喫茶店は結構早くに閉まるイメージが強かったんだが、ここは夜の八時頃までやっている。
店長いわく「仕事帰りの疲れた人達の憩いの場でありたい」だそうだ。すげーな。
おかげで高校生が学校帰りにバイトできるから助かってるのだが。
「マスター、いつもの!」
時刻は夜の七時。いつもならもう少し客もいるのだが、今日に限っては閑古鳥が鳴いている。
そんな中でやってきたアホは、入店するなりキリッとした顔でテーブル一つを占拠して騒ぎ出した。ふざけてんのか。
「はい水」
「何でですか!そこはしっかりマスターの愛情を溶かし込んだ至高の一杯をですね!」
「来るたびに違うもん注文するヤツの『いつもの』なんざ覚えられる訳ねえだろうが。キャラメルマキアートでも喉に詰まらせてろ」
念のため言っておくが、今店内にいる客がこのアホだけだからこんな雑な口調でやってるだけである。普段からこんな応対してたら客が来なくなるわ。
「なるほど今日のオススメはキャラメルマキアートですね!それ一つ!」
「どういう耳してんだテメー。キャラメルマキアート一つな」
とりあえずメモは取ったし復唱もしたが、結月の声はよく通る。ちらと店長へ視線を向ければ、サムズアップとウィンクが返ってきた。
「流石のグランドマスターですね」
「お前の声がデカいんだよ」
こいつが何故店長を『グランドマスター』なんてふざけたあだ名で呼ぶのかといえば、
そんな事を言ってるうちに、商品が出来たと店長に呼ばれたので、結月を適当にあしらって取りに行く。
……あの店長、何ですかこれ。いやキャラメルマキアートは分かりますよ、あのバカの注文ですから。もう片方のアイスコーヒーは…え?これ運んだら休憩してそのまま上がっていい?いや片付けとかあるじゃねーですか。
女の子を一人歩きさせるな、ってったってそれこそ待たせとけばいいだけじゃ――あぁはい分かりました分かりましたよ。減給ちらつかせんのやめてくださいって。
「お待たせ致しましたキャラメルマキアートです」
「敬語のマスターもいつもと違って魅力的ですね」
「は?」
「ああでもやっぱりいつものマスターが一番大好きですよ」
「さいで」
結月の前に注文の品を置いて、向かいの席へと座り込む。トレーに載せたままのコーヒーに手を伸ばせば、結月が何やらにまついた顔でこっちを見ていた。
「何だ」
「いえ、照れてるマスターを見れて嬉しいなと思いまして」
「どこをどう見たらそう見えんだよ」
ため息ついてコーヒーを飲む。これ豆の種類とかも当てられるようにならなきゃなんねーのかなぁ……さっぱり分かる気がしねえんだけど。
「ところでマスター、そちらのコーヒーも一口いただけませんか?」
「本音は」
「マスターと間接キスしたいったぁ!」
ストレートすぎる……もうちょっと恥じらいとか持てという祈りを込めてデコピンしといた。多分通じてねえが。ちくしょう。
つーかお前コーヒー苦手だろうが。気分悪くなる上に引きずるんだから大人しく目の前のキャラメルマキアート飲んどけ。