今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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リスディスのイベント

 

 リスディスのイベントは唐突に始まる。

 リスディスとはフーラの有力な人物であり、リスディスのイベントとはリスディスの名義で行われるイベントのことを指す。

 行われるイベントは常に大規模なものが多く、街に住む者は例外なく強制参加させられるのが特徴だ。強制参加というよりは規模が大きすぎて巻き込まれると言ったほうが正しいか。

 

「…………始まったな」

 

 地面に光の線が走っている。これはイベントが始まる合図であり、イベントの準備をするための魔法陣でもある。リスディスは膨大な魔力を保有していて、街全体に及ぶ魔法を軽々と使えるらしい。そして、その大規模な魔法は決まって一瞬で終わる。

 俺の眼前に小指の先ほどの火の種が出現した。あまりにも小さすぎてその火に火傷するほどの熱は感じられない。だが、その火の種が火の一部であるのは違いないようだ。数秒して、それが俺の中に入ってきた。ほんのりとした温もりが俺の身体を温める。

 

「これが参加証か。随分と地味なものが配られたな」

 

 リスディスのイベントは街全体を使った大規模なイベントだ。火の種以外にもなんらかの変化が起きているのは想像に難くない。今この瞬間に街では何かが起きているはず。

 ドゥゥン……。

 それを示すかのように倒壊する音がした。俺は近くの建物の上に立って遠くを見る。

 

「今回は……でかい狼か。あれを狩れば良いのか?」

 

 イベントの詳細は直ぐには公開されない。参加者の一人一人がイベントの構想を読み取って答えを導き出す必要がある。時に複雑なクイズになっていたりするが、今回のイベントは随分と分かりやすいものがきた。

 遠くに見える家ほどもある巨大な狼を狩れば良いのだろう。

 だが、そうじゃないかもしれない。リスディスは稀代の変人として知られる。狩るだけだとしても、何らかの謎は解かないといけないだろう。

 

「ま、その辺は他の奴に任せるとして、取り敢えず俺はミルキィに会いに行くか」

 

 イベントは楽しみだが何も最初から最後まで全ての種目に参加する必要はない。考える担当を俺がする必要はない。難しいことは難しいことを得意とする奴がやってくれるしな。適材適所って奴だ。俺は中盤あたりで答えが分かってから、皆とお祭り気分で参加したい。

 俺は取り敢えずイベントを後回しにしてミルキィの下へ馳せ参じた。

 

 ◆

 

「ミルキィぃぃ!!」

 

 俺はミルキィが勤めている診療所を訪れている。急にドアを開けて診療所に入った俺はミルキィに両腕を広げてダイブした。が、避けられて俺は冷たい床とハグをする羽目になった。なんだ、ミルキィは恥ずかしがり屋だなぁ。

 ミルキィが顔を真っ赤にしながら俺を指さす。

 

「人前でそういうことッ! ダメだっていつも言ってるでしょ!?」

「えー、だって、イベントが始まってミルキィが心配で心配で。今回は戦闘系のイベントみたいだし、可憐なミルキィが無事かなって思うと身が張り裂けそうだったんだ」

「も、もう……。そんな気の良いこと言ってもダメ! デルゲンはいつも調子が良いことばかり言ってるんだから」

 

 たはは。やはりミルキィには敵わないな。俺がミルキィの身体に触りたいがために大袈裟な表現を使っていることを見透かしている。

 それは反面、俺のことを良く知ってくれているという意味でもある。俺は喜びを隠すことができなかった。くねくねと身を捩らせる。

 数秒して、スッと冷静になった。スキンシップはこの辺で良いだろう。

 

「わっ、急にいつものデルゲンに戻った……」

 

 驚くミルキィは白衣を着ている。ここは診療所でミルキィはそこに勤めている医者だからだ。ミルキィは医療魔術を使える貴重な人材で、この街ではかなり重宝されている。友人として誇らしい限りだ。

 診療所には患者が居たが、俺は患者を差し置いて椅子を引っ張ってきた。どうせこの国の人間に医療は必須ではないから、俺が邪魔をしても大して文句を言われることは無い。

 

「ミルキィは今回のイベントはどうするんだ? 俺は落ち着いた頃から参加しようかなって考えてるけど、ミルキィも一緒にどう?」

「うーん、私は今回は見てるだけにしようかなって。イベントが始まって色々考えたんだけど、戦うのはあんまり得意じゃないし。足手まといになっても他の人に悪いかなって思うから……」

 

 言ってミルキィは申し訳なさそうな顔ではにかんだ。

 光の民は戦闘を縁遠いものだと考えている。この国では幾ら殺し合っても何事も無いようにリスポーンしてくるのに、光の民は戦闘が良くないことだと知っているから、戦闘から逃げるように遠ざけている。

 ミルキィがイベントに参加しないのは半ば仕方のないことだった。

 でもミルキィは俺の気持ちを察してか、直ぐにぶんぶんと手を振った。

 

「えっとね。直接戦いに参加することはしないかもだけど、後方支援ぐらいならやろうかなとは思ってて。ほら、いくら死んでもリスポーンしてくるとは言っても、戦線復帰が速い方が戦いは有利に進むでしょ? これなら私でもデルゲンの役に立てる……よね?」

 

 リスディスのイベントに参加するとクーポン券を貰えるという報酬がある。イベントの貢献度によって報酬量が増えるなどはなく、それっぽくしているだけでもクーポン券を貰えることから、参加する者は多い。

 

 などという利益の話はさておき、イベントは皆が参加してこそだ。一部の住民が独占しているイベントはイベントとは呼べず、それならば開催することに意味はない。少なくともこの国ではより多くの住民が参加することを是としている。

 ミルキィはこの国が好きだから、この国のイベントにはできるだけ関わりたいと思ってくれているのだろう。皆でわいわいしたいという気持ちもあるかもしれない。

 俺はそんな健気なミルキィの手を両手でぎゅっと掴んだ。

 

「もちろんだよ! 他の人も誘ってみんなであの大きな狼を見に行こう! 危険については大丈夫! 光の民を守るのは俺の使命だから、俺がミルキィたちを守って見せる!」

「え、でも、私達を守るってことはデルゲンは前線に出れないってことじゃないの? それは、良いのかな? 私知ってるよ。デルゲンは戦いたい……んでしょ?」

 

 心外である。俺は光の民を守る光の民だ。積極的に戦いたいという意志はこれっぽっちも持っていない。

 俺はミルキィの考えを修正してあげることにした。ミルキィにぐっと迫って肩に手を置く。

 

「ミルキィ、それは違うよ。俺は戦いたいわけじゃない。この国の皆を守りたいんだ。そのために戦っているだけであって、戦闘は俺の本分じゃないと思ってる」

 

 ザッと俺の背後に人の気配がした。黒い感情を持った如何にも悪そうな奴だ。そいつが俺に耳打ちしてくる。

 

「正直になれよ。お前は戦うのが好きなんだろ?」

「悪速斬!!!」

 

 俺はバッと後ろを振り向いてナイフを突き出した。……チッ、躱されたか。

 

「……闇の民か。俺の後ろに立つと危ないぞ」

「この反応の速度。やっぱりな。デルゲン。お前が何と言おうがお前の身体は闘争を求めている。今も身体が疼いて仕方がないんだろ? 戦意と言うものを隠しきれてないぞ」

「戦意? 俺はそんな下劣な意志は持ち合わせてはいない。殺すべき害虫が目の前を飛んでいたら叩き潰すだろ? これの何処が戦意なんだ? 俺は心優しき光の民だぞ」

「ふん、今に分かる。……ミルキィさん、こいつを連れて行ってもいいですか?」

 

 闇の民は女に強く当たれない。それは中二病特有の女子との距離感が掴めない症状に似ている。戦うことばかりで女と碌にかかわったことが無いから、女となるとどうしても距離を取ってしまう。

 

「ミルキィ! 俺はミルキィと一緒にイベントに参加する! こいつらと一緒には行かない!」

 

 ミルキィは闇の民と俺を交互に見た。そしてニコッと笑みを浮かべて沙汰を下す。

 

「連れて行って良いですよ!」

「ミルキィィィ!!!!!」

 

 ミルキィに見捨てられた俺は次々と現れた闇の民に連行された。

 




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