組織抜けたい   作:比翼連理

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第4話

 組織は赤井に対して、幾度となく追っ手を差し向け、その尽くを退けてきたが、それでも今度ばかりは流石の赤井も緊張を感じた。

 

 赤井の記憶から作られた似顔絵をもとに、FBIの捜査官が警戒しているが、ここ数日ウェルシュが目撃されている。

 組織を知る人間に、組織で最も恐ろしい者が誰かと尋ねれば、様々な答えが返ってくるだろう。だが、潜入捜査官が答えるであろう名前はおそらく共通して、ウェルシュだ。

 

 もとより組織に対して狂信的な忠誠心を持っていることで知られていたが、公安の捜査官だと判明したスコッチを取り逃がした一件以来、潜入捜査官を狂ったように探し当て、自らの手で始末することに拘ったらしい。

 

 普段は冷静なウェルシュが初めて激しい感情を赤井に見せたのは、スコッチを逃がした時だった。胸ぐらを掴み、何かを叫ぼうと口を開いたところで感情を抑えたようだったが、以前から組織にスパイがいないかと目を光らせていた彼が、より徹底的になったのはこれ以降の事。表に少し滲む程度にしか出せなかった激情が、内側でぐつぐつと煮詰められて濃く、粘り気を持ち、捜査官の存在がより一層許容できないものへと変わったのだろう。

 

 組織に潜入していた時にちらりと聞いたことがある話だが、ウェルシュの両親は組織の任務中に警察機関の罠に嵌り、捕まる前に自死したらしい。もとより火種があったところに、爆薬と燃料とをそれぞれ投下してしまったわけだ。

 

 

「…………」

 

 時折、あの時スコッチを逃がすべきではなかったのではないかと考える。

 彼を逃がしたことによって死ぬ羽目になった人間の数が、あまりに多すぎた。

 

 

 赤井は、先ほど送られてきた写真を改めて見た。

 FBIに送られてきた手紙の写真。毒物もなく、ただの紙だということは確認済みだが、念のためだと言われ実物は赤井も見ていない。

 内容は複雑な計算処理を必要とする暗号で、座標と日時が記されたもの。それに「To Rye」と「From Wales」の文字。

 座標は何年も前に潰れたホテルのもので、すでに何度もFBIによる調査が行われた。

 

 

 赤井はひとりでその場にいた。

 何度も止められたが、少なくともこの場では殺されない確信がある。

 わざわざ暗号を送って呼び出すようなことをして、何らかの狙いがあるはずだ。殺すためにこのような手間をかける奴ではない。それに、暗殺者に呼び出されてその場所に行く方がどうかしている。

 

 だから、そこにウェルシュの何らかの意図がある。その狙いがわからない以上危険はあるが、その狙いを知るためにもリスクを取った。

 

 万全の備えはもちろんしてある。人を潜めさせていては警戒して現れない可能性もあるので、本当に赤井一人でホテルに乗り込みはしたが、事前に何度も調査を行い、仕掛けた機器で映像と音声はリアルタイムで本部に送られている。すぐに、とはいえずとも、素早く駆けつけることのできる位置に仲間もいた。

 

 

 あとは、何が起きても動じずに対応する事だけが、赤井の務めである。

 

 

 

 

 

「なん……だ、何が起きている……?」

 

 外の監視が慌てた様子でウェルシュが見えたことを伝えたかと思えば、ぺちぺちと人間の走る音が響いた。

 靴の音でなく素足であることに違和感を覚えつつも、ポケットの銃を強く握り。

 

「ライ……いや、赤井秀一。久しぶりだな」

 

 

 全裸のウェルシュが現れたことに、激しく混乱した。

 

 

 ☆

 

 

 

 

 赤井が全然一人にならねぇ。

 いや、組織から狙われてるってわかってるんだから当たり前だろうけれど、それでもちょっとした慢心とかないわけ? ないよな。知ってる。

 

 どうやって赤井をおびき出すかなのだが、さんざん考えた結果、自分なりにこれならいけるのではないかと言うものが一つだけ思い浮かんだ。

 普通に暗号で呼び出す。

 

 本当は赤井の枕元に手紙を置いて、殺せるときに殺さなかったのだと思わせてから、その手紙を読んでもらうのが理想だが、そもそもそれが出来るのならその時に話せばいいのだし。

 普通の郵便物として暗号文を送り、指定した場所に何度も捜査官らしき人物が現れるのを確認した。

 

 

 俺としてもかなり危険な橋を渡っている自覚はある。これで捕まれば、まあワンチャンそのまま組織から逃げることが出来るかもだけれど、護送中だとかに奪還されて、そのまま殺される可能性もあるのだから。

 

「というかさ、考えたら俺が見張ってる場所くらいわかるだろ」

 

 高所から双眼鏡で、赤井に指定した廃ホテルを見下ろしているわけだが、先ほどから相当警戒した様子の捜査官がうろうろしているばかり。

 遠くからそのホテルを見張っている可能性も考えて、その場所にも捜査官を派遣するべきだろう。

 俺が今いるのは、ホテルに一番近く、一番高層なビルの屋上。

 

 軍隊が来ても逃げ切れるくらいの備えをしてきたのに、無意味に終わったし、FBI大丈夫か? って気もする。

 

 

 やはり、FBIに俺の護送を任せきりにはできない。

 

 場合によっては組織壊滅に協力するくらいの姿勢を見せる必要もあるだろう。

 シェリーには悪いけれど、FBIの信用を得たら、彼女の研究所を襲撃させるのが最適解な気もする。日本の警察なら簡単に殺したりはしないだろうし、あそこは装備も充分ではないし簡単に制圧できるだろう。

 

 そのほかの組織の拠点を制圧するには相当の力が必要であるし、シェリーの研究所の情報だけでもある程度の数の幹部を捕まえるだけの手掛かりになるはずだ。

 

 

 もちろん一瞬で信用してくれるのならば、俺の知っている拠点すべてを電撃作戦で制圧するというのも出来るだろうけれど。一か所でも摘発すればもう他の拠点は捨てられるだろうし、警察だって俺の言う通りに動いてはくれないだろうから、難しいだろう。

 

 

 

 赤井に指定した日時、廃ホテルにひとりで入る赤井の姿を確認できた。あたりはFBIだらけだが、少なくともホテルには赤井だけで入ったみたいだ。ずっと前からホテルの中に潜んでいた誰かがいたとしても、ホテルまで行けば気付けるだろうし、俺だって適当に場所を決めた訳ではない。

 

 たぶん軍に包囲されたってあのホテルからは逃げられる。

 

 元のオーナーが頭おかしくて、世界中の技師に設計を依頼して、面白いところだけを詰め込んだとかいう絡繰りだらけのホテルだ。

 あの三水吉右衛門の考案した絡繰りもあるらしい。

 複雑な地下通路と、隠し部屋、罠。そこに組織の人間を隠していることを向こうも警戒して、来ない可能性も高かったが、俺の安全も考えるのならばここしかなかったのだ。

 

 あっさり赤井が来たことから考えると、FBIはそもそも隠し通路の存在に気づいていない可能性も高いか。

 俺がその存在に気が付いたのはほとんど偶然で、一般には全く知られていないようだし、あり得ない話でもない。

 

 

 

 さっさと赤井のもとに行きたいところだが、ふと、このまま行ったら向こうも警戒して話をしてくれないのではないかとも思う。

 向こうの立場からしたらどうあがいても俺は敵だし、下手をすればこの先新たな犠牲を出さないためだとか言って殺されるんじゃないか?

 流石に何の理由もなしに殺したらアウトだろうけれど、正当防衛だと言い張るかもしれない。銃を隠し持っているし、例え銃を持たずに行ったとしても、隠し持っていると思ったとか言いそうだ。

 

 

「よし。脱ぐか」

 

 

 

 

 

 

 

「なん……だ、何が起きている……?」

「ライ……いや、赤井秀一。久しぶりだな」

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