「おはようございます、マスター」
「おう。あとマスターはやめろ」
「? マスターはマスターですよね?
「マスターじゃねーしお前の物にもなった覚えはねぇんだわ」
結月ゆかり。街を歩けば誰もが振り返るような儚げな美少女で、うちの高校の放送部のエース。
運動はそんなに得意じゃなくて勉強は得意──に見せかけて結構苦手。
声と見た目だけで生きていけそうなヤバいヤツ。
そんなヤツがなぜ俺のような普通の男をマスターと呼んでいるのかといえば……
「ほら急いだほうがいいですよマスター、遅刻しちゃいます」
「マスターじゃねぇ
……つまるところ、単なるあだ名である。
俺の名は
そして俺がマスターなぞと呼ばれているのもこの名前が原因である。
斗田一 → ますだ一 → マスター。ふざけてんのか。恨むぞ幼稚園のときの俺。『ます田一』なんて書き方したらマスターって読まれるわクソ。
そんな風に過去の俺を呪いながら学校へと歩を進めていれば、曲がり角のところに人影が見えた。
「おはようマコト。……今日は随分と沈んでるね?」
「よぉ伊織。……なんつーか、過去の俺を呪ってた」
「定期的に自分を呪いだすよね、マコトは。あ、おはようゆかりさん」
「おはようございます弓鶴さん」
伊織弓鶴。我が親友が、野菜ジュースのパックを手に持って佇んでいた。そんな仕草ですら絵になるんだからイケメンってのは凄いよな。
「おのれ幼稚園児の俺…」
「まぁ、うん。そんな事だろうと思ったよ」
「こんな超絶美少女にマスターって呼ばれて慕われることの何が不満なんですかマスター?」
「お前の面がいいから困ってんだよこっちはよお」
せめて結月の顔が十人並みであればまだよかったのだ。まだ。そうであれば人目を引く事も羨望と嫉妬の視線にさされる事もなかっただろう。いや
などと考えながらふと結月に視線を向ければ、随分緩んだ顔が目に入ってきた。
「マスターにアルティメット美少女扱いされる…もうこれはつまるところ求婚と同義では?」
「球根みたく花畑に埋めてやろうか」
勝手に人の発言を誇張して言っても無いことを捏造してんじゃねえよ顔だけ女がよぉ…。いや声も良かったわ。
「相変わらず仲が良さそうで何よりだよ二人とも」
「どこをどう見ればそう見えんだ」
「どこをどう見たってマスターとゆかりさんは相思相愛熱烈カップルです!さすが弓鶴さんお目が高い!」
クソ。朝からコイツのテンション上げるような真似しやがって……。ウザ絡み度合いが増すじゃねえかちくしょう。
「……さっさと行くぞ。遅刻してミナセンに文句言われんのはゴメンだ」
「あ、もうそんな時間なんだ。少しペース上げて歩いてこうか」
「ところでマスター、子供は何人――あいったぁ!!」
朝っぱらから白昼夢を見るアホに