Shimokitazawan Rhapsody 作:へんどり
迷子の子猫
「虹夏はさ、いつから気付いてたの?」
「え?」
「ゴールデンウィークのこと」
高校からSTARRYへ向かう道すがら、リョウが虹夏に尋ねた。リョウがライブ成功のためにタイムリープをしていたのは、2ヶ月ほど前のことだ。
初ライブに飛び入りでサポートギターとして参加してくれた後藤ひとりと、なんとギターと6弦ベースを誤って購入していた喜多郁代が、ギターボーカルとして加入し、『結束バンド』は4ピースのバンドとして活動している。
5月のライブのあと、オーディションを経て、今は次のブッキングライブのために皆で練習している。
「うーん、いつから、って言われると難しいけど……」
リョウにこれを伝えてよいか、虹夏は少し迷ったが、リョウの顔を見て、結局伝えることにした。
「あたしが手をケガした時があったでしょ。あの時にはもう、気付いてたよ。……ループのことも、それがあたしのためってこともね」
「う、」
案の定、リョウは少しダメージを受けたようで、言葉を詰まらせていた。虹夏は続けた。
「あの時のリョウ、見てられなかった。迷子の子猫みたいだった」
リョウにとって、辛い時期だった。助けを求めることもできず、自ら動くこともできず、まさに自縄自縛の状況だった。
虹夏にとっても同じだった。なまじ自分のために動いてくれたという意識もあり、リョウに下手な言葉を一言でも伝えれば、すぐさまループを終わらせるか破綻するかだろうという確信があった。なにより、今までのリョウの苦労を棒に振るようなことはできなかったのだ。
「まあ、その、あの時はヒドかったと、自分でも思う」
リョウはあまり重い空気にしたくなくて、戯けたように言った。続ける。
「ていうか、やっぱり気がついてたんだね」
「だって、そりゃ、気付くよ。……リョウのことだもん」
リョウは、自分がどんな顔をしているか、不安になった。照れていないか、にやけ顔になっていないか、赤くなってはいないか。……そっぽを向いた虹夏の頬が赤いことに気がついた。
「……なんか反応してよ! もう」
「あー、いや、ごめん、その、ありがとう……?」
7月は真夏と言っていい時期である。しかし、二人の顔が熱いのは、気温のせいだけではなかった。
「でもさ」
虹夏は少し緩んだ雰囲気を振り払い、一呼吸置いてから、真剣な顔をして言った。リョウの思惑とは異なったが、虹夏が真剣に伝えたいことのようだ、とリョウは理解した。
「もし、また、こんなことがあったらさ。
次は、2人で乗り越えたい。
嘘をつくなら隠してあげるし、泣いてるなら慰めたい。
隠れるなら、庇ってあげるし、メチャクチャになりそうなら、元に戻るまで、一緒にいたい」
それは、まるで——。
「今回はさ。
結局、ぼっちちゃんが助けてくれたんだよね。
ぼっちちゃんは、覚えてないみたいだったけど。
だから」
リョウの方をしっかりと見て、にひひ、と虹夏は笑った。
「一緒にいさせてね、子猫ちゃん!」
——愛の告白みたいだった。
「あ、う、」
「……こっちが勇気出してもこんなとこも、猫みたいだよね」
リョウは普段白い顔を赤らめ、言葉にならない声を発しているが、少し白けた表情で続けた虹夏も相当無理をして言っていたらしく、頬から耳にかけて真っ赤になっていた。