平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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Don't say Yes/No.(後日談)

 昼です。食事の時間です。

 

「ごきげんよう、真子さん!」

「おー、ご苦労さん」

 

 五番隊の隊首室に華の香りを伴って棗が現れるのが日常になってきました。

 交際を始めてから棗は美味しい弁当を持って平子の元を訪れ一緒に昼食をとっています。「オマエが作ったんか?」と平子が聞いたら目を逸らして「いいえ……」と答えました。

 棗、人に食べさせられるほどのものは作れません。何なら自分でもちょっとこれは……となります。

 お嫁に行くときのために、というよりは突然サバイバル生活に放り込まれたときのために練習したことはあるのですが、あんまり上手くなりませんでした。

 「いいえ」と答えたときに平子が薄っすら残念そうにしたので、また練習を始めています。回道の使い手を控えさせつつ、家で雇われている料理人がつきっきりで教えています。

 

 棗は机にお重の弁当を広げながら報告しました。

「聞いてください真子さん」

「何や」

「昨日やっと父母に会えまして、平子隊長に求婚していただいたので結婚しますとお伝えしました」

「どやった?」

 

 いただきます、と手を合わせてから箸をつけつつ、平子は聞きます。

 棗は笑顔でしたが、内容は非常に剣呑でした。

 

「一族郎党大惨事です。本日仕事をお休みする羽目になりました。今は少々隙を見て抜け出して来ました」

「大惨事て。大騒動くらいで収まってへんのか」

「はい。単に自分で見つけてきた相手なら割合はともかく賛成か反対の対立になったのでしょうが」

「……相手が俺っちゅうのが事をややこしくしとるんやな」

「隊長とのご縁は極々限られますので」

 

 名誉のお話です。

 ちょっと血筋がいいだけの男はいくらでもいますが、護廷十三隊の隊長と縁は滅多にありません。

 

「私を殺して排除したい派と、お嫁に出して追い払いたい派、お婿を迎えて当主に据えたい派がいるのですが、その中でも賛成と反対が細かく分かれまして」

 棗は言いませんでしたが、平子たちが虚化の実験台にされて四十六室から退治の判決を受け、百年追われた身であるにも関わらず隊長に復帰しているのを怪しんでいる者がいるのです。

 彼らの決断は尸魂界にとって都合が良すぎますからね。何か企んでいるのでは? 信用できるのか? そんな疑心があります。

それから、

 

 ケガレを一族に持ち込まれたくない。

 

 という、尸魂界に住む者の価値観では致し方ないところもある感情も。

 平子の魂魄は虚と混じっていますからね。その魂魄を受け継ぐ子供にどう影響するのかわかりません。もしかしたら身籠っている最中に母体を蝕むこともあるかもしれません。

 平子自身すら不安に思う気持ちがないではないのです。

 棗にもその懸念は話してあります。

 しかし、

 

 そんなの知らねぇぇぇぇ~~~~~平子の子供なら虚でも餓鬼でも畜生でも喜んで産むし可愛がる自信しかねぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!!

 

 くらいの勢いで(実際はもう少し上品な表現でしたが)棗は構わないと言い切ったので二人の間では問題ないことになりました。

 あとさすがに平子も「俺から餓鬼や畜生は生まれへん。たぶん」とツッコミを入れました。

 

「言うておくが婿入りはせえへんぞ。伝えといてな」

 この辺、平子にも考えがあります。

「承知しております。実家と縁を切ってでもお嫁に参りますのでご安心ください」

「縁までは切って欲しないんやけどな。肝心の親御さんは何て?」

 

 棗はくっと悔しげに目を閉じます。

「残念ながら、父母は相手が真子さんならば我が一族に迎えたい派です」

「ほんまに残念や……」

「私たち姉妹の相手に真子さんよりも良いお相手は四大貴族の方々か他の隊長方以外に望めませんからね。朽木の白哉様は後妻を娶らないでしょうし、四楓院の夕四郎様は既に選出中でしょうがお声がかかっておりません。綱彌代とは……その」

「あそこと縁続きになるのは嫌やわなァ……」

 

 その気持ちは平子にもよくわかります。綱彌代は悪徳貴族の筆頭で、その悪行は枚挙に暇がありません。

 家柄が良ければ娘をやるのはどこでもいい親ではなさそうなのは安心しました。

 

「両親が真子さん個人への好感度が非常に高いのもありますよ!」

「娘助けたったのまだ恩に思うてくれてるん?」

「それもありますし、ご苦労をなさったのに隊長職へお戻りになったのを『なんとお優しい方だろう』と考えたほうらしく」

「ありがたいことや。俺を婿にしたいトコ以外は」

「同じことを、私も想ってあなたに惚れ直したんですよ。好きです真子さん」

「……おおきにな」

 

 

 食事の後、汚さないよう脱いであった隊長羽織に棗が目をつけ、「五番隊隊長、平子棗ですよ!」などと羽織ってふざけたので、「おっ、下剋上か?」と平子も乗って遊んでいたらほぼ取っ組み合いになりました。

 部屋の中ですし、おふざけレベルではありますが、隊長と席官のやることなのでどったんばったんかなり大きな音がします。棗が来ていることを知っている雛森がまた棗を狙った何者かが来たのかと駆けつけました。

 彼女が障子を開けたとき、ちょうど平子は棗から羽織を脱がしかけていました。

 平子が自分の隊長羽織を取り返すのは当然のことですし、髪が少し乱れていますが棗は着物を緩めずに着ています。全く淫靡なシーンではありません。

 

 ですが、男が女の着た衣服を脱がせている図が大変いかがわしいのは想像に難くないでしょう。今から始めるところに見えても仕方ありません。

 雛森は障子をピシャっと閉めました。上司のそういうシーンはあんまり見たくないですね。

 

「桃!? その反応何!? 俺らおかしなことしてへんで!?」

「見てません! あたし何も見ませんでした!」

 

 不当に着ていた羽織を正当な持ち主に脱がされていただけなので雛森の反応も平子が必死で追いかける理由も分からなかったのは、先日まで彼氏いない歴=年齢だった箱入りの棗です。

 友人のせいで下ネタ耐性はありますがシチュエーション的なあれそれとは無縁に生きてきました。

 隊長羽織を皺にならないようを畳み、しばらく平子が戻ってくるのを待ちましたが、いっこうに帰ってきません。

 

 棗は相手が決まったのでもう見合い話を持ってこないように、と当主である父親がアナウンスしたせいで親戚が押しかけて惨事が繰り広げられている家を不在にしているのもそろそろ限界でしたので、書き置きを残して帰ります。

 

『愛する真子さんへ……』

 

 

なお、雛森の誤解は無事解けました。

 





デート編終了。
このあと時系列的に次だけど別シリーズにせざるをえない初夜話を投稿するか、棗が上下に分断されて死にかけた血戦篇後の短編をこのままこのシリーズに更新するかどうしようかなと思っています。
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