組織抜けたい   作:比翼連理

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第5話

 

 赤井と心中したと思わせ逃げる大作戦は、結論から言うと、失敗した。

 

 

「ようやく復帰ですか? それにしてもベルモットと二人して失敗だなんて、珍しいこともあったものですね」

 

 と、煽ってきたバーボンに、言い返す気力もない。

 

 

 

 あの後の出来事はマジで最悪だった。

 

 

 ☆

 

「久しぶりだな」

「……どういうつもりだ? ウェルシュ」

 

 唖然とした様子だった赤井だが、流石というべきか、すぐに冷静さを取り戻した。

 手を突っ込んでいるポケットには、拳銃。服の上から形がはっきりと見えているが、ワザと見せているのだろう。

 全裸の人間相手にも全く警戒を解いていない辺り、流石だ。

 

 場所は廃ホテルのロビー。カビと埃で元の色がわからないくらいに朽ちたカーペットと、何処からか入り込んだらしい蔦が絡んだ暖炉。テーブルなんかがボロボロになって放置されているところがもの悲しい。全面にあったガラス窓はすべて割れていて、殆どロビーは外と一体化している。

 それでも周りに高層ビルが建っているため、地下のような暗さ。密会するにはいかにもな場所だ。実際はこんな雰囲気の場所ではなく、組織傘下のバーなんかが密会場所に選ばれることが多いのだけれど。

 

 

「どういうつもり、か……」

 

 さて、どうやって話を切り出したらいいのだろうか。

 組織を抜けたいと正直に言ったところで、信じてもらえない可能性は高い。けれど、まずはこちらの目的をしっかりと話さなければ何も始まらないだろう。

 

「そうだな……俺は、組織を抜け――――」

「貴方を殺すために決まっているでしょう? ライ」

 

 早速切り出そうとしたちょうどその瞬間、ホテルの入り口の方から女性の声がした。聞き覚えのある声、ベルモットのものだ。

 

 振り返ると、男性に変装をしたベルモットが、拳銃を赤井に向けて微笑んでいた。すぐさま一発撃つが、赤井は身を屈めて躱し、すぐさま罅の入った柱の裏に隠れた。

 

 

「………ウェルシュ、どうして裸なのかしら?」

「え? えっと……こう、赤井を油断させて? 近づいて? 首をぽきっ的な?」

「………………」

 

 咄嗟に誤魔化すと、変装マスクを剥いだベルモットは、「こいつこんなにバカだったかしら?」とでも言いたげな表情で俺を眺めた。

 別にそんな反応を期待していたわけではないけれど、なんとなく目を背けるとか、照れるとかないのか。

 

 

「それより、どうしてここに?」

 

 ベルモットだって油断ならない相手ではあるけれど、ベルモットくらいの尾行なら気づけたはずだ。いったいどうしてこの場にベルモットが現れたのだろう。

 

「赤井を始末するために周辺を探っていたら、なんだか大きな動きがあったから。FBIに、変装して紛れ込んでいたら、どうやら赤井がここに一人で来るつもりだと知ってね」

「あー、俺がおびき寄せたんだよ」

「…………そう」

 

 やべぇ、絶対怪しまれてる。

 そうだよな、俺も逆の立場だったら疑うわ。状況可笑しすぎるもんな。

 

「や、ちょっとくらい向こうの情報も手に入れようと思ってね。油断させるには一番最適な恰好だろ? 俺ならこの状況で爆弾が爆発しても生き残れるし」

「まあいいわ。辺りのFBIがやってくるまでに赤井を始末すれば」

 

 どうしよう。

 いっそのこと本当に赤井を殺すか?

 たぶん永遠にFBIに保護してもらうという道は断たれるけど、それでもまだましな気がする。

 

 この場で捕まれば、護送→奪還→処刑のルートをたどる可能性がある。

 逃げ切れても、ベルモットに怪しい動きをしていたと組織に報告されたらやばい。

 赤井を殺せば、一応はベルモットの信頼を回復できるが、二度とFBIと友好関係は築けないだろう。

 ベルモットを捕まえるか? 捕まえた場合は、ベルモットを組織に奪還されないようにしなければならない。ベルモットから俺の裏切りを報告されれば追われる立場になる。

 

 いくら赤井の目の前でベルモットを取り押さえたとしても、俺がその護送ルートにまで口を出せるとは思えない。そもそも、日本ならまだしも、アメリカの組織の体制を完全に把握できているわけではないので、俺が口出ししたところで組織の動きを読めるとも限らない。どうあれ運に身を任せる結果にしかならない。

 

 

 

 いや、そうだ、ベルモットを殺そう。

 

 ベルモットを爆殺。

 俺と赤井は脱出。

 信頼獲得、赤井と協力して死んだと思わせ逃走。

 完全逐電。組織壊滅に貢献。

 俺は無罪放免!

 

「あれ? そういえば、爆弾消失?」

 

 いずこへ?

 赤井と話をして、ある程度俺の話を聞いてくれる段階になって、爆弾を見せ、一緒に逃走。

 これが俺の予定だったのだが、なぜだか爆弾が消えている。

 

 すでに時限式で起動しているから、何処にあるかわからないというのは流石によくない状況なんだが。

 

 

「っぐ!」

 

 と、ベルモットが苦しげな声を上げて俺のすぐ近くに倒れ込んだ。まあ、ベルモットが赤井に勝てる訳ねぇよな。

 

「…………」

 

 俺の知っている赤井……俺が知っているのはライの人物像か。ライとしての演技はもちろんあっただろうけれど、それでも多少なりとも性格を窺い知ることは出来ている。

 この場合、ベルモットに対して俺が今考えたような軽口、「お前に俺を殺すことなどできないさ」的な事を言ってきそうなのだが、こちらを油断なく見据えて銃を構えていた。

 

 

「まあ、そりゃそうか」

 

 

 この場合一番不気味なのは俺だ。無防備な状態で、FBIに捕まるリスクまで背負って、暗号文を送るという面倒な方法を使って、赤井と接触を図っている。赤井からしてみても、ベルモットとの会話から、俺がベルモットが来ることが想定外だったことを理解しているはずだ。

 

 あれ? まてよ? じゃあ思ったより俺の状況悪くないんじゃないか?

 

 赤井は、理解できないものは理解しようとするタイプの人間だ。今も俺が何を狙っているのか考え続けている。

 

 流石にこの場は引くべきだろう。ベルモットを見捨てて逃げれば後々面倒になりそうだし、今はベルモットを助けて逃げる。

 また赤井と交渉できる状況は来るだろうから、そこで話せばいい。まだ赤井は俺の話を聞いてくれる領域にいる。

 

 

 

「FBIよ! 銃を棄てて両手を上げなさ――え? 裸?」

 

 

 流石に時間をかけすぎたらしい。女性のFBIらしき女性が玄関から入ってきて、銃を向けてきた。

 両手を上げつつ、その場にしゃがみ、ベルモットに小声で声をかける。

 

「ベルモット、ひとりで逃げ切れるか? 状況次第では助けられないが」

「舐められたものね。そのくらい――」

 

 

 ベルモットの言葉はそこで中断された。

 突然、轟音が鳴り響いたからだ。

 

 

「あ、俺の爆弾だ」

 

 服脱いだ時に置いてきちゃった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 流石に全裸でFBIの包囲網を抜けるのは無理があった。何と言うか、目立ちすぎる格好だし。

 FBIと、一対一なら銃を持っていた相手にでも勝てるけれど、流石に数人掛かりで発砲されれば無理だ。計三発を、右腹部、左上腕部、右大腿部に受け重傷を負った。這う這うの体で組織の管理する病院にまで逃げ込んで、ギリギリで助かったが、ワンチャン死んでた。

 

 

 ここまでなら痛かった、危なかったですむ話なのだが、俺の爆弾がFBIを何人か殺していたというのが最悪だ。

 中途半端な威力だと、組織は俺が死んだとは思わないだろうから、ワンフロア余裕で吹っ飛ばせる爆弾を用意していたのがあだとなった。

 

 というか、爆弾を置き忘れるとか、我ながらどうかしている気がする。最近物忘れが激しいとは思っていたけれど、やはりどこか変だ。

 

「俺のメッセージが残ってるといいけどなぁ」

 

 爆弾は組織よりも先にFBIが回収すると読んで、部品に紛れ込ませて金属プレートに暗号を仕掛けている。

 万が一赤井とうまく交渉できなかった時に、「宮野明美を守れ」とメッセージを赤井に伝えるもの。

 切り替えスイッチで、爆弾を置いて逃げる時用の爆発するように見せかけて爆発しないモードと、組織に死んだと思わせる時用のマジで爆発するモードとを用意していたのだが。

 

 あれ? 俺はどっちを設定して持っていたんだっけ? FBIが変にいじったから爆発したんじゃないのか?

 

 

 

 一つ、俺の物忘れが激しくなる状況が理解できた。

 自分の所為で人が死んだ時だ。なるべく自分に原因が無いのだと思い込めるように、無意識に選んで記憶を消しているのかもしれない。

 

 

「メッセージ? 何の話です?」

「あ」

 

 バーボンが横にいるの忘れてた。

 今はバーボンの運転する車の中。緊急手術が終わり、しばらくの休養期間を終えて、久々に組織の仕事を再開することとなったのだ。

 

「こっちの話だよ。それより、スコッチはどうなってんだ? 探してもう何年だ?」

「もちろん捜索は続けていますが……公安もバカではありませんから」

「いやぁ、公安とか馬鹿だろ」

「…………」

 

 制度の問題なので、公安に落ち度はないけど、FBIやCIAと違って俺の安全を保障する能力ないし。どうにも俺の中で公安の評価が低い。

 

 それに、スコッチが公安だと分かった以上、元からいたメンバーならまだしも、新たに潜入した奴はいないだろうから、俺の潜入捜査官とこっそり交渉するという目的において公安はあまりいい相手じゃない。

 

 何度も何度も考えていることだけれど、FBIかCIAが理想だったのだ。証人保護プログラムあるし。FBIを殺しちゃったから多分もう無理だが。

 公安は、まあ、違法捜査ということで何らかの配慮が働く可能性があるかな。正直不安。

 

 もうMI6と交渉するくらいしか生き残る道が無いんじゃないのか?

 

「実はバーボンが公安だったりして」

「あはは、まさか」

「それでスコッチを上手く組織の追撃から逃がしているとか」

「あはは、まさか」

 

 冗談で言ったけれど、もし本当にそうだったらぜひとも俺のこと助けてほしい。

 バーボンは優秀だし、俺も結構助かっている。

 

「そういえば、俺が頼んでた印象操作。どうなってる?」

「上手くいってはいます。あなたとベルモットが二人掛かりで殺せなかった事、あなたがそこまでの大けがを負った事で、もとより意見が分かれていましたから。どちらも極端になっていましたが」

「極端?」

「赤井秀一ほどの危険人物を組織に引き込んだ罪は重いと考える者と、赤井秀一ほどの人物の組織への潜入はどうあれ避けられなかったと考える者の両極端になっていますから」

 

 まあ、自分で言うのは何だけど、ブラジルで敵対組織と特殊警察と三つ巴の抗争をして無傷で生還した俺が大けがしたとか、赤井やべえってなるかも? 俺を撃ったの赤井じゃないけど。

 

「ただ、宮野明美を守るというあなたの目的は達成できるかは怪しいものですよ?」

「……あー、すぐに名前が出ないけど……ジン? ジンか」

「……豪胆ですね。ジンの名前を忘れるなんて」

 

 確かにちょっとまずいかも。頭がずっとぼんやりしているし。

 今日の任務も殺し絡みだし。

 俺の爆弾が思った以上に性能がいい事から、組織を嗅ぎまわっていたネズミ駆除に使われることになったのだ。

 車に仕掛けるだけだから、正直俺としても気が楽だけど。直接殺すよりかは。




 やって来た某女性FBI捜査官がオリ主が裸なことに驚いているのは、分かりやすさ優先です。


 うわあぁあん! 軽い気持ちで裸に剥いたら反響凄いです! アリスは主人公を裸にしたら盛り上がると覚えました!


 追記。

 水を差すかなと思って言わなかったのですが、主人公が全裸になったのは、少しだけ馬鹿な行動のつもりだったので、反応に一番困惑してるのは筆者です。
 だんだんバカになると言いましたが、普通、笑えるのは少しだけバカになったときだけで、すぐに笑えないラインを超えると思います。ギャグを期待していた人はすみません。逆ジャーノンとか、段々駄目になるという表現をしてたほうが良かったかもです。

 ご都合主義と指摘いただいたのは、おそらく爆弾を忘れていたことだと思いますが、確かに言われればそんな気もします。一応後付でなく、今回ジンの名前がすぐに出なかった事と、忘れる内容に共通点があるつもりです。
 ただ、爆弾前にそういった描写が欠け、急だったのは筆者のミスです。

 不快でなければ、また楽しんでいただければ幸いです。
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