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ユリに奴隷たちのことは任せて、林から出た。
そのまま居座り続けても良かったけど、いなくても問題はない。黙ってボーと立ち続けるしかやることなさそうなので、出るしかなかった。……どちらにしても、30分は暇だ。
時間まで村に戻ってもやることなし、というか村人たちの視線/アウェー感以上の「あっちいけ!」感が半端ないので、戻ない方がいいまでもある。ただ、死骸運びのため出たり入ったりと忙しくしてきた、また戻っても「あぁまたか…」程度で自然になっているのかもしれない。
なので暇つぶしもかねて、上位下僕/[集眼の屍]から送られる周囲一帯リアルタイム立体映像に集中することに。ソレを眺めている、ゲームの頃の感覚が蘇ってくるようで、今では懐かしくて心落ち着くものがあった。
楽しんで眺めていると……、気づけた。
村への境界付近/林道の中、ウロウロと何かを探しているような一人の少年の姿が。
村人たちの大半は今、亡くなった人たちの葬式に忙しい。
遺体はもう自分が運んで並べて置いた。けど、さすがにあんな村のど真ん中で火葬式をやるわけにいかない。墓地だろう村の外れへと移動させて、そこで葬式を済ませるのだと。
元いた世界での葬式方法についても、ありきたりなことしか知らないけど、亡くなってすぐに火葬だかをするのは流石に早すぎるのではないかと首をかしげた。でも、
《___この世界では、他殺体を野ざらしで放置していると、かなりの確率で[ゾンビ]か[グール]になってしまうので、妥当な判断かと》
……なるほど、そうだった。コチラではそんなホラーが現実化しているんだった。
それでも、故人をすぐに焼却してしまうのは忍びないのが人情、
油も薪も炎系魔法も聖職者もいない場合もある。そういった場合には、[聖性]が込められた布を巻くか、魔除けの薬草を体中に巻きつける、[回復ポーション]を染みこませた銀の硬貨を数枚口に入れておくのだそうだ。けど、やはり貧乏人には難しい。なのでどんな小さな村でも、聖性を発生できる場所/[教会]を作っておくのは必須になる、安心して長く住める場所であるとの証拠にもなる。……そういった実生活の経験知と知恵は、なかなかに興味深い。
今は例え子供であっても、何かしらの手伝いやら、何より親や大人たちに守られているはずだけど……、彼は違ったようだ。
そこから抜け出してでもココまできた。ココらでウロウロしている/させられているとすれば、おそらくその目的は……、俺だろう。
声をかけてやるべき……数秒迷った。
でも、ちょうど良い暇つぶしでもある。声をかけることにした。
「___少年、こんな所に来ては危ないぞ」
「ッッ!?」
背後から突然……てことにもなってしまったので、目に見えるほど飛び上がる/硬直までさせてしまった。……といっても、そんなビビらなくてもいいのに。
悲鳴に喉を詰まらせそうになりながら、しかし腰まで抜かすことはせず、カクカクと錆び付いたロボットのように振り返って……ゴクリ、また息を飲まされていた。
しばし黙っていると、少年は意を決してか……ようやく口を開いてくれた。
「___あ、あ……貴方が、アイツ等を全員……やっつけた、のですよね」
無言で首肯。……ビビられすぎて、何を言いたいのか分からない。
ソレはちゃんと伝わったか、続けて
「あ、あの黒くて大きい……骸骨の戦士は、貴方の[シモベ]……なんですよね?」
「……あやつが何か、マズいことでもしでかしたか?」
まさかあの『デキるデスナイト』に限って、そんなことは……。ちゃんと待機命令は下したし、精神の繋がりでも大丈夫だと分かけど、万が一のことはある。
しかし、それは杞憂だったか、キョトンとされるとすぐブンブン、首を横にふってくれた。
だとすると、何が言いたいのか……。無言で続きを促すと、
「あ、あんな強いシモベを、完璧に従わせてるなんて……す、すごいです!」
「……そう、なのか?」
確かにデスナイトは優秀だけど、ゲームでは召喚も服従も簡単にできることだった。大したことじゃない。……そんなキラキラした眼差しを贈られるようなことでは。
……と、つい『常識』が浮かんでくるも、気づかされる。コチラではそれこそ、非常識なのだと。
ようやく遅ればせながら、少年が何を求めて独りココまで来たのか、察してきた。
「ぼ、僕も、貴方のような強い
……やっぱり、ソレが目的だったか。
なら、次に出てくるお願いは―――
「ぼ、僕をッ、あなたの弟子にッ! ……してくれませんか?」
なんでもしますから―――。土下座でもする勢いで、弟子入りしてきた。
真剣そのものの眼差しで、全てを投げ打ってでの懇願。……とても面倒くさいことになってしまった。
___……どうすりゃいんだ?
しばし悩む。というか、どうすれば円満に却下できるか考える。
何かを探っているかのように見つめ合う形、あるいは視線と迫力で脅しつけているかのような。でも少年は、震えて泣きそうにしているも目をそらすことはない。ヘタリ込みそうになっているのもこらえていた。……やばい、超本気だよ。
___諦めさせるのは、骨が折れるな……。骸骨だけに。
どう決着させればよいか? また思案を続けていると―――
「___【ラムザ】やぁーーッ!? どこに行ったのじゃぁーー……ッ!?」
村の方から、老人の必死な叫び声が響いてきた。誰か大事な人を探し回っている―――。
ビクリと肩を跳ねさせ振り返る少年。……彼のことなのだと、すぐに判明した。
叫び回りながら近づいてくる老人は、すぐ……コチラを見つけた。
俺が目に映り、やはりビクンッと痺れ跳ねる。しかし少年に目を戻すや、すぐ硬直を振り切って彼の下まで駆け寄ってきた。
そしてなぜか―――、彼を後ろにかばうようにすると、
「ラ…ま、孫にはッ! 孫だけは……どうかお見逃しくださいッ!?」
そうして泣きながら、足にすがりつこうするかのごとくまで……命乞いをしてきた。
___……ものすごい、勘違いされてる。
驚き消沈。この爺さんだけの勘違いならまだ救われるけど、村人全員が同じ思いだとしたら……。そんな不徳なこと、した覚えないんだけどなぁ。
それでも何とか気を取り直して、爺さんの勘違いを解すことに。
「……少し散策していた中、村の外に遊びに出ていた彼と、偶然に出会っただけです。少し話をしていただけで、何の危害も加えてなどいませんよ」
「えッ!? そ、そんなこと―――は……、
……そうなの、か?」
老人が後ろのラムザ君に確認してみると、老人と顔を合わせるバツの悪さからだろう、少し戸惑いのようなものをみせるもちゃんと頷いてくれた。
その答えに、しばし目を瞬かせるも、やがて受け入れてくれたのか……、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
爺さんの誤解を解くことに成功すると、ついでにラムザ少年に釘を刺す。
「___少年よ、いちおう脅威は過ぎ去ったとはいえ、
「そ、それは―――……、ごめんなさい」
小さいながらも謝罪の言葉で、ようやく老人は安堵してくれた。
___やっぱり、爺さんには内緒でか……。
なんとなしの直感だったけど、見事正解だった。
穏便に『何もなかった』ことにすると、気づかない爺さんは、
「孫がお手間をかけてしまい、大変申し訳ありませなんだ……」
「お気になさらず。私はこのような異様な風体でありますので、心配されるのは最もなことです」
皮肉では事実として/何より社会人として、そう謙虚に言うも、老人はさらに申し訳なさそうに俯き加減になっていた。……婉曲なイヤミに聞こえてしまったか。
仕返しするつもりは無かったので、補うように話を少年に向けた。
「少し好奇心が強すぎるきらいはありますが、なかなかに利発そうなお孫さんですね。雰囲気にもどことなしか、気品も見受けられます」
「そ、そうですじゃろ……。自慢の孫で、ございますから」
言い方に、ちょっとした違和感があった。素直に喜んでよさそうなのに、どこか躊躇いがある……。何か隠し事でもあるのか?
やじ馬根性ながら、踏み込んでみることにした。
「彼のご両親は、先の襲撃で……お亡くなりに?」
「い、いえ!? コレの両親はその……、先の襲撃とは関係ありませなんだ」
「……すでに他界していた、と?」
「は、はい! そうでございます!
あ、いえ……、そのぉ―――…… 」
ハッキリしないな……。いや、『ハッキリとさせられない』と言ったほうがいいのか。返答した後、俺と目が合う/顔を見ると、なぜかその答えを自分であやふやにする、目を泳がせる。
自分の眼力は、相手の心の奥底まで射抜くほど鋭い……てなことは、全く実感も経験したこともない。けど今は/[オーバーロード]である自分ならば、例え実感や気すらもおこしてなかろうとも、相手の方が勝手にそう戦慄してくれる。……そんな可能性はある。
つまり、嘘をついている。それも、つき続けなければならない嘘をついている。『死の恐怖』を前にしても、墓場までもっていく覚悟でもって。
そんな祖父の『嘘』に気づいてか気づかずにか、少年が話を継いでくれた。
「___母は、僕が生まれてからすぐに、病気で亡くなったそうです。
そのあとは、母の姉にあたる叔母が引き取ってくれて、この村まできて……育ててもらいました」
思ったよりも、しんどい過去だ。……父親知らずなのは、俺と同じ。
我が事なのに、妙に淡々と語っているのがまた、心の問題の深さを物語っているかのようでもある。
《___悟様、どうやらその少年が、此度の騒動の原因の一つらしいです》
《……この少年が?》
さすがにあんな惨事の責任、彼にはなかろうに……。
《ソレに纏わりついてる母と思しき女の死霊よりの、情報でございます。実に……興味深い情報です》
《なんだよ、もったいぶらずに教えてくれよ》
《ぜひともお渡ししたいのですが、さすがにコレだけでは全容には至れません。
関連ある者共からの情報を重ね確証を得られましたら、すぐにお伝えすることを約束します》
全容には至ってない……か。ソレだけでどんな規模の問題なのか、検討がついてしまうものだけど。
《……この爺さんは、何かを知ってそうだな》
《聞き出しますか?》
ソレも近道になるけど……、今すぐは必要ない気もする。
たぶんそう遠くない時に、自分から話してくれんじゃないかと―――
「___ま、魔法詠唱者様ぁッ! 大変ですぅーーーッ!!」
思考は、再びの村からの叫び声でぶつ切られた。
みなで振り向くと、叫びながら掛けてきたのは、村長の使いの男だと。
たどり着くや、ハァハァ息切らせながらも、
「い、今すぐ! 村の広場まで戻ってきて、くれませんかッ!」
何事なのか……。聞き出す前に、上空の[屍]が教えてくれた。きっとこの男も知らないほどの情報を。
___確かにこれは、俺が立ち合うべきだな。
「……わかりました、すぐに向かいます」
(【
[無詠唱]にて、歩行速度を早める魔法を自分にかけた。……本当は【
魔法が効くと同時、滑るような高速度で広場へと向かっていく―――
―――
……
カルネ村の広場―――。足早に戻ってくると、そこには……[屍]からの情報どおりの光景が広がっていた。
「お? ……おぉ!?
アインズ様、御足労ありがとうございます!」
「……そちらの方々は?」
よく言えば歴戦の戦士集団。悪く言えば、まとまりのない傭兵集団。
きちんと整列し、乗馬もしっかりと落ち着かせている。面構えや雰囲気も、先の奴隷たちとは違って、金属質な鋭さのなかにも熱ある信仰心のようなモノが見受けられた。20人ほどのソレらが一心と、向かっている先には―――
「___私は、【リ・エスティリーゼ王国】、王国戦士長の【ガゼフ・ストロノーフ】だ。
王の御下命により、この近隣を荒らし回っている帝国の騎士たちを駆逐するため、村々を回っているものである」
静かな深い声音が、村中にも響き渡り―――、村人たちにも動揺をひろげた。
___有名人なのか……。村長にこっそり確認
「……どのような人物で?」
「かつて、王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭部隊を仕切るしている御方……だとか」
村長もまた、商人からの伝聞情報。けど、目の前の益荒男ぶりと彼に付き従っている騎兵たちを見れば、嘘にはならないだろう。
___精鋭部隊ねぇ……。
後ろの兵士たちがソレに当たるのだとしたら、違和感しかない。
たぶん、腕っ節も肝っ玉も何より戦士長殿への忠誠心も強いのだろうけど、『王直属』と言われると……イメージからかけ離れている。実力以上にも外見/面子を気にしなくてはならない彼らが、そんな実用優先の/統一性のない装備で外出するのかと。……この世界ではそれこそ、常識なのかもしれないけど。
《___彼の説明は、間違ってはいません》
《……死霊たちからの情報?》
《はい。彼らに纏わりついている者共からです》
頼れる軍師殿の保証は助かるけど、その情報源はかなり……不穏だ。
《その『纏わりつく』てのは、殺してかつ……恨まれてる、てこと?》
《そのような者共もいますが、『慕われている』といった具合の者共の割合の方が、かなり多いですね》
つまり、暴力を生業にしているけど仁義には厚い人物、てことか。……まぁまぁ第一印象通りかな。
「___この村の村長だな?」
「ぇ? ……は、はひぃ!」
声かけられるとは思っていなかったのか、声が上ずっていた。
「横にいるのはいったい誰なのか、教えてもらいたい」
「___ソレには及びませんよ」
助け舟を、というより主導したかったので、
「私の名は、[アインズ・ウール・ゴウン]。この村が騎士たちに襲われていたところを助けに来た、しがない魔術師です」
少し皮肉を差し込んでの自己紹介。
権威を振りかざす横暴人だったら、これでムッと顔をしかめるか、最悪は腰の剣までぬくことだろう。
目の前の彼は違った。
聞くやいなや、疑いすら挟むことなく―――、馬から降りると、
「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!」
深く深く……謝礼してきた。
いたずら心ではあったものの、悪意をそのような形で返されて……、一瞬呆けてしまった。毒気を抜かれてしまった、と言ったほうがいいだろうか。
___こいつは……第一印象以上の、人だな。
評価は上方修正、『生真面目』をプラス。
誰が相手でもこの通りに振舞ってるのだとしたら、かなり『舐められる』ことだろう。その屈強な体格と王様の厚い信任があっても、上手な世渡りな方法とは言い難い。おそらくかなり辺境で、権力も名声も無いだろう相手に対してもソレをするのだから、都会では言わずもがなだ。……人生かなり損する人だ。
ただ今回/俺に対してソレは、花丸満点だ。……舐めるどころか、カッコイイと。
ただソレはやはりか、彼独自の信念からの行動だろう。
後ろの部下たちは、隊長がそんな『卑屈な』態度をとったのが不満か、動揺を隠せないでザワついていた。……しかしながら隊長が馬から降りた以上、部下たちもいそいそと/渋々ながらも下馬していく。
部下たちが全員キチンと下馬しきった頃合、ガゼフは顔を上げると、
「___ただ、寡聞にしてゴウン殿の名は、存じ上げたことがない。よろしければ出身地や、この村に来るまでの経緯を、お聞かせ願えるか?」
改めての確認作業でもあるだろう。けど、恩人殿のことを詳しく知っておきたい、との純粋な好奇心も否めない。……この手の純な人は、扱いに困る。
もちろんのこと、洗いざらい教えるわけにはいかないので、慎重に言葉を選んで、
「……申し訳ありませんが、出身地については詳しく教えるわけにはいきません。ただ地下につくられた『窖』とだけしか」
事実のみを伝えた。何も偽ってはいない。……どう受け取るかは、相手次第だ。
なのでか/当然でもあるけど、戦士長殿の顔には困惑の「?」が浮かんでいた。後ろの部下たちからは、あからさまな回答拒否に対しての怒気が立ち上っている。
もちろん、ソレだけでは収まりが悪いので、補足説明を続ける。
「戦士長殿が私の名をご存知ないのは、その窖の中にて魔法の研究三昧の日々を過ごしてきたからでしょう。おそらくは……、かなりの長い年月を」
『大昔』と『異世界』は全く違うものだけど、確かめられない/する気も無い一般人からしたら同じ『はるか彼方』だ。けど隠したい俺にとっては、大昔はとても都合の良い変換だ。
付け加えるなら……、今のこの体について。もしバレる/正体を明かさないといけなくなった場合、相手はその変換を『事実』と大いに納得してくれることだろうし。
「ただ、その窖を隠匿する結界が少々不調をきたしましてな。修繕するために地上へと上がりました。久しぶりの地上ですので、どうせならとしばし散策していたところ……、見かけてしまったのです」
この村の惨状を……。それで輪を閉じた、最後は頭を下げて感謝した出来事をもって。つまりハッピーエンドだ。過去のことは終わり、これからは未来に目を向けようと。
そんな印象操作が功をなしてくれたのか、全ての「?」は拭い取れてはいないけど、ガゼフは感慨深げに感想を聞かせてくれた。
「貴殿にとっては偶然のこととはいえ、この村と村人達にとっては、奇跡のような巡り合わせだったのですな」
「そういうことに、なるのでしょうが……。私としては、この村の方々が日々積んできた徳が引き寄せた縁、とみております」
あるいはもう一回りデカくて精緻な、目に見えない『何か』なのかもしれないけど……、さすがにこれ以上は分からない。
自分の功績は控えめに、村人たちをたてる……。といった大人具合にも見えるけど、あまり褒められるとこそばゆくなるので、一部でもいいから投げたかっただけだ。
そんな微妙な一般人魂は、さすがに読み取られてはいないだろう、今度はもっと目を丸くポカーンともされながら、
「魔法詠唱者が、『徳』とは……。ゴウン殿はかなり、変わっておられますな」
「……そう、なのですか?
私には、何が今時の常識なのかは分からないのですが、かなり古いタイプの魔術師なのは、間違いないでしょう」
もう一回『大昔』を念押し。ついでに、今の常識を持ち合わせてないよと、セーフティネットも張れた。……これならもう、だいたいのミスは誤魔化せる。
心理的な安全地帯を確立させて、ホッとしていると、話も切り替えてくれた。
「___ところで、この村を襲った不快な輩について、詳しくご説明いただけますか」
「あやつ等でしたら、大半は殺しました」
簡潔に率直に、事実を。
一瞬呆けられてしまうも、次には戦慄の緊張が走り抜けた。……空気が一気に緊迫する。
「…………貴殿が殺したのか、ゴウン殿?」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えます」
言い終えチラと、傍に待機させていたデスナイトへと注目を誘導させた。……俺じゃないよ、コイツが殺りました。
同じ戦士同士、だからだろうか。互いの力量が肌でも分かるのだろう。戦えばどんな決着を迎えるか、アレか自分たちか……。脳内で仮想戦闘が行われているのが、目に見えるようだ。
そしてその勝者は……、従っている部下たちにはいなかったのは分かる。けど目の前の戦士長殿は、分からない。雲行きは怪しそうな余裕のなさ具合なれど、『勝てないわけではない』のは、ハッタリでも驕りでも無いと分かるほど。
___なるほど、彼はデスナイト『程度』なのか……。
目を凝らして見える生命力だろう[オーラ]。村人たちや先の奴隷たち、そして後ろの騎兵たちを眺めてみても、ガゼフは別格に巨大で濃いのが分かる。でもソレはちょうど、色合いこそ真逆ではあるけど、下僕のデスナイトと同じ規模であるとも。
奇妙な一致に、逆に不安になってしまったけど、彼の見せた緊張で確信の方に傾けれた。そしてその『程度』ならば、自分の脅威ではないとも。
いつでも放てるように準備していた『モノ』から、そっと手を離した。
「___アレが……、アレを貴殿が、動かしてか?」
「はい。私の生み出したシモベです」
その返答に、後ろの部下たちからどよめきが上がった。信じられない/信じたくないと。……教えた意味は、十全に伝わってくれた。
ソレは目の前の男にも/率いる隊長であるからこそよけいに多大な衝撃を与えただろが……、飲み込んでみせた。
それでも威儀を保ち、続ける。
「もしや、その仮面と何か……関わりがあるのか?」
___……どうしようかな?
どう答えれば良いのか、迷った。
はぐらかすのも脅かすのもよいけど、嘘はつきたくない。
嘘は面倒くさい。たぶんこれから、何処かでバッタリと再会してしまった時まで、覚えていなければならないから。……知らなきゃならないことだらけの異世界なのに、嘘まで覚えてはいられない。
幸いに今の自分は、かなり強いらしい。権力や暴力に屈しなければならないことを、ある程度は押し通せる。……嘘で誤魔化さなちゃならない必要は、無い。
改めて、心を決めると―――答えた。
「___いえ、特に関係はありませんよ。地上に外出する際の……規則のようなものです」
事実を教えることにした。
言い切って、こんなトラウマを抉り続けるような仮面を脱げれる公式チャンスが生まれたことに、正しい選択ができたとの想いが強くなった。……他のプレイヤーに遭遇する前には、絶対に/完璧に/痕跡一つなく脱がなきゃならないモノだった。
「ならば……、外してもらうことは、難しいか?」
おや……? 突っ込みが柔らいだ。素顔を見たいは、当然のことあるみたいだけど、ソレを自分で抑えてる……。
省みて、『規則』という何気なくだした単語が効いたのだと、思い至った。それは目の前の生真面目な男にとっても、重要なことだとも。
その直感を信じて、念押しすることにした。
「魔術師にとって素顔を見せるというのは、とても危険な行為になります。故にも、その相手は高い信頼をおける人物、ということにもなります。残念ながら、初対面の貴方がたにはまだ……、早すぎるかと」
___それでも見たいとゴリ押すのなら……。相手になろう。
そんな無言の宣戦布告を突きつける……も、期待通りにざわついてくれたのは後ろの部下たちのみ。目の前のガゼフは、むしろ何かを納得したかのように、
「___わかった。それでは、今はそのままでもけっこうだ。
だがすぐにも、貴殿の信頼に値する男だと、証明して見せよう!」
___……そこに注目しちゃうのかぁ。
別に男気を疑う/信頼しあいたいがために煽った事じゃないのに、彼の中ではそんな感じにまとまってしまったらしい。
でも、そういう流れならば、
「でしたらまず、皆様がたの腰のモノを広場の隅にでも置いていただけると、大変はかどるかと思いますよ」
武装放棄を促してみた。……たぶん、かなりの無理難題だろう。
ただ、コチラも村人たちの代表……の代理人。彼らの要望は『安全・安心』で、目の前の男たちはソレを著しく脅かしている。例え王の代理人だとしても、つい数時間前に『皇帝の代理人』が破った以上は信頼できない称号だ。
「……正論、だな。
だが、この剣は我らが王より頂いたもの。王の命令なく外すことは……できないのだ」
そう言い切る表情にはしかし、苦渋がにじみ出ていた。……『王の命令』は彼の中では絶対、か。
しかしながら、反発心ゆえだろう、「そんな『ナマクラ』が王様からの頂き物ですか?」なんて煽り文句が喉元までせりあがってきた。
彼が言ってるのは精神的な意味で、なのは分かっているけど、実物はあの奴隷たちが使っていた武器と大差ない。さすがにワンランクは上の剣なんだろうけど、俺からしたらどちらも『紙』みたいなナマクラだ。王様ともあろう方が、その程度しか直属の精鋭兵に渡せられないのか、とも。
喧嘩待ったなしの売り言葉は、しかし……村長殿が止めてくれた。
「___アインス様、私たちは大丈夫です」
そうですか……。無理すんなよ
ハタと、自分がやたらと好戦的になっていたことに気づけた。
たぶん戦っても負けないだろうけど、だからこそ戦いは避けるべきだ、悪意や大義すら無いのならなおさらだ。それなのに……、なぜだろう?
___……今考えても、答えはでないな。
依頼者がOKなら、代理人がNOを出す権利はない。……ここは素直に退こう。
「___戦士長殿。大変失礼な要求をしてしまったこと、お許し下さい」
「いえ、貴方の考えの方が正しい。私も王より賜ったものでなければ、よろこんで置いていたよ」
ホッとした様に、ガゼフも礼を返してきた。いざという時は抜くのを躊躇わないが、『こんなこと』で抜きたくはない……。そんな安堵を滲ませながら。
先のいたずら心は霧散、代わりに彼への好感度が上がっていた。
「___さてと! あとはイスにでも座りながら、詳しい話を聞かせてもらう。
それと、時間も時間なので、この村で一晩だけ休ませてもらいたいのだが……」
チラと村長へ確認。その視線には、雨露凌げる場所ならどこでもいい/馬小屋でも構わない……。
しかし村長的には、そうは受け取れなかったのだろう。
「わ、わかりました! その片も踏まえてどうぞ、私めの家でお話に―――」
自分たちの家屋が徴収される/自分たちこそ馬小屋で寝させられるのかもと、不安で震えていた。俺にチラチラと、どうかそんなことにはならないようにお願いしますと、懇願の視線を向けながら……。
村長の案内の下に、ガセフとともに彼宅へと向かおうとすると、
「___戦士長ぉッ! 周囲に複数の人影ッ、村を囲うような形で……接近しておりますッ!!」
ガゼフの隊の斥候と思しき部下が、悲鳴混じりの報告を叫んだ。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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