何度かの音と光。その度に震える結月を宥め、落ち着かせ、手を握り、背をさすり、声をかけて。
少しずつ遠ざかっていった雷に、俺はこっそりとため息をついた。二度と来んな。無理か。無理だな。クソが。
「……なあ、もういいだろ」
「いやです」
結月は未だに俺に縋りついたまんまで。傍から見りゃ、座ったまま毛布に食われてるマヌケな姿だろうが。誰も見てねえし構いやしねえか。
「雷も収まってきてんだからよ」
「だめです」
何を言っても聞きそうにない。いつもの事ではあるが、いつものようには振り払えない。
少しづつは落ち着いてきているだろう結月を無理やりに引き剥がす気にもなれなくて。俺は天井を見上げてため息をついた。
「まだだめです」
「……そうかい」
あのカスがどうして結月を狙ったのか、俺は覚えてないし覚えてやる気もない。
結月の家は別に経済的にめちゃくちゃ余裕がある、って訳でもねえし。おじさんもおばさんも至って普通の人だ。そりゃまあガキの時からコイツは面が良かったけどよ。
……ふざけんじゃねえぞクソ。
「はなさないでください」
「おう」
――万が一も考えて筋トレはしている。何かがあっても、コイツを抱えて逃げられるように。
本当は何か武術とか格闘技とか習った方が良かったのかもしれねえって、考えたこともあったけど。
「いかないでください」
「分かってるっての」
それは、きっと結月を一人にする事と同じだから。
あの時みたいに自分を投げ捨てて、結月の体に傷をつけさせなかったとしても。きっと、心の方がイカれちまう。
コイツを守る為、ってんなら。俺は、俺を捨てられない。
「ひとりにしないでください」
「しねえから。安心しろよ」
窓の外、雨もだんだんと止み始めて。
空はどんよりと黒いままだったけど。
「ますたー」
「どうした」
結月の声に、瞳に、少しづつ元気が戻って来る。
布団から顔を出した結月が、俺をじっと見つめている。
「すきです」
「……さいで」
少しづつ、いつもの雰囲気が戻って来る。
……こうじゃねえと、なんて。口には出さねえけど。いつも通りの結月の方が、やっぱり。
「あいしてます」
「そりゃどーも」
それでもまだ、少しの怯えが残ったままの結月の頭を乱暴にかき回す。
拒むことなく、猫のようにすり寄ってきた結月の温かさを感じ取って。
ゆっくりと、時間が流れていく。一つの布団にくるまったまま、昼すぎまでぽつぽつと語り合って。
結月の指が触れたこめかみの傷。鈍い痛みは、いつの間にかすっかり無くなっていた。