魔術によって、壊れた建物が次々と修復されていく。フーラの建築物はいくら崩壊してもすぐに組み立てられるように作られているため、街の復興はとても簡単だ。魔術を使える人を中心にして、他の人が魔術で修復できなかった細かな箇所をちょちょいと直すだけで終わる。
大規模な破壊を伴うイベントがあったのにも関わらず、一日二日もあれば街の調子はイベント前に戻ることだろう。
光の民である俺は当然のように修復作業にも参加していた。他の光の民と適当なおしゃべりをしながらする作業はとても楽しく、街の復興と言う素晴らしい活動と並行しているのもあって、ここに居れば俺がどんどん正しい存在になっているような気分を味わえる。サンサンと照り付ける太陽の下は肉体労働的につらかったが、そんなこんなで俺の気分は上々だ。
休憩時間がしっかりと設けられているのもあって俺に不満は無い。
俺は作業合間の小一時間の休憩を無駄にしないようにするため、リンゴを片手に横に寝そべっていた。住民たちがあくせく修復作業に取り掛かっているのを欠伸をしながら眺めている。
ついでにしゃくしゃくとリンゴを齧った。やはり労働をこなした後のリンゴは最高だ。カラッカラの喉に新鮮で冷たい果汁がとても良く染みる。この瞬間のために生きてるって感じがする。気分はまさに砂漠のオアシスに辿り着いた旅人だ。
欲を言うなら、旅で疲れた俺を癒してくれる人でも居れば更に最高なのだが、こんな状況なら我慢するしかあるまい。せいぜい独りでじっくり身体と心を休めることにしよう。
俺は大きな欠伸をしてから、ぐっと身体を伸ばした。全身がパキパキと気持ちの良い音を立てる。これが痛気持ち良いという奴か。労働の疲れが何故か心地良い。
俺の心がみるみると満たされていくのを感じる。
くおぉぉ。俺はぐっと腕を伸ばしてから、足を延ばした。と、その足を誰かに掴まれて、俺はそのまま何処かの集会に連行されていった。
◆ 謎の集会
「被告人デルゲン、本日ははるばるご足労頂き感謝する」
感謝するなら俺の口に貼りつけられた粘着テープを剥がしてほしい。これを貼りつけられたせいで口が開かなくて困ってるんだ。
俺は身振り手振りを使ってそのようにアピールした。
「ふむ、私は被告人と口論がしたいわけではないので、今回の処置は致し方ないものだと判断している。だが、それでも訴えたいことがあるのなら、身振り手振りで訴えて欲しい。そのために両腕両足は自由にしてある」
周囲を見ると十数名、二十数名の男に囲まれている。正面には木の教卓のような物があり、俺に話しかけている男の片手には金槌のような物が握られていた。
話に聞く裁判所が大体こんな感じだった気がする。……ということは俺は裁判にでも掛けられているのだろうか。
こんな横暴が許されても良いと思っているのか? とりあえず俺の口に貼り付けた粘着テープを剥がしてくれ。俺は身振り手振りでそのように訴えた。
「ふむ、納得してくれているようで何よりだ。協力感謝する」
誰も納得をしてるなど言ってないのだがお前の眼は節穴か?
俺は身振り手振りでそのように尋ねた。
「うむ、今の私の楽しみはイベントの参加賞にもらったリスディス商店のクーポンを使うことだ。リスディス商店の食べ物は何でもある。この裁判が終わったら真っ先にリスディス商店に行くと決めている」
話が通じていないようだ。俺は粘着テープの件は諦めることにした。さっさと話を進めた方が良いだろう。
何故俺がこんな目にあわないといけないのか。俺は身振り手振りでそのように尋ねた。
「うむ。イベント中の被告人の傍若無人ぶりに文句が出ている。今回のイベントなら被害が大きいのは想定内だが、被告人の行動で更に被害が増えたという話だ。であるからして、その沙汰を言い渡すためにこの裁判を開かせてもらった」
イベントの被害なんてのは所詮は一日二日で完全に復旧する程度の被害だ。死んだ奴は蘇ってくるし、壊れた物は修復できる。俺を罰するための裁判をする必要はないはずだ。つーか、俺のせいで被害が増えたってなんだよ。寧ろ俺は被害を減らしてた側だろ。クソ狼の足止めに最も貢献したのは俺だって皆褒めてくれたんやい。
俺は身振り手振りで、俺は悪くないという主張を長々とアピールした。
「ふむふむ、被告人は己の傍若無人な悪事を大変反省しているようだな。その熱烈なる反省の心が身振り手振りに表れている。私としては許してあげたいと思う。だが、今回の罪の重さを反省だけで許すことは難しいという意見が出ていてな。私としては被告人の反省の意を尊重したいものではあるが、そういうわけにもいかないのだ。ふむ、これは如何にして釣り合いを取るべきか。首吊りか、ギロチンか、はたまた串刺しが良いか」
はぁ!? 何勝手に話を進めてんじゃボケ! 反省も何を俺は悪くねーって言ってんだろ! 悪いのは全部あのクソ狼とクソの役にも立たなかったクズ共だ!
俺はぶんぶんと腕を大きく振り回して俺は悪くないと真摯にアピールした。
「よいよい、そこまで必死にならずとも伝わっている。罪を認めている被告人の想いは我々に届いている。そう怒れる鷹のポーズをとるな」
クソがッ! 話を聞け!
チッ、なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよ。大体この集会は……この集会は何だ? 街の復興を皆で協力してやってるって時に、男が十何人も集まってこんな裁判紛いのことをしてるなんて普通じゃないぞ。なんだこいつらは……?
男ばかりだ。闇の民か? いや、闇の民のキーとなる中二病アイテムが無い。だがこの雰囲気は闇の民そのものに近い……。
急にしゅんと大人しくなった俺を見て裁判官が何か合図を出した。
「有罪だ。連れていけ。くれぐれも光の民には見つからないようにしろ」
やっぱお前等闇の民かよ! 手の込んだ悪戯を思いつきやがって! 俺に何の怨みがあってこんなことをしやがった!
俺を囲んでいたクズ共が俺の身体を取り押さえ始めた。俺は必死の抵抗を見せるが今の俺には武器が無い。俺は泣く泣く組み伏せられ全身を拘束されて簀巻きにされた。
俺を取り押さえたクズの一人がぽろっと漏らす。
「すまねぇ。純愛に手は出したくねぇと思ってたんだが、流石にあれは堪えた」
あ? 何の話だ?
意味を理解できていない俺に向かって怨嗟に焼かれた声が向けられる。
「焚火デートは楽しかったかよ」
た、楽しかったです。
「黄金の炎で作られたサクラを眺めながらのデートなんざ、この世でできる最も美しいデートだろうな。俺達はその機会をまんまと逃がしちまったが、お前は逃がさなかった。それが気に入らない」
どうやらこいつらは俺とミルキィが『拝炎祭』でロマンチックに過ごしていたのが気に入らなかったようだ。以前にこいつらは純愛は良いものだとか言っていたような気がするが、そんなのはただの強がりに過ぎなかったらしい。うっすいプライドも嫉妬の炎に焼かれては機能しなくなるようだ。
その気持ちは分からなくもない。もし俺がこいつらの立場だったら俺も嫉妬の炎に焼かれて頭がおかしくなっていただろう。
今回ばかりはクズ共の主張に共感できる。……良いだろう。お前等の好きにすれば良い。今回は抵抗しないことにしてやる。
などと調子に乗って無抵抗を決め込んだ俺は磔にされて矢で全身を射抜かれた後に溶鉱炉に沈められて死んだ。
この御恩は一生忘れないだろう。