歌いながらジリジリとマコトに近づいていくゆかりさんを見て、僕が取った行動はマコトの置いた紙袋を回収することだった。
少し重たかった。……僕も筋トレした方がいいのかな。
ちらりと中を見れば服がいくつか入っていて。きっとマコトがゆかりさんに選んでもらったものだろう。マコトは自分の見た目にはわりと無頓着だから。
「考え直せ結月」
「マジレスしてて草生えるわ」
「琴葉ァ!」
すがるようにこっちを見た親友に、ウインクを一つ飛ばして。
「じゃあ後はごゆっくり」
「逃げるなァ!逃げるな伊織ィ!!」
……まんざらでも無いくせに。本当に、素直じゃない親友だ。
僕からすれば見慣れた景色。いつも通りの、ゆかりさんとマコトのじゃれ合い。だけど。
「えー、仲がええように見えとったけどマコト先輩ひょっとしてゆかりさんのこと嫌いなん?」
「嫌いな奴とわざわざ遊びに来るかよ」
「その割に冷たいやん、そんな調子だとそのうちゆかりさんも愛想尽かすちゃうんの」
……茜は優しい子だ。マコトがゆかりさんを蔑ろにしているように見えたから、何か言ってやらないと気が済まなかったんだろう。
だけど。
「茜、ちょっと……」
やめてくれ茜。それ以上は。
僕が止めきるよりも早く、茜は爆弾を蹴り込んだ。蹴り込んでしまった。
「ゆかりさんがマコト先輩以外にこうしとったらどう思うんよ」
それを聞いた瞬間に、マコトの雰囲気ががらりと変わった。普段のどこか気だるげで、優しい物から――酷く寒々しく、冷たいものに。
「へぇ、そりゃまた、随分と」
――笑顔の原点は攻撃的なものである、なんて事を聞いたことがある人は多いと思う。
それが正しいか正しくないかは置いておくとして、少なくとも今の、胸元の見覚えのないネックレスを握りしめたマコトは。
牙を剥いた、獣のように。
「ごめんなさい言い過ぎましたごめんなさい許してくださいごめんなさい」
「どうした琴葉、何でそんな怯えてやがる?」
「マコト、顔、顔」
前にも何度か見たことのある、マコトのあの顔は。
例えば去年。当時三年生だった先輩がゆかりさんに告白した、と聞いた時だとか。
数年前。中学の後輩がゆかりさんに告白したのを見た時だとか。
……これで本人は自覚が薄いって言うんだから、全くやってられない。
ゆかりさんはマコトの事になるとめんどくさくなって、マコトはゆかりさんの事になるとめんどくさくなる。割れ鍋に綴じ蓋というか、お似合いの二人というか。ああもう、本当にさっさとくっつけばいいのに。
「――えいっ」
ゆかりさんにくっつかれて、いつも通り悪態をついて。
それでもだんだんと刺々しい雰囲気が抜けていった親友を見て、僕は一つため息をついて――後ろに振り返る。
「茜」
怯えきった可愛い従妹と目線を合わせれば、茜は泣きそうな顔をこっちに向けてきた。
「……マコトにも非はあるけど……あんまり、他人の事情に土足で踏み入らない方がいいと思うよ」
頷く彼女を撫でながら、僕はまた一つため息をついた。
茜を泣かした事については……あとでしっかり謝ってもらわなきゃ。ね?