「あ゙ーー……」
わからん。さっぱりわからん。
結月がこれで納得するのかさっぱりわからん。
オシャレのセンスがねえのは自覚してたが、こういう時に滅茶苦茶困る。
「今更後には引けねえ、よな」
駅前のアクセサリーショップ。周りにいるのは女性ばかり、という中で髪留めを物色する俺の姿はさぞや目立っていたことだろう。
とりあえず勘に任せて選んだものをラッピングしてもらったはいいのだが、正直に言って滅茶苦茶不安だ。
ひとまず今日は一旦帰って明日の朝渡そう――と思っていた、のだが。
『こわれちゃった』
弦巻からのLINE。送られてきたのはたった一言だけだったが、俺のくだらない悩みを吹き飛ばすには十分だった。
来た道を全力で突っ走る。すれ違う人の視線も何もかも無視して、息を切らせて校門を駆け抜けて。
「結月っ!!」
叩きつけるように放送部の部室の扉を開ければ、
「ます、たー」
へたりこんだ結月と、その手に乗った割れた髪留め。
クソ。せめてあと一日くらい我慢しろってんだオンボロが。
「結月、悪かった」
しゃがみ込んで結月と目線を合わせる。
結月からの返事はない。掌に乗った髪留めだったものに、いくつか水滴が落ちた。
「……俺が渡したっつーだけでそこまで思い入れがあるとは思ってなかった、ってのは言い訳になっちまうけどな」
買ってきたばかりの紙袋は強く握りしめてたからかグッチャグチャで、まるであの時の焼き直しのよう。
『ゆかりちゃんが――』
頭に浮かんだものを振り払って、紙袋を開ける。
黒と赤の、今までの物とは少し形の違う髪留め。
取り出したそれを結月の髪につける。
呆然とこちらを見るばかりだった結月の目からボロボロと涙が溢れ始め――ちくしょう泣くほど気に食わなかったか!?
「――デザイン気に入らねえ、ってんなら今度一緒に」
「これでいいです……いいえ、これが、いいです」
そう思って慌てて口に出した代案は、他ならぬ結月本人によって否定される。
「マスターが、私の為に選んでくれたんですから……これがいいです」
「そうかよ」
涙の跡が残りながらも微笑む結月から目をそらし、立ち上がる。
結月も割れた髪留めを握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
「あ、でも一緒に買い物には行きましょう!マスターをゆかりさん色に染め上げてあげます!」
「元気が出たようで何よりだ」
あっという間に普段通りのペースに戻った結月を適当にあしらい、振り向いた先には紲星と弦巻……だけでなく、知らない顔が大量に。誰だ。放送部の部員か。そうだよなここ放送部の部室だったな。
「マスター先輩ってゆかり先輩のこと大好きですよね」
「……………………違ぇよ」
「説得力ないよー?」
「うるせえぞ弦巻。LINEありがとうな」
「あかりちゃんからの連絡をそのまま回しただけだから、お礼言われる程じゃないかなー」
「だとしても、だ。紲星も助かった」
ざわざわしだした連中は放っといて、紲星にも礼を言っておく。
伊織と東北にも後で連絡しとかねえとな……。
「んじゃ俺は帰る」
「ところでマスター?」
「どうした弦巻」
「どこにいるかも言ってなかったのに一発で場所を当てて来たのは何なの?」
「愛の力です!」
「違ぇよ」
ドヤ顔でバカ抜かすなバカ。部活に行ったってのは分かってんだからとりあえず部室に突っ込んだら初手で当たり引いただけだ。