今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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閉幕の兆し

 

 街を壊して、街を直して、再び街を壊す。

 イベントは三日目に入ったが未だに狼には一つの傷も入っていない。俺達は半ば絶望に呑まれながらも、内側から湧き出る闘争心に急かされるように狼との戦闘を続けていた。

 

「弓は最低限で良い! 常に前衛と後衛が入れ替われるように後衛は近接武器を持て! 前衛は重傷を負ったらすぐに死んでリスポーンしてこい!」

 

 数十もの闇の民が狼を囲っている。街中から争いを求めて闇の民がやってきて、交代しながら戦っているのだ。そのため三日三晩連続で戦い続けているのにも関わらず、闇の民の戦線が崩れることは無い。

 だが、終わりのない戦いに精神は削られ続けている。

 

「やべぇぞデルゲン。この狼、三日三晩眠ることなく戦い続けてやがる」

「体内のエネルギーが有り余ってるんだろうな。最強の防御力を持ちながら持久力も並外れてる。これ勝てるのか?」

「……リスディスのことだ。不可能には作られてないはずだぜ」

 

 リスディスは変人として名高いが勝てない戦いを強いてくるようなつまらないことはやってこない。変人と言えどもこの国を憂う著名人であることには違いなく、イベントの内容はいつも大規模で楽しいものだった。

 俺はリスディスとまともに会話したことが無いが、リスディスには好印象を抱いている。

 

 と、狼が天を向く。全身の毛が逆立った。

 

「来るぞ!」

「またかよ!」

 

 俺とクズはバッと耳を両手でふさいだ。

 

 ──GGGHHHHYYEEEEEEEE!!!!!!!

 

 うるっせぇえなぁ!

 狼はこの三日間で何度も雄叫びを上げている。街全体、国全体に聞こえるんじゃないかと思うほどに馬鹿でかい雄叫びだ。この国の誰かに聞かせたいのだろうか。ただの発作かもしれない。エネルギーが有り余っているのだろうが、耳が痛いからやめてほしい。

 ……チッ。

 俺は舌打ちして刀を握った。隣のクズが俺の体調を心配してくる。

 

「お前、血だらけなのにまだ行くのか? その刀、血がへばりついてて握るのも大変だろ」

「ああ、だけどな。誰かがあの狼を殺さなきゃイベントは終わらんだろ。結局、幾ら調べてもあれを殺す以外の終幕はないって結論になったんだろ? だったら、俺達があの狼を殺すしかない。……光の民の力は借りられないからな」

 

 狼を一生街で飼い続けるのは悪くは無いが、やはりイベントには閉めが必要だ。それに、ミルキィはイベントが後半になったら参加すると言っていた。このままイベントを前半で留めていたらミルキィは今後一生イベントに参加することができなくなってしまう。

 そうなれば俺とミルキィのイベントデートはお預けだ。

 ただでさえこの前のキャンプファイヤーを俺達は離れ離れで過ごしたのに、それを最後にするなんて俺には許容できない。

 

 俺の覚悟を見たクズが俺の首に手をかけた。俺の首は既に血で塗れていて、ツツーとクズの指が俺の首元を滑った。

 

「いったん死んでからリスポーンしてこい。今のお前を見るのは痛々しい」

「そう……だな……」

 

 俺は刀を落とした。意識が遠のいている。このクズは俺の身体をよく理解していた。今の俺の身体ではもう戦えない。

 

 俺はクズによって介錯された。

 リスポーンして直ぐに戻ってくる。遠くから刀が飛んできたのを新品の身体で刀を掴んだ。肺一杯に空気をため込んで、ここら一帯に聞こえるように叫ぶ。

 

「このクソ狼を殺してやるぞおおおおお!!!!!!」

 

 コンコンの視線を感じる。ここ数日、遠くから刀を飛ばしてきているのはコンコンで間違いない。あいつは悪い女だから、俺がなるべく苦しむように俺を誘導してくる。今回は俺に武器を渡して俺を戦場に送っている。

 俺は武器を持つと堪え性がなくなる性格をしている。それを良く知っているのだろう。

 だが、俺はそれを悪いとは思わない。いや、コンコンに操られているのは気色が悪いが、今日のところは武器を無限供給してくれる武器商人として好意的にみてやろうと思っている。

 

 刀を構えた。心が震える。狼の正面に立った俺を軸にしてクズたちが陣形を組む。

 狼は怒りを孕んだ顔をしていた。三日前よりも顔立ちが歪んでいる。よっぽどクズ達と三日もお見合いをさせられたのが嫌だったのだろう。俺も嫌だったからよくわかる。少し共感できそうだ。きっとイベントが終わった時には俺達は肩を並べて仲良くやれているだろう。

 

 でも、これはお前を殺すイベントだ。共感できるから、仲良くできるからと言ってお前を殺さないなんてことはない。寧ろ共感できるからこそ俺はこいつを殺したいと思う。こいつに死を味合わせてやりたい。こいつの記憶に『俺がお前を殺した』という事実を刻みつけたい。

 死と言うのは人生においての強烈なイベントだから、人は自分を殺した人間を死んでも忘れない。その理論で言うなら俺がこいつを殺したらこいつは俺のことを死んでも忘れないはずだ。

 この過酷溢れるファンキーな国は常にやばい事件が起きていて、その度に既存の記憶は新たなファンキーな事件で塗り替えられる。でも、殺してきた相手だけは絶対に忘れない。俺が忘れていないからきっと皆そうだ。

 俺はさっき俺を介錯したクズを一生忘れないと思う。チッ、クズの癖に俺の貴重な記憶領域を占有しやがって。

 

 俺は笑った。刀の切っ先を狼に向けて、告げる。

 

「お前の記憶に俺の存在を刻みつけてやるよ」

 

 ◆

 

 刀を振っても、狼のふぁっさふぁさの毛並みに弾かれる。だが、俺はそれを気にすることなく追撃の手を休めなかった。

 物凄い勢いで狼の前脚が飛んでくる。それを避けるのは難しく、俺の身体は半壊した。リスポーンを行い俺は再び戦場に舞い戻ってくる。

 俺が戻ってくると相当な数のクズが集っていた。でも奴らはクズだ。強くないどころか俺よりも弱い雑魚どもだ。だけど人数が増えていることには違いなく、俺達全体が有利になり続けているのは事実だった。

 

 近くに落ちていた刀を拾うと、狼に向かって全速力を出す。俺達は死んだときに道具を落とすため、戦場に舞い戻ってきたときに真っ先にやることは武器を拾うことだ。幸い、ここには多くのクズが死んでいるおかげで武器はそこら中に落ちている。

 刀以外にも両刃の剣、ナイフ、斧、ハンマー、槍、などの様々な武器が落ちている。その中から自分が最も使いやすい武器を拾って戦場に戻るのだ。

 それがクズたちの戦い方だ。

 

 刀を拾えば直ぐに戦える。俺は狼に突撃して刀を振った。だが、まあ当然だろう。攻撃は通らない。ギィンッと音を立てて刀が弾かれる。

 チッ。

 

「各人攻撃の手段は常に変え続けろ!! 何の攻撃が一番ダメージがでかいのかを検証しろ!!」

 

 俺は刀を捨ててハンマーを拾った。狼がクズをプチプチと殺している隙に背後から叩きこむ。だが、俺がノックバックするだけに終わった。

 

 クソがッ。何故ダメだッ。どうして攻撃が通らないッ! このイベントはこの狼を殺すことが終幕の条件のはずだ。俺はイベントの終わりが見たい。だからここに居る。なのに狼を殺すのは現状だと不可能だ。でもリスディスは不可能などという意地悪をしない。そんなことをしてたら侍大将がリスディスを殺しに行くからだ。考えろ。頭を働かせろ。狼を殺す手立てはあるはずだ。

 

 ハンマーを捨てて槍を拾う。どうせ槍でも攻撃が通らないのは分かっているが、念のためだ。だが、狼と視線が合った。他のクズは……俺よりも遠い位置に居る。俺よりも近い位置にいたクズ共は全身死んでいたから俺に来たようだ。

 またリスポーンしてくるか……。

 

 そう、思った矢先。

 

 不意に飛んできた矢が狼の頭に当たった。どうせその矢も弾かれるだろうと思った。でも、違った。

 

 ──オオオォォォォオ…………ッ!?

 

 狼が動きを止めて小さく唸った。何が起きたのか分からないといった風に首をかしげる。俺もそれに倣って首を傾げた。

 

 ……攻撃が、通ってる? そんなこと……。

 俺はバッと矢が飛んできた方へ視線を飛ばした。そこにいた奴もキョトンとしている。何も特別な奴じゃない。たんなるクズだ。俺よりも弱いクズだ。

 クズが狼にダメージを与えた。

 

 何かある。そう俺達が判断するのは簡単だった。

 が、直後、俺達は激怒した狼によって見事なまでに全滅させられた。

 

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