平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら 作:架鍵キー
「やからキスやないって何遍言うたらわかってくれんの! 俺は強制猥褻の被害者! 相手は加害者! キスとか色っぽいこと何もあれへん!」
「他の女の唇が真子さんの唇に触れたぁ……」
「そんだけのことや! 減るもんでもないんやしそろそろ元気出してくれへんか、俺は笑顔の棗チャンのが好きやで! な!」
「減ります!」
がばァっと棗が体を起こしました。
「真子さんが一生の間にキスできる回数から私の分が一回分減りました」
「落ち着け。俺がキスできる回数が決まっとるて前提がおかしい。もし決まってるとしても俺が死んだあと死体にでも余計にキスしとき」
「真子さんが先に逝かれるなんて嫌です……私より長生きしてください、私を置いていかないでください」
「あー……そうしたいのはやまやまやねんけど俺こう見えてオマエよりだいぶ年上やからそらちょっと厳しいかもしれん……」
「では私が早逝します」
「それ二度と言うたらあかんぞ。長生きしてええ感じの
このように目の前でカップルがイチャイチャし始めて檜佐木、困惑しています。
俺はどうすりゃいいんだ? って思ってます。当然ですよ。
こんなんじゃ取材になりません。お茶を飲み干して退出しようかなと湯呑みを手を伸ばしたとき、平子が存在を忘れていなかったらしい檜佐木のほうを向きました。
「修兵、悪いんやけどよそ向いとってくれるか?」
「え?」
檜佐木がその意図を尋ねる前に平子は棗を押し倒しました。すぐに「んーッ!」と明らかに口を塞がれた棗の呻き声がします。
檜佐木、慌てて体ごと反対を向きました。
勘弁してくれ……! って思ってます。当然ですよ。
「んーッ! んーッ!」という声と足をバタバタさせたりパシパシ何かを叩いたりと暴れる音が聞こえます。
檜佐木、顔が真っ赤です。別段うぶでもありませんが、これに真顔でいられるほど慣れてもいません。
そして段々呻き声も暴れる音も静かになり、止まりました。
「よしこれでしばらく静かや。こっち向いてええで」
OKが出て向き直ると何事もなかったかのような平子と畳の上でクタッとなっている棗がいました。
胸デッカ
檜佐木、何より先にそこに目が行ってしまいました。
仰向けになっているにも関わらず重力に逆らって棗のおっぱいはドーンと膨らんでいます。
「まともに取材でけへんでほんまにすまんな。こいつ静かなうちに済ませよ」
「は、はい……!」
檜佐木、平子が棗をキスで蕩けさせたと思っているので赤面が止まりません。
実際はキスしながら鼻摘んで窒息させただけです。
え? キスする必要ある? という疑問に対する平子の言い分はこうです。『首絞めたり手で口と鼻塞いだら殺人未遂やん。でもキスしとるときに
アウトです。
しかし、棗のほうがそういう、大好きな平子にキスをされながら落ちるのに満更でもないのでプレイの一種と思えばアリなのかもしれません。
巻き込まれた檜佐木に幸あれ。
「詫びっちゅうたらなんやけど、警邏の聴取で口止めされとったこと教えたる。記事にはしなや」
「口止め? どういうことですか?」
「これ広まると犯人が絞られるからな」
「? 犯人は絞られたほうがいいんじゃないッスか?」
「犯人が捕まっても隠蔽する必要がある奴やったら民衆に広まるんはまずいやろ?」
おおう、とても危険な香りがしてきましたよ。
この霊圧泥棒事件、もしかすると闇が深いのかもしれませんよ。
檜佐木、真剣に促します。
「続きをお願いします」
「犯人の奴、逃げるとき瞬歩使いよった」
「瞬歩」
瞬歩は歩法の高等技術です。誰にでもできるものではありません。席官になった者でさえできない人も多くいます。山田花太郎もそうでしたね。
一般人や落ちこぼれは間違いなく使えません。つまり犯人は限られます。
「犯人は死神……護廷十三隊の隊士でしかも最低席官以上……ってことですか」
「そうとも限らん。霊術院通うても死神にはなれへん奴もおる。貴族の私兵とかな」
「どっちにしろまずいッスよね」
「せやから口止めされたんや」
なんということでしょう、誇り高き霊術院を卒業した才気ある者が霊圧泥棒とは。
それは捕まったときに事件の真実は隠蔽されるでしょう。死神でも貴族の子飼いでもなかったことになるでしょう。
「貴重な情報ありがとうございます。記事にはしなくても心に留めときます」
「こっちこそ気まずい思いさせてすまん。取材受けるのもうちょいこいつ宥めてからにすれば良かった。こないなっとんのも可愛いんやけど客が来たらそれなりに取り繕うと思うとった」
「いえ、情報の仕入れは早いほうがいいッスから」
イチャイチャを見せつけられただけで本来得られなかった情報を貰えたのはむしろラッキーです。
ちらっとまだ倒れている棗に目をやります。
胸デカいな……いや違いました。俺もこんな全力で好きになってくれる彼女が欲しいな、と思いました。
できるよきっと。あと一年もしないうちに胸が大きくてとびきりいい女に出逢えるよ。そこへ辿り着くまでに汚いおっさんを愛することになるけれど、おっさんを心から愛した思い出は残るけれど、きっと乗り越えていけるさ頑張れ檜佐木。
「他に何か気になったことはありますか? 何でもいいです」
「あと何やっけなァ。ほんまに見えたんか頭突きされて目の前がチカチカしたのか区別がつけへんのやけど、何かがオレンジ色に光ったてのはまだ言うてへんかったか」
「オレンジ色の光?」
今聞き返したのは檜佐木ではありません。棗です。気がついていたようです。余韻にでも浸っていたのでしょう。
彼女はひょいと起き上がりました。正気そうな顔をしています。
「どないした? オマエ聴取のとき隣におったんやから聞いてたやろ?」
「あのときはショックで何も聴こえませんでした」
「ほうか……」
「真子さん、父に会っていただけませんか?」
な ん で ?
檜佐木と平子の頭は同時にそれだけでした。
オレンジ色の光 → 親に紹介
脈絡のない流れに『なんで?』の極みの平子と檜佐木を置いてけぼりにして棗は「少々失礼します」と伝令神機を出して通話します。
「もしもし、兼彦? 頼みがあるのだけど。お父様へ真子様に会っていただきたいとお伝えてしてもらえる? とても急ぎの用事があるからできるだけ──数日中にほどに早くと。ええ、よろしくね」
通話を切りました。
「待て棗オマエ、突然親父さんに会えてオマエ、どういうことや!?」
「オレンジ色の光で思い出したものがありまして。しかし私ではわからないので父に確かめていただく必要があるのです。急がないと」
いいともなんとも言ってないのに棗が勝手にアポ取り始めてしまって冷や汗を掻き焦る平子とは反対に棗は冷静さを取り戻していました。
どうやら急遽しなくてはならないことを見つけて頭が切り替わったようです。
本当に冷静さ取り戻したか? 取り戻してないな。これは本人は頭が冴えたつもりでいて半分くらい錯乱が続いてるやつです。
おそらく本人にとっては行動に合理性があるのでしょうが話の筋道が全く説明できていません。
あっ、と思いついたように棗は言います。
「母は関係ないのでお会いにならなくて結構ですよ」
「ご夫婦揃ってお迎えしてくれるやろなァ!!」
平子が畳を叩きます。
棗の伝令神機が鳴りました。棗は「失礼します」と断って電話に出ます。
一通り聞いたあと、平子に言いました。
「よかった。父は是非会いたいとのことです。急ぎなら予定を調整するのでいつが良いか言って欲しいと」
「もしもォーし棗サン!? 聞いとる!? 俺はまだ会いたないんやけど!?」
「ま、まあ明日檜さん、話を整理してもらえないですか? 霊圧泥棒に関係あることなんスよね?」
「勿論です」
無関係な檜佐木は本筋を見失ってはいませんでした。平子は何やら頭を抱えていますが真剣に交際しているなら彼女の親に挨拶するくらい男の義務でしょう。
できる男、檜佐木修兵。棗がちゃんと順番通りに話してくれるように尋ねます。
「今回の霊圧泥棒事件が始まって平子隊長が被害に遭っても先程までは何も思い当たることはなかったんですよね?」
「霊圧を吸い取る能力の斬魄刀をお持ちの方は多くはありませんけどいらっしゃいますからね。そういった能力は対策をされると不利なので刀の主人は隠したがるものです」
以前檜佐木と交戦した綾瀬川弓親もその一人でした。彼の隠したがる本当の理由は別のところにありましたが。
「ですから知らぬ誰が持っていても不思議には思わなかったのです」
「それでどうしてオレンジの光という言葉に反応したんですか?」
「その前に霊圧を本人に取り込むのではなく別に溜めているような、というお話がありましたでしょう? 霊圧を吸う、溜める、オレンジ色、この三点に共通する物を思いだしたのです」
「物ですか」
「はい。50年ほど前にうちの蔵から盗まれた宝物にそのような能力を持つ物がありました。オレンジ色の玉飾りだったはずです。
私は蔵の物には触らないようにしていたのでそれが真子さんに使われたかどうかわからないのですが、父なら分かります。ですから痕跡が消えてしまう前に急いで会っていただきたいのです」
見事痕跡が残っていれば凶器が特定できるということです。
事件解明にその調査は必須です。
「だったら平子隊長より新しい被害者が出たときにすぐその人を見てもらったほうがいいんじゃ?」
痕跡が消える前にと急がなくてもそのほうがはっきりするでしょう。
顔色を悪くした平子がため息をつきました。
「俺やなきゃ親父さん会わんやろ……」
「まあ、はい、そうです」
「修兵知っとるか? このスーパーパシリ、京楽サンと同レベルの上級貴族で親御さんが跡取り候補にしとるお嬢さんやて」
「上級貴族」
パシリなのに? 修兵は戦慄します。誰だよそんなお嬢さんをパシリって言い出したの!
誰って、九番隊にいるんじゃないですか? あのあと直接顔を合わせました。彼女の足の速さや仕事っぷりを褒めてます。自分と同じスーパー付けてるくらいなので。
割愛しますが広まったのは拳西にも責任があります。
「そのお嬢さん嫁に貰うつもりの男が初めて親に挨拶に行くいうたら、瀞霊廷に家1件建つくらいの手土産持ってったほうが礼儀正しいわけや」
「瀞霊廷に家1件……!」
飯にも困るほど貯金のない檜佐木からするととんでもない金額です。もし用意しろと言われたらフル借金です。
あれ? 平子隊長って尸魂界に戻ってきてからまだ──
「なんで俺が往生してるか分かってくれたか? 気持ちの問題とちゃうで」
「はい……!」
「お気を遣わなくて大丈夫ですよ。我が家の物が凶器の可能性がある事件のためなんですから」
「オマエその話、通話口でしてへんかったな」
「あ……、……あっ!?」
「この速さで会う会うてオッケー出してくるの、親父さん何のためやと思てると思う?」
「あぁぁぁぁぁぁ」慌てて棗は伝令神機を掴みます。「兼彦! お父様に! 直接お繋ぎして!」
彼女が話している最中、頭痛が酷そうな平子に檜佐木は気になっていたことを尋ねてみました。
「さっき平子隊長、明日檜さんを八割ぐらい嫁って言ってましたけど残りの二割は何ですか?」
「あいつの名字が平子やないことやなー」
「俺がこういうのも何なんですけど、それたぶん二割じゃないッスね……」