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村長殿に断りを入れて一旦別れた。ネム達に報告してやらねば……
そんな道中、ふと尋ねてみた。
「___私は残酷かな、セバス?」
何気なしに呟くよう、意地悪的な臭みは極力消して。……少しやりすぎた気がして不安だ、[カルマ値]に引きづられている様な気がしてならない。
でも……、セバスの反応は違った。
「いえッ! この上なく慈悲深いお方だと、このセバス改めて感服致しました!」
えッ!? …………マジで?
アレを間近でみてて、そんな尊敬の眼差しを向けられるのて……。こいつ本当に、カルマ善性なのかなぁ?
「私めでしたら、あのような者共など潰していたでしょうが……、まさか生かしてやるとは! ソレもあのような素晴らしいご裁可をもって、悔い改める道までお導きなさるとは!」
熱を込めて一気にまくし立て―――我に返ると、「…失礼いたしました」と恥じ入っての執事礼で収めた。
しばし唖然と見つめてしまった。明らかに『執事』とは違うセバスの別面。おそらくは素顔だろうソレから賞賛されているのが受け止め切れず、面映くなってしまう……。
なのでコチラも、恥隠しの言葉が出ていた。
「……村人たちが全員殺されていたのなら、私もお前と同じように潰していただろうな」
お前を連れてきて正解だったよ……。暗にそう、お前も功労者/共犯者だよと、一方的を濁す。
そして、続けられるだろう謙遜が出てくる前に、
「そろそろ、時間切れが近いな」
「……はい。あと10分ほどでございます」
先の高揚を沈ませ、冷静に告げてきた。
___このままナザリックに、帰りましょう……。
当然にして正当な判断だ。主独りを異郷の地に置き去りにするなど、何がなんでもあってはならないことだろう。……たとえその主が、認めたとしても。
村長殿たちには「また後で」と告げた手前、一方的なドタキャンにはなってしまう。……尻切れトンボだ。
でも、別に構いもしないだろう。村人たちからしたらもう、災害は終わった、自分に感謝こそすれ同時に恐怖もしなければならなくなる。……何も言わずこのまま立ち去ってくれたら、ただ感謝するだけで心配は消える。
セバスもそこら辺の機微を察してか、流れに任せ二人きりになった今の頃合で諫言するつもりだったのだろう。
《……よろしいのですか?》
《反対か?》
いえ、悟様のなすがままに。
《
《あやつ等の記憶に触れたのですね》
……ちぇ! 先にネタバレされちまったか。
【洗脳手術】の際、偶然にも流れ込んできた奴らの記憶。全員のソレを整合してみると―――
《奴らは
《その雇い主達からしたら、あやつ等が生き延び、あろう事か村人たちの奴隷になってしまっているなど、予想だにもしていなかったことでしょう》
アレは素晴らしいご判断でした! ……お前もかよ、モモンガ!
ただ/しかし……伝わって来たのは、セバスとは真逆。首謀者たちがこれから見続けるであろう『悪夢』について。ソレをもたらしているのが自分たちであるのが、たまらなく―――愉悦と。
《……村人たちの災難は、まだ終わりそうにないな》
《ええ! 是が非でも、救ってやらねばなりませんな!》
…………とりあえす、やるべきことは一致した。
「___……ちょうどネム達には、挨拶する時間はあるな」
「はい! 村まで送ってやることはできませんが、もう自分たちだけで帰れるでしょう」
ここにはもう、敵はいないのだから……。なんと安堵したような表情か。
___セバスよ……、スマン。
心の内で、先に謝罪しておいた。
ネム達を置いてきた村外れまで戻ってくると、
「___あ、セバスのおじちゃんッ!」
元気のよい呼び声が迎えてくれたけど、なぜかビクリと緊張もされた。 ……たぶん俺の姿をみてだろうな。
省みると、セバスと違ってちゃんと名乗ってやらなかったと思い出せた。傷も治したわけじゃないし、『助けてくれた恩人』というより『偉そうで怖い魔術師』カテゴリなのは致しがたはないか……。
その隣には、起き上がっていた姉エンリの姿が見えた。コチラを見て驚き緊張するその顔/姿に、少し気力が無さそうにしているのは気にかかる。
周囲を再確認してから……軽くフィンガースナップ/指パッチン。展開していた結界を解除した。もう村は安全だと、無言ながらも示した。
しばし見つめ合ってしまうと、おずおずと/沈黙に耐えかねてかエンリが口を開いた。
「___た、助けて頂き、ありがとうございました!」
そしてペコリとお辞儀してくると、釣られてか、隣のネムも一緒にお辞儀してきた。
さすがに姉で年長でもあって、礼儀正しい。
起きてどれほど経ってるのか不明なれど、その間で現状説明を妹ネムが完璧にできたとは言い難い、というかほぼしてないのかも。それでも、自分と妹と周囲の状況を確認して、寝てる間に何が起きたのか推察したのだろう。……幼いながらもシッカリ者の姉だ。
「もう起きても平気か?」
「へ? あ……す、スイマセンッ!?
もう大丈夫です――― 」
座って迎える失礼を察してか、慌てて立ち上がろうとして……グラリ、よろめいた。立ち眩みを起こしてしまったかのように、そのままヘタリこみ続ける、横で妹が支えてあげながら。
その消耗ぶりに、訝しる。もう一度目を凝らして、生命力だろうオーラを確認しても……、隣のネムと同じほどの健康な色合いだ。
___何が原因なんだ……。
あまりの出血多量ぶりだった。傷や体力は治せても、失った血液までは補充されていないのやも……。
確認するためチラと、セバスに視線で指示した。
その意を正しくくんでか軽く頷き、エンリの元へと向かう。
そしてその傍へ腰をかがめると―――そっと、手を差し出しながら、
「___しばしお手を貸してもらえますかな、エンリ様?」
「え!? あ……は、はいッ!
ど、どうぞ―――」
緊張しまくってか、はんば突き出すような形で出してしまった細腕を、やんわり受け取る。
そして上向きにかえ、その手首に指先を添えた―――
……しばしの間そのままに。
セバスは何をしているのかと首をかしげて、気づけた。脈を看ているのかと。……ガッツリ執事な西洋風なのに、そんな漢方なことができるとは。
そんな珍妙は漢方執事が、脈診を終えたのだろう。そっとエンリの手を離し/戻してやると、診察結果を伝えてくれた。
「___やはり身体には、問題はありません。内蔵に傷が残っていることも。気血の巡りが悪くなっていることもです」
……専門的なことは分からないけど、出血多量が原因なわけでは無いことだけは分かった。
「……では、何が原因だ?」
「おそらくですが、精神的な問題かと。急激な肉体再生に、精神の方がまだ追いついていない。……エンリ様のお心はまだ、死にかけた時のままで止まっておられるのやも」
時が止まったまま―――。なるほど、確かにそんな気がしてきた。
あまりに急激に、絶対に回生しない致命傷を吹き飛ばしてしまった。ゲームではただの数値の変動で済ませられたけど、この現実ではそうもいかないのだろう。
いくら魔法で、質量とか光速度とか物理法則とかの大宇宙の大原則を捻じ曲げても、ソレは消えたわけじゃない。歪みを正す反動は必ず生じるはず、強ければ強いほど激震となって。……ソレすらも魔法は消してるのかもしれないけど、やはり全ては不可能だったのだろう。
そんな壮大なSFチックな話まで、中世ヨーロッパ村娘(平均的)なエンリが理解できた……わけではないだろけど、我が身の実感はふまえられる。
「それは……まだ完全に治って無い、てことですか?」
「そのようですね……。
しばらくは、少なくとも3日間は、静養に務めることを強くオススメします」
ソレは現状のあの村では、かなり難しい注文ではあるのだろうけど……、言わざるを得ない。お医者さんの辛いところだ。
魔法かアイテムで回復を……と、言おうとしたが止めた。その反動が原因なのにまた別を使用すれば、どんな副作用がおきるか分かったものじゃない。
セバス先生の言うとおり、静養する/自然回復させるのが一番早道だ。
エンリ/姉の不調の始末がつくと、おずおずとネムが尋ねてきた。
「___お父さんとお母さんは……無事、だったですか?」
その妹の質問に、姉の方はドキリッと強ばっていた。妹からそっと目を外すようにもして。……彼女はすでに、察していたのだろう。
なぜか尋ねられている形のセバスは答えず、コチラへ視線をおくってくる。アインズ様がお答えして下さります、とか。
そんな各々の期待に応える……前に、セバスが含めただろう意図が浮かんできた。
___ココで彼女たちとはお別れです。できるだけ自然な形の別れにしましょう……。
そんな感じの要望が、読み取れた。
___……そうしてやっても良いけど、もう決めたことだ。
改めて胸の内で、セバスに謝罪しておくと、
「___二人は無事だ。他の生き残った村人達とともに、広場でお前たちを待ってる」
「えッ!?
ほ……本当に、ですか?」
尋ねたネムより先、エンリが返してきた。
信じがたいと、でも信じたいと、期待と疑念が入り混じった目で見つめ返してくる。
そんな彼女に、用意していたカバーストーリーを披露した。
「お前と同じように、かなり危ない所だったが……
治療する前には
___きっとお前たち/子供達のことを心配しているだろう。
最後は暗に含めて、早く無事な姿を見せて安心させてやれと。……だから、
ソレがしかと伝わったか無かったか、妹ネムの「やっぱりママたち無事だったんだ!」との嬉しはしゃぎ様で吹き飛ばされた。そして、「ありがとう変な仮面のおじさん!」と、幼子らしい率直な感謝に、場の空気も和まされた。……俺は少しショックだけど。
そんな二様に嬉しがる姉妹へ、セバスが接ぎ穂で締めてくれた。
「さぁお二人共! もう村は安全です。お二人だけでもご両親の下まで、行けますね?」
そして自然に/優しげに、二人に村へ戻るように促した。
ネムは「うん!」と元気よく/疑うことなく、一人で駆け出す勢い。ただ、姉の手は握りっぱなしだったので、風船みたいなことにはならず。
そんな妹に釣られてか、エンリも立ち上がり駆け出そうとして、慌ててコチラに向き直ると「ほ、本当にありがとうございました!」。深々と感謝を告げると、妹に引っ張られる/流される様な形で去っていった―――。
……しばし、姉妹の背中を見送った。
曲がり角を抜け、見えなくなる頃合―――そっと、セバスの背まで移動した。
律儀にも、あるいはしみじみとか、二人を見送り続けているセバスは……まだ気づいていない。いや、そんなこと思いもよらなかったことだろう。
その背に触れるかいなかの場に、手をかざすと―――【無詠唱】にて唱えた。
(スキル発動【三重魔法融合】。
【
唱えるや、セバスのすぐ目の前に、我が家/ナザリックへと繋がってる【転移門】が出現する―――
その寸前には、何らかの気配を感じ取ったのだろう、セバスが瞠目しながら振り返ってはいた。
けど……、手遅れだ。発動してしまった魔法は、止められない。
セバスを吸い込もうとする[転移門]、仰け反りそうになる吸引力を脚力か意地かで踏ん張り止まる。不可避の魔法に抵抗するとは……。
しかし―――奮戦虚しく。門はさらなる吸引力をもって、引きずり込んでくる。
「___あ、アインズ様ぁッ! すぐにコレの、魔法の停止をッ、お……お願いたしますッ!!」
必死な懇願、もう数秒なく強制転移させられてしまうのを悟ってだろう。定めていただろう執事の分を越えて、物申してきた。
しかし……、返すのは無言の微笑みのみだ。___お前にはこのまま帰ってもらう。
その代わりに、新しい指令/小さな半透明な水晶を見せて、
「ナザリックに戻ったら、この【
ソレをポイと―――やんわり、セバスへと投げた。綿毛並みの軽い投げ渡し。
しかし、ソレが彼の胸に接触するや―――ガグンッ!と、凹ました。その強圧と突然をもって、ギリギリの拮抗が破られる。
踏ん張りがきかなくなり、足も地面から引き剥がされ、そのままセバスは―――門へと引きづり込まれた。
そして彼の最期の叫びも、閉門をもって断ち切られた。
……しばし時間を数え続けた。
召喚制限時間まで4、3、2、1―――、0。
時間終了から、さらに1分ほど待ってみた。誤差は充分に考えられる。
それも4、3、2、1―――、0。
ロスタイムも合わせて、セバスが戻ってくる気配はない。【転移】の気配もなかった。
(___ふぅ! コレでもうしばらくは、自由行動できるな)
忠臣セバスには悪いけど……、めっちゃスッキリした!
帰ったらとんでもないだろうけど、今のこの気分はとっても重要だ。たぶん掛貝のないものだ。
「___さてと、村に戻るとしようか!」
誰に言うでもなくウキウキ気分のまま、村への道へと戻っていった。
―――
……
村に戻るや、出迎えたのは……ちょっとした戸惑い。
「___あのぉ……、お連れの方は、どちらに行かれたのですか?」
「所用があったので、先に帰しました」
尋ねる村長に、簡略して答えた。
……そして答えてから、少し安直すぎたと反省させられる。
村長の背後でワラワラしている村人たち。彼らはセバスがもたらした『奇跡』の体験者であり目撃者。彼への感謝は溢れんばかりで、一部ではおそらく崇拝にまで達しているのやもしれない。
かえって自分はといえば、禍々しき下僕たちをもって敵を滅ぼし/絶望にまで落とし、さらにはそんな奴らを奴隷にまで変えてしまった……。『邪悪な魔術師』だ。
どちらが自分たちを守ってくれるか、安心させてくれるのかは……、明白だ。
___もしかして俺……、歓迎されてない?
浮かれてた気分は、彼らの怯える眼差しのおかげで、吹き飛んでしまった。
ただソレは、連鎖しておきてしまった悲劇。
本命の戸惑いの要因は―――、すぐ背後に控えている下僕、6本足の大鰐、セバスが作成したアースドレイクだ
その鰐が、戻る前はただの忠実な獣でしかなかったはずなのに、今はなぜか別の顔つきをしていた。―――そう、老執事の顔つきに。
そしてそんな執事鰐は、再会してそうそうに―――
___アインズ様。御下命はしかと承りましたが、くれぐれも……くれぐれもお気をつけください。
現実には/傍からでは「アギャッ! ウギャァッ!」との獣声。
でも、なぜか結ばれてしまっている精神の絆が、その意味不明な言語を正しく翻訳してくれた。……創造主たるセバスの意思を、正しく伝えてくる。
そしてさらに、
___この下僕めでは、大してお役にたつことはできませんが……、せめて御身の盾になれるように仕えさせます。
どうやってるのか、鰐の精神を完全にのっとり、自分の分身そのものに変えてしまった。
―――そして今、執事鰐という謎生物が誕生してしまった。
―――さらに今、そんな執事鰐が堂々と背後に控えている、鋭い眼光と老成した雰囲気を醸しながら。
その主人にさせられている自分。第三者から見える絵面を思うと……、精神に恒常的なダメージが加算されていくのを感じてしまう。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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