しばらく騒いだそのあとで。
あいも変わらず俺のベッドを占領し、そこに座り込んでいた結月は、近くに座る俺へと手を伸ばしてきた。
「何だ」
「――ありがとうございます、マスター」
何を、とは聴かない。聴かなくても分かってるから。
「お前はいい加減昔の事を引きずりすぎなんだよ」
「引きずりますよそりゃあ。ゆかりさんは命を救われたんですから」
「……バカ言うな。ガキの無鉄砲さで突っ込んで死にかけただけで、実際助けてくれたのは先生達だろうが」
俺が出来たからのはせいぜい時間稼ぎだ。たったそれだけ。
先生達が来なけりゃ……コイツは。
「でも、マスターが頑張ってくれたから先生達が間に合ったんですよ?それに……」
結月の指が、俺の髪を掻き上げて。
ゆっくりと、傷跡をなぞっていく。
こめかみに走る、傷跡を。
「触んな」
「ふふっ、言うだけで跳ね除けないあたりマスターはやっぱり優しいですね……傷跡、まだ残ってますね」
「随分ザックリやられたからな……薄くはなっても、消えやしねえって医者に言われたよ」
二十針だったか縫ったらしいし……流石にうろ覚えだけどよ。
「今のゆかりさんがいるのは、マスターのおかげですから。そのマスターが望むなら、ゆかりさん何だってしてあげます」
「重いわボケ」
「酷くないですか?美少女が何でもするっていうならもっと色々あるでしょう」
「何でもするってんなら晩飯食ったら帰りやがれ。晴れ間も見えてきてんだからよ」
「むぅ……マスターのツンデレさんめ」
「デレ要素どこにあんだよこの節穴アイ。つーかいい加減離しやがれ」
傷跡をなぞる結月の熱が、妙にくすぐったくて。俺の悪態を、笑って流す結月の顔が、妙に。
「えいっ」
「うおっ」
なんて、気が抜けてたのか。結月に引っ張られた体勢が、崩れて。
逆さまの結月と、目が合った。
「膝枕したかったんですけどね」
「ベッドの高さ考えてなかっただろテメェ」
ベッドに頭だけ乗せるような形の俺と。
それを覗き込むような形の結月と。
「大好きですマスター。愛していますマスター。他の誰もいらないくらいに」
垂れ下がったコイツの髪が、俺の左右で揺れている。俺の目線を逸らすまいとするかのように。
「……俺は――そうじゃねえよ」
「ええ、マスターは寂しがりですから。口では色々言いますけど、弓鶴さんやマキさん、ずん子さんに……茜さんとも仲が良いですから」
「トゲ飛び出てんぞ」
「おっと」
薄っすらと結月が笑う。ふわりと、顔に笑みが浮かぶ。その瞳に映る俺の姿が、少しづつ大きくなって。
まるで――あいつの目に、吸い込まれるように。