平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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Precious the Treasure. 7

 蔵そのものよりもだいぶ後に作られているのがわかる作業机の上に、雪江が欠けや黴はないものの古びた木箱を用意していました。

 開けても、中は緩衝材として使われていた綿と絹が残っているだけでした。

 盗まれた宝の入っていた箱です。

 

「この蔵に収められた物は大部分が特殊な力を備えています。どなたかが遺した斬魄刀の能力を留めたのか、写し取ったのか、といったものも多い」

「不思議だよねぇ。ボクらも生まれていない大昔になんでそんなことができたんだろう」

 近くにある棚の箱を京楽が開けますが、特に桜治郎は咎めません。

「明日檜家の祖先か、それが雇った技術者の仕業だとははっきりしているんですが」

「あっちの蔵見れば一目瞭然やな」

 自分が作ったことを証明するためにあんなに血を強調した構造にしたのでしょう。自己主張が強いことです。

 

 桜治郎は盥の水で手を洗い、雪江から渡された手拭いで水気を拭き取ります。

「力ある宝にはそれぞれ違った波長があるので、こうして長期間保存していたものに残っていたそれと接触の際に移ったものが同一かは触れば分かります。平子隊長が犯人に触られたのは口でしたか。触らせてもらっても?」

「ハイ」

 おっさんに唇触られるのはメッチャ嫌でしたがしょうがないので了承します。手を洗ってくれたのは良い心遣いです。

 桜治郎は平子の口に触れた指で箱の絹に触りました。

 

「真子さん」

 鑑定結果を聞こうとしていた横から棗に呼ばれて首を隣に向けると返事をする間もなく白い手が伸びて顔を両側から掴まれました。

 ぎゅーっとキスをされます。カサついた男の指の感触を柔い乙女の唇で上書きされるのは悪くなかったですが、完全不意打ちで引っ張られて首が痛かったです。

 

「オマエなァ! 自分の親父やぞ!? 触れたん親父の指やぞ!?」

「違います、そういうことではなく! 嫉妬とかではなく! なんか、なんか嫌で……!」

 確かに嫉妬とは違いますね。『お父さんが恋人の唇に触れたの気持ち悪い』は女性としては普通の感覚ではないでしょうか。

 そこで湧いた気持ち悪さを解消するのにキスという出力を両親と姉、客の前でやっちゃうのが棗のアカンところです。逆にその面々だから我慢しなかったのかもしれませんが。

 二人きりになってから嫌だった気持ち悪かったと甘えてくれれば平子だってよしよししていくらでもキスしたんですよ。棗とキスなんてどれだけしても良いのですから。

 

「若いっていいねぇ桜治郎さん」

「私が取り持ってくれなんて言ったばかりに、春水さんには心配をかけてしまって申し訳なかったね」

「いやぁ、鳳橋隊長に先を越されちゃったから結局ボクは役に立てなくて。こっちこそ申し訳ないよ」

「ホンマモンの親父さんはともかく京楽サンはその謎の親戚面やめてくれへんか!? あんた俺があんまり若ないの知ってるやろ!」

「でもそんな情熱にあてられたら自分も若い気になるでしょ?」

「そらァなるけどな! 大人の余裕やてカッコつけたって何も楽しないしおんなじテンションで好きやてしたったほうが棗かて嬉しいやろ! って親父の前で何言わすねん!」

「桜治郎さん、父親としては娘がよその男とラブラブなのってどんな感じ?」

「棗に限ってはよかった、助かったに尽きるよ……。平子隊長が妻に望んでくれなければ棗はどうなっていたことやら」

 

 棗は見合い話が来ていると言うだけでも目が暗く曇りました。相手の家を立てるために出席だけでもしてほしいと頼めば本当に出席だけでいいなら、と了承し、当日は完璧な上級スキルで義務を果たしますが、自分の屋敷に帰ってから部屋に閉じこもって「絶対に生きてるもの……」と枕を抱えていました。そして桜治郎はその事実を侍女から報告されていました。

 娘の気持ちを尊重したくても親としては何とか立ち直ってもらいたいものです。結婚が全てではないですが、失恋の痛手を癒すのは新しい恋だとも言います。

 棗が気に入りそうな同系統の男性を探そうと平子の情報を集めて「似た男を用意するのは無理だな」ってなったりもしました。

 藍染惣右介が退けられ、失われていた隊長格の生存が確認され、五番隊に平子が復帰すると聞いたときは真っ先に何とか棗と、と思いましたし、とりあえずは平子に妙な話が行かないように手を回しました。

 しかし、親が何をするまでもなく棗は自分が築いた人脈を元に平子との出逢いをやり直し、求婚してもらっていました。

 可愛がって貰っているようで何よりです。これで平子が明日檜家に入ってくれたら言うことなしです。

 

 桜治郎の様子から諸々感じ取れる平子は居心地悪いことこの上ありません。

「もうええから桜治郎さんは鑑定結果言うてくれます!?」

「黒ですよ。これが凶器です」

「あっさりやな!」

 桜治郎は腕を組んで思慮深い表情をします。

「内実はあっさり行かないのが困りものです。これが凶器となると犯人は確定してしまった」

「犯人がわかったんですかお父様!?」

 平子に眉間を押されていた棗がその指をどかして父親に詰め寄ります。

「どこの! 誰に! 真子さんの唇を奪った罰を下せば良いのです!?」

「宿紫家の下の娘だ。確か十二番隊に勤めていたな」

 

 棗は動きを止め、スンとしました。先程までの勢いが嘘のように言い淀みます。

「あの……私……犯人を極刑にとは申しましたけれども……ヒトの形をしなくなるほどのことまでは望んでいなくて……」

「よう言うた。それGO行く女やなくて安心した。

 で、どないしよか京楽サン」

「ボク聞かなかったことにできない……?」

「人の幸せ散々楽しんでくれたんや。お代は払うたで」

「どうしようか……」

 

 

 桜治郎は語ります。

 

「宿紫家というのは明日檜一門の末端の傍系程度にあたる家です。あの玉を盗んだのが宿紫だとは当初から調べがついていたのですが、盗んだ事情も事情だったので使い終わるまでは目を瞑ってやるつもりだったのです」

「上の娘が霊圧不全症を患って、生きるのに必要な霊圧を自力で生み出せない状態になったのが約50年前。この病気は衰弱してやがて死に至りますが、定期的に霊圧を回復してやれば長らえることもできます」

「しかし家族にそこまで回道の才がある者はなく、治療の費用を継続的に捻出するのも難しい。それで思い余ったのでしょう、春の催しの展示品として出していたあの玉を盗んだのです」

「日頃は家族が霊圧を分け与えて、それでも追いつかないときはたまによそから調達していたようです。この数週間でこれだけ盗まなくてはならないということは容態がだいぶ良くないのでしょう」

「他人が言うのも何ですが、あそこの家は上の娘に比べて下の娘の扱いが傍目から見ても酷い。使用人のように扱われているので、犯人が若い娘であれば下の娘に間違いないでしょう」

「名前は──菊乃といったな」

 

 

「マァ、処理に関しては公明正大で慈愛と博愛の化身である私に任せてくれ給え。何、悪いようにはしないヨ。

 ……って言うで。マユリ」

「だからといってボクたちが彼女に何かするってなったら涅隊長の頭を飛び越すわけにはいかないしねえ」

 絶妙に似てると似てないの間でマユリの物真似をした平子の芸に関してはコメントをせず京楽も悩みました。十二番隊の隊士に対して何かをするのに五番隊と八番隊の隊長が涅マユリに話を通さないのは問題です。

 

「桜治郎さんどう?」

「私の立場としては宗家たる我が家の宝を盗んだ上に罪を重ね続けている者の利になることはできないね」

「まぁそうだよね 他に被害も出てるしね」

 京楽が暗に身内の不祥事として揉み消せないか打診してみましたが無理でした。

 盗まれた物を放置するのは事情を鑑みると慈悲です。しかしその盗品を利用して罪を犯しているのを庇ってやることまでするのは法的にも面子からもできない相談です。

 

「十二番隊以外やったら捕まえれば終わりやったのに メンドいことになったのォー」

 他の隊であれば、捕縛すれば菊乃は所属の隊長の名と責任で処分が決定され、護廷十三隊から除籍。霊圧泥棒事件は犯人不明のまま捜査打ち切り、宿紫家は宝玉を盗んだ罪で貴族籍剥奪の上で流魂街に追放といったところが妥当でしょうか。

 被害者に貴族はいないのでそれより悪いことにはならないでしょう。上のお姉さんは残念なことになるでしょうが、いたしかたありません。

 これが十二番隊になると最初の『隊長の名と責任で処分』のあたりで菊乃の人権が怪しくなるのです。一応貴族なので本来なら無下に扱うことはできませんが、どうも彼女は捕まったらまず両親からトカゲの尻尾切りをされそうな様子です。

 指示されているとしても実行犯。裁きは受けなければなりませんが、さすがに人権は守ってあげたほうがいいでしょう。人として。

 

 桜治郎が尋ねます。

「涅隊長が菊乃に何もしない可能性は?」

「無くはないけど、運を天に任せる感じだね……」

「あいつ何も悪さしとらん自分とこの隊士爆弾にして織姫ちゃんたちにけしかけたことあるって噂で聞いたで」

「それ、本当だから困るんだよ」

「あぁ……」

 

 最後の悲痛なため息はずっと黙っていた雪江のものでした。

 雪江はもれなく豪華なスタイルの娘たちよりもひと回り小さいですが、どことなく単に子供を五人も生んで少し痩せただけなのでは? といった趣のあるスタイルをしています。

 本人は自分のため息がそれほど大きく響くと思っていなかったようで、視線を集めてしまいきまり悪そうにします。

「何でもありませんのよ」

「何でもないため息じゃなかったよ。ボク、さっきから雪江さんが黙ったままだったのは気になってたんだけど」

 京楽が促すと雪江は首を振ります。

「どのみち罰を受ける菊乃が哀れで」

 

 雪江が語ります。

 ──数十年前、宿紫の当主が代替わりした際、挨拶に『一家』で明日檜邸にやってきたときのことです。

 祝いの膳を設け、女主人である雪江が従者へ菓子を振る舞いに彼らの休む部屋に行くと、彼らは互いに視線を交わして何事か言いたげにしました。

 菓子の他に小遣いが欲しい様子ではありません。火鉢にくべる炭も足りています。

 どうしたのか訊くと、とてもとても言いづらそうに車の中に一人残っている者があると彼らは言いました。

 それが菊乃です。紛う方なき宿紫家の娘です。彼女は親の言いつけで邸内に入ることを許されませんでした。

 

 すぐ中に入れて火に当たらせ、食事を摂らせましたが雪江は苦しみました。性根が腐っている貴族は珍しくもありませんが、それらの欲望の種類には幅がないので御しやすいです。しかし、この理解し難い歪みに一律の対応はできません。上からやめろと命じても解決しないことは知っています。

 かといって「扱いが悪いみたいだから」と明日檜家で引き取るのは問題がありすぎます。

 常駐している回道の使い手に痣を治させる以外具体的なことは何もしてやれませんでした。その後も気になっていて、彼女が死神になってからは独り立ちできると安心していたのですが。

 

「まさかあの両親から逃げられずに 言われるがまま罪も犯すようになっていたなんて」

 もう蔵の中の空気がお通夜です。

 平子はドン引きですし、京楽は表情が苦くなるのを止められず、棗は唇を噛んで涙目です。

 

「もう俺が霊圧吸われたとか猥褻被害にあったとか、そんなことよかその子、親から助けたったほうがようない……?」

 

 その言葉を否定する者はありませんでした。

 

 

 

 

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