《えッ!? ……そうなの?》
《一つしか命の無い脆弱種への扱いとしては、あまりにも粗末。敬意が足り無すぎる―――》
声こそいつも通りだけど、底深い怒りが……確かにあった。
しかし―――
《我ならばもっと、少なくとも
《…………だと思った》
……期待を裏切らない奴だ。
「―――アインズ様、お探しのものは……見つかりましたか?」
セバスの声で現実に戻された。……胸糞悪くなるような現実に。
しかし戻ってみると、先まで感じてた不愉快は……微かになっていた。残ってはいるけどあまりにも小さい。まるで、モモンガになってしまったかのように―――
(いや……そうだった。俺は[モモンガ]でもあるんだった)
会話できている/臨在感をみせてくれるからこそ、区別してしまいがちになる。自分は鈴木悟/モモンガじゃない。
でも、いまは自分でもあるこのオーバーロードの身体は、じつにしっくりきている。かつて人間だった頃と同じように、もしかしたらそれ以上にも、自分の身体なのだと確信できてる。
___なら、やるべきことは一つ―……。
自己分裂の罠にハマる手前―――、踏み出した。
「___あの林の先、ここから10kmほど離れた先に現地人が住んでる小規模な村がある。ざっと見で人口百人ほど、戦備えなどまるで無いのどかな農民たちだ。
その村人たち今、どこかの兵士たちに―――、虐殺されている」
「ッ!?」
鋼の表情が一瞬、歪んだ。しかしソレは、刹那のこと。主に仕える/守護する使命を思い出してか、その『感情』を完璧に抑え込んでみせた。
___やはり、【たっち・みー】さんだな。
『困ってる人を助けるのは当たり前』。その彼の意志/正義は、セバスの中で息づいている。ソレが感じ取ってか、思わず顔がほころんだのが、わかった。
「___助けに行く。【
「はいッ! ……ぁ。
い、いえ、ソレはなりま―――」
「幼い現地人がどうやら、背中を刃で貫かれている。血も大量に溢れて……おそらく、一刻を争う状況だ」
助けに行くの、やめておくか? ……わざと煽るように。
もう行く気は満々だけど、それでは
「あの重傷、私では少々面倒だ。できれば蘇生魔法の使用は控えたい。お前の【気功術】ならば、治癒は容易いだろう」
できるはずだ―――。いや、やりたいはずだ。
数瞬の葛藤。生まれた心とNPCとしての鉄則の摩擦に、力強かった瞳が惑う。
瞑目し……しかしすぐに、項垂れた。
再度開けた瞳は、まだ戸惑いの色は残ってはいるものの……、決まっていた。
ニヤリと―――、返事の代わりに魔法を唱えた。
「ではいくぞ。―――【転移門】」
かざした手の先に、異空への扉がこじ開けられた。
その先には、鏡で見えた虐殺の現場が、つながっている―――
―――
……
転移門をくぐった先には……、胸糞悪くなる虐殺の光景。
舗装もされていない林道の中、人間種の少女だろう村娘たちを追い回している、金属製だろう全身鎧の兵士二人。その大の男の一人が、今まさにその長剣をもって、少女の背中を刺している瞬間―――
考えるより瞬時/ゲームの時から培ってきた反射でも、必殺の魔法を発動した。
(【
胸の内だけの詠唱/スキル【
前にかざした右手の平に柔らかい/鼓動打つ何かが現れ―――、握りつぶした。
グチュリッ―――とほぼ同時、効果対象にした兵士/村娘を刺していた男は、自分の胸を握り締めた。苦悶の表情を浮かべながら、声も上げられず/自分に何が起きたのかも分からずにそのまま……、崩れ落ちた。
もう一人の兵士は、呆然と倒れた相方を見下ろすのみ。……こちらの存在を目に捉え/気づいてはいるが、突然の出来事の連続でフリーズしている様。
見た目や装備は同じ。転移からの奇襲で味方を瞬殺されたとはいえ、その脅威を前に茫然自失しているお粗末ぶり……。遠隔視越しでの印象/直感での敵の脅威度は、どうやら当たっていたらしい。
ふたたびの確実な即死魔法よりも、実験を優先した。
「【
唱えると、兵士に差し向けた腕に鋭い白光が溢れ出て―――、発射された。
彼我の距離を一瞬に、太い幾筋もの雷が走りぬけ―――、兵士に衝突した。
電撃を浴びるや、全身を眩い白光で焼かれ焼き尽くされ―――……、焼け焦げた。
ブスブスと煙を立ち上らせる。しばし直立するも、そのまま重力にしたがい……ボロリと、崩れ落ちていった。
(…………えッ!? 弱ッ!)
ただの第5階位の攻撃魔法一つで、即死してしまうとは……。ゲーム内では目くらまし程度/ダンジョンのギミック発動にしか使い道がない弱すぎる魔法、あまりにもあっけなさ過ぎた。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。