平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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Precious the Treasure. 5

 ひとまず京楽のことはおいておき、席(ソファ)について形式的に互いにご挨拶をしました。

 

「改めまして。お初にお目にかかります。棗の父、明日檜桜治郎です」

「母の雪江です」

「どうも……平子真子です。お嬢さんとはエエお付き合いさせて貰うてます」

 

 手土産のほうはこの短期間で一点ものをいくつか、という用意は難しかったため、反物や食べ物、現世から取り寄せた尸魂界では珍しい品を種類と質と量でまかなって先触れの際に運び入れて貰っています。

 手ずからは棗から桜治郎が好んでいると聞いた高級菓子屋の大福を渡しました。雪江のほうの好物という赤飯は直接渡すものとしてはやめておき、代わりに良い小豆を贈っています。

 

 檜佐木には大雑把に手土産は家1軒と言いましたが本質的に重要なのは『自分はあなたがたが大事に育てた娘さんの生活レベルを落とさせない男です』と親に伝え、『この家は娘をこれほど価値ある女性に育てましたよ』と周囲に見せて明日檜家を立てることです。

 護廷十三隊の隊長である平子相手だとむしろ平子に選ばれるほうが名誉なことなのでそこまで大仰にしなくてもいいのですが、体面はほどほどに保っておいたほうがいいでしょう。

 

 桜治郎は尸魂界に似つかわしくない洋風の、しかもセレブっぽい部屋を見渡します。

「この部屋はいかがです? 棗が平子隊長と結婚すると言い出したときからいつかこんな日が来るだろうと思ってこつこつ用意していたんです。現世生活が長い平子隊長はこのほうが落ち着かれるのではないかと」

「お気遣い痛み入りますー」

 全く落ち着きませんね。平子たちが潜伏していたのは使われてない廃屋とか廃工場とかそんなところばかりでした。こんな金持ちがウィンタースポーツを楽しむ用に持っている山の別荘のような場所に縁はありません。

 誠意は感じられます。尸魂界でこれだけ揃えるのは大変だったでしょう。

 でもだったら先に言っておいて欲しかったというか、こんな部屋に通されるなら隊長羽織脱いででもスーツで来たかったというか。

 

「服も現世風にスーツというやつにしたかったのですが似合っているかどうかがさっぱりわかりませんでしたので、失礼のないようにやめておきました」

 良かったです。

 これで桜治郎がスリーピーススーツで固めていたら平子は「着替えてくる」と帰らない自信がありません。

 

「で、なんでそないなお気遣いいただいとるトコに京楽サンがおんねん」

「桜治郎さんとは昔からの付き合いでね」

 貴族社会は上に行くほど狭いです。仲の良さはさておき、上級貴族の当主同士や嫡子はほとんどが顔見知り、どんなに縁がなくとも顔と家名くらいは知っていると言っていいでしょう。

 京楽と桜治郎も家絡みで知り合った友人なのでした。

 

「何日か前に『棗がとうとう平子隊長を連れてくる!』って連絡貰ってさ。長女の菫ちゃんはウチの隊にいるんだけど彼女も『棗様が本邸に平子隊長を連れてくるのでお休みをください!』って言うし」

「で?」

「そんなこと聞いたら遊びに来るしかないじゃない」

「七緒ちゃんよう許したなァ!」

 京楽はニコっとします。

「もちろん黙って来たさ」

「帰って仕事せえ」

「だってねェ、やっぱり気になるじゃない。百年前に桜治郎さんから『棗に想い人ができた、君と同じ隊長職の方だから取り持って貰えないか』って言われてさ。

 棗ちゃんも子供の頃から知ってる子だしボクも力になってあげたかったんだけど、その矢先にあの事件でしょ。とっても傷ついてるのがわかっちゃうのにお客には作り笑いする棗ちゃんの姿を見るのはつらかったよ。だから二人がうまくいってくれてボクもとても嬉しいんだ」

 

 しみじみと語る京楽です。

 百年、棗の『こいつ幸せになれなさそう』は京楽も感じ取っていましたからね。しかも相手が苦労に苦労を重ねてきた平子です。

 薄幸な娘と苦労人の男が結ばれて両方が幸せになるって素敵なことじゃありませんか? 祝福するしかないでしょう。

 平子は棗に言いました。

「オマエは俺のことで全方位に心配かけすぎや」

「それは私というより周りの皆さんが優しい方ばかりなだけだと思います」

 

 京楽がいることに納得して貰えたと判断した桜治郎は話を進めます。

 平子、理由は分かっても納得はしてませんが。

「そういうわけで我が家としては──私としては棗が平子隊長と婚姻するのは大歓迎なのです。つきましては平子隊長にはぜひ明日檜家に入っていただきたく」

 棗の親父やなァー! 平子は心中で突っ込みました。

 そういうのは様子見をしつつタイミングを見計らって切り出すものでしょう。

 棗もデートの初っ端から好きだと言っていましたね。明日檜親子、言いたいことはさっさと言います。話が早くて良かったり、早過ぎて悪かったりします。

 

「はァー……最初にハッキリ言うときますが、棗は貰うてくつもりです」

「そう言わず。平子隊長に我が一族に入っていただいて棗が家督を継いでくれたら明日檜家も安泰です」

「婿に入るのが嫌なんやないて言うたら理由は分かって貰えると思いますけど」

 桜治郎は困った表情で腕を組みます。平子の懸念は分かるは分かるのです。

 外に出てしまえば棗は安全になるでしょう。しかし彼の子供たちはあと四人います。父親として棗さえ安全ならいいというわけにはいかないのです。

 桜治郎が考える『全員が一番安全な道』は護廷十三隊の隊長を後ろ盾にした棗が跡継ぎになることでした。隊長夫人に手を出したときの報復は想像に難くありませんし、棗に手を出せなければ他の子に危害を加えても意味はありません。

 

「まあまあ桜治郎さん。そういった話はまた今度にいたしましょうよ。本来平子様の御用は別のことだったのでしょう?」

「ああ、そうだったな」

 雪江が取りなして少々ピリついてしまった空気を和らげます。

 本来桜治郎との面会は霊圧泥棒事件の解決のためでした。

「蔵に場所を移しましょう。ついてきていただけますか。

 日輪、そこにいるか?」

「はい」

 ドアが開いて日輪が顔を覗かせます。

「蔵の鍵を持っておいで。

 平子隊長はどうしてこうも明日檜家が血縁同士で争うのか疑問に思っていることかと思いますが、凶器の判定のついでに原因を直接お目にかけましょう」

 

 普通の家督争いや派閥争いの内ゲバではなく人に見せられるような原因があるとは初耳です。棗を見ると彼女は冷や汗をかいて平子と目を合わせようとしませんでした。わざと黙っていましたね。

 父親がそのあたりのことに触れないよう祈っていた棗でしたが、祈りは届きませんでした。しかしどうせいつかはバレるものです。

「棗チャン」

「ふぁい」

 平子はため息をつきました。

 これは『言ったら面倒くさい女だと思われて捨てられちゃうかも』が怖くて黙ってたケースです。そうなると責められなくなってしまうのですが。

「オマエがいくら面倒くても貰うたるって言うてんのにそれ信用してへんのは怒てんで」

「………………」

 平子が好きで嫌われたくなくて必死なのは可愛いですね。それに免じて今回は許してあげましょう。

 

 でもとりあえず許す前に『移動中視界に入らない刑』に処しました。平子が真後ろを歩くので、近くにいるのに棗は平子の顔を見ることも手を握ることもできません。

 こんなので被ダメする可愛い姿を楽しんだ後に許します。

 大体メンドいもメンドくないも平子には既に棗を貰うのをやめる選択肢はないのです。好きだからという感情面ではなく、物理的にもう棗とすることをしてしまっているので。

 女は結婚まで純潔を貫くもの。現世ではもうだいぶ古くなっていますが尸魂界の貴族社会ではバリバリ現役の価値観です。

 棗はもう処女ではありません。主に平子が抱いたせいです。

 お互いに求め合っての行為とはいえ、そして最近は平子のほうが喰われ気味とはいえ、平子は桜治郎の性格によっては「よくも嫁入り前の娘を!」とぶん殴られても文句言えない立場です。

 

 棗もそんな、肉体関係、家、結婚、世間体、の関係はわかっていて、そうそう平子が「やっぱりやめた」などとは言い出さないはずであると知っています。

 ですが、「やっぱりやめた」と平子が言ったなら受け入れます。翻意を乞うことはしても、それでも拒絶されるなら最終的には受け入れます。平子が自分といることで幸せになれないというのなら、それを尊重します。

 そのあと平子が「俺とは関係ないやろ」と判断するくらいの時間が経ってから身投げとかはするかもしれませんが──。

 体の関係があるから大丈夫だとは全く思いません。

 

 と、いうのを平子も分かっていて「しょうがないやっちゃなァー」と思っています。時間をかけて信頼してもらいましょう。

 時々「好きや一生傍にいてくれって言うてるのに棗が信じてくれへん、俺の何があかんねや」などと嘆き悲しんでやれば逆説的に安心するようになるでしょう。

 

 一歩ごとに真子さんポイントが減っていく棗と、帰りの馬車の中で抱きつかれたり匂いを嗅がれたりあちこちちゅっちゅされることをまだ知らない平子を見て京楽が言います。

「平子隊長のそんな顔は初めて見るよ」

「どんな顔や?」

「恋人がいて人生楽しそうな感じ」

「まァ、せやな。テンションダダ下がりすることあっても『まあエエか! 俺生きてるだけで棗が今日も幸せやろ!』てなるからここんとこの俺のQOL爆上がりやで」

「これからはずっと傍にいてあげてよ。君を失った棗ちゃんをもう一度見るのはゴメンだからね」

「精々長生きしよとは思うとる。ほんでも棗ェ、俺が先死んでも後追いしなや」

 平子は棗の毛先を一摘みして軽く引っ張ります。これから真っ二つになって死にそうになるのは棗のほうですが、それはまだ少し先の物語です。

 棗は弱々しく応えました。

「想像したくありませんが、真子さんとの子供がいれば生きていられると思います」

 棗お腹で真っ二つになるけど子宮大丈夫? という心配については大丈夫です。

 斬られたのは子宮よりギリ上でしたし、上下が離れたせいで飛び出した内臓は全て回収されましたし、山田清之介と織姫の治療能力は尋常ではありません。

 

「子供かァ。楽しみにしてるよ。二人の子供は可愛いだろうね」

 京楽は血の繋がりもないのに親戚のおじさん顔です。きっと菫にもこんな感じなのでしょう。

「俺と棗の子ォでカワイないの生まれてくる道理があれへんな。それはともかく京楽サンなんでまだついてくるん?」

「興味?」

「とことん遊びに来てんねやな」

「一応、護廷の隊士が犯人である可能性が高い以上、隊長の一人として霊圧泥棒が使っている凶器判定の第三者立ち会いのつもりでもあるよ。もしかしたらウチの隊の子かもしれないし」

 

 当然山本総隊長には犯人が瞬歩を使ったため隊士である可能性が高いことは報告しています。隊長たちの間でも情報共有は行われました。

 平子も明日檜家も当事者になるので、信用のおける第三者の立ち会いは要るか要らないかでいえば要ります。だから檜佐木が来るとよかったのですが、京楽のほうがより適しているでしょう。

 

「部外者が明日檜家の宝物庫を見る滅多にないチャンスを逃したくないっていうのが強いのも本当だけどね。知ってるかい? 明日檜家が保管している宝物って一つや二つじゃないんだよ」

「そうなんか?」

 真子さんポイントがガリガリ減っている棗は感情レベルが『消沈』にまで下がっているのであんまり聞いていませんでした。

 平子はそろそろ終わりにしてあげることにし、袖を引っ張ります。

「棗、明日檜家の宝物ってどんだけあるん?」

「いっぱいあります。非下賜品特別秘宝・稀宝と中央から認定されているものだけでも二十くらい」

 やっと平子が横に並んでくれたので棗の感情レベルは右肩上がりです。株ならストップ高です。現金です。

「そないあるんか」

「重要財宝の認定となっているものも含めると五十、そのほか取るに足らないものもいくらか。

 売れるようなものではないので金銭的な価値はあまりありませんが、保存・管理料、たまに貸し出し料としてかなりのお金が入ってきます」

「そういう物て実際管理に金も手間もかかるんやろ? 下級貴族が下手にエエもん持ってるせいで貧乏しとるって話聞いたことあんで」

 

 棗の声のトーンが落ちました。

「うちの警備、防護、保管は既に設備が整っていて継続的な維持費がさほどかからないため、掃除しているくらいでいいもの……つまりほぼお金だけ入ってくるものがそれなりにあって……それが殺されかかるのが主に菫様や私である理由です……。

 見えました。あれが外蔵(そとくら)です」

 

 彼女が指を差した先には蔵というよりは塔といったほうが相応しい、殺気石で出来た継ぎ目の少ない建造物がありました。

 

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