「相棒は、どうして新大陸に?」
モンスター級の実力を誇るハンターこそがモンスターハンターだとすれば、その力は何のために揮われるのか。
超人的な力で戦う狩人たちが、皆同じように大義を持っているといえるのか。
「好きなモンスター、だったんでしょ?
だから、負けることなんて知りたくなかった」
「ねえ、そうなんでしょ?」
「そのずっと前から」
「苦しいよ」
雑踏。流れる足、ゆっくりと視線を上げる。
記憶の砂嵐、ぼんやりと灯る。確かに見た。
およすく憂う表情の、赤い星。
白い光に包まれて、君が僕を置いて去っていったように。信頼だけを残して、輝きを放つ。
「どうして」
「なんでこんな時に、まっすぐ笑えるんだよ」
「幽世線を越えるっていうのに、恋しくなっちゃうじゃないか」
夢うつつ、居眠りの記憶が途切れる中で、確かにそう聞こえた。
立ちこめる怒りを、静かな決意に浸した。
微かな笑みを浮かべて。
〜戦闘街
兵器が設置された高台に囲われた戦地。
到着するまでに、どれだけ時間をかけただろう。
「なんだ、いい武器あるじゃん。これ、貰ってくよ」
まだ少し冷気の残る戦闘街は、血腥く、両断された人間の肉片で散らかっていた。
異様。自ら仕留めた古龍の屍肉を貪る竜。
紫の炎に覆われていた全貌が露わになる。
獣のような四足歩行の姿勢だが、全身が甲冑のような甲殻に覆われている。
物憂げな表情で冷たい聖遺物を齧り、噂に違わず骨まで噛み砕いて嚥下する。
これはガスの発生効率を高めるためである。
ドンドルマでは、古龍骨を各所に配置することで大型モンスターが街に寄り付かないようにするかわりに、古龍骨を狙って襲撃を仕掛けてくる古龍と戦う必要があった。
多彩な迎撃兵器を備える戦闘街は、強大な力を持つ古龍への対抗手段として発展した。
古龍骨には古龍だけではなく強大な力を持ったモンスターを誘き寄せる効果があることが明らかになっている。怨虎竜マガイマガドは古龍骨に引き寄せられる性質を持っていたため、簡単に誘い込むことができたのだ。
「あれがマガイマガド.....思ったよりデカい」
同じ牙竜種の強力なモンスターとして知られるジンオウガとは明らかに掛け離れた姿だ。
機動力が高く小柄なモンスターが多いとされている牙竜種の中では最大級の体躯。
凄爪竜上科のモンスターとは比べものにならないほど肩幅が広く、マッシブな姿をしている。
食事の間に先制攻撃を仕掛けてエネルギーの補給を食い止めるか。
それとも、食事は攻撃を誘うブラフか。
それならば、遠距離からスリンガー貫通弾で攻撃を試みるべきか。
戦闘街の兵器を利用して攻撃するという選択肢もある。
考えている間に食事が終わってしまう。
「足が止まる前に.....」
「ぶん殴る!!」
リボルバーの回転は最高速度まで加速。
槌の衝撃がマガイマガドに伝わるまで残り3秒。少し離れた地点から両脚で地面を蹴り、空中から放たれたのは有無を言わさぬ銃撃。
体表の孔を狙った一斉射撃である。
工房試作品ガンハンマー。ミナガルデ工房最高傑作とされた槌がこれまでの狩りによってアンセスの手に馴染んでいた期間。
さらなる破壊力を求めて改良が続けられた結果、工房の浪漫の産物は国家に承認される超兵器へと進化を遂げた。
近衛隊機械鎚【撃鉄】。
クロガネノミコトすら知らない、ハンマーの新たな境地。火力、攻撃力ともにガンハンマーから大きく向上。希少なメランジェ鉱石をふんだんに使い、エルトライト鉱石と火竜の重殻を接合して最新の技術を詰め込んだ撃滅の破壊鎚。
死角から突然訪れた鈍い痛み。激痛。
それは戦闘街に配備された兵器による攻撃を大きく上回るダメージだった。
どうやら牙を格納している暇はないようだ。
ペース配分を無視した特攻。
傷口から流れる血は火竜の重殻が放つ炎熱を無効化し、火属性エネルギーと相剋している。
同じ反応を示す血を一度だけ見たことがある。
それは滅尽龍ネルギガンテの流す古龍の浄血。
やはり、このモンスターは度重なる捕食行動によって古龍に近い生物へと変化しつつある。
しかし、神に近づいた生物でも必ず弱点となる部位がある。ハンマーは、その部位を攻撃することに特化した武器だ。暴虐を振りかぶる。
「頭!!」
見えないところから攻撃を受けた生物は、まず外敵を視界に捉えようとする。
脳の秘められた頭部は、黒龍を含む全てのモンスターの共通の弱点だ。頭を向けたら最後、熟練のハンマー使いはモンスターが振り向く際に生じるわずかな隙に確実に頭部を打ち砕く。
振り返る頭部の進行方向から、正体不明の強烈なインパクト。
奇怪竜フルフルの柔軟な素材から作られた防具は狩人の柔らかな動きを引き出し、モンスターに与える打撃の衝撃力を強化する。
衝撃を受け入れる準備の出来ていない脳に、近衛隊機械鎚でお見舞いする渾身の一撃。
「どうした!ハンターと闘るのは初めてか?」
冰龍の尾すら耐え抜いた怨虎竜の手足から力が抜け、寝そべるように崩れ落ちる。
絶望的な戦力差で迎えたマガイマガドとの戦いは、幸先の良いスタートを切った。
相手は無限の生命力を持つと噂される無敵の牙竜、マガイマガド。
ハンマーの破壊力で作った大きな隙に、容赦なく連続攻撃を叩き込む。
あのときの目標を超えた規格外の怪物に、手が届きそうだ。
どんなに強力なモンスターであっても生物である以上、必ず討伐できる。
「来る!!」
マガイマガドの頭を両足で蹴った弾みで後方に跳び、腕刃の一閃を回避。
腕が流れて体勢を崩したマガイマガドに対して、打ち上げタル爆弾Gで意表を突く。
孔の多い背中を爆発物で攻撃することで、可燃性のガスの噴射を躊躇わせる狙いがある。
「孔の場所は両腕、背中、そして尻尾。
後脚と頭部は加速しない」
怨虎竜を睨んだまま、冰龍の死体に毒投げナイフを投げて突き刺し、肉に毒を注入した。
食事による体力の回復を防ぐためだ。
パワーはネルギガンテの方が強い。
スピードはネルギガンテ以上。
黒狼鳥と同じく戦略で相手の裏をかくタイプ。
つまり――
「勝てる!」
怨虎竜の真正面。
真下に向けて投げたのは、モドリ玉。
腕刃に見せかけた槍刃尾による攻撃。
モドリ玉の使用によって、空中に飛ばした大翔虫を利用して飛び上がって回避。
そしてキャンプに戻らず空中からハンマーを叩きつけて背中の甲殻を攻撃。
トリッキーなモンスターが跋扈する大社跡で培われた、古龍を欺くほどの狡猾な技術。
人間とモンスターの力の差を埋めるために長い年月をかけて熟成された狩人の知識なら、十分に対処できる。
近衛隊機械鎚で腕刃を叩き、回り込むように走り回って怨虎竜の正面に立たない。
ガスを使わなければ、ハンターの身体能力でマガイマガドのスピードに対抗できる。
甲殻を捨てて高い俊敏性を手に入れたナルガクルガとは異なり、マガイマガドのスピードは筋力によるものではない。可燃性のガスの爆風を利用したスピードだ。
ガスの使用が制限される至近距離の攻防では思い通りに加速することができず、力任せの動きが多くなる。
ネルギガンテと違って再生力が高いわけではない。細かいダメージを与え続ければ倒せる。
「そんな簡単に.....勝てるわけないか」
頬をかすめた斬撃。腕刃か刀殻か、判断もつかないほどのスピード。流血。碧い眼が睨みつける至近距離。次なる一手。
「肩を地面につけたタックル.....この形は!」
デリケートな刀殻を曝け出すことで気を緩ませ、背部の孔から飛行に利用する出力でガスを噴射する。すり潰すためのタックルではなく、吹き飛ばして仕留めるための爆撃。
突進が、来る。
「あれは...蹴り?」
天彗龍もかくやという程の高速機動。
怨虎竜とアンセスの間に素早く割って入り、驚くべきことに蹴りによって怯ませ、突進を中断させた。
中型モンスターといわれるドスランポスやドスジャギィでさえ、人間とは圧倒的な体格差がある。そんな恐ろしい怪物たちの頂点に立つ種ともなれば、膂力は比にならない。
いくら超人的な身体能力を持つハンターでも、武器を使わず身体能力でモンスターに対抗するのは不可能だ。
「徒手空拳を使うハンター....まさか!」
「どうやら間に合ったようだな」
セルタスシリーズ。重量級の女帝の異名を取る甲虫、ゲネル・セルタスの狩猟に成功した英雄のみ着用を許される工房が開発したパワードスーツ。
音速に到達するほどの加速を実現した頑丈な機構は、大型モンスターとの肉弾戦にも耐える。
水弾の射出機構を模して作られた特殊な造りが生み出した高機能防具。
大型モンスターとしては過去最大級の脅威と認定された怨虎竜マガイマガドに対して、救難信号を待たずして異例の実戦投入。
「君の装備に鬼火の付着を検知した。このままでは爆発する恐れがある。君はガスを取り除きながら私のバックアップに回ってくれ」
怨霊とスーパーロボット。初めての対決となる二つの鎧の遭遇は、獣が静かに燃やす火に油を注ぎ――
――両腕から常に激しく鬼火が噴き出る、禍威の戦闘形態を呼び醒ます。
かつて、世界に名を轟かせる狩人が滞在していたカムラの里を壊滅に追い込んだ大怨霊。
その脅威は、百竜夜行の原因となった嵐すら霞むほどの煉獄の化身。灼熱を纏う虎である。
「冰龍と戦った時の姿に少し近づいたようだな。敵の強さを感知してガスの出力を調整する能力でもあるのか?」
重甲虫ゲネル・ケルタスは、切り立った崖に生息する重戦車のようなモンスターで、リオレウスやディアブロスに並び立つほどの存在だ。
アンセスの装備に素材が使われているフルフルを大きく凌ぐ実力のモンスターであることから、怨虎竜はセルタスシリーズから何かを感じ取ったのかもしれない。
逞しい脚が地面を離れるより早く、時代はずれの銃声が鳴り響く。
男は腰につけていた小さな銃を手に取り、怨虎竜に数発の銃弾を打ち込んだのだ。
西部劇のガンマンさながらの早撃ちには、徹甲虫由来の素材によって作られた加速のための特殊な機構が役立っている。
「人間が相手なら大剣以上の性能を発揮する小銃だが.....大型モンスターを相手取るにはボウガンくらいじゃないと火力不足か」
どこかの砂漠において、異世界との繋がりを示唆する武装集団が連射能力に優れた銃を携えてディアブロス亜種と戦ったとされている。
その兵器の名はも機関銃。
移動式速射砲とよく似た仕組みだが、塔でも見たことのない不思議な技術が使われており、高い威力と連射力を発揮したという。
そして、その結果は大敗。
あまりにも頑丈な甲殻を持つ黒角竜が相手では、機関銃すら通用せず、ディアブロス亜種の怪力によって虫けらのように蹂躙されたとされている。
モンスターの素材から作られる弓や双剣は、現代の兵器と比べれば非力にもみえるが、そのどれもが鉄を大きく上回る規格外の素材によって作られた超兵器である。
古龍級のモンスターと一流のハンターが繰り広げる戦闘は、誇大なく小国の戦争に匹敵する戦力によって繰り広げられる。
鏖魔ディアブロスや激昂したラージャンが一国の戦力を惜しみなく投入した総力戦すら飄々と退けるように――
――怨虎竜マガイマガドもまた、古龍を喰らうことで、その域まで到達していた。
「されど」
「面食らったか?牙竜の王」
まさか。
街の中に乱れ咲く紫陽花は、爆ぜる蓮華。
雨雲を晴らす一刀の紫電。
槍刃尾は、分厚く造られた石の要塞に風穴を開ける。まるで獣道のようだ。
しかし、難攻不落のセルタスシリーズは英雄の護りを誇る。爆撃が微かに体を掠めた程度ではダメージが生じない。
「見事な破壊力だ!次はこちらから行かせてもらう!」
工房のロマンが詰め込まれたセルタスシリーズの使い手は、目標の撃破に特化した戦いぶりの中でロマンを体現する。
出力最大。目標、怨虎竜マガイマガド。
秘技、ブラストダッシュ。
砲撃の反動を推進力にすることで、空を舞う特殊な技術だ。ガンランスという重質な武器が、今ではあらゆる武器種の中でも上位の機動力を有するとされているのは、このブラストダッシュという技があるからだ。
運命の決戦に選ばれた武器は砲銃槍ゲネルビガレス。ランスと同等の鉄壁の守りを持ち、手堅い守りの合間に繰り出される砲撃を特徴とするガンランス。しかしこの男は、セルタスシリーズの機動力を活かすために、なんと盾を捨てるという判断に至った。
盾の重量を捨てたことで、銃槍による長距離飛行を可能とする。
さらに、セルタスシリーズに搭載されたテクノロジーは、ゲネルビガレスと一体化したかのような連動を見せ、砲撃の出力を強化する。
人間の限界を超えた速度で懐まで到達した銃槍の先から、青白いプラズマが放たれる。
『竜撃砲』
発祥の地は此処、ドンドルマ。
工房が火竜のブレスの原理を研究して作り上げたガンランス最大の大技。
設計限界を超えた破壊力を誇るため、発射にはタイムラグがあり、更に長時間のクールダウンが必要とする。その姿はまるで己自身のブレスで喉を焼き切る火竜のようだ。
先端の鋭さを犠牲に、砲撃の火力を追求したゲネルビガレス。セルタスシリーズによる砲撃の強化が加算され、その爆炎は広大な攻撃範囲を更地と化す。
「消し飛べ!」
内燃機関の改良によって砲身に宿った絶大なエネルギーは、地形ごと押し流す爆風と化す。本物の火竜の放つ火球のように、凄まじい破壊力が禍威を襲う。
ハンターは人間に武器を向けてはいけないとされるが、その規則がなければ、ガンランスは今すぐに大量殺戮兵器と成り果てるだろう。
先程の怨虎竜の一撃にも劣らない衝撃波が、滑るように空気中を流れている。
目標、健在。
無量大数の生命力。
「化け物かよ」
再び放たれる紫電一閃。重甲虫の甲殻すら力任せに引き裂く斬撃。
男は砲撃しつつ反動を利用して回避し、リロードしながらバックステップで距離を離した。
その瞬間、高台から飛んでくる砲弾の5連発。
ゴグマジオスを苦しめた移動式大砲だ。
流石のマガイマガドも1発目の着弾と同時にバランスを崩したが、2発目を一刀のもとに斬り捨て、跳躍して移動式砲台に突撃する。
砲台から飛び降りながら振り下ろした近衛隊機械鎚の一撃が、禍威の顔面に叩き込まれる。
それでも突撃する怨虎竜の勢いは止まらず、外壁に突撃して打ち砕きながらのめり込んだ。
「バックアップって、こんなもんでいい?」
「上出来だが、この素早さじゃ巨龍砲も撃龍槍も通じない。攻撃の応酬で削るしかないぞ」
全身を最新鋭の装備で固めて、兵器だらけの戦闘街に誘い込み、自然界から引きずり出して、今なお際立つ手札の量の違い。
底の見えない生命力と、一撃で胴を分かつ殺傷力。疑いようのない脅威、怪物だ。
パラパラと崩れ落ちる壁の破片を浴びながら、ゆったりと振り向く無敵の禍威。
「残弾は?」
「調合分のカラの実も持ってる。まだやれるよ」
男はふっと笑って背部のダクトから熱を放射した。竜撃砲でオーバーヒートしたゲネルビガレスはまだ冷却に時間がかかる。
ここからは通常の砲撃と槍による攻撃で戦わなければいけない。
怨虎竜マガイマガドは、4つの部位にガスの噴出のための孔を持っている。
そのうち半分が左右の前脚、今輝くほどの鬼火を噴出している部位だ。残り二つ。
マガイマガドは、まだ全力を出していない。
体内に貯蔵できる鬼火の量には限りがあるとはいえ、大量の死骸を喰らっているマガイマガドの体内には底無しのガスが蓄えられているはずだ。さらにイヴェルカーナの襲来がもたらした寒冷化によって呼吸によるガスの結晶化が促進され、普段より多くのガスを貯蔵しているとみられる。
鬼火より先に弾薬が尽きるだろう。今のマガイマガドに消耗戦を仕掛けるのは無謀だ。
「頭部を直接壊しに行くぞ」
ブラストダッシュと鬼火の炸裂。どちらも似通った飛行方法、両者が選んだ次の手は接近。
そして相打ち。貫く槍、薙ぐ刀。双方の攻めがすれ違い、斬撃と突撃が炸裂する。
刃が擦れた甲殻が火花を散らす。
このまま、押し切る。
「セルタスアーム、出力最大!」
その刹那、攻撃に集中していた怨虎竜の腹部に重く突き刺さる痛みが走る。
鎚のフルスイングが胴を打つ。
僅かに意識を腹部に向けた途端、競り合う二つの力の均衡が崩れて、ゲネルビガレスが頭部を殴りつける。動揺と共に目を見開くマガイマガド、頭部に感じたのは、これまで微塵も感知できなかった水属性エネルギー。
マガイマガドの弱点属性。
水を操る狩人、タマミツネ以来の難敵の出現。
孔が光り輝くほどに怒りが漲り、腕刃すら使わずラリアットで狩人を叩き落とす。
墜落の直前に受け身を取り、血を噴きながらもセルタスシリーズの圧倒的な防御性能に守られて耐え抜いた。心肺機能への深刻なダメージ。
隙を見逃さず、縦に地を斬る腕刃を緊急回避でやりすごし、一か八か、アイテムポーチの秘密兵器を掴み取った。
「目塞いどけ!これを使う!」
「閃光玉!」
光蟲の生態を利用して再現する、ツィツィヤックやゲリョスの生存戦略。
強い光で視界を奪う。視力を頼りにするモンスターには効果が大きい。
呼吸を荒くしたまま回復薬グレートを飲み込み、それでも抜けきらないダメージの感覚に思わず苦笑いした。
目の前に存在する牙獣種は過去最強。
女帝ゲネル・セルタス以来の強敵。
女帝ゲネル・セルタス以上の強敵。
しかし挫けることはできない。
女帝の力を纏い、この怪異を克服することは、これまで倒してきたモンスターの力の証明。
装備として戦力に取り込んだかつての強敵たちの力が、禍群の魔王にも届くことの証明。
命を奪う狩人として、決して負けられない。
「マガイマガドが出血している.....」
主に砲身部分に改良を施されたゲネルビガレスは突撃より砲撃を重視して設計されている。
筒状の砲身を持つゲネルビガレスでマガイマガドの頑強な甲殻を貫くことが出来たのは、セルタスシリーズと連動することによる機能の強化で切れ味のレベルが向上したためだ。
地面に叩きつけられた直後に空中に飛び上がり、刀殻に向けて連続で繰り出される突撃。
全てが業物、全てが弱点を突く強襲。
全身の鬼火が活性化する前に、水属性による攻撃でコントロールを乱す。
その動きは最早ハンターの身体能力で実現出来るものではない。工房の技術により、マガイマガドの上空に存在しないはずのモンスターの姿が浮かび上がる。
超人の限界を超えた連続攻撃。
各種の鎧玉による強化を重ねて故障に備えた全身の特殊機構。アルセルタスの大量発生によって市場に素材が出揃い、ギルドは所属するハンター達からかき集めたアルセルタスの素材をセルタスシリーズの改良に注ぎ込んだ。
工房の技術によってモンスターに匹敵する力を手に入れることでモンスターに対抗する新世代の狩猟スタイル。
かつて、ギルドは圧倒的な力を持つ棘竜から研究材料を入手するために恐暴竜を引き合わせることで縄張り争いを発生させた。
二頭の戦いは熾烈を極めたが、棘竜が周囲に火を放ち撤退したことで観測員の壊滅という痛ましい結果に終わった。
そしてギルドは制御のできない怪物を直接利用するのではなく、制御ができるハンターに怪物と同等の力を与えることでモンスターに対する強大な対抗手段を実現した。
装着型の兵器ともいえるセルタスシリーズは、その記念すべき第一世代である。
そして高圧の水属性を伴う突撃によって、怨虎竜のターゲットは水属性を使う男に変化した。
鎚を使う竜人の女を残してでも、優先して撃破する価値のある強敵として認められたのだ。
そして――
――首元に突き刺さった杭を打つように、鎚が深く叩き込む。
竜杭砲。甲殻を貫き標的の体内で爆発するガンランスの新機能。空中から刺した乱れ突きの中に、竜杭砲を打ち込む一撃が織り交ぜられていたのだ。そして、ガンランスに狙いを定めた瞬間に襲いかかったのは傷口を深く抉る機械鎚による追い討ち。
反撃の間もなく、肉を吹き飛ばす爆発が来る。
滅尽龍のような再生能力を持たないマガイマガドにとって、肉体を深々と突き刺された挙句、破裂することで体内を傷つけられる竜杭砲は恐るべき痛打だ。
怨虎竜マガイマガド、二度目のダウン。
地に伏せることを強いるほどの猛撃。
苦しみ悶えるマガイマガドに、二人の狩人による追撃が容赦なく襲いかかる。
向上した切れ味は鈍器のような砲身で禍威の鎧を斬りつけ、鎚による衝撃と銃撃の合わせ技が前脚を打ち付ける。
『フルバースト』
内燃機関の改良による恩恵は竜撃砲の威力の向上だけではない。
砲身に込められたすべての弾薬を一撃にこめることで打ち出される集中砲火。
切れ味を消耗する代わりにクールダウンを必要とせず、竜撃砲に次ぐ破格の威力を誇る。
「削れてるぞ!このまま一気に」
「畳みかけ」
「るぞ」
「遅れた!兄貴!今加勢.....」
ランゴ装備のハンターが高台から飛び降り、高らかに参戦を宣言したそのときだった。
まさに神速。猛獣の瞬発力と剣豪の技量。
希望が潰えて血飛沫が舞う中、脳裏に過ったのはバゼルギウス襲来時に自ら放った一言。
「古龍級生物...そんなの兄貴でも勝てる保証ないじゃないですか...」
僅かに思い描いた、悪夢の実現。
表情筋が強張り、鼓動が鳴る。バッサリと斬られたのは、ハンターの生命線ともいえる左腕。
武器を扱う方の腕だ。
戦闘を継続すれば、止血が間に合わない。
「セルタスアームが斬られた.....そんな....兄貴の....英雄の守りが....そんなことって.....」
戦闘は終わっていない。
紫の焔が燃え上がり、目に見えない速度の刃が腰を斬りつけて体が崩れ落ちる。
腰椎は繋がっている。しかし、腕を落とされ、下腹を切断された状態では戦いを続けるどころか、ハンター業を続けることすら難しい。
「やはり.....視えていたんだな.....」
胴を断ち切るつもりで放たれた横薙ぎの一撃。
腕一本切り裂くほどの切れ味を見せたが、セルタスアームの想定以上の防御力に阻まれ、胴体を切断することは敵わなかった。
女帝ゲネルセルタスの素材があしらわれ、無類の防御力を誇るセルタスシリーズ。しかし、セルタスフォールドは軽量化のために徹甲虫の素材を取り入れているため、他の部位と比べて軽いが、その分脆く壊れやすい。
相手は百竜の王、マガイマガド。手負いの獲物を逃すことはない。
背部から鬼火を噴射することで加速し、次の一閃で確実に仕留めるべく向かう。
たった数秒で攻勢から絶体絶命まで追い込まれた狩人。彼が体内に残った命の輝きを使い果たすまで、ゲネルビガレスはその意志に呼び起こされたかのようにプラズマを纏い始める。
「生命の粉塵を使います!それまで――」
欠けた腕の断面から血が滴る。砲身から伝わった振動は叫びへと変わり、眼前から襲い来る無敵の禍威へと最期の殺意を送る。
それは、如何なる時も平静を描いたことのない熟練の狩人が放つ、命を賭した咆哮である。
竜撃砲が火竜のブレスを真似るなら、狩人としての人生の全てから最強の一撃を引き出す。
走馬灯として流れ込む激闘の記憶の中に残っていたのは、最大の敵、ゲネル・セルタスとの最終決戦。強敵との戦いで学習した戦闘のノウハウ。
幾重にも重なる荒々しくも眩しかった日々のインスピレーションは好敵手の大技を凌駕し――
まだ見ぬ亜種の、甲虫激咆を模倣する。
「来るな!」
自己研鑽、使命感、そしてプライド。
その身に抱えた数々の複雑な大義を忘れ、単純に、仲間を守るため。
熱を帯びた胸から喉へ、喉から口元へ運ぶ祈祷が狩猟の神に届くように。
「マガイマガドはハンターより速い。体が裂けた状態では大翔蟲や翼竜に運搬してもらうことも出来ないだろう。俺はもう死んだも同然さ」
純粋な憧憬、初めて狩場に赴いた時の草原の景色。それは草食竜を一頭狩るために死力を尽くしていた常人の記憶。その先へ。
声なき初期衝動が、遥かな壁を破るため。
すぐ側で繋がっていなくとも、きっと意志は受け継がれる。
怨虎竜の羨望が、届かぬ程に高く!!
「じゃあな」
「それでも、俺は最後まで、狩人だった!」
嫉妬より焼ける聖火。
『フルパレットファイア』
地平線から浮き上がる光を、指輪に嵌め込まれた宝石に喩える者が居た。
第一世代機として開発されたセルタスシリーズは、全て着用することで体に莫大な負荷がかかり、装着したハンターの体力を大量に消耗する。人体の限界を超えた動きにより、体力の回復速度は遅延。すでに体の限界を遥かに超えた状態で戦っていた。
しかし、どれだけの砲撃を浴びせてもマガイマガドの肉体は靭く、致命傷とはならない。この理不尽なまでの生命力の差を埋めるためには、僅かな生存の可能性に賭けるのではなく、全ての機能を解放して全力でぶつかる以外に選択肢は無かった。
信頼する弟分と、神の力を持つとされる狩人。
後を託せるものがいるならば、自分が残る必要はない。その決意は、セルタスシリーズの着用者になることを決めた日に既に済ませている。
これだけ強い力を手に入れていれば、古龍級の強敵に挑むことなく英雄として讃えられる人生を全うすることはできた。
それでも彼を死線へと駆り立てたのは、胸に秘める正義の心。絶望を砕く純真な信念。
ハンターと呼ぶにはあまりにも立派で、切ないほどに誇り高い男の魂は、悪逆無道の禍威に届き、大いに苦しめる。
超合体装甲セルタスシリーズ、大破。
爆炎が去って、残されたのは血を舐める虎。
誰もが予想した、筋書き通りの結末。
深淵の悪魔のように、燃え上がるエネルギーを全身に纏った怨虎竜の姿は、ハンターライフをやり遂げて散った男への敬意の紫電。
たった一発、腕のみ鬼火を纏った状態で現大陸屈指の狩人を撃破。
「.....くっ!」
そして、マスターランクの怪物を狩猟したことすらない二人の狩人が残った。
しかし、強大な怪物に嬉々として立ち向かったハンターの姿は、残された二人の狩猟魂を叩き起こした。
「.....おいアンタ!俺たちで兄貴の戦いを引き継いで....」
赤く歪んだ空気を腹に取り込み、暮れて黄昏た瞳は日輪沈蝕。
絆石の光がめまぐるしく変色するほど、信頼と恐怖の間を感情が往復する。
それまでの恐怖と緊張の入り混じったアンセスの様子とは一変し、覆い隠すように目を抑え、息をせず、歯を見せて笑っていた。
顔に被せた手の向こう側から、怨虎竜を遥かに上回る絶対的な力を感じる。
目を見せないように隠しているのか、それとも目から世界を隠しているのか。
そんな疑問すら浮かばせるほどに恐ろしく、そして神秘的だった。
「アンタ、いや、貴方は......?」
共鳴。
「ミラルーツ?」