平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら 作:架鍵キー
変な奴に変な好意を持たれやすい平子ですが、今回ぶつけられてきたのは変な好意ではなくまともな恋心でした。
デートの初めに告白する女が変な奴じゃないかどうかは議論の余地がありますが、相手が言われて嬉しいならオールーオーケーです。
棗も『最低でも迷惑ではない』ことは見極めて言っていますしね。
お礼のお礼とはいえ、自分に気があると分かっている女をデートに誘ったなら告白されることくらい想像しているでしょう。どう答えるにせよ、告白はされても嫌ではないから誘えるのです。
そしてその通りであった平子は困っていました。
察しているのと直々に言葉で伝えられたのでは実感度が違います。
伝えられていなければ、俺のことが好きなの『だろう』、とどんなに確信があっても推測です。
しかし、言われたとなると確定事項です。『この娘は俺のことが好き』です。
大違いです。
これまで棗は『自分に好意を見せる可愛い娘』でした。今日もしばらくはそのはずでした。
しかし、これから彼女は『自分に恋する可愛い娘』です。
これから棗が平子を見つめる目は『好きな男を見る目』です。
これから棗が見せる一挙一動が『好きな男に見せる姿』です。
自惚れではなく事実です。
平子はそれを意識しつつ一日過ごさなければなりません。
それが迷惑ではないのだから困ります。
付き合って欲しくて言ったのではないとしても、平子がそのつもりなら彼のほうからその場で「俺もです、付き合ってください」と言えました。
そうしなかったのは、自分は彼女を好きではないと言ったのとさほど変わりません。
ほぼ振ってます。
本当にそうでしょうか? いえ、振ったかどうかではなく、平子は本当に棗が好きではないでしょうか?
嬉しいですよ?
自分に恋する美人をアクセサリーとして連れて歩ける喜びとは違います。平子にそんなことを楽しむ嗜好はないです。
棗が自分を好きだと言ってくれて、ストレートに嬉しいです。可愛いと思います。
これは結構、好きなのでは?
というか、もう半分以上付き合ってもいい気がしています。
しかしながら、だとしても、棗は貴族です。上級貴族です。
貴族の娘には重要な役割があります。政治的、経済的、人質的な理由で同じ貴族の家との縁を結ぶために嫁ぐという重要な役割が。
それまで価値を高く保たねばならず、遊びで男を作ることは許されません。
護廷十三隊の隊長はそこらの貴族よりずっと格が高いので、親が縁を結ぶのに魅力を感じれば、平子なら棗を妻にすることは可能です。
つまり、棗と付き合うなら彼女の親にお嬢さんをくださいと言いに行く覚悟を決めねばなりません。
そこまでの覚悟があるか? ──『半分以上付き合ってもいい気がする』程度でそれがあるとは言い難いです。
棗は、平子の妻になれないことは分かっています。
初めから分かっています。それでいいです。大丈夫です。
だから付き合ってくださいなんて言いません。
でも、このデートは平子が誘ってくれたのです。今日一日だけは良い夢を見てもいいのではないでしょうか?
勇気を出してお願いしてみます。
「真子さん、手を繋いでもいいですか?」
平子は、アレです。100:0で繋ぎたいです。手。
手を繋ぐ程度なら、彼女の価値も下がらないでしょう。願望込みですが。誰も見てませんし……見られますね、この町だと。
「あー、ちょっと待ってくれるか? イヤやないねんけどこの辺そういうの見られたないヤツおんねや。後で都心のほう連れてくさかい、この町離れてからでええ?」
「はい!」
狭い町なので、担当者の死神に見られる可能性はかなりあります。空座町は十三番隊の管轄なので、隊長である平子はともかく三番隊四席の棗の顔や出自の把握はしてないでしょうが、ひょっとしたらということもあります。
それに、彼女の評判を別にしても、女の子と手を繋いでいるなんてところをひよ里に見つかったら面倒です。リサも。
ラブやハッチはそっとしておいてくれるでしょうが。
いやでもわからない。完全に信用はできない。
手は繋がないまま歩きます。
クロサキ医院の前を通りました。休診日で、部屋の窓を見ると一護は不在のようです。
「ここ一護ン家や。あいつが力無くしてへんかったら、もしも現世に来て危ない目に遭ったらここまで逃げて来ィて言えたんやけどな……」
「一護さんには感謝しかありません。何かして差し上げられないのでしょうか」
「喜助は考えてるかもしれんけど、俺らにできることがあるんやったら言うてくるやろ。言うてけえへんってことはないんやろな」
「悔しいです」
「ま、喜助のことや、時間かかってもどうにかするわ。虚化した俺らをここまで死神に戻すよりは難しないやろ。それまで一護が変な宗教にハマらんとええなァ」
また歩きながら話します。
「一護と言えば、虚化の制御教えたるから俺らの仲間になれて誘うたら物凄い勢いで断られてんけど、あいつ何があない嫌やったんやろ? 自分の所属認識変えるのは抵抗あるやろうけど制御でけへんで困んの自分やんけ。
『仲間になるときは蠍の入墨入れろ』とか『ノルマ1日100人斬ってこい』とかおかしなことも言うてへんのにな」
「不思議ですねぇ。それからどうしたんですか?」
「えらい挑戦的な態度でアジト来てからは3日もせんと馴染んだ」
「真子さんたちのまごころが伝わったんでしょうね」
一護の勧誘のために平子がほんの数日だけ通った空座第一高校を訪れて棗に学校制度について教えたり、公園でゲートボールしている年寄りやピッチャーとキャッチャーとバッターしかいない野球をしている子供たちを眺めたりしていると、
平子が吹っ飛びました。
正確にはひよ里に後ろから飛び蹴りをされました。
「よォハゲシンジ!」
「ひよ里……! よりによって一番見つかりたないやつに見つかってもうた……」
「仕事もせえへんでブラブラしとるて隊長はずいぶん暇なんやなァ!」
「アホか仕事には休日っちゅーもんがあるんや! 正当な休暇や!」
「ほなこの女部下やないんか? えらいベッピンやん、財布でも拾うてやったん?」
棗は平子が道路に顔から突っ込んで鼻血を出したのにはびっくりしましたが、知り合いのようなので平子にハンカチを渡してから挨拶をしました。そういうコミュニケーションもあるのでしょう。
「初めまして。明日檜棗と申します。真子さんには命を拾っていただいたことがあります」
「命ィ?」
「ハイ挨拶されたら挨拶を返す! 『ハジメマシテコンニチハ私は猿柿ひよ里と申ーします!』 復唱!」
今度は平子が上からひよ里の頭を押さえつけます。
「でででででで! 挨拶は今しよとしてたとこや離せハゲ!!」
とっても仲睦まじいですね。
少々バイオレンスですが、お互い何をしようと嫌いにならない信頼関係があるからできるやりとりです。ひよ里は平子ととてもとても親しいのです。棗よりも。
平子は他の女性と仲良くしている姿を見た棗が羨ましそうにしたのに気づきました。
「………………………………」
棗はちょっと拗ねてるふうなのに甘みのある表情で目を逸らします。
ひよ里とはいえ、デート中に他の女とじゃれ合うのはよろしくなく、まずったとは平子も思いました。しかし、自分に想いを寄せている女性が焼き餅を焼いてくれているのは悪くない、悪くないです。
さっきまで虚の次くらいに会いたくなかったひよ里でしたがGJと言いたいです。
とはいえ、棗に妬かせたままひよ里と遊んでいるわけにはいきません。
知り合いのお嬢さんが現世見学するのに色々と経緯があって自分が護衛としてついてきている、と予め考えてあった理由をひよ里に言います。
ひよ里は平子が告白されてデートしているとは微塵も思いませんでしたし、バイト中だったので特にそれ以上突っ込まずに別れました。
そろそろデートの場所をもっと都会へ移しましょう。