平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら 作:架鍵キー
Don't say Yes/No.→ Once a Week(R-18なので別作品扱い)→これ→千年血戦篇の順です。
檜佐木です。
尸魂界が愛読する瀞霊廷通信の編集長です。
自称ジャーナリストです。
編集長ながら自分の足で取材もします。
尸魂界で今ホットな話題は『霊圧泥棒』でした。
瀞霊廷の一部で出るのです、霊圧泥棒。
夜瀞霊廷をうろうろしていると、ズバッだか、ズビッだか、ズズズーッだか、そんなイメージで霊圧を吸い取られてしまうのです。
実は極稀に似たような事件が今までにも何回かあったのですが、本当に単発事件と言っていいほど追跡しようのない犯行だったので話題になっていませんでした。
辻斬りと違って怪我はしません。霊圧を、不健康な人ならフラフラッと、健康な人でもフラッてなるくらいの量盗られます。
霊圧なのでよくご飯を食べてよく寝たら数日で元通りです。
そんなにたくさん食べなくて睡眠がそれなりだとしても一週間もすれば回復します。
食うに事欠くほどの人からは盗られてないようです。
全然命に関わるほどの量ではありません。
でも被害者が護廷十三隊の席官以上に及ぶようになってくると事態は少々深刻です。
なぜ霊圧を奪うのか?
どういう手段で奪っているのか?
席官ほどの死神を襲い、逃げおおせることができる犯人は何者か?
そこで取材に乗り出したのが我らが瀞霊廷通信編集長、檜佐木修兵だったのです
彼が取材を試みたのは霊圧泥棒の《最強の》被害者──
五番隊隊長平子真子でした。
■
「えーと、これはどういう……」
五番隊の隊首室を訪れた檜佐木は困りました。
座布団に座って机に肘を付いている平子に長い髪の女性が後ろから取り憑いています。色気のある言い方をするとバックハグというやつです。
上からのしかかるようにしているのでバックハグより色気は抜いたほうがいいです。
檜佐木が戸惑っていると重そうにしている平子から声をかけました。
「ご苦労さん」
「ええと……」
「これは放っといて構めへんからこっち来て座りィ」
まあまあ放って話しができる絵面ではありません。
ちょうど雛森がお茶を持ってきてくれました。
「お疲れ様です、檜佐木さん。粗茶ですが」
「雛森……」
「大丈夫です」
大丈夫なんだ。
雛森は来てお茶を置いて去るまで一つも顔色を変えませんでした。
これが大丈夫な五番隊、すごい。
「俺が被害に遭うてからずーっとこの調子や」
「被害に遭ってから?」
「何や、オマエ俺が例の泥棒に絡まれたって話聞いて来てんねやろ?」
「いやそうなんスけど その人は」
檜佐木には繋がりがわかりません。平子が霊圧泥棒に遭うとなぜ金髪女性に取り憑かれるのでしょう?
まさかこれも霊圧泥棒の被害の一部なのか? 一瞬檜佐木は思いましたが、ほかの被害者でそんな話は聞いていません
「見てわかるやろ。俺の嫁や」
「えっ、ええええーーーーっ!?!??」
百年ぶりに帰ってきた隊長はまだまだ尸魂界の話題にあがる人物たちです。
奥さんがいるなんて超ニュースです。熱愛発覚です。ゴシップです。
でも檜佐木そんなの聞いていません。
「平子隊長、奥さんがいたんですか!?」
「正確にはまだ彼女やけど、まァ八割ぐらいは嫁や。ちゅうかオマエが俺に女おるって何で知らんねや」
「オマエがって、知りませんよ!」
「拳西には言うたで? 白にも」
「……あー! ちょっと前に久南が『あたし真子にそんなの許してない許可してない』とか何とか言って床転げ回ってたのって……!」
「それやな。なんであいつの許可取らなあかんねん」
「同じ時期に乱菊さんがビッグカップルの写真撮って記事出せば? って言ってたのも……!?」
「乱菊ちゃんが言ってるのが俺らのことかは分かれへんけど」
檜佐木は打ちひしがれています。
こういうことは誰かが「ねぇ知ってる?」で話し始めるものです。ですが檜佐木には「あいつはもう知ってるだろうから」と誰も話を振ってくれないのです。瀞霊廷通信の編集長なんて本来なら噂話が集まりやすい立ち位置にいるのもいけないのかもしれませんね。
このとき、吉良経由で恋次に、恋次から白哉やルキア、ルキアから女性死神協会へ、当然草鹿やちるから……って結構広まってました。
「……その件についてちょっと取材を……」
「ええけど、それはこいつがメンタル戻さな無理やな」
よしよしと頭上にある頭を撫でます。
ここまで黙ったまま平子に取り憑いている女性はもちろん明日檜棗です。
檜佐木もようやく話の繋がりが見えてきました。
「つまりそういう……?」
「ああ、俺が他の女に口吸われたてずっと嫉妬して落ち込んでんねん」
そう、霊圧泥棒が霊圧を盗む手段はキスをして口から吸い出す、というものなのです。
そこで棗、ようやく口を開きました。
「呪殺をしなければ……何としてでも償わせなければ……司法が彼奴を八つ裂きにしないなら……呪殺を……」
こんな状態ですが、棗、中途半端に判断力は残っています。平子の唇と霊圧を奪った──特に唇を奪った罪は万死に値しますが司法で極刑を科すことができないとは分かっています。
実家経由で手を回して余計な罪状付け足せば極刑そのものは可能といえば可能なのですが、犯してない罪で裁かれても意味がありません。平子の唇を奪ったかどで極刑になるべきなのです。
ではどうしたらいいか? 呪殺です。
「せやなァー、強制猥褻と泥棒と傷害の罪は償わなあかんなァー、でも殺すんはやろ思たらその場で俺ができたけどせえへんかったこと考えてなァー、道踏み誤ったらあかんでー」
「真子さんは優しいから……! 檜佐木副隊長も犯人は呪殺に値すると思いますよね!?」
「俺?」
平子に緩くあやされていた棗の視線が急に檜佐木に向きましたが、いきなりそんな話を振られても、ですよ。
正直呪殺に値するとは思いませんがそう言ったらヒステリー起こしてしまいそうに感じます。精神的に不安定な女の子怖いですからね。
「檜佐木に話しかけるのはええけど、オマエ挨拶してへんぞ」
平子の指摘に反射的に棗の背筋が伸びました。べったりくっついていた背中から離れ、畳の上に正座して頭を下げます。
「申し訳ありませんでした、お見苦しいところを。三番隊所属、明日檜棗四席です。瀞霊廷通信、いつも楽しみに拝読しております」
「明日檜四席? ──あのスー……」
棗、スーパーパシリとして最近脚光を浴びています。
書類や荷物など、色々なものを送るのに通常の配達を使うより彼女に走らせるほうがずっと速いので、三番隊で早めに届けたい、あるいは早めに受け取りたいものがあるとあちこちに出張しています。
たまに「三番隊に届けたいから来てくれ」という呼び出しや「三番隊関わりないけど急ぎで運んでもらいたいものがあるから貸してくれ」という声に応えて貸し出しも行われています。
まごうかたなきスーパーパシリです。
「す、素敵な方だと聞いています」
檜佐木、何とか途中で軌道修正しました。
侮蔑ではなく親しみを持った呼び方ではありますが、面と向かってパシリ呼ばわりはないでしょう。
「スーパーパシリと呼ばれているのに気を悪くはしておりませんのでお気遣いなく」
「その節はほんますまん棗」
「その節って何スか?」
以前から直線的な機動力だけで言えば三番隊イチだった棗がなぜ急にパシられ始めたのかというと、あるとき締め切りを勘違いしていたせいで平子の足でも提出が間に合わない書類を間に合わせるために、彼女の速さを知っている平子が棗の上司であるローズに「貸せ!」と要請したことに端を発します。
ちゃきちゃきと仕事をこなして戻ってきた棗にローズが「本当に速いね。じゃあこれも頼めるかい?」とそういう仕事を頼み始め、段々その量が増えていき、そして──という経緯でスーパーパシリになりました。
吉良なんかは「四席を荷運びに使わないでください……」と小さく忠言を呈していますけどね。
でも出先で時間を食わなければ元の業務に支障が出ないスピードで帰ってきますし、便利は便利なので強くは言いません。反対しすぎて本当にいざというとき自分が頼めなくなるのも困るな、とも思っています。
そのあたりの経緯を聞いた檜佐木はしっかりメモをしました。そのうち使えそうなネタです。
「それで話を戻すんですが、霊圧泥棒について被害にあったときの状況を聞かせてもらえますか?」
「……呪殺を……」
「棗、取材されてるの俺やから黙っとき」
再び怨霊になりかけた棗を平子は畳に倒します。そして横で丸くなった棗を猫のように撫でつつ被害に遭ったときのことについて語り始めました。
さほど長い話ではありません。
それは数日前。大前田が経営している劇場へ観劇デートに行ったときのことでした。
観劇が終わったあと棗が土産を買おうとし、店内がとても混んでいたので邪魔にならないよう平子だけ先に外へ出ました。すると建物と建物の間の陰になる僅かな通路に人が倒れていたのです。
それだけでも心配ですが、もっと心配なことにその人物からは霊圧が感じられませんでした。
「見え透いた罠やけど見事に引っかかってもうた」
怪しくはあったのです。現世でいうフード付きの外套を着ている顔が見えない行き倒れなんて。
平子が近づき「大丈夫か?」と声をかけながら屈むと、
「ガッ腕掴まれて── ……や」
棗、転がっていますが寝ているわけではないのでその瞬間の直接的な言語化は避けました。
「反撃はしなかったんですか?」
「変に霊圧盗られてもし手加減でけへんかったら殺してまいそうやってん。えっらい小さくて細かった。言い訳やけどな」
「ほかに取材した人も同じように小さいって言ってました」
「若いんやろうけど丸っきりガキでもないやろな。胸あったで」
「若い女性、と……」
被害者から聞けた犯人像は概ね一致しています。
か細く「車裂き」と聞こえましたが空耳でしょう、きっと。そうであれ。
「顔は?」
「上から見たらフードの陰になっとったし 離れるとき頭突きしていきよったから細もうは覚えてへん」
「目や髪の色とか……」
「髪は黒か濃い茶色で目は薄い色や」
平子は人差し指を口の前に立てて次に棗をそっと示します。
檜佐木は頷きました。目は棗と同じ銀色だったんですね。
「他に何か気になったことは?」
「こら推測やけど」
「構いません」
「あれ実行犯と黒幕ちゃうな」
おお、これは他の被害者たちからは聞けなかったことです。
「どうしてそう思うんですか?」
「吸い取られとるとき犯人から感じたのがひたすら『ごめんなさい、許してください、すみません……』って感情やった。
盗った霊圧も本人が自分に取り込んどるんやのうて、別の何かに溜め込んどる感じもしたな」
「なるほど。好き好んでやっているわけではなく黒幕は別にいる可能性、と」
記事としてはとても面白い展開です。陰謀の匂いがします。読者はそういうのが大好きです。
指図している者がいるならなおさら霊圧を盗む理由が気になります。
檜佐木がもう少し突っ込もうとしたときです。
「吸い取られているとき……キス、してるとき……」
悲しく啜り泣く声に平子が眉間に皺を寄せて口を三角にしました。