平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら 作:架鍵キー
(「言わへん」「言わん」等の揺れはあります)
不可能は「言われへん」「行かれへん」です。
そう書いてなかったら非関西弁ユーザーの架鍵が間違っています。すみません。
飲みに行くのに面識がないに等しい女の子を連れていくと言って、平子が万が一にも怪訝に思って断るようなことがないよう、「雛森副隊長も一緒にどう? ボクもイヅルを連れていくよ」と誘ったら平子は軽くOKしました。
「奢るよ」の一言も非常に有効だったでしょう。
吉良はもちろんダシです。来ません。吉良が来られない代わりに、というテイです。
タイを渡したらそういうことだとバレるでしょうが、同時に目的は達成されるのでいいのです。
平子は嫌な顔をしないでしょう。たぶん察しますし。
そして約束の日が来ました。
退勤後、ローズは支度をし直してくる棗と店に行く前に待ち合わせをしていましたが、その時とても困惑していました。
なんと! 肝心の棗が来ないのです!
ええ……怖気付いちゃったかな……と思いながら待っていると10分ほどして華の香りがします。
彼女の斬魄刀『華紗波』の香りです。護身のために申請して、棗は常時帯刀が許可されています。
ふっとその場で生まれたかのように現れた棗は勢いよく頭を下げました。
「申し訳ありません鳳橋隊長! 寝てしまっていまひた」
棗は平子に認識してもらえる緊張で三日前からろくに眠れておらず、目元にできてしまった隈を少しでも和らげようと香草茶を飲み、目に温めた小豆袋を載せて15分だけ横になるつもりが寝過ぎました。
上司がはからってくれた大事な機会で出だしからやらかして言葉も噛みます。
恐縮しきりの棗ですが、待ち合わせ時間は早めにしていたのでまだ予約の時間には間に合います。
平子と雛森は直接店で落ち合う予定です。
それではちょっと早足でお店に向かいましょう。
棗はローズからの提案があり、平子の返事がOKだった瞬間マッハで店を選定し、そこそこのところへ予約を入れました。
誘った時点でローズは自分が代金を出すつもりでしたが、
「お金で買えない価値あるものをいただいています! どうか私に出させてください! お給金以外に投資による収入もありますのでご心配なく!」
と、めちゃめちゃ頭を下げられ、彼女の家柄を思うとここで自分が出すと言い張るとお家のほうの面子を潰すことになるかもしれなかったので引き下がりました。
祝い事でもないのに最上コースを予約していたのだけ変更させました。
余談ですが彼女、ダシに名前を使われる吉良には礼を言うのにもう少しで平伏するところでした。
(吉良が頑張って止めました。そしてお礼の品は要らないと言いました)
(ローズには完遂しました。平伏)
店に入り、席に通される直前に後ろから平子と雛森が入ってきました。
「珍しくローズが奢るっちゅうからごちそうになりに来たで。それにしてもエエ店やな」
「こんな良いお店に私までお招きいただいてしまってすみません。ご相伴に預かります」
二人は棗を見て首を傾げます。
「イヅル連れてくるんやなかったんか?」
「イヅルは急用ができたから、代わりに連れてきたんだ」
「明日檜 棗と申します。どうぞ棗とお呼びください」
棗は噛み噛みで言葉にならない──こともなく狂喜と混乱を見事に内側で抑え込んで微笑みます。
上級貴族スキル、秘技【顔だけ平静】です。
どんな感情のときも穏やかに話し微笑むことができなければ貴族なんてやってられないんですよ。
棗は100年以上磨き上げたスキルを駆使し、何とかつっかえずに挨拶ができました。
雛森がお辞儀を返します。
「棗さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、雛森副隊長」
「桃、知り合いなん?」
「はい。棗さんは霊術院の先輩です。合同の授業でよくお世話になりました」
「優秀な後輩に私がお世話することなんてありませんでしたよ。私が面倒を見ていただいていたくらい」
雛森は、棗と平子を交互に見て即察しました。
棗に想い人がいる話は聞いていたのです。その人が失踪して生死すら不明であったことも。
雛森はぐっと拳を握りしめ瞳を輝かせます。
そうか、そうなんですね! あたし頑張ります!
一方、平子は特に記憶に引っかかるものはないようです。『ほんなら桃の話し相手にはちょうどエエな』と呑気なことを考えていました。
あなたですよ! あなたがこの場の中心ですよ平子真子!
席に通されると、雛森はサッと動いて棗に自分の向かいの席を勧めました。
それを見たローズは雛森の隣に座ります。棗が平子の隣に座れるように。
二人の行動に棗は感謝し、心の中が花吹雪になりました。
全員が席について料理が運ばれてきました。
棗はお酒が飲めませんが、雛森がサポートに回ったお陰もあり円滑に会話が進みます。
宴もたけなわ、少しじれたローズがタイミングを見計らって話を振りました。
「棗、真子に渡したいものがあったんじゃないのかい?」
「あっ、はい!」
棗はあまりにも楽しくて嬉しくて平子が隣にいて話をするのに夢中になっていました。
鞄から綺麗に包装された箱を取り出します。
「平子隊長、これ……」
好きです! と叫ぶのを堪えて差し出します。
「あのときはどうもありがとうございました。
お借りしていたタイの代わりの品です。元のものは汚れてしまったので、現世から取り寄せました。どうぞ受け取ってください」
「ん……?」
平子は何かが記憶に引っかかったようです。
棗は百年前に命を救われ、止血のときに使ってもらったタイをずっと借りっぱなしだったと伝えます。
雛森が机の下で小さくガッツポーツをしていました。
「あーあー! あのときの! え? っちゅうことは棗ちゃんめちゃくちゃエエとこのお嬢さんやんけ! これ絶対俺がやったやつより何十倍も高いやろ! あんなん仕事やん貰われへんわ!」
「値段がどうかはわかりませんが……」
正確には同じ物価に直して43倍します。百年間、何度も選定し直しているのでこれに辿り着くまでにかかっている金はもっと高額です。
「お借りした物に私の心を乗せてお返しするだけです」
「心て。恩に思てくれてるんは解るで。でもなァ」
誰も恩だけとは言ってませんよ。むしろ恩じゃないものの比率のほうが高い。
「いいじゃないか もらっておきなよ真子」
「そうですよ もらってあげましょうよ平子隊長」
「ハァー……」
平子もようやく理解しました。
桃、お前いつからそっちにいた。
「貰われへんて。礼なら次の日に金や物で隊首室歩く隙もないくらい貰てるん……」
と、その時です。
『このオカッパハゲ!!!! 百年恩に思とった女が差し出してるモン断るって何考えてんねんハゲが!!
オマエがこないなモン要らんですゥーゆーてこの女コレどないしたらええねん捨てるしかないねんぞボケ!!!!!!』
イマジナリーひよ里が脳内に乱入してきました。
確かに、男性用のタイを棗はほかにどうしようもないでしょう。
あ、悲しそうな顔してる。
「……せやな。これは貰とくわ。ありがとさん。でももうこれ以上は本当にええで」
再度断りかけた平子が途中で翻意したお陰でローズと雛森がほっとします。
箱を受け取るとき、指が触れ合いました。
棗は恥ずかしそうに、嬉しそうに頬を染めます。
まあ、そういうことですよね。
棗は大層な別嬪さんです。体のほうも健康でグラマラスに育っています。平子も悪い気はもちろんしません。
食事が終わり、店を出ました。
「あたし帰る前に寄るところがあるのでここで失礼します!」
「僕も寄るところがあるから失礼するよ」
雛森とローズが口早に告げてその場を去ります。
分かっとる! 分かっとるからそんな目で見なや!
平子は内心で二人の視線に返事をしました。
「今日は本当にありがとうございました。それでは私も失礼……」
「なァ 棗ちゃん」
平子は本気で来てもらうつもりで女の子をデートに誘うことは滅多にしないので言葉選びに少し悩み、滑ったら嫌やし変な言い回しはせんとこ、と思いました。
「お礼のお礼ちゅうのも変やけど、今度一緒にどっかでかけへん?」
「え……? はい! 是非!」
銀色の瞳が雨上がりだったら虹を作っていそうなほど輝きました。
顔立ちはクールなのにその表情はとても愛らしくて、平子は家まで送ると言うまでに不自然なほど黙りました。
そんなわけで 二人はデートをします。