今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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黒幕会談

 

 時計塔。この街で最も背の高いとされている建物であり、この街の状況を見渡すのに適した伝統ある建物だ。その構造からして、街の現状を知りたいと思う奴が集まってくるようになっている。

 それを証明するかのように時計塔の最上階には二つの影があった。一つはフードを被った幼女……女狐と名高いコンコン。もう一つはリスの被り物をした背の高い男だ。名をリスディスという。現在開催されているイベントの主催者だ。

 

 コンコンは眼下に広がる街を見渡しながらリスディスに問いかけた。

 

「随分と大それた魔術を持ち出してきたものだな。全ての攻撃に耐性を付与するなど、一体どれほどのリソースを吐き出したんだ?」

 

 街の一角で狼と住民が戦っている。住民の内訳は主に闇の民だ。戦闘のうわさを聞き付けた闇の民が街中から集まってきており、彼らはどれだけ殺されても虫のように湧いてきている。

 けれど闇の民の攻撃は未だ狼にかすり傷さえ与えられていない。

 それらを眺めているリスディスはリスの被り物を器用に動かしてニコリと笑みの表情を作り出した。

 

「僕はフーラを愛しているからね。どれだけの力を使ってでもこの国を盛り上げたいと思っているさ。フーラの住民たちは特に楽しいことが大好きだ。僕はその望みを叶えるためなら力を出し渋ったりはしないよ」

「馬鹿言え。楽しみたいのはお前の方だろ。本心でこの国を盛り上げたいと思っていたらこんなイベントをしようとは思わない」

 

 リスディスは頭がおかしいことで知られる稀代の変人だ。その内情は計り知れない。

 

「そうかなぁ。僕はこのイベントは国に最も良い効果をもたらしてくれると思っているよ。女狐と僕とでは根本的な考え方が違うのかな。例えば……ああそうだ、女狐は食に富んでいると聞いたことがあるね。実は僕も食にはこだわりがあるんだ。今日もお弁当を持ってきたんだけど、お昼はまだだったよね? 食べる?」

 

 言ってリスディスはサンドイッチを取り出した。コンコンが顔をしかめる。

 

「具材は?」

「今日はそこで拾った闇の民の肺だよ。早く食べないと灰になっちゃうから新鮮なうちにお腹の中に入れないといけない。肺だけに灰にね」

 

 コンコンが舌打ちした。

 

「だからお前は変人などと呼ばれているんだ。そんなものを食べたいと思う奴はいない」

「女狐は頭が固いなぁ。この世で最も硬いと言われるアダマンタイトのように硬い。考えてみてごらん。もしここで食べなかったらこの肺が実際はとても美味しかったとしてもそれを知ることができないんだよ。それは大きな損失だ」

「何が損失だ。例えそのゴミが美味な食べ物だったとしても私は食べないぞ。というか、私じゃなくても食べる奴はいない」

「はぁ、損をする性格をしてるなぁ。そんなんじゃ新たな素晴らしいものを見つけるのは困難だよ。常に新たな可能性を探る。そのためには冒険をしないと」

 

 リスディスは常に新たな体験を求めている。その体験に貴賤はなく、想定され得るありとあらゆる体験は、リスディスの中では全て等しい価値を持つ。リスディスは新たな体験であればそれが何であれ躊躇なく手を出すのだ。

 その性質のせいで、コンコンでさえもリスディスの目的を測ることはできない。だから嫌いだった。

 コンコンはリスディスのゴミのような理論を無視する。

 

「今回のイベントはお前にしてはシンプルな造りをしている。最強のレイドボスを住人達で力を合わせて倒すという、いうなれば街の団結を問うイベントだ。闇の民だけじゃどうあがいても不可能。奴らには気の毒だがな。光の民も闇の民も、皆が協力しないと狼は倒せないようになってる。私はその点については珍しくお前に賛同してやる」

 

 住民が団結するイベントは住民のためになる。更には意志が纏まることは国力の増大にも大きく関わってくる。この国の国力は既に群の抜いてトップだが、国力が上がるそれ自体は良いものだ。

 だが、とコンコンは続けた。

 

「これは毎度の話になるが、お前のやるイベントは普通の奴からしたら迷惑なものばかりだ。今回も狼をあんなにも巨大にしおって、被害規模を考えなかったのか?」

 

 皆が目的のために協力して一緒に楽しむためのイベントなどと言っておきながら、実際の内容は参加者の向き不向きが大きい戦闘を余儀なくされている。死ぬだけならリスポーンによって死ぬだけで済むが、自分の家や大切なものを破壊された場合は完全に復元できないため不満は大きいだろう。

 

「愚問だね。この程度で文句を言う奴はもうこの街には残ってないよ。まあ、昔も文句をいう人はいなかったけどね。やっぱり人はみんな派手で規模が大きなものが好きなんだよ」

「……全く嫌になる話だな」

「そう言う割には随分と楽しそうな顔をしているよ。何だかんだと言いつつもこの街を出ていかない辺り女狐も同類ってことだね」

「ふん、どうだろうな」

 

 リスディスはケタケタと笑いながら、血肉を挟んだサンドイッチを口に含んだ。咀嚼して直ぐに「不味ッ」と、リスの被り物の表情を歪ませる。ペッと吐き捨てた。

 

「女狐が言いたいことは分からなくもない。国として健全じゃないって言いたいんだろ? でもね、ほら、下を見てみなよ。みんな楽しそうにしている。闇の民は言わずもがな、光の民も普段より浮足立ってる。狼が街を破壊しまくってるおかげで活気が溢れているんだ」

 

 眼下を見下ろすと今も狼と闇の民が戦っているのが見えた。闇の民達の中にはデルゲンの姿もある。血にまみれながらも、随分と楽しそうに刀を振っていた。

 

「彼は、今年で15になったよね。フーラに成人の概念はないけど、他の国なら成人として認められる歳だ。……実はね、今日のイベントはそんな彼へのプレゼントの意味もあるんだ。彼は獣が好きみたいだから丁度良いと思って、毛皮と触れ合えるようにしたんだ。いつも僕のイベントを楽しんでくれる彼への僅かながらの感謝だよ」

「ふん、結局おまえもそれか。どいつもこいつも面白けりゃ良いとばかりにあいつを玩具にしようとする」

「女狐がそれを言うのかい? 玩具にして遊んでるのは女狐も同じだろう。今日も彼に何か仕掛けに行ってたんだろ? 彼がもっと死ぬように、彼がもっと苦しめるように。まるで好きな人に悪戯をしたくなる思春期男子だ」

「思春期男子と言われるのは癪だな。私は思春期でもなければ少女だぞ。お前が私をどう思おうが勝手だが、あまり私を不快にさせるな」

 

 コンコンは目を細めた。地から目を離して天へ目を向ける。日差しが目に入らないようにフードを深くかぶった。のーん、と鳴く。

 

 結局のところ、どれだけ話を続けても二人の行動が変わることは無い。二人は一部においては似たような考え方をしているから、互いが互いの行動を変化させる必要がないのだ。価値観とそれに基づいた行動は異なれど、過程の果てにある結果は同じもの。

 コンコンはリスディスを嫌っているが、リスクを負って敵対するほどリスディスの考えを否定してはいなかった。

 

「参加証で配られた種火を集めれば巨大な炎となる。つい最近行われた炎を使ったイベントは今回の予行練習というわけか。参加者に気付かせるようなやり方は私も好みだ」

「そう言ってもらえると嬉しいね。僕を嫌いだと口ざまにいうけど、もしかして女狐は実は僕のことを好いてくれているのかな?」

 

 コンコンがハッと笑って時計塔の柵に手をかけた。そろそろお開きだ。

 

「イラッとする発言だが、今日のところは許してやる。私の気分が良かったのを有難く思うんだな。……最後に一つ、あの狼は何処で拾ってきた?」

 

 リスディスが思考を巡らせるように数秒唸った。

 

「一ヶ月ぐらい前かな。国外からやってきたんだよ。でも環境についていけなかったみたいでね。くたばってたから拾ってきた。僕は善良な市民だからね。人助けぐらいはするさ。人じゃなくて狼助け、かな」

「あれだけこき使っておいて良く言う。お前に限らないが、この国の奴らはもう少し自身を顧みるべきだな」

 

 そう吐き捨てると、コンコンは柵を飛び越えて時計塔から下へ降りていった。

 

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