「たっだいまー!」
「お邪魔しまーす」
弦巻と紲星の誤解を解いた後、俺達は『喫茶 マキ』へ。案の定結月が途中でぐずり出したが、引きずられるか置き去りか好きな方を選ばせようとしたら頑張って歩き通した。普段からそうしてくれ。
「ゆかりさんは疲労困憊ですのでマスターの愛がたっぷり入った甘い飲み物を希望します」
「はい水」
「ちょっとマスター!?」
「うるせえロイヤルミルクティーで口の中火傷して苦しめ」
「いくらマスターのオススメでも運動したあとにホットはちょっと」
自分のバイト先に客として来る、ってのはどうにも不思議な感じだ。今はたいして混んでないが人が増えるようならフロアに回ったほうがいいのかね。
メニューを紲星に渡しながらそんな事を考える。弦巻も俺もここのメニューは頭に入ってるから見る必要ねえんだよな。
「グランドマスター!アイスロイヤルミルクティー一つ!」
「グランドマスター・アイスロイヤルミルクティーって凄い名前ですね!あれでもそんな商品メニューには……」
「違うそうじゃねえ」
結月のアホが勝手に店長にあだ名つけただけであって……待って店長、名札の『グランドマスター』を強調しないで。
「お父さんそれ気に入ったみたいだからねー……あ、あたしオレンジジュース!」
「なんでそんなトンチキなあだ名気に入っちまったんですか……アイスコーヒーで」
「え、あ、皆選ぶの早……っ」
「慌てなくていーよー」
俺と弦巻はだいたい頼むメニューが決まっていて、結月に至っては選択すらこちらに押し付けてくる。そうなれば必然的にスパッと注文が決まってしまうわけで。
しばらく悩んでいた紲星だったが、注文が決まったようだ。
「えーっと……ウインナーコーヒーをお願いします!アイスで!」
「……念のため言っとくが、ウインナーコーヒーはウインナーの入ったコーヒーじゃねえからな?」
「違うんですか!?」
「違うんだよねー」
ウインナーコーヒー。オーストリアのウィーン風コーヒー、という意味らしい。バイト始めた時にWikipediaで調べた覚えがある。
つーかあんだけ食ってまだ何か食うつもりがあったのか。どうなってんだお前の胃袋。
「生クリーム山盛りコーヒー、って感じだな」
「美味しそうですね!それください!」
苦笑しながらキッチンへ戻っていく店長。ウインナーコーヒーの勘違いは割りとよくある話だ。俺もどんなもんか知らなかったし。
「マスターはいっつもアイスコーヒーだよねー。偶には他の商品も飲んだ方がいいんじゃない?店の味は知っとくべきでしょー」
「マスターはやめろ……そういうお前だって何かしら頼む時は大抵ジュースじゃねえか」
「あたしはもうずっとここにいるしー」
「……それもそうだわ」
「マスター、実は甘い物そんなに好きじゃないんですよね」
「えっ美味しいじゃないですか!」
「お前はたぶん好き嫌いとかないタイプだろ紲星」
なんならこいつバターで炒めたら無機物でも食えるタイプの胃袋してねえかな……とか考えてたら店長が注文の品を持ってきてくれた。
「おー……これがウインナーコーヒー……」
「初めて見るとちょっとびっくりするよな」
「本当に生クリームが山盛りですね……どうやって飲むんですかこれ」
「好きに飲めばいいよー?作法とか特に無いしー」
「えーっ、と」
「……生クリーム食ってからコーヒー飲んで量を減らして、それから混ぜて飲むのがいいんじゃねえの」
「なるほど!」
好きに飲め、って言われても困るよなこういうの。生クリームの量が少なければ先にコーヒー飲むのもありかもしれんが。
「ところでマスター、ロイヤルミルクティーにマスターの愛が含まれていないんですが」
普段だって含んじゃいねえよ。不満気な顔されたってどうしようもねえんだけど。