一日の授業が終わる。結局一日中、結月は俺の存在を無いものとして扱っていた。
今だってミナセンの号令が終わった瞬間に荷物を纏めて部活に走って行っちまったし。
それを目にした弦巻、東北、伊織の三人が俺のとこにやってきて、会議っぽい事が始まった。
「で、どうするのマスター?」
「どうする、ったってな」
弦巻の問い掛けに宙を睨む俺。
いい加減いつ壊れてもおかしくねえような髪留めを変えろ、っつっただけでそこまでキレるとは思っちゃいなかった。
……あの髪留めに対する結月の思い入れの深さを過小評価してた、っつー事になるんだろう。
「そもそも私達、なんであんなに髪留めを大事にしてるかも知らないんだけど」
「並々ならぬ思い入れがあるみたいだったし……マコトがゆかりさんに渡したとかそんな感じ?」
「ゆかりんがあそこまで怒るならきっとマスター絡みだろうしねー」
「……ガキの時に、誕生日プレゼントだっつって渡したんだよ」
幼稚園の時だ。親に相談して、アイツに似合いそうな髪留めを選んで、渡すタイミングを見計らってるうちにいなくなったアイツを探して走り回った。
おかげですっ転んでグッチャグチャになっちまった紙袋を渡す羽目になっちまったが……それでもアイツは、滅茶苦茶嬉しそうに笑っていた。
「なのに、それを渡した本人から『さっさと捨てろ』って言われたらそりゃ怒るよ」
「そこまでは言ってねえよ」
「同じじゃん」
東北と弦巻の言葉が容赦なく刺さってくる。クソが。口は災いの元ってこういうことか。
「でも実際だいぶ傷んでるみたいだったよ、あの髪留め」
伊織の言う通り。いくらアイツが大事に扱ってたとしたって、それでも少しずつダメージは蓄積してってる筈だ。
それがガキの小遣いで手が届くレベルの安物だってんならなおさらだ。
「…………悪い、ちょっと用事ができた」
ウダウダと考えてても仕方ない、気がする。
カバンを持ち上げて席を立った俺に、三人の視線が突き刺さる。
「一応聞いとくけど、どうする気?」
「新品買ってくんだよ。ぶっ壊れる前にな」
替えの物……になるのだろうか。あの時の俺が渡した髪留めの、代わりに。
アイツは、納得するだろうか。
思わず漏れた舌打ちに、東北の視線が鋭くなる。
「物で釣ろうっていうこと?」
「大正解」
それだけ返して、俺は教室の外へと向かう。
アイツの誕生日はまだ半年以上先だが……まあ、誕生日以外でプレゼント送っちゃダメだって事はねえだろ。
「ちゃんと謝りなよー?」
「分かってる」
流石に今回は俺の口が過ぎた。それくらいは自覚してるつもりだ。
校門を抜け、駅前へと足を向ける。いいのがあるといいんだけどな……。