平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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夜→浦あり





Precious the Treasure. 9

「それで儂の出番というわけじゃな!」

 

 明日檜本邸からの帰り際、「ほな棗は貰うて行きますんで~」と平子がどさくさに紛れて了承したような返事をさせようとし、しかしやはりその程度の小細工には引っかからなかった桜治郎に「平子隊長の決心がつくのをお待ちしております」と返されてしまった数日後です。

 面倒くさい事件をこっそり片付けてしまうために登場を願われたのが四大貴族の権威を持ちつつ自由な立場貫く四楓院夜一です。

 いつも通り昼休憩に弁当を一緒に食べて、平子にひっついた棗が多幸感に浸っているとき、夜一は颯爽と外から直接登場したのでした。

 

「出番っちゅーか名前と場所貸してくれればええんやけどな」

「つまらんことを言うでない、どうせじゃ儂も混ぜろ」

「混ぜろて。京楽サンから事情聞けへんかったんか? あんまおもろい話やないやろ」

「ご無沙汰しております夜一様」

 いきなり会話が始まった中、それでも身分的に欠かせない挨拶を棗がすると夜一は嫌そうにします。

「堅苦しい呼び方はよせと言ったはずじゃぞ。年も近い女同士じゃ気軽に呼べ」

「それでも私の身分で『夜一さん』では気が引けます」

「良いと言ったら良い。なんなら呼び捨てでも構わん。……何か言いたげじゃな平子」

「気のせいや」

「それにしても平子に女ができたのは聞いておったが桜治郎の娘だったとはの。随分と高嶺の花が手に入ったものじゃ」

「そうでしょう!?」

 

 平子に言ったはずの言葉に棗が応えたので夜一は面食らいました。

 棗は平子の腕を抱いて頬ずりをします。

「私のような者が真子さんを旦那さまにできるなんて幸せだと夜一さんも思いますよね!? 本当に、真子さんは優しくて、私でもいいって言ってくださって」

「夜一、棗は俺のこと世界で一番エエ男やと思うとるさかい俺のほう下におくと話噛み合えへんで」

「なるほど。桜治郎の四女といえばいつ訃報が入っても誰も驚かんような娘じゃったのに変われば変わるもんじゃな」

 あと棗がモテないのも自分を指すと思わなかった一因ですね。

 棗が持つ一般的な感覚で『高嶺の花』のイメージは、身分が良くかつ不特定多数にモテる人物です。

 棗はお見合いや茶会などで話す機会があれば好感を持たれたり、明日檜家の重要人物として是非にとお申し込みはありますがそれはモテるとは違いますからね。

 隊でも距離を置かれてましたし、彼女が少しずつ変わり始めているとはいえ、まだ親しみ深く思われているとは言えません。

 最近はパシられているせいで他の隊からの評判のほうがいいくらいですが、パシられ始めたときには予約済みです。

 うん? 世界で一番いい男である平子がモテていないわけがないでしょう?

 

「カワエエやろ?」

「来るのではなかったな」

「冗談や。で、何の用もなく来たんとちゃうやろ。何持って来たんや」

「冗談……、まあ幸せなのはいいことじゃが。

 菊乃とかいう娘の情報を持ってきてやったぞ。隠密機動は早くから犯人の特定をしておったようじゃな」

 

 衝撃の事実です。

 隠密機動が犯人を突き止めていたなら、先日平子が予定を繰り上げて明日檜家に行ったのは一体なんだったのでしょうか。行くなら棗にダイヤの指輪買ってあげてから行きたかったんですよ。

「犯人わかっとったんかい」

「隠密機動は無能ではないぞ」

「いつからや」

「3、4件目の犯行の後には突き止めていたようじゃな」

「俺の被害よか全然前やんけ! はよ捕まえろや! とんだ給金泥棒やな!」

「貴族で、隊士で、明日檜の秘宝を使っておったからのう。面倒な身分じゃし後ろに桜治郎がいるのであれば下手に捕まえられんじゃろ。明日檜一門はたまにやたら過激なのがおるから不興を買うと後々に響く」

「すみません……」

 

 夜一の分のお茶を取りに行ったついでに実家からお菓子を持ってきた棗が恐縮がります。ここでいう実家は彼女用の館です。五番隊舎は近いのです。

 彼女が皿に出したもなかを掴み、夜一は一齧りします。

「それで捕縛は保留していた、というのが隠密機動の言い分じゃな」

 平子的には複雑ですね。

 早く捕まえられていれば平子は被害に遭いませんでしたが、犯人はアレな感じになっていたでしょう。被害に遭ったので、それを避けさせてやることができます。

 

「ハァ……また貧乏くじや。俺いつもこういう役回りやな」

「でも放り出したりなさらないところが好きです」

「すかさず言われるとしゃーないほんならまァええわ、ってなるからオマエはメンタルにエエ子や」

「犯人についても面白い情報を読んだ。菊乃は席なしじゃ」

 席官ではない。おや? おかしいですね。

「あいつ瞬歩使ったで? ヒラにできる芸当やないやろ」

「遠征のたびに班の『菊乃以外の誰か』が目立った戦果を挙げる」

「……手柄を譲ってやっとるんか? 何でそないな真似──あー……」

「十二番隊の会計方は本人に直接給金を渡すのを禁じられている」

 死神として身を立てられないようにされているのですね。

 

 夜一は指に付いたもなかのカスを吹いて言います。

「こやつの親、最低じゃぞ」

「改めて聞いても理解に苦しむわァー……どうして姉さん大事にして妹そない粗末にできんねや」

「腐らず精進しているあたりは見どころのある娘じゃの。

 ところで平子」

「何や?」

「なぜそれを止めぬ?」

 会話に割って入らない棗は話を聞きつつ平子にくっついて彼の手を膝の上に置いて握ったり撫でたりしています。昼休みは残り短いのでできるだけ平子に触っておきます。

 平子の指を甘噛みするのが棗の最近のブームなのですがそれは我慢しています。

 

「オマエならわかりそうな理由で俺こいつがくっついてくるの退かせへんことにしてんねん。机の下でやっとるんやしそっちからは見えへんやろ。気にしなや」

「うざいことこの上ないわ! 人が黙ってみておれば調子に乗ってイチャつき続けよって」

「夜一がうざいて言うてるで棗」

「夜一さん」

 棗は真剣に言いました。

 

「私は真子さんが大好きで大好きで大好きでたまらなくて、できるのであれば一瞬たりとも離れず触れていたくて、この感情は御しがたくお昼休みも残り少ないのでどこまででしたら許容範囲でしょうか」

 

 夜一は曰く言い難い表情で腕を組み、やや悩みました。

「……隣でくっついているのまでは許す」

 褐色の肌へバシバシに突き刺さってくる『平子が好き』の気持ちに免じて夜一は譲歩しました。

 乙女心には優しいのです。なぜなら彼女もまた乙女だからです。

 

「ありがとう存じます」

 厚意に沿って棗は平子の手を離します。

 夜一は呆れます。

「よくもまあここまで惚れさせたものじゃ。平子が身を固めるらしいと聞いて意外に思っておったが、これだけ惚れられてはのう」

「こいつなんもかも全開で来るからな、腹決めへんわけにいかんわ。

 多分喜助も俺と同じタイプやし、オマエも変な意地張っとらんでさっさと……」

「なぜ喜助の名前が出てくるんじゃ! 何の関係もなかろう!」

 

 わざとらしく平子は棗に耳打ちしました。

「百年以上ずーっとこれやで。棗、爪の垢煎じて帰り土産に持たしたり」

「夜一さんには夜一さんの思惑があるんですよきっと」

「喜助のほうから来て欲しいだけやろ」

「平子……どうやらおぬし少々痛い目を見たいようじゃな……」

 ユラッと夜一の毛先が風と関係なく揺れたときです。

 棗が腰を上げて机を迂回し、夜一の耳を囲うようにして両手で筒を作ります。

 小声でこそこそと何事か囁きます。

 

「……………………」

「それは、そうじゃろうが……」

「………………………………」

 囁き続けます。

 たまに夜一の眉がピクピクします。

「…………………………で」

 

「何話してん」

「北流魂街の一部にだけ生息する金色のカブトムシが一気に3匹獲れたと思ったら1匹クワガタだったときの話です」

「その嘘は失敗やな。ちょっと俺も聴きたい」

「祭様が飼っているので真子さんには後日お見せします」

「本当にいるんかい。しかも祭サン飼っとるんかい。ちゅうか祭サン流魂街に虫取りに行くんか⁉︎」

「わかったわかった! もういい! この話は終いじゃ! 捕り物の話をするぞ!」

 苦虫を噛み潰したような仏頂面で夜一は手を振って棗を追い払います。

 

 平子の隣に戻った棗はすまし顔でした。

「ホンマ何話したん?」

「殿方には内緒です」

「まったく、なぜ儂が見せつけられたり小娘に妙な耳打ちをされねばならんのじゃ」

 終わりと言いつつブツブツと文句を言う夜一です。

 何を話されたんでしょうね?

 

 概ねの内容をバラしますと棗が言ったのは、男性にはエッチのときにしか見せてくれない顔がありますよ、とか、想いが通じ合った後のエッチはとても気持ちいいですよ、とか、自分の手で愛する男性が快楽の表情を見せてくれるのは最高の気分ですよ、とか、あれのときに教わるアレは使えます! とかでした。

 何のためにそんなことをって? ただのガールズトークですよ。ふと仲良くなれそうなネタかもしれないと思いました。

 

「小娘て。年が近い設定が崩れてるで」

「やかましい!」

「夜一さん」

「何じゃ!」

「今度一緒にお茶をしましょう、是非」

「……考えておく」

「ホンマ何話したん……?」

 ツンデレたようになって言語外言語で『お誘いお待ちしております』と夜一が答えたので、平子には謎が深まるばかりでした。知らないほうがいいよ。

 

「今度こそ話を戻すぞ。京楽の話では隠密機動に捕らえさせて何だかんだと理由をつけ抑留しさっさと裁判にかけてしまえ、ということじゃったな」

「裁判になったら隊のほうに身柄は戻れへん。判決が出たら自動的に除籍になる。一隊士にマユリも執着はせえへんやろ」

「隠密機動のトップは砕蜂じゃぞ?」

「砕蜂ちゃんは二番隊の隊長や。隠密機動はオマエでも動かせるやろ? 元々四楓院家の私物みたいなもんなんやし」

「私物とは失礼じゃな。私情で動かしたことなど……あるにあるが」

「あるんやないかい」

「だから協力してやると言うておる」

「あの、いいでしょうか。考えていることがありまして」

 棗が小さく挙手して意見を述べます。

 

「現行犯として捕縛できないでしょうか?」

「なぜじゃ?」

「捕縛に私が参加したいんです。できれば縄も私がかけられるといいのですが」

「復讐か? やるのか?」

 宙でパンチをする夜一に棗は両手を前に出して急いで首を振ります。

「いえいえいえ、復讐とかではなく!

 ……せっかく真子さんや京楽隊長が菊乃さんの扱いを穏便に、とのことですので。ならば私が捕縛するのが最良かと思います」

 最後のほうになるにつれ若干むくれた気持ちが滲んできていました。

 平子が頑張って可愛がって甘やかしたので精神は安定しましたが、かといってやっぱり犯人を許してはいないのです。

 

「何でオマエが捕縛するのが最良なん?」

「明日檜家の宝を盗み利用した罪は重いですので、それに関しては重罰が予想されます」

「じゃろうな」

「犯罪者を捕縛した私が《たまたま》宝玉を盗まれた家の者であり、捕まえた流れで《たまたま》事情を聞いて哀れに思い、実行犯としての彼女の減刑を望むことは、確率は低くてもなくはないです。

 何かが出来過ぎな印象はあるかもしれませんが、作為を疑う意味はありません。何も知らない者から見れば、秘宝を盗まれているのに減刑を望むために捕まえるなんてことには整合性がないですから。

 《次期当主かもしれない心優しい棗お嬢様》の希望は裁判では明日檜家の意向と同等に聞き入れられるでしょう」

「それで親父さんは大丈夫か?」

「お父様は私が真子さんのために働くことくらいは見越してらっしゃるでしょうに何もするなとおっしゃいませんでした。

 お母様も哀れんでいますので、そうしても良いということだと思います」

 

 許してはいませんが、科されるであろう重罰よりも減刑を望んでいるのは嘘ではありません。

 平子はわしわしわしわしと棗の頭を撫でました。髪は乱れますが、棗は平子の手が自分に触れるのはどこであれ大歓迎なので微笑します。

 

「実は似たようなことを儂も考えていた。京楽が減刑してあげたいんだけど、などと言うし同情には値するからの。減刑を頼んでやるなら儂らくらいの者が言わんと相手にされん」

 京楽自身は隊長としての立場があるのでここにはタッチできません。

 夜一は当主から外れ、政治的影響力は薄らいでいますが、夜一が望むことは100%現当主の夕四郎が四楓院家の名前で通します。

 

「さて、ひと騒ぎ起こそうかの」

 

 夜一は悪そうに笑いました

 

 

 

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