平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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Don't say Yes/No. 9

 いい時間になったので、チケットを購入しエレベーターの列に並びます。休日なので混雑しているのは仕方ありません。

 そう、ここは東京屈指の観光スポット、現在世界一高い電波塔の麓なのでした。

 平子は霊体でもなかなか昇れない高さからから棗に現代の日本を見せてやろうと思ったのです。棗はそれを聞かされ、周囲の雰囲気にも飲まれてそわそわしています。

 

「晴れて良かった。天気悪いと雲しか見えへんからな」

「どのくらい高いのでしょうか」

「見てからのお楽しみや」

 

 順番が来て広いエレベーターの中に入ります。混んでいて一回に多くの人が入れられたので棗は平子に体を寄せます。

 

 待てや。

 

 平子は内心でストップをかけます。場所を詰めるにしてはくっつきすぎなのではないでしょうか。混んでいているとしてもラッシュ時の東西線ほどではありません。

 体を他人に押し付けて形を変えなければいけないような混み方はしていません。だというのに、棗は平子の腕で二つの乳房を潰しています。

 

 はっきり言って柔らかいです。弾力がありつつふんわり柔らかくて、あったかい。女の子のおっぱい以外にこんな心地良い感触の物質がこの世にあるでしょうか?

 義骸とはいえ、入ればほぼ霊子の体と同様の形になりますから、霊子器子関係なくこの柔らかさは棗のおっぱいそのものです。

 混んでるのは本当ですし、ただ離れろと言うのも感じ悪いですし、だからといって柔らかいおっぱいを押し付けられているといろいろと不都合であるとは言えません。それを人に聞かれるのも気まずい。

 

 ……平子も男ですから多少はね、可愛い子におっぱい押し付けられたら反応しますよ。

 

 加えて棗はいい匂いがします。

 一定レベル以上の女の子からしかしない、香水やシャンプーやヘアオイルとは違う、顔を見なくても香りがすれば『絶対可愛い』と確信できるあの匂いです。

 手を繋いでいるくらいなら風向き次第でふわっと香るくらいですがここまで密着していると僅かな空気の流れでも感じられます。

 

 顔も近い。

 女性にしては背の高い棗とはそんなに身長が違わないので真横に顔があります。先程口紅を変えて元から綺麗だったのがより可愛らしくなった顔です。

 そうですね。とても魅力的な唇ですね。その唇が、ちょっとこっちを向かせて顔を寄せればキスできる位置にあります。

 

 美人で、いい匂いがして、おっぱいが大きくて柔らかい。

 

 何度も好きだと言われ絆されかかってるのを一生懸命耐えているのにここに来て魅力を物理でわからせに来るのやめて、本当にやめて。

 真面目にやっべえのはこの価値ある胸、平子が望めば合法的に触れることです。合法。いい響きです。

 

 でも手を出しちゃダメなんですよこの娘。

 

 平子はなんでダメなのかわからなくなる前に早く上につけと心で悲鳴を上げていましたが、棗のほうは何も平子を陥落させるためにおっぱいを押し付けているわけではないのでした。

 そもそも彼女、美しく着こなすために着物のときは専用の補正下着をつけていて、洋装だといつもよりおっぱいが前に出っ張っていて触ったときの柔らかさが増すことに気づいていません。そういう問題でもないですが。

 

 ここのエレベーターは速いのでさほど時間はかからずに展望台フロアにつきます。

 エレベーターから人が降り始めて棗が腕からおっぱいを離しました。

 安堵と名残惜しさが同居する平子の心です。

 ちゃんと安堵のほうが大きいですよ、とここには書いておきましょう、

 

 

 やっと到着いたしましたのが地上350メートルのデッキです。

 

「あなや! 美しいですね!」

 

 コイツ今『あなや』言うた……。

 「何時代の人や!」とツッコミをしたくてたまりませんでしたが平子は我慢してスルーしました。たぶん高貴な人は今でも使うのでしょう、『あなや』。

 感動してくれたのは良かったです。

 

 時はまさに夕暮れの始まり。

 ガラスの側に近づいて西日に照らされた東京の街並みを見下ろします。

 平子は遠くの方に一つある非建造物を指差しました。

 

「見ィ、上のほう平いやろ? あれ富士山や」

「富士は東京から遠いですよね?」

「それがあれだけ見えるくらいここが高うて富士山がデカいちゅうわけやな」

「面白い!」

 

(この『面白い』は『Funny』やのうて『Excellent』て意味やな……いや現代語でもExcellentの意味合いで面白いを使うこともあるか?)

 職人とかが何か良い作品を見て「面白い!」と言うのはおそらくExcellentに近いでしょう。

 どうなのか考えていると手を引っ張られます。

 

「あちらの! 遠眼鏡ですよね! 覗きたいです!」

 

 いみじう美しき景色なりけりとか言い出してもツッコミを入れないよう心に決めました。が、もしツッコミ待ちだったら悪いことをしているのではという不安も拭えません。

 

 ちなみに棗、『あなや』は祖母の話し方に影響されていて素で出てしまった言葉で、すぐに古語を遣ったのには気が付きました。ツッコんで貰えたら言い訳をしました。平子は優しいのでスルーしました。

 素晴らしいの代わりに『面白い』を使ったのは「祖母の影響でそんな古い言葉がたまに……」と言い訳をするためのツッコミ待ちでした。下手です。

 こっちもスルーされてしまったため、もうやめておこうと思いました。痛々しい。彼女にもその感覚くらいはあります。痛々しい。

 分かりづらいので平子は悪くないです。

 

 景色を楽しみながらフロアを一周。カフェ近くで他の客が食べているものが棗は気になりました。

 

「真子さん、私あれ食べてみたいです」

「ええで。ソース何にする?」

「赤いのはイチゴですか?」

「イチゴはイチゴでも木苺やな。イチゴ好きなんか?」

「はい。でも木苺も好きです」

 

 平子は棗にラズベリーのソフトクリーム、自分用にカプチーノを購入します。

 

「おいしい! 氷菓子より好きです。尸魂界でも作れるでしょうか」

「いけるんちゃうか? けどソフトクリームは混ぜる機械が必要か。あとでアイスも食わせたるわ。そっちも気に入ったらアイスにしとき」

「はい。真子さんは食べないんですか? ソフトクリームはお嫌いですか?」

「嫌いやないけど、1個全部食うほど今は欲しないだけや」

「では少しだけどうぞ」

 

 棗はソースがかかっている部分のクリームを多めに掬ったスプーンを平子のほうへ向けます。

 『あーん』です。

 

「……間接キスになるけど棗はええの……?」

「真子さんならいいですよ。あ、ごめんなさい、嫌ですか?」

 

 平子はミスを犯しました。躊躇うべきではなかったのです。

 そのまま食べていれば誰も注目していなかったのに、棗が『あーん』の体勢になってから何秒も経ってしまったためチラチラ窺っている人間が何人もいます。

 

「実は……近頃胃ィ悪うしてて医者に冷たいものは食うなて言われとるんや……」

「そうだったんですね。ごめんなさい」

 

『バ──────カ! チキン野郎!!』『なんで食わねぇんだよつまんねぇな!!』

 そんな罵声ならぬ罵視線が何本も刺さります。

 やかまし黙らんかい、食うたら食うたでイチャイチャすんなって思うやろがオマエらは! ちゅうか彼氏でもないのに食うほうがおかしいやろが!

 心の中で言い返して温かいカプチーノを啜ります。

 昼間ハンバーガー屋で氷入りのジュースを飲んでいたことを棗が思い出さないことを祈りましょう。

 

 

 

 

 





ハッピーバースデー平子
フォーエバー平子
幸せになれ平子
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