ボイロ高校のマスターくん   作:楠瀬ハジメ

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髪留め

「おはようマコト、ゆかりさん。二人とも今日は合服なんだね」

 

「よぉ伊織。お前は冬服か。暑くねえ?」

 

「今ぐらいなら全然平気かな」

 

 五月になった。うちの高校はここから制服の移行期間が始まる。ついでにもう少しすればゴールデンウィークだ。

 

「おはようございます弓鶴さん」

 

「おはようゆかりさん。合服も似合ってるね」

 

「ありがとうございます。――聞きましたかマスター?およそ一年ぶりの合服美少女ゆかりさんに言うべき事があるでしょう!?」

 

「髪留めさっさと変えろよ、いつまでそのボロいの着けてんだ」

 

 メタルマカロン……と言えば伝わるだろうか。結月のもみあげにぶら下がった二つの髪留め。

 十数年前からずっと変わらずにつけている銀色のそれは、細かな傷や色のくすみが目立ち始めている。

 

「っ…………はぁー!?言うに事欠いてゆかりさんのレゾンデートルに何てこと言うんですかマスターっ!!?」

 

 流石にもう限界だろうと思っていたからポロッと出た言葉だったのだが、結月にとっては聞き捨てならないものらしい。

 

「その髪留め、確かにずっと着けてるよね。よっぽどお気に入りなんだ」

 

「ええ、そうなんです!誰かさんはまるで忘れたようですけど!!これはゆかりさんにとって何よりも大事なものなんです!!!」

 

 髪留めを伊織に見せびらかすようにしていた結月は、こっちにムスッとした顔を向けるとそのまま走って行ってしまった。――思った以上にキレてやがんなアイツ……。

 ……にしたって『存在意義(レゾンデートル)』ときたか。重く捉えすぎだろうによ。

 

「え、ええ……?」

 

 愕然とした表情の伊織。そりゃまあそうだろう。……結月が俺に対して本気の怒りの表情を向ける時点で相当に珍しいのだから。

 

「…………」

 

「マコト、よく分からないけどゆかりさんに謝った方がいいんじゃないかな……?」

 

「……間違った事は言ってねえよ」

 

 クソが。ため息しか出てこねえ。

 

「と、とりあえず僕達も行こうか……遅刻、したく、ないし……ね」

 

「…………おう」

 

 どうせアイツの事だ、こっから教室までの間にバテてるだろう――。

 だが俺のそんな考えを裏切るように、教室につくまでにアイツの姿を見ることは無く。

 教室に足を踏み入れたって、不機嫌そうな結月はこっちに視線を向けることすらしなかった。

 

「マスター!?ゆかりちゃんに何したの!?」

 

「ゆかりんがあんなにキレてるのあたし始めて見たんだけど!?」

 

 慌てて駆け寄ってきた東北と弦巻に軽く状況を説明する。

 たかだか髪留め――だとは多分二人共思ってはいるだろうが、それを口に出せば結月が今以上に不機嫌になるとなんとなく分かっているのだろう。

 不安気な表情の二人は、それでもチャイムと同時にミナセンが教室に入ってくるのに気づいて自分の席へと戻っていった。

 

 くそったれ、どうしたもんかな……。

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