ボイロ高校のマスターくん   作:楠瀬ハジメ

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今回はゆかりさん視点。


マスター

「お待たせ致しましたキャラメルマキアートです」

 

 ことり。いつもより少し柔らかい声色と共に、テーブルに置かれたのはキャラメルマキアート。今日のあなたのオススメ。

 視線を前に向ければ、穏やかなあなたの顔が目に入る。

 

「敬語のマスターもいつもと違って魅力的ですね」

 

「は?」

 

 だけど私が一声かければ、あっという間にいつものしかめっ面。見慣れた顔に、ついつい笑みと言葉がこぼれてしまう。

 

「ああでもやっぱりいつものマスターが一番大好きですよ」

 

「さいで」

 

 私の向かいに座るあなたは気づいていないだろう。照れたときに出る、あなた自身の癖。右のこめかみを親指で掻く、その癖を。

 口に出してしまえば、あなたは絶対にその癖を私に見せてくれなくなるから。私は、それをあなたに教えていない。

 あなた自身は自分を無表情だと思っているようだけど。表情にも態度にも出るし、とても分かりやすい人だと、私は知っている。

 

「何だ」

 

 私の視線に気づいたのか、彼と目が合う。

 呆れたような、睨みつけるような。きっと、私がろくでもない事を考えていると思っている時の目つき。

 トレーに置いたコーヒーに手を伸ばす彼に合わせて、キャラメルマキアートを口元へと運ぶ。ほんのりとした甘さが、部活の疲れを癒やしてくれる。

 いつもこうだ。口も態度も滅茶苦茶に悪いのに、何だかんだであなたは私を気遣ってくれる。

 マキさんやずん子さんに言っても信じて貰えなかったぐらいには、この人は私をぞんざいに扱っているけれど。

 普段から私の愛のアピールを、あっさりと受け流しているように見えるけれど。

 

 

 マスターは、私の事を愛してくれている。

 

 

 この人なりに、という注釈はつくけれど。愛の形なんていうのは人それぞれだ。

 

「いえ、照れてるマスターを見れて嬉しいなと思いまして」

 

「どこをどう見たらそう見えんだよ」

 

 不機嫌そうな声。抑える気もないため息。――こめかみを掻く、右の親指。

 笑顔を抑えきれないのは、あなたのせいだ。

 

「ところでマスター、そちらのコーヒーも一口いただけませんか?」

 

 私の問いかけに、あなたはジロリとこちらを睨む。

 

「本音は」

 

「マスターと間接キスしたいったぁ!」

 

 本音を全力で投げつけてみたら、返ってきたのは容赦のないデコピン。

 恥ずかしがり屋のあなたの、言葉にならない愛の返事。

 コーヒーが苦手な私を心配してくれているあなたの、伝わりにくい優しさの証。

 それを口にしても、あなたはきっと否定するから。いつも通りのしかめっ面で、私の言葉を妄言だと切り捨ててしまうから。

 もう少し素直になってくれればいいのにと、額を抑えながらそう思った。

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