平子真子に好感度100のクリティカルな彼女ができたら   作:架鍵キー

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Don't say Yes/No. 7

 

 水族館をでると既にお昼を回っていました。お昼ごはんにしましょう。

 現世で若者に人気の昼食といえばハンバーガーです。

 二人は大通りから一つ曲がったところにハンバーガーショップに入りました。カウンター席に座って平子が二人分の注文をします。

 

「何を食べさせていただけるんですか?」

「ハンバーガー。パンの間に肉や野菜挟んだ元はアメリカの食い物や。口に合えへんかったら遠慮せずに言うてな」

 

 しばらくするとハンバーガーと付け合せのフライドポテトが運ばれてきます。ハンバーガーは高さが10cmくらいあり垂直に串が刺してありました。見えるだけで分厚いパテをメインにレタス、トマト、玉ねぎ、大きなチーズ二枚などが挟んであって美味しそうです。

 顎を大きく開いても上から下まで一気に口に入れるのは無理そうでしたが、両手で持ち平子の真似をして齧ります。

 

「美味しいです。ごはんでいうと海苔巻きのような感じですね」

「口に合うたならよかった。こんなん好きやったらピザも好きかもしれへん」

「食べてみたいです」

 

 むしゃむしゃと食べ進めているうちに棗の頬にソースがついてしまったのを平子は見つけました。彼女は気づいていません。

 テーブルに備え付けられた紙ナプキンを取って渡します。

 

「ほっぺたにソース付いてるで」

「え」

「右の。この辺や」

 

 汚れた部分を自分の頬を指して教えます。棗は慎重に拭き取って赤くなりました。

 

「上手に食べられなくてすみません。こんなに大きな物を直接持って食べたことがなくて」

「せやろな。だから連れてきたってとこもあるんや」

「ありがとうございます」

 

 どうやら棗は平子が新体験をさせてくれようとしたと解釈したようです。

 普通にお嬢様がハンバーガーを頑張って頬張ってほっぺにソースつけてるところが見たかっただけなのですが。

 

 ハンバーガーを食べ終え、ジュースを飲みフライドポテトをつまみながら話をします。

 彼女は三番隊。敵として相対し、敵ではなかった市丸ギンの部下でした。

 

「明日檜家は四十六室の一つやろ? お身内さんも被害にあったんちゃう?」

 

 ローズ以前の隊のこととしてギンの話をしかけたら棗の表情がアレになったので即やめて切り替えます。血腥い話をするのもなんですがギンの話題よりはましだったようです。

 吉良には慕われていたのに棗との間には何があったのでしょうか市丸ギン。

 

「はい。我が一族から四十六室として出ていたのは大叔父──祖父の弟にあたる方でした」

「大変やったな」

 

 労りの言葉をかけられて、棗は微妙そうな反応をします。

 

「どした?」

「うーん……真子さんなら言っても平気でしょうか。

 百年前の私が真子さんに助けられた事件、続報がお耳に入ることはありませんでしたよね? 黒幕がその大叔父だったので隠蔽されたんですよ」

「うわ、えげつないのォ……」

「それで内々に祖父が罰として四十六室として出席させていまして」

 

 とんでもないことをサラッと言う棗に平子はストローからグラスに息を吹き込みました。氷と液体が平子の息でゴポゴポ鳴りました。

 

「そんなヤツ四十六室にさせんなや! 腐っても尸魂界の最高司法機関やぞ!?」

「いえもちろん独自の判断はさせないようにしていましたし、祖父にも考えがありました。

 真子さんたちが尸魂界から消えたときあまりにも様子がおかしかったので、近いうちに何かが起こるだろうと予測したのです。見積もったより長くかかりはしましたが、結局ああいうことになったので、祖父の思惑通り大叔父は身代わりに。という結果です」

「そォかァー……」

「なので私としましては非常に複雑な心境なのです」

「せやろなァー……」

 

 貴族社会の闇です。

 大叔父のほうは棗を殺そうとした奴なのでざまァと指でも差すべきかもしれませんが、祖父(じい)さんの思考が怖いです。

 

「今はどうなってん?」

「新しい四十六室には元通り祖父が入りました。二番目の姉が後継になりたいと裁判によく付いて行っているらしいです」

 

 家の話をしているうちに聞いてみたいことが平子の頭をよぎります。

 聞きたいというか、聞きたくはないんだけど聞いておきたいというか。

 

「棗ン家ってデカい派閥のトップやろ? 棗が当主継ぐ可能性ってあるんか?」

「私にその意志はないですが……今後必要に迫られることはあるかもしれません。長子でもある姉に何かあったら現実的に考えなければいけない、というくらいです」

 

 明日檜家の長姉、菫は八番隊の隊士です。

 少々未来の話ですが、滅却師侵攻の際に亡くなります。

 棗は瀕死の怪我を負いつつも生き残りました。

 跡継ぎとして一番有力なのが菫で、次点が棗。

 ということはですね。──どうなってしまうのでしょうか?

 

 それはともかく話を現在に戻しましょう。

 平子は迷いながら尋ねてみます。

 

「そういう立場なら見合い話、山ほどくるやろ」

「山ほどというほどではないです。ただ同じ一族から人を変えて何度も来ます」

 どーんと暗くなる棗です。

「父母からも『無理は言わないけどココの息子さんと纏まってくれると嬉しい』という圧がかかっています。

 …………真子さんが尸魂界へ戻ってこなかったら、もしかしたら、いつか私はその方との結婚を了承したのかもしれません。

 でも……」

 

 お手拭きでぬぐった自分の手を平子の手に重ね、彼女は微笑みます。

 

「もう、他のどなたとも結ばれるつもりはありません」

 

 アナタ 以外の 男となんて

 

 恋する男が一度は妄想する言葉を恥ずかしげもなく冗談めかしもせず告げられ──平子は彼女が自分へ向ける想いの本気さに嬉しさと同時に別の妙な感情を覚えました。

 何でしょうか。

 腹の奥にしこりが残るような。ゴツゴツした何かです。

 一体何に対してそんな気持ちが湧いたのでしょう?

 

 平子が自分の感情を訝しんでいる間に棗は鞄の中のモノを寄せ、空いたスペースに先程買ってもらったペンギンを詰めて口から顔を出させます。

「よし、おまえの名前は銀次にしましょう」

 完璧な存在になった鞄に満足して嘴を撫でる彼女に持つべき感情ではないものと思われますが、それがなんなのか平子にはわかりません。

 

 

 考え込んでいても仕方ないので次の西洋美術館に行くことにしました。尸魂界にはない西洋の芸術には是非触れておくべきです。

 今度もまた棗は一作品ごとに解説を読み、丁寧に鑑賞していきます。感性を研ぎ澄ませた彼女が作品に集中しているのと『館内はお静かに』の空気で自然と会話が減りました。

 順路を進んでいくうちに、絵画の写実性が最も栄華を極めた時代へやってきます。

 ある意味写真よりも生き生きとした姿の美しい一枚に棗は目を惹かれました。

 豊かな丸い胸を強調したドレスを纏う女性の絵です。肉感的な肌と澄んだ美しい瞳をしています。

 

「これが絵だとはとても信じられません」

「ほんま写真みたいやけど、言う奴に言わせるとちっと嘘が混ぜられるんが絵のエエとこらしいで」

「嘘ですか」

「写実的なことに価値があったのに、嘘が含まれることで絵である意味が出てきたっちゅうと作者にとっちゃ皮肉なんかな」

「嘘が生む意味……」

 

 適当なことを言いましたが棗は感銘したようです。

 何となく思いつきを付け足します。

 

「写実的には嘘になるものが丸っきり嘘でもあれへんってこともあるかもな」

「どういうことですか?」

痘痕(あばた)もえくぼって諺あるやろ?」

「はい。デキモノの痕でも好きな人のものであればえくぼに見える、という」

「写真に撮ったら誰が見ても痘痕が写る。でも画家がえくぼに見えとったら描かれるのはえくぼや。どっちがほんまかって言うたら写真やけど、画家は〝嘘〟を描いてへん。……みたいな」

 

 芸術を語ってしまった気がして最後を茶化します。

 

「なるほど……そしてえくぼの絵しか残らなければ見た人は本来痘痕だったものをえくぼだと思い、待ったをかける人もいなくて、有無を言わさず画家は自分の真実を他人の真実にもしてしまう、と。それも芸術なんですね」

「いや、」

 

 納得している棗に平子は「いや知らんけど」と言おうしたのですが──何か引っかかりました。先程のハンバーガーショップでのしこりが刺激されます。

 なんでしょう。そうですね。例えるなら階段の踏面部分が無駄に広くて、一歩で一段上がれずに毎回同じほうの足で上がっているあの感じです。何か納得がいかないあの感じです。

 そういう感じのアレ。

 …………まだ分からなさそうです。

 せっかくのデートなんですから嫌な感触は早く解消されて欲しいです。

 

 パンフレットを鞄にしまっていた棗に手を差し出します。

 

「棗」

「はい」

 

 離れていた手をもう一度繋いで、二人は美術館を出ました。

 

 

 

 

 

 




 ダイスの出目で、棗→ギンの好感度は1でした。
 ちなみにギン→棗は75で結構好評価。
 でも三番隊には志願入隊らしいので二人の間に一体何があったのか。
 予想としては
 ・ギンが平子が行方不明なのに『死んだ人間のことなんか忘れた方が幸せや』とか言って棗の地雷を踏んだ
 ・勝手に裏切ったような行動をして残される人を顧みずに去ったのが許せない
 などが挙がっていました。

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