組織抜けたい   作:比翼連理

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第6話

「トロピカルランド?」

 

 時間を見つけてシェリーのラボにやって来たのだが、珍しくシェリーから仕事について尋ねられた。

 意外なことに、この間大怪我して以来、シェリーなりに心配してくれているらしい。

 

「そう、銃の密輸の証拠を押さえて、その社長から金を貰うんだよ。まあ、俺は状況次第で殺す役なんだが」

 

 明日はほぼ一日をトロピカルランドで過ごすことになる。キャンティとコルンも来るらしいから、俺が行く必要性を全く感じないが。

 

「随分と夢のない事をするじゃない? 遊園地で裏取引なんて」

「いやいや、そうでもないさ。ほら、意外な場所でやるからこそ気づかれないんだよ」

 

 言いながら、シェリーの薬のデータをなんとなく眺める。

 

「あれから、諸星大には関わって無いんでしょうね?」

「諸星……? あー、赤井の事か」

「お姉ちゃんはもう元の生活に戻ったから、あなたのお陰かしらね?」

「……」

 

 ジンは許していないだろうというのがバーボンの推測だ。ジンには、彼独自の判断で宮野明美を殺すだけの権限がある。というか、誰が殺しても誰も文句を言わないのが正解か。

 突然俺とかシェリーを勝手に殺せばジンといえども責任問題になり得るが、宮野明美程度なら大した問題にはならない。

 

 殺す理由くらいは作るだろうけれど、適当にでっち上げれば殺しても誰一人文句を言わないだろう。

 

「別に俺のお陰って言うか。まあ、組織に関わっている以上は安心できないだろうけど」

「にしても意外ね。お姉ちゃんのためにそこまで動いてくれるなんて」

「そうか? まあ、そうなのかも?」

 

 自分でもわからないが、おそらく俺が宮野明美を助けたいと思っているのは、少しでも気を楽にするためなんじゃないだろうか。人助けなんて、組織の人間として、なかなかできないが、宮野明美を助けることは不自然に思われないだろうから。

 

「そんな事よりさ、睡眠薬とか持ってない?」

「睡眠薬? 確かに顔色が悪いとは思っていたけど、眠れてないの?」

「まあ、最近ちょっとね」

 

 

 幻覚に幻聴。最初は普通に幽霊が見えるようになったのかとも思ったけれど。

 寝ようと思ってシーツをめくると、血にぐっしょりと濡れていて、先ほどまでなかったはずの死体がそこに転がっていた。至近距離で射殺した時の、嫌な音。人が頽れる音、うめき声。

 くらりと眩暈がしたかと思えば、それらは夢のように消え失せていた。

 

 それが連日続いている。見え方も様々で、部屋に入るなり頭を吹き飛ばされた人が見えたり、毒でもがき苦しむ人が俺の脚を掴んできたり。

 

 流石に慣れないし、どんどん眠りが浅くなり、輪をかけて幻聴幻覚の類が増えた。

 

「なら強いのがあったはずだから、それをあげるわ」

「…………あれ? その赤いカプセルの奴は?」

「試作品だけど、飲む? 確実にながく眠れるわよ」

「ながくって、永く? 永久の方?」

「永久の方よ」

「……」

 

 一瞬それも良いかもしれないとすら思ってしまったが、生きるために殺してきたんだ。引くわけにはいかない。虫がいいし、殺されてきた人からしたらたまったものじゃないだろうけれど、悪いが勝手に死ねない理由になってもらう。何もなさずに死んだら、本当に殺すために殺しただけになる。

 

「あ、あと悪いけど、明日の朝、もし出来たら電話かけて来てくれない?」

「どうしてよ?」

「最近物忘れが激しくて、一回仕事忘れたこともあってさ」

 

 

 その時はバーボンが相手だったから、謝ったら許してくれた。えっと……名前が飛んだけど、銀の長髪の人が相手だったらワンチャン殺されてたかも。

 まあ、バーボンは一生覚えててふとした時に蒸し返してくるタイプで面倒そうだけど。

 

「物忘れが激しい……ね。今までのあなたからは考えられないことだけど」

「いや、この間は銃をどこにやったか分かんなくなって大変だったし。偶に昨日何していたか分かんない時とか、数分前の行動が思い出せなかったり」

「アルツハイマーじゃないでしょうね?」

「うーん? 一応今日の日付も覚えてるし、目的だって覚えてるし」

 

 組織を抜ける。この目的だけは覚えている。確か、理由は分からないけれど、FBIとCIAは駄目。助けてもらえないから、公安だとかとこっそり交渉する必要があった。

 ともかく、組織に気づかれないように、そのあと殺されないように、慎重に行動することだけは確かだ。

 

「目的?」

「あ、仕事の。ほら、業務内容を忘れるみたいなことは…………あったな」

 

 バーボンから昨日の仕事の報告を頼まれて、そもそも仕事をしたことすら忘れていた、ということがあった。

 

「…………まあ、一応病院に行くことをお勧めするわ。ひとまず睡眠が優先だけど」

 

 

 シェリーは薬が五錠だけ入った小さなピルケースを俺に渡しながら、どこか突き放すような声色で言った。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 約束通りシェリーは朝に電話を入れてくれたし、俺も仕事のことは覚えていた。

 トロピカルランドに行って、確か、社長を監視する。

 

 

 白のシャツにジーンズ、それに眼鏡をかけて。

 なるべく目立たない恰好をしてトロピカルランドへと向かったのだが、ジンとウォッカはいつもの黒ずくめだった。目立つだろ。昼間は特に――というか夜でも目立つ気がする。

 

 

 取引相手の社長がひとりで来ているのか確認するために、ジンとウォッカはジェットコースターに乗るらしい。いいなぁ、俺も乗りたいなぁと駄々をこねてみたのだが駄目だった。

 

 ジェットコースターみたいな動きが激しい乗り物よりも、観覧車の方がいいんじゃないのかなとも思ったが、言うより早くジェットコースターの方へ行ってしまった。

 

 

「まあいいか、社長はどうせあの二人が見るだろうし」

 

 ジェットコースターを楽しむ二人の様子でも眺めることにした。

 

 

 

 

 

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ!

 

全身の血液が逆流しているかのような不快感が、あっという間に胃のあたりに集まってきて、朝食がせり上がる。とっさに抑えて、トイレに向かう。頭に釘を打ち付けられているみたいに、鼓動に合わせて、リズミカルに痛む。息が出来ない。息が詰まる。怖い。死んでしまいたい。すべて忘れて楽になりたい。ひときわ大きく脳の中心から悲鳴が上がる。爆発的な耳鳴りがして、ばつんとブラウン管テレビの電源を切った時のような嫌な音が響き、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

「……なんでトイレにいるんだろう?」

 

 気が付いたら遊園地のトイレにいた。

 今日はトロピカルランドで仕事があったので、おそらくそこに来ているのだろう。昨日シェリーに薬をもらったところまでは覚えているけれど、また記憶が飛んだらしい。

 

 トイレから出ると、アナウンスでトラブルがあったことを何度も繰り返して伝えられて、気になって周りの人の声に耳を傾けると、どうやら人が殺されたらしい。

 工藤新一がそう言っていた、と口々に噂していた。

 

 工藤新一は最近有名な高校生探偵だったか。

 

 探偵とかに助けてもらうっていうのもありかもなぁ。組織からはあまり警戒されなさそうだし、交渉相手として悪くないかも。

 

 そんなことを考えながらも情報収集を続けていくと、ジェットコースターに乗っていた人が殺されたということを知り、思い出した。

 確か、誰かとウォッカがジェットコースターに乗るから、それを眺めていたのだ。

 

 

 メモ帳を取り出して、今日の日付と、記憶を失った時の状況を書いていく。そろそろメモ帳が埋まってきたが、流石に条件を確定していいだろう。

 一年前、メモによると、FBI捜査官を殺したことを忘れているらしい。

 半年前、殺しの任務を、達成した後さっぱりと忘れてしまっていたらしい。

 二週間前、ジン? が始末した後の遺体を片付けた時、翌日にはそのことを忘れていたらしい。バーボンとの会話で不自然に思われたので、要注意と赤ペンで注釈もある。

 

 

 今日は、おそらく目の前で人が死んで、記憶が飛んだ。口の中に酸味が残っているところから、人が死んだのを見て、慌ててトイレに行き吐いて、そのまま記憶を失ったのだろう。

 

 

 半年前までは、おそらく人を殺した時。

 今は、目の前で人が死んだ時や、自分が死に関わった時。

 

 銃の場所を忘れてしまったり、無くしたり、そもそも扱い方すら怪しくなったのは、それが人を殺す道具だからかもしれない。

 

 ジン、という奴は始末屋だとメモにあるし、おそらくこいつの事を覚えていると連鎖的に殺しの記憶も残るのだろう。

 

 もうジンという奴がどんな奴かもわからない。ウォッカが常に一緒にいるらしいから、そいつがジンだと分かるのが不幸中の幸いか。

 

 

 

 

 

 

 取引を終えたであろうウォッカと、ジンに合流すると、彼らの足元で俺と同い年くらいの青年が倒れていた。テレビで見覚えのある、先ほども誰かが噂していた、工藤新一だ。

 

「こいつを使う」

「……ん? あれ、それってシェリーの?」

 

 ジンが取り出した薬は、昨日見たばかりのものだった。

 

「銃でバラしちゃだめなのか?」

 

 俺が尋ねると、ジンはわずかに苛立ちを覚えたようで、俺を睨む。

 なんとなくシェリーの薬で人が死ぬところを目の当たりにはしたくないんだけど。

 

 しかも試作品らしいし。

 

「まだサツがうろついている。こいつはサツとも随分仲良しみたいだからな。ジェットコースターでこいつに怪しまれて、サツにも俺たちのことが知られている。死体から毒が検出されないこいつを使うのが最適だ」

 

 と、工藤新一の髪を掴み顔をあげさせて、無理やり薬を呑み込ませながらジンは言った。どうやら俺に説明してくれたらしい。ちょっと意外………? 

 意外って思うってことは、ジンはこういう奴ではなかったのか?

 

 

「あばよ……名探偵!!」

 

 

 

 走り去っていったウォッカとジンを見送って、メモ帳に「工藤新一。目の前で毒薬を飲まされる」と記す。

 

 それから、シェリーに、「工藤新一について、メモ」とメールを送り、明日の俺が思い出せるようにしておく。返信が着たら、忘れていた場合の俺は、俺の送ったメールも確認するだろうし。メモを見ればいいのだけれど、いつこのメモの存在を忘れるかも分からない。

 

 

 そうしているうちに、足元に倒れていた工藤新一がもがき始めた。全身から煙が出ていて、かなり苦しそう。

 可哀そう……だとか思っても仕方がないか。おそらく今すぐ薬を吐かせても無理だろうし、生きているとばれたら俺が助けたとウォッカたちに疑われるし。

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 先ほどから人体から煙が出るという異常な光景に驚いてはいたが、これはそんなレベルを超えていた。

 

 工藤新一の着ていた服に埋もれるように、小さな子供が眠っている。ずっと見ていたから何が起きたのか理解している。

 縮んだ。工藤新一が縮んで、小学生か幼稚園児くらいの大きさになった。顔も幼くなっている。

 

「幼児化した……?」

 

 

 

 




 いっぱい高評価ください。

 なんか書いてて、主人公如何あっても救われない気がしてたのに、コナン出てきたら大丈夫な気がしてきた。
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