騎士王国ルート   作:ツルギ剣

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(異世界転移特典、その2)
超位魔法【階層守護者召喚】
⇒ナザリックの階層守護者&レベル100のNPCを転移召喚
 3日に1度、2時間。
    【領域守護者召喚】
⇒ナザリックの領域守護者を転移召喚
 1日に1度、30分
    【戦闘メイド召喚】
⇒ナザリックの戦闘メイドを転移召喚
 1日に1度、30分



カルネ村③

 

 

 二人の兵士を瞬殺してしまうと、背後から/転移門からセバスが表れた。

 眼前の有様に、ほんの瞬きの間だけど、眉をひそめていた。 

 

 

「___大丈夫だ、まだ生きている」

 

 微かにだけど……。ゲームのようにHPが数値として表示されてはいない。けど分かる。身体に宿り/溢れてもいる生命力だろうオーラがまだ、淡く明滅してはいるものの、瞬いているのが見えるから。

 

 治療を―――。そう促すとほぼ同時に、セバス血まみれの少女に近寄り/その傷ついた体に触れようとして。

 

 

「___だ……、だ、ダメ。きちゃダメぇッ!」

 

 

 庇われていた幼い少女が、今度は庇うようにセバスの前に出てきた。泣きながら/震えながら、必死に。……その剣幕に、セバスも躊躇される。

 危機一髪で助けたつもりだったが……、ものすごく警戒されている、というか怯えている。

 

(……それもそうか)

 

 突然現れて、襲っていた兵士たちを瞬殺した、邪悪そうな魔術師だ。……警戒しないほうがおかしい。

 加えて今は、岩石じみた厳つい顔の、場違いな老執事に理由もなく近づかれては―――

 

 

「___彼女は、あなたのお姉さんですか?」

 

 

 しかしセバスは、そんなハリネズミに構うことなく。片膝をつけ/できるだけ目線を合わせながら優しく問いかけていた。

 幼女はそんな気遣いにも、やはりビクリッと硬直。喉が詰まったかのように、答えられない……。

 ただし、その泳ぐ目の動きや不安な表情が告げていた。彼女らは姉妹だったと。

 

「私の名は[セバス=チャン]と申します。私の創造主から名づけていただいた、大切な名前です。

 よろしければレディ、貴女のお名前を教えてもらってもよろしいですか?」

 

 さらに、とてつもなく様になっている紳士然と、絶対崩れなそうな相好を自然に崩しながら、難なくも幼女の警戒心を飛び越えていった。

 

 突然の連続でも、一週分回れば平静になる。

 頑な以上に自縄自縛の金縛りに遭っていた幼女は、オズオズとながらも、警戒心の洞穴から出てきてくれた。

 

「___ね……、ネム。ネムてい……いいます」

「[ネム]様ですね。

 よろしければもう一つ、ネム様の姉君のお名前も、教えてもらってもよろしいですか?」

 

 そうして自然の流れで、庇っている瀕死の少女/ネムの姉に目を向けさせた。

 彼女は今、生死の瀬戸際にいるのだと。自分は、彼女を助けに来たのだと―――

 

 暗に込めた言葉は、ようやく伝わってくれた。

 

 

「___え、エンリお姉ちゃんを……助けて。助けてくださいッ!」

 

 

 叫びながら懇願すると、ワッと泣き出してしまった。今まで詰まってしまった涙腺が、一気に決壊してしまったかのような、洪水のような涙……。

 そんな心揺さぶる少女の願いに、セバスは―――

 

「もちろんです。必ずお助けします」

 

 それまで以上に、『安心』を具現化したような力強い笑みを見せた。

 

 

 ___では治療しますので、ネム様はすこしだけ離れてください―――。

 ネムは、その言葉に素直に応じる。……といっても手は離していないけど、それは許容範囲だろう。

 

 今にも消えかけそうな命の灯火。呼吸もまともにできているかわからない……。

 そんな死にかけの少女に怖れることなく、その傷つき血まみれの背に触れると―――

 

「喝ッ! ―――」

 

 気合一拍―――、触れたその手のひらから、金色に煌くオーラが少女に流し込まれた。

 『ソレ』は瞬く間に全身に浸透し、体奥より燃え上がらせる。眩くも発光し、その輝きで少女の輪郭もおぼろげになる―――

 

 

 ―――発光は数秒ほどだった。

 光が薄れると、再度表れたエンリの重傷は―――、すっかり消えていた。衣服は血にまみれたままなれど、身体につけられた幾つもの刺し傷はほぼ完璧に治っている。

 完全に光が消えてしまうと、未だ目覚めずにはいるものの、その口からスヤスヤと安息が聞こえてくる。

 エンリは無事に、死の淵から回復できた。

 

 

「___コレでもう安心です」

「おね……ちゃん? エンリお姉ちゃん―――」

 

 感動のまま、抱きつき/揺さぶり起こしてしまいそうなネムに、

 

「お静かに、そのまま眠らせてあげてください」

 

 エンリ様はとてもクタクタで、お疲れのご様子ですので……。シィと/ニコリと窘めると、ネムは大きく頷きながら素直に従った。

 そして眠る姉のすぐそばで/その安らかな顔を見守りながら、それ以上の安堵の笑みで透明な涙をこぼし続ける……

 

 

 そんな彼女らをみて、コチラもようやく緊張が解けた。……本当によかったよぉ。

 そんなもらい泣きは露とも見せず/表れず、そっと彼女らから離れ/傍に控え直したセバスに、

 

「___よくやったぞ、セバス」

「は! お時間をとらせました」

 

 何事もなかったかのように、いつもの一礼。……この野郎、本当は一番喜んでるくせにぃ。

 ソレをつつき出すのは、ヤブヘビだろう。この何とも言えない暖かな空気を壊さぬよう、自分もできることをしてやろう―――

 

 

 【生命拒否の繭】―――

 【矢防ぎの障壁】―――

 

 

 二つの強力な魔法防御結界を、彼女らの周囲に展開した。

 いきなり展開された結界で、またネムを怖がらせてしまう前に、

 

「___小娘よ、その結界内は安全だ。私がよいと言うまで、姉ともども、その中から一歩も出るなよ」

 

 今度はお前がエンリを守れよ―――。暗に含めた言葉に、気づいてくれたのか分からなかったのか、コクコクと頭が取れそうなほどに頷き返してきた。

 

 

 

(彼女らはもう、安全だろう―――)

 

 あの結界が突破されることは、まずありえない。万が一そうなったら、抵抗手段もない彼女らは殺されてしまうけど……、それもありえない。

 長距離転移したことで離れてしまった[集眼の屍]が、頭上上空まで追いつき、また周辺一帯をスキャニングしてくれた。この村/周辺も含めて今誰が何をしているか、手に取るように分かる。……情報を完全に掴めてる安心感。

 心配は無い。後はただ、他の問題を片付けるだけだ。

 

「___さて、他の奴らも片付けるとしようか」

 

 セバスに任せるのもいいけど、どうせなら実験を続ける―――

 

「【中位アンデット作成】―――」

 

 唱えると、中空よりにじみ出てきた禍々しい黒い靄/ゲームとよく似ているエフェクト。それらが大量に凝縮し、中から2m半ほどの戦士型のアンデットが現れる……はずだった。

 しかし案に相違で、靄は投げ捨てていた兵士の死体に乗り移る。ジュワジュワと染み込み侵食し……全身を塗りつぶした。そして―――

 

(うぇッ!? なんだそりゃ―――)

 

 その暗黒の大繭の中ゴキュバキッと、筋肉と骨がミキサーにかけられているような異音を響かせながら、一回りふた回りと巨大化していき―――、孵化した。

 

 現れたのは、トゲトゲしいタワーシールドと艶かしくも見えてしまうフランベルジュをもった、黒い骸骨の戦士だ。

 【死の騎士(デス・ナイト)】___。いつも愛用してきた、頼りになる盾役。ディティールや迫力は段違いに上がっているも、およそゲーム内と変わっていない。

 

 先のおかしな/触媒にしたかのような動きは気になるも……、デスナイト自体には問題ない。彼との奇妙な/目に見えないけど確かにある繋がりが、確信させてくれる。

 なので次に確認すべきは、

 

「あのような装備をした兵士たちを、こ…戦闘不能状態にしろ」

 

 ゲーム時ではありえない複雑な命令。

 ソレを受けるや、なぜか歓喜の雄叫び(でも一般人からしたら死神の声)をあげながら、駆け出していった。

 

(えぇ……、盾役が主人置いて、どこか行っちゃうなんて―――)

 

 命じたのは自分だけど、まさか本当に離れるとは……。まだまだ知らないことだらけだ。

 

 

 彼とはちゃんと繋がったまま、轡はきちんと握ってる。[屍]のリアル立体マップも万全。……なんとかなるだろう。

 切り替えると、

 

「セバス、確かお前も[召喚魔法]を使えたな」

「はい! アインズ様と比べれば、児戯のようなモノですが……」

「構わん。―――『アレ』を触媒にして、召喚できるか?」

 

 指さした先には、もう一つの死骸。[龍雷]で黒焦げの人型炭にしてしまった兵士だったものだ。……あんな状態が悪くても、できるのかな?

 

 やってみます―――

 

「それでは、お目汚しを。―――【中位ドラゴン作成】」

 

 セバスが唱えると、地面から濃緑の靄がにじみ出てきた。ゲームと同じならば、靄が凝縮するだけだが―――、先の[デスナイト]と同じだった。

 靄は黒焦げの死骸に取り付き/侵食し、濃緑の大繭へと。そして/やはりか、ゴキュバキッとミキサー音を鳴らしながら、巨大化していき―――孵化した。

 

 中から現れたのは、皮膜の羽をもった巨大な鰐。尻尾も合わせれば4メートルはある巨体で、煉瓦色したゴツゴツな岩肌あるいは鱗か。羽はその巨体を支えて飛ぶなどできる代物ではなく、3対目の中足とでも呼べるよう巧みに動く。

 【地走亜竜(アースドレイク)】___。一応はドラゴン種になる、巨大爬虫類。執事たるセバスは、彼を第9層の大広間を掃除する際のモップとして使っていて、使われている時の彼はとても楽しげだ。厳しい面構えとのギャップで可愛げすらある。

 けど、総合レベル30ほど。土属性の魔法も使える……。この世界では、伝説の魔物クラスなのかもしれない。

 

(おぉ! ドラゴンも人間の死骸で、召喚できたか)

 

 [デス・ナイト]はアンデットなれど人型。人間の死骸なら触媒に値しそうな感じはしたけど、別種のドラゴンまで触媒として適用されるのなら……、条件は別にあるはず。

 

「アインズ様、コヤツめにはどのような役目を、命じましょうか?」

 

 セバスに尋ねられて、考えてなかったとは……言えない。

 主君たる威厳もさることながら、生まれたて?の[亜竜]のつぶらな瞳が、期待とやる気に満ち溢れた目を向けられると……、与えてやらねばなるまい。

 

「そ、そうだな……、敵はデスナイト一人で片付けれるだろうが、一応サポートを。

 主には、負傷して動けない様な村人たちだ。安全な村の広場に運ばせろ」

 

 死体も運ばせるが、生存者たちと分けた場所に……。言葉にしながら、大事な仕事だったと思えるようになった。

 そんな思惑が伝わってか、コチラの指示を聞くやいなや、亜竜もまた歓喜の雄叫び(一般人なら腰を抜かしてしまいそうな咆哮)を一吠え、バタバタと走り去っていった―――

 

 

 ___セバスの下僕のはずなのに、なぜか俺の命令をきいたような……。ゲーム内ではありえないことだけど、何となしに納得はできた。

 彼の行動もまた、把握できている。村人たちには驚かれるだろうけど……この騒乱状態だ、人間意外と頑丈さ。

 

「さて後は……、切り札か厄介な援軍でも来ない限り、消化試合になるな」

 

 ため息混じりに独りごちる。

 ___もう少し歯ごたえがあっても/あった方が良かったのに……、

 これでは緊張感を保つ方が難しくなる。一体何のためにココに来たのか……。

 

 そんな緩んでいた思考が、現実に引き戻された。

 

 

「___あ、あのッ! お父さんとお母さんもッ、助けて……くれますか?」

 

 

 幼女からの懇願に、思わずも足を止め/顔を向けていた。

 けど、彼女の真剣そのものの視線に合わさる……寸前、逸らしていた。仮面を被っていたのでなんとか、そんな弱気な態度は表には出なかった。

 

 ___君らの両親は、もう……。

 優秀な下僕からの立体映像が教えてくれた、彼女らの両親が今どのような状態なのか。

 少女の様子を、再度確認する。その向けられてる切実さには、疑いの混じりけなど見えなかった。……彼女は今でも、信じている。

 

 ___なら……、俺にできることは一つだ。

 

 

「…………そこで待っているがいい」

 

 ハッキリと伝えることはせず、ただ背を向けた。

 

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

 村に入ってすぐ、強盗兵士の一人に遭遇した。

 突然現れた邪悪な魔術師と老質実剛健執事。ビビられながらも、すぐに「なんだテメェらはーッ!」とコチラに襲いかかってこられた。

 そんな世紀末な野蛮人に―――

 

 

「【黒鋼騎士槍(ダークナイトランス)】―――」

 

 

 発動ととも中空より、成人男性の脚ほどある真っ黒な釘がほぼ一瞬にして現れ―――、発射された。

 釘は襲いかかる野蛮人の胸を貫き、そのまま背後の地面に―――串刺しにした。

 

 男はその一撃で絶命。金属柱が男の鮮血と臓物でべっとりと彩られる。

 

 

 そんな生々しくも気色悪いはずのオブジェクトに、なぜか胃の中も/何とも心動かされることなく、出てくるのは、

 

(あちゃぁ……、第4階位でも一撃かよ)

 

 先の【龍雷】よりも弱い攻撃魔法。金属の鎧を貫通しなければならない分もあり、さらに弱かったはずだけど……、一撃だった。

 敵のあまりの弱さに、警戒してたのがバカバカしくなってくる。……その緩みを引き締めるのに、負担がかかるほど。

 

 

 

 続く兵士は、一連のソレを見届けていた奴だった。

 

 唖然と/信じがたい光景だと目を剥き腰が抜けそうになっている……。けど、長年の経験則か身体の生存本能か、即座に「うわぁぁーッ!?」と踵返して逃げ出した。

 そんな臆病な彼には―――

 

 

「【魔力の太矢(マジックボルト)】―――」

 

 

 いっそのことだと、第2階位の攻撃魔法。今すぐ扱える/セットして使えるようにしている攻撃魔法の中でも、最低の攻撃力だ。……遠くにあるダンジョンギミックに衝撃を加えて動かすか、ぐらいにしか使っていない。

 ただそんな気合の入ってなかった魔法なれど、発射されたのはなぜか8本だった。兵士がふるっているような片手剣ぐらいの光矢の群れが、逃げる兵士の背を追う―――

 

 半数以上に串刺しにされた兵士は、刺された衝撃のまま―――、うつぶせに転倒。

 そのまま悲鳴も上げれずに、絶命していた。地面に血だまりが広がっていく。

 

 

 

(___これは、思ってた以上に……雑魚だな)

 

 もはや疑うべくもなし。

 想定外の数だったとはいえ、【太矢】程度で一撃死ならば、この兵士たちのレベルは10にも達していない。装備も貧弱極まりない、ゲーム開始に配られる初期装備に毛が生えた程度の代物だろう。

 

(まいったなぁ。こんなに弱いと、生け捕るのも手間だな)

 

 どれほど手加減すれば無力化できるか……。セットしてある魔法やスキル、その他色々な方法を検索していると―――、3人目の実験対象に遭遇した。

 そうバッタリと、遭遇してしまった。

 

 

 泣き腫らしている若い女性に跨りながら、下半の装備/ズボンを外しかけている大の男と―――

 

 

 今度は逆に、コチラがフリーズさせられた。……もちろん、兵士の方もだ。

 とてつもなく気不味い雰囲気に、互いが縛られる……。

 

 

 先に動けたのは兵士だった。けど、

 「なんだテメェらは―――」と、なぜか逆ギレしてくるその喚き声は、最後まで出てこれなかった。

 背後に控えていたセバスが、手のひらから撃った【指弾】でもって、その頭部が爆ぜたからだ。血と脳漿と頭蓋骨の欠片が盛大に撒き散らされ、家屋の壁と天井を彩る―――。

 一連を見上げつつけていた村の女性は、その光景に……パタリと、気絶してしまった。

 

 思わず振り返ってセバスを見ると、

 

 

「___申し訳ありません。あまりにも……、見苦しかったので」

 

 

 軽く謝罪礼するも、根っから悪いとは思っていないのが、すぐに分かった。

 

「……ああいうものは、不愉快か?」

「いえ、私めは―――……、はい」

 

 執事としての責務やらなんちゃらを言おうとしたけど、正直に答えてくれた。……ちょっと前進だ。

 

「気にするな、私も同じだ」

 

 下半身の情熱にストレートな奴は、嫌いじゃないしちょっと尊敬もしてる。けど、場所と時間と相手を弁えないのは見てられない。社会人としての最低限の常識でもある。

 

(でも、この世界ではもしかしたら……、当たり前の事なのか?)

 

 見た感じ中世ヨーロッパな世界、男尊女卑こそ常識で、男たちは元いた世界よりも性欲フルオープンだったのかもしれない。外出するのにわざわざ人工心肺つけなくていいココは、男女ともに『気楽』ではあるだろうし……。

 

 ___自分の常識が、どれだけコチラでも常識足り得るのか?

 とても重要なことだけど、今ここで考察しても答えは出ない。その場その場で、慎重にこなしていくしか道はない。これからの課題だ。

 なのでいったん棚上げ、目の前の問題を片付けることにする。

 

「そこの女を運んでやれ。……丁重にな」

「はッ! ―――」

 

 セバスが近づき、気絶してしまっている女に「失礼いたします―――」と紳士に断りを入れながら、抱き上げる。……ちなみにちゃんと、肌けてしまった部分を直してからだ。

 

 

 そんなアクシデント?も処理しながら、目的地/ネム達の生家にたどり着いた。

 

「……ここだな」

 

 立体映像で既に確認済み。心の準備はもう済ませてある。

 

 扉が半ば砕けていた姉妹たちの家に入る。そして中へ、居間&台所だろうそこには―――、両親の惨殺死体が横たわっていた。

 

 

 特に父親のほうが、メッタ刺しにされての酷い有様だった。家族を守るために、死に物狂いで奮闘したのが分かる。傍らの母親の方は、先の女のような目にはあっていないのだろう、まだマシだ。

 

 手遅れだ―――。分かっていたけど、実際に見るとため息がこぼれた。

 

「……セバス。コレは治せそうか?」

「いえ……、申し訳ありません」

 

 一応確認してみたけど、無理だった。……コレは治癒ではなく、蘇生案件だ。

 

 チラと周囲を見渡す。

 ちょうど家屋の中、外は混乱状態/たぶんデスナイトによる一方的な、誰も見る余裕などない……。

 

(……【蘇生】、させてやるかな)

 

 アイテムボックス内にある[蘇生の短杖]。象牙っぽい素材でできたエジプト十字架な短杖。

 死霊系魔術師である自分でも、【蘇生(リザレクション)】を使うことができるアイテム。貴重ではないけど、数が限られてる。使い切ったらどうやって補充するか……、まだ目処は立っていない。

 

 人の生死かアイテムか……。悩んでしまう所でもう、かなり『毒されてる』気がしてくる。自分がすべき/らしい指針が揺れてるのを感じる。

 なので―――、相談してみることにした。

 

 

《どっちが良いと思う?》

《悟様のお心のままに》

 

 ソレがわからんから尋ねてるのに……。聞き方が悪かったのだろう。

 

《この世界では、『死人を生き返らせれる魔術師』てのは、どれくらいの価値があるんだ?》

《その例えでしたら……、『国政に意見できるほどの富豪の商人』といったところですね》

 

 あれ? 思ってたより……、大したことないぞ。

 

《【蘇生】を使いこなせる人材は、少ないてことか?》

《いえ、使えるのは【死者復活(レイズデッド)】までです》

 

 え!? あ……、そうだった。その程度だったかぁ。

 だとすると、合点もいく。

 

《はい。一般人、『ソレら』のような脆弱種の場合、8割ほどの確率で死骸が灰になるだけのようです》

《……んん? 待てよ、逆に何でなんだ? ゲームではそんな障害なんてなかったはずだ》

 

 絶命から蘇生すると、大量の経験値/レベルが消費される。高度な復活魔法であればあるほど副作用は低くなる。ただそれだと、初期プレイヤーは蘇生できないことになる。そのためもあって、レベル1以下にはレベルダウンしない救済処置が取られてきた。……死骸が灰になるなど、ゲームではありえなかった。

 

《コチラでは、その恩恵はもたらされなかったらしいです。一部の才能ある人間を除いて》

 

 『例外は必ずある』にしては少し多すぎな気はあるけど……、まぁ無視だ。

 

《となると……、【蘇生】でも危ういか?》

《確かなことは言えませんが……少なくとも倍、まだ死にたての今でしたら、6割ほどの確率で蘇るはずです》

 

 6割か……。だいぶマシだけど、自分のガチャ運の無さがネックだ、というかトラウマだ。外す気がしてならない。

 

《悟様でしたら、【蘇生】よりも確実な復活の方法がございます》

《【真なる蘇生(トゥルーリザレクション)】か? さすがにアレは、もったいなさ過ぎる》

《いえ、悟様が得意な[即死魔法]を、【反転魔法(リバースマジック)】させればよいのです》

 

 ……なるほど、それならもう一回りは確率が上がる。アイテムも消費しなくていい。

 それでも/やっぱり、100%にはならない……。

 

《確かに絶対ではありませんが、代わりに死骸が灰になることはありません。何度も施してやることができます》

《え!? そんなことて……、あるのか?》

《『復活』と『即死の反転』では、結果こそ同じになりますが、至る筋道が全く違います》

 

 前者は、肉体を構成する全ての細胞を急速燃焼させることで、生命活動ができる身体にまで時を進める。そして、離れてしまった魂魄が集まってくるのに任せ、復活を果たす。

 後者は、肉体から離れてしまった魂魄を一気に凝縮/復元、完全な魂魄が壊れた肉体に宿る。それは不自然だけど、優先されるべきは魂魄の状態。肉体はその情報に塗り替えられる。……つまり、時を戻したかのようになる。

 ちなみに、壊れた肉体に魂魄を無理やり詰め込むだけだと、[アンデット]になる。即死魔法の、魂魄を直接一撃完全破壊できる力を反転させることが重要。それで初めて、アンデットではない生の人間に戻れる……らしい。

 

《ははぁ……、ゲームじゃ同じ扱いだったのに、ここじゃ別枠になるのか》

《結果だけ求めるのなら、復活魔法は極めて効率が悪いと言わざるを得ないでしょう》

 

 そも、死の恐怖と絶対性を拭いきれなかった者共が作り上げた魔法。背骨からしてもう弱気、『魔法』の名を冠するに値しない詐術、『聖なる』など嗤いが止まらない……。元人間としては、ノーコメントだ。

 

 

 

 腹は決まった。何の問題もない。

 

「___彼らを蘇生させる。この場に邪魔が入らぬよう、警戒してくれ」

「はッ! ―――」

 

 命じるや、コチラもすぐに取り掛かった―――

 

「スキル発動【四重魔法融合(スクウェア・スペルフュージョン)】―――」

 

 魔法用のスキルを発動させると、脳裏に4つに区切られた透明な箱のようなモノが浮かんできた。その箱にこれから使う4つの魔法を入れて、一つに融合させる。

 チラとセバスに視線をやると、大丈夫との頷きが帰ってきた。

 

 ___それじゃ、順番は気をつけて……やってみますか! 

 

 

「【魔法必中化(アブソリュートマジック)】、【魔法二重化(ツインマジック)】、【真なる死(トゥルーデス)】―――【反転魔法(リバースマジック)】」

 

 

 4つの魔法が正しく『箱』に込めらる。中で一つの強力な魔法へと溶け合い、そして―――発動した。

 

 復活とは真逆な、禍々しき赤黒いエフェクトとともに―――、死者たちは息を吹き返す。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

 デスナイトからの通信/念波―――。兵士たちはあらかた片付けました、と。

 

 ___敵は雑魚とはいえ、なかなかに仕事が早い……。

 このデスナイト、けっこうできる子なのか。

 

《___デスナイトよ、戦いはそれまでだ。まだ生きてる兵士たちを私の元に連れて来い》

 

 「御意!」と小気味よい返答。……どことなく嬉しそうなのも、伝わってきた。

 

「お前も、ここはもうよい。ナイトを手伝ってやれ」

 

 ドレイクも「御意!」と、喋ることはできないけどそんな意味で「アギャッ!」と一吠え、バタバタと駆け出していった。

 

 

 

 広場に運ばれていた、負傷した村人たち。人口の半数以上は集められていた。……皆ひどい重傷だ。

 たいがいが背中に大きな切り傷だ。……おそらく、逃げる時にバッサリ斬られたのだろう。

 深い/内蔵にまで達してるだろう刺傷からは、もちろんのこと包帯や布すらあてがわれていない。ので、止めどなく血が溢れている。口から血泡をふいてる者もいた。もはや意識のない者も……。このまま放置すれば、半時ももたないのは素人目でもわかる。

 なので、セバスに命じておいた、全員治療してやれと。

 

 「御意!」といつも通りの執事礼とともに、重傷者たちを治療していく。

 手をかざし『気』を送り込み、傷を内側から吹き飛ばすかのように―――

 

 

 そんな彼らと、すこし離れた横手には……、すでに事切れた村人たち。

 

 老人や男たちが主だ。……逃げ遅れたか、立ちふさがったのだろう。

 女子供も少なくない。盗賊だったのなら『拉致』されるだろう彼女ら、少なくとも生きてはいただろうに……。兵士たちはとにかく、手当たり次第に殺そうとしていたのがわかる。

 

(恨みをかっていた、わけじゃなかろうに……)

 

 何が元凶だったか―――。根絶やしにされる理由/できてしまう心持ち、理解しがたい。

 

 

《___どうやら村人たちの中には、殺される理由を持っている者共がいるようです》

 

 そんなやるせない感情に反応してか、モモンガが慰めだろう声をかけてきた。

 

《……個人的な理由か?》

 

 かつて殺人鬼で、この田舎村で隠れて過ごしているうちに情が発生し、いまさらながら罪悪感に苦しんできた……とか?

 

《そのようなモノではありません。政事にまつわる秘め事らしいのですが……申し訳ありません。まだ『死にたて』ですので、自白するまで少し日数がかかります》

 

 もちろん、即座に搾り取る方法もありますが……。今はあまりオススメしません。

 

《……蘇生させた方が、楽に聞き出せる?》

《はい。ですが……、よろしいので?》

 

 衆人環視の中。周りには無事に生きている村人たちもいる。まだ恐怖でショック状態ではあるものの/故にも、『あの方法』はマズい。ちゃんと復活はするけど、邪悪な何かと勘違いされかねない。……彼らの口を封じるのは、面倒事だ。

 

 

 ___どうするべきか……。

 思案していると、デスナイトが戻ってきた。

 

 まるで[従者の動死体(スクワイヤゾンビ)]のような、絶望している兵士たちを率い連れてきて……。そして後ろから、デカい鰐に追い立てられながら。

 先の事は棚上げに、目の前の問題を片付けることにした。

 

 

「___ご苦労だった、デスナイトよ」

 

 

 滅相もございません―――的に「オオォォオゥッ!」と一声あげる。

 そして、手振りと視線で兵士たちを跪かせると、横手へ下がった。敗残兵たちがなにか『粗相』をしても即応できる間合いで、静かな殺意で拘束し続けながら……。完璧に仕事をこなす、エリートな衛兵な風格だ。

 その最後列から、「アギぁ……」とデカ鰐の鳴き声。獣の言葉は分からないが、しょんぼりしてそうなのは伝わってきたので、「お前もご苦労だったな」と一言労った。

 

 ソレで兵士たちも、理解できたことだろう。自分たちを恐怖のドン底に落としてるあの騎士と怪物が、仕えている主人なのだと……。

 そんな恐怖がしっかりと浸透した頃合を見計らって、

 

 

「___お前たちは死にたいか? それとも、生きたいか?」

 

 

 差し出された二つの選択に、兵士たちの顔がパッと上がった。腰まで浮かしかけた奴もいた。……思ってもいなかった、助かる道に。

 だけど―――

 

 

「お前たちは、生きる価値のある人間か?」

 

 

 私にとって―――。だけではなく/むしろ本命は、社会正義的な意味合いでも。

 全部知っているぞ―――。男達の顔はまた、絶望にぬりつぶされた。淡い希望だったのかと。

 

「手にあるその剣で、なぜすぐに自害しなかった?」

 

 わざと持たせたまま/武装放棄はさせていない。反撃など無意味だと、暗に示すために。さらには、もしも『勘違い』をおこしたのならどうなるか……、勝手に想像させてやるために。

 

「……お前たちに価値などない。生きているよりも、今すぐ死んだほうがマシだろう」

 

 冷たく突き放した、心底どうでもいい奴らだと、生ゴミを見下ろす目で。

 

 

 ソレを『死刑宣告』だと、勘違いしたのだろうか。

 敗残兵たちは絶句し、命乞いを絞り出そうとして……しかし出てくる言葉は無し。ただ口をワナワナと過呼吸に/腐った生ゴミのような臭気を漏らす、目からは廃棄油のような汁を流し続ける。

 神への祈りは遠に尽きたのか、あるいは見放されてたと気づくことができたのか。溢れ出る『ソレら』は、その肉体/泥舟から逃げ出そうとしている細胞群だろう。もはやこんな場所になどいられないと、同胞を押しのけても我先に/そのまま死ぬかも知れないとしても自分だけは、わずかな可能性にかけて―――……。

 

 ___醜い……。

 ソレらが、とてつもなく穢らわしいモノに、見えた。目の前にいる奴らの、コレが魂の核なのだとも。

 

 

(___ヤバいな。焼き払いたくて仕方がない)

 

 少なくとも原型残らず、できれば灰すら焼き尽くして、奴らが地上にいた痕跡をコンマ1mgもあまさず焼却したい。そうしたくてたまらない。そうするのがせめてもの慈悲だとすら、思えてきた。

 

 そんな殺戮衝動がこみ上げてきて、もはや吐きそうになる―――寸前、

 

 

「___アインズ様。負傷者の治療、すべて完了致しました」

 

 

 セバスからの報告で、我に返れた。……危なかったぁ。

 

 

 あえて兵士たちから背を向け、セバスと向き合うとその背後には……、初老の男がビクビクと控えていた。

 

「うむ、ご苦労。

 そちらは……、この村の村長殿かな?」

 

 予め知っていたとは、微塵も出さず。当たり障りない推量の範囲で、続く会話を省略しようとした。

 ただソレは、村長殿も同じだったらしい―――

 

 

 

「こ、こ……此度は、村を救っていただいて本当に、本当に……感謝致しますッ!」

 

 

 

 そして深々と、腰を折ってきた。

 いきなりの全面感謝に、あっけにとられてしまった。用意していた返答が出てこない。

 

 先までで見せつけられた/まだそこにある臭い汚物との真逆ぶり。自分はもちろんだが、家族や村人たち全員を代表しての、純粋に輝く感謝の念―――

 かつての自分/鈴木悟には、向けられたことがなかった感情。分かっていても気恥ずかしく、暖かな気持ちになった。……なることができた。

 

 だから、だろうか。『とあるアイデア』が浮かんできた。

 

「お顔を上げてください村長殿。たまたまこの村が襲われているのが、見えてしまっただけですので」

 

 見捨てるに見捨てられなかった……。半分本当の半分嘘だ。

 たぶんセバスが傍にいなかったら、安全なナザリックから実況を眺めていただけだっただろう。おそらくは、今のような不快感など微かに、言い知れぬ愉悦すら感じながら……。

 

 顔を上げてくれた村長殿は、先の感謝通りの尊顔を向け、しかし……その目の端に背後の『現行犯』たちを捉えてしまった。

 真白だった表情の奥から一気に、ドス黒い殺意が噴き出してくる。

 

「そ、そいつらを……、どうなさるおつもりで?」

「どうしたいですか?」

 

 のってきたな! ―――思わずガッツポーズをとりたくなる。

 ニヤリとはしながらも、仮面のおかげで平静そのものに。用意していた演技を披露することにした。

 

「コヤツらは、生きてもいなければ死んでもいない、[ゾンビ]のようなモノです。外見はまぁ、生きてる人間と似ているので、ソレだけは使える点でしょう」

 

 ただ、食事や排泄や睡眠も取ろうとするので、やはり使えないゴミでしょうが……。チラリとそちらに目を向けながら、演技の中に真情を込めて、自分も貴方たちの殺意に共感していると。

 そして満を持して―――

 

「村長殿。よろしければ、コヤツらを()()()()()使ってやってくれませんか?」

「へ?

 ………………、えぇッ!?」

 

 唐突ながら思い浮かんだ、けど腹の収まりがすこぶる良い、誰もがウィンウィンになれる『最も冴えたやり方』をプレゼンしていく。

 

「この生ゴミ共の処理について、思案していたところだったのです。生きていても他様に迷惑しかかけないのは明白、かといって殺しても、その死骸を片付けるのが面倒―――」

 

 使役しても役にもたたない。なぜそこにいるのか/生まれてきたのすら、理解に苦しむ存在……。言葉にすると、本当にそんな気が強まるのを感じた、正解だとすら。

 

 戸惑いが隠せない村長殿へ、さらに押す―――

 

「ただ、いちおうは壮健な男達。村は……この惨状です。家屋や生活を立て直すやら何やら、男手は多くて困ることは無いでしょう?

 しかも、()()()()()()()()()()()()()()です。賃金など与える必要はなく、食事すら面倒なら抜いてもいい、寝床など厠の傍でも充分です。なぜなら彼らは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから―――」

 

 ___そうだよな?

 差し向けた視線に強く、そう突きつけた。ソレ以外ありえないと、そのために生まれてきたんだろうとも、決定させた。

 

 その意図は、誤つことなく伝わったのだろう。ゾンビ然と絶望していた中、ビクリッと竦み上がっていた。絞り出して乾いたはずの涙汁が、またこぼれ出す者も……。

 そしてソレは、村長にも伝わった。コチラが説明した非常識は全て事実なのだと、理解してくれた。

 

 全て整った。後は―――、証拠だけだ。

 

「___ご安心ください、村長殿。私めが幾つか魔法をかければ、コヤツらは『そのような存在』に生まれ変わることでしょう」

 

 絶対に裏切らない、進んで過労死まで働くブラック社員に……。不満すらこぼすことがないを加えれば、もはや人類の範疇をこえた『何か』だ。

 

 ___……今の俺、本当に『邪悪な魔術師』なんじゃね?

 そんな正気がチラとよぎるも、つづく村長の了承に吹き飛んだ。

 

 

「___ほ、本当に……、そのようなことが?」

 

 

 恐る恐るな言葉と向けてきたのは、黒く輝く眼差し。心の奥に閉じ込めておかねばならなかった『怪物』を、今ようやく……解放してやれたかのように。

 その初めて外に出してもらえた『忌子』を、彼の心配ごとそっと抱きとめてやるように―――

 

 

「では、ご覧下さい。

 【魔法最強化(マキシマイズマジック)】―――【服従契約(スレイプコントラクト)】」

 

 

 二つの魔法を融合して、発動させた。

 直後、兵士たちの首へと、中空からとびだしきてた赤黒い鎖が巻きつき/埋め尽くし―――締め上げた。

 

 男達は、その拘束に苦悶の声も……あげられないでした。

 手で掻き毟るも取れない/掴めもしない、ソコに見えるのに何もできない……。

 さらに鎖は、そんな無駄な抵抗すら許さないかの様。両手にも絡みついていき、手首までギッチリと巻き付くや―――、無理やり背部へと締め上げた。

 首だけでなく、上半身全てが締め上げられる。両腕が歪む/背骨が折れる/呼吸もできない……、泣きながら/目玉が飛び出るほどの苦痛に苛まれ続ける。

 

 そんな魔法の拷問風景にためらうことなく、続いて―――

 

 

「スキル発動【三重魔法融合(トリプルスペルフュージョン)】。

 【魔法最強化】、【魔法六重化(ペンタゴスマジック)】―――【洗脳手術(ブレインオペレーション)】」

 

 

 見えない鎖に悶えさせられている兵士たちが、その魔法の光を浴びると―――急に脱力した。激痛は続いているはずなのに、茫洋と/彼方に焦点が散っている。

 その直後、目の前に6つの人間の脳みそ……の青白い立体映像が現れた。彼らの脳みその写像だ。

 ソレらの中へ、指を/手をうずめ……中に『種』を埋め込む。しかと定着させるや、抜く。ソレを6回同じように繰り返す―――

 

 

《___これで、[フレーバーテキスト]の書き換えと、同じ事ができるのか?》

《はい。前提条件は全て整ってますので、間違いないでしょう》

 

 力量の隔絶を見せつけ、敗北感を叩きつける。

 生死が支配されていることを理解させ、畏怖させる。

 そして彼らの『神』を打ち砕くことで、虚無に堕とす―――

 そんな無力な肉人形は、人間に戻らんとするため、新しい『使命』を渇望する。

 

《その相手が差し出した『魂の空白』に、新たな神として『預言』を授ける―――。といった具合です》

《よくわからんけど……、なんとなくは分かったよ》

 

 ゲームでは、創造したNPCには無制限に/一方的に書き換えられるけど、コチラでは相手の心底からの了承が必要。……『心底』というのがとても重要。

 ソレはとてつもなく面倒な仕様になった……と、一見考えてしまうけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()てことにもなる。……運営やプレイヤーの特権じゃなくなってしまった。

 

《ならば今日、その方法を会得した悟様は、かの『クソ運営』を上回った存在になれた、ということですな》

《……あんまり嬉しくない称号だな》

 

 比較する対象が悪すぎる……。とは言うものの、何か『外れた』気がした。ずっと見上げるしかできなかった存在に、最後まで振り回されっぱなしだった相手に、ようやく肉薄できた。

 あまりにも遅きに失した……は当然だけど、それでもだ。一発カマせてやれた爽快感まで、止める気はしない。

 

 

 

 ―――すべて終えると、写像は消えた。

 彼らもガクンッと糸が切れたように倒れ……、地面にまで倒れる手前でハッと目が覚めた。まるで、白昼夢でもみていたかのように、キョロキョロと怯える。……誰もが自分の額に、『奇妙な紋様』を光らせているのには、気づけずに。

 

 

「___これで、彼らは生まれ変わりました」

 

 

 ひと仕事終えた達成感。共有しようとするも……村長殿はまだ、驚きながらも訝しんでるままだ。

 なので、

 

 ___では、試してみましょうか―――

 奴らとの繋がり、[服従契約]でできた自分にしか見えない6つの鎖を意識しながら、

 

 

「左手首をその剣で―――、切れ」

 

 

 分かりやすくも、リストカットなボディランゲージを見せての指令。……念じるだけ事足りるけど、村長殿たちには必要な演出。

 一瞬目をしばたかせるだけだったが―――直後、兵士たちは自分たちの意に反して、体を動かす。

 自ら投げ出していた剣を手に持つや、ソレで―――自ら手首を切った。

 

 

 噴き出す血と痛み―――。

 ソレで兵士たちは、ようやく正気に戻り……、各々痛みと恐怖に呻いた。剣を捨て、左手首を握る/止血する。

 

 その頃合を図り、驚愕する村長の傍へいくとその肩に手をおく。そして耳打ちするように、

 

「村長殿、『左手をまっすぐ挙手しろ』と、命じてみてください」

「へッ!? わ、私が……ですか?」

「きっと驚かれると思います」

 

 ニコリと営業スマイル……を向けてから気づいた。仮面被ってたことに。

 そんなミスは些事と、必要な処置はキッチリこなしておいた。―――[契約]の鎖の轡を村長殿にも、【複製魔法(コピーマジック)】。

 躊躇いの葛藤でモジモジしてる間に、同じようなことができるようにしておいた。

 

 そして満を持して、振り切ることができた村長が―――

 

 

「ひ、ひ……左手をまっすぐ、挙手しろ!」

 

 

 大声で/勢い込んで命じると、『ソレ』が鎖を通して兵士たちの内奥へ。―――兵士たちはまた、体が勝手に動き出す。

 血が出ないように抑えていたにも関わらず、その手を高々と掲げ出した―――

 

 溢れる自分の血で、肩も顔も濡れているにも関わらず、兵士たちはその左手を下げることができない。まるで見えない天井から吊られているかのように、自分の左手なのに戻せない……。

 わかりやすい命の危機/死へのカウントダウンに、蒼白になっていた。

 

 命じた通りに動かせたことに、村長は瞠目しているけど……、まだプレゼンは終わってない。

 腰を抜かしそうな彼の横に、その小さい背丈(今の自分は2メートルはある巨漢だ)に合わせて少ししゃがむ。そして、泣き怯え続ける男達を指さしながら、

 

「___今はまだ、あのような『反抗的な目』を向けておりますが、使役し続ければじきに、『恍惚とした眼差し』に変わることでしょう」

 

 言い終えると、無言で命じた。___もう下ろしていいぞ……。

 

 バタリッ……と、解放された兵士たちは、慌てて/泣きながら再度止血をする。

 

「ご覧ください、彼らのあの惨めな泣きっ面を。

 このような屈辱の中で生きたくないと、愚かにも自害すれば解放されるかもと、考えて行動にまで移せる顔ですか?」

 

 あるわけないでしょ? 

 同意するのは分かっていると、まだ動揺を隠せない村長を安堵させるために。自分にもたらされた『権力』を実感させる、その体の震えは武者震いなのだとも。

 さらにダメ押しと、続けた。

 

「万が一にも自害するとしても、その直前に彼らは、考えてしまうことでしょう。己のものでない己の命を壊す罪深さを、誇りがあるなどと自惚れてた己の卑しく穢れた魂を……。

 ソレを払拭させるチャンスは、もう無い。卑しくも罪深い自分は、いったい何処に行くのか―――」

 

 テンションが爆上がってる。封印してた厨二心が止められない/止めたくない!

 演出過剰な気がしてくるも……、このまま押し通す!

 

「村長殿も知っているように、奴らはクズです。奴らを救ってくれるほど慈悲深い神など、この世にはいません。率先して見捨てるでしょう。

 事ここに至れば、承知できるのが人間というものですが、奴らは違います。奴らは『人でなし』ですから。懲りずにも無駄なあがきをし続けるのです。誰か助けてくれると、誰かが必ず手を差し伸べてくれると……。

 そんな無限地獄の中で―――貴方がいてくれたことに、気づく。貴方様に奉仕できる歓びを、その使命を与えてくれたことに!」

 

 言い終わると同時、パッと空へと腕を広げていた。そして空を見上げるようにした顔には、神様が目の前に降臨してくれたかのような、無上の大感動を―――……、浮かべるがごとく。

 

 

 自然としてしまった一人芝居。全てやりきると―――、猛烈な恥ずかしさが噴出してきた。

 

 恐る恐るもチラと見下ろしてみた。……これでめっちゃ白けられてたら、もうナザリックに引きこもるしかない。

 

 そのなけなしの自尊心を賭けちゃった大芝居は―――、大勝利のようだった。

 村長は、まるで割れんばかりの大歓声/大感動を一人こなすかのごとく、つぅー……と一筋、涙を流しながら打ち震えていた。コチラをただ、透明な眼差し/表情で見上げ続けるのみ。

 

 感極まりすぎて声も出せない……と、捉えて良いのだろう。けど、大根役者か精神異常者へむける『暖かな哀れみ』だったら……、だとしたら―――、やはり引きこもりたい。

 ただ、ここまでやったのならケジメはつけねばならない。恥の上塗りにはならないよう祈りを込めて、プレゼンを締める―――

 

「___奴らの主は、村長殿ならびに村人たち全員です。先に命じたようなことを、村人たち全員ができるようにします。

 もし万が一にも、奴らが貴方たちを傷つけようとした場合、たとえ不意のことであっても、奴らはその痛みの何十倍もの苦痛を感じてしまうことでしょう。貴方たちが許すまで、いや許してくれたとしても、自罰せずにはいられなくなる―――」

 

 短期的に速効で従わせれるけど、力を行使し続ければ解除されてしまう[服従契約]

 初めは効果がなく、初期に気づかれれば無効化までされてしまうけど、しかと根付けばほぼ永続的に従わせられる[洗脳手術]

 二つを同時に、上手く絡ませてやることで、相乗効果がでる。―――人間を『奴隷』へと、種族転生させることができる。

 

 ……そんな手品のタネ明かしを、今ここでしてあげる必要はない。永遠にする必要も。

 代わりに、告げた―――

 

「いま私が説明したことは嘘だと、そんなことあるはずがないと、試したい者は試すがいい。……そんな勇敢な者にこそ、喜びは訪れる」

 

 ___皆、早くそうなるとよいな……。

 混じり気なしに/スッキリと穏やかな心持ちになれながら、祈るように。

 そんな兵士たちへの言葉で最後、締めくくった。

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。


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