休憩という名の結月の相手も終わり、店長に頭を下げる。そのアホはといえばキャラメルマキアートを俺の奢りにしようとしたので
「お疲れ様でした」
笑顔で手を振る店長を背に、店を出て帰ろう――としたところでこっちに走ってくる人影が見えた。弦巻だ。
「おっつかれー!」
「お疲れ様ですマキさん」
部活上がりだってのに元気な奴だ。結構でかいギターも背負ってるのに息を切らした様子もない。結月ももう少し見習って体力つけた方がいいんじゃねえのか?
「マスターとゆかりんは帰るとこ?閉店にはちょっと早いと思うんだけど」
「マスターはやめろ。……珍しく客が全然来なくてな。後片付けやっとくからこいつを送ってってやれ、って店長に言われちまった」
「なので今からお家までマスターとデートです!」
「あはは、じゃあ邪魔しちゃ悪いねー」
「そのまま喋り倒してくれりゃこいつを置いて帰る理由が出来たんだがな」
「そうなったらゆかりんはマスター追いかけてっちゃうよ」
「違いねぇや」
空を見上げれば、憎たらしいくらいの満月がこっちを見ていた。クソが、こっちの苦労も知らねえで間抜け面晒しやがって。
「……何でマスターはお月さま睨みつけてんのさー?」
「マスターは時々この世の全てを呪い始めますから」
「人をラスボスみたいな扱いするんじゃねえよ……」
そもそも俺が世界を呪うのは八割がたお前のせいだ……などと言ったところでこのアホは聞こうともしないのだろうが。
「ね、そういえばさ。桜もそろそろ散っちゃいそうだし、今度みんなでお花見いかない?」
花見。花見か。今の時点で満開の時期は過ぎちまってる訳だが……だからこそ、そんなに混まずに花見ができるか。
「いいんじゃねえの?今週末なら俺は暇だぜ」
「ゆかりさんも大丈夫です!」
「オッケー!それなら今週末!公園でお花見しよう!あ、他に誘いたい人いたら誘っといてねー!」
「あいよ」
「分かりました!」
「よーし、じゃあ今日は解散!お父さーん、お腹空いたー!!」
そう言って家に入っていった弦巻を見送って、俺達はどちらともなく歩き出す。
「花見、誰誘うかね」
「こういうのは人数多い方が楽しいですからね。ゆかりさん、後輩に声かけてみようかと思います」
「こっちは……伊織は確定だろ、後は高橋と吉田あたりか…」
俺や伊織と去年まで同じクラスだったバカ二人の顔を思い浮かべる。今年は別のクラスになっちまったがのが残念だ。あいつらとバカやるの結構楽しかったんだよな。
「まぁとりあえず明日声かけるか……さっさと帰ろうぜ。腹減ったろお前も」
「マスターの愛の詰まったキャラメルマキアートを頂いたので大丈夫です」
「愛が詰まってたとしてもそれは店長のだ」
運んだだけで詰まる愛とかねえだろ。思いっきり異物混入じゃねえか。