敵は三人。おっと、パラディンは敵じゃない。近い未来に同じ組織の仲間になるんだ。標的は三名と言い換えよう。
しかし、今は三名だけだが時間が経てば暇な奴が不意に加勢するかも知れない。ここはパラディンの本拠地であるパラディオンなのだ。今は三対一だが余裕は十分に持っておきたいところだ。
「さあ、やろうぜ」
戦闘は開始された。俺は刀を振るい、パラディンは剣や盾で俺の攻撃を防ぐ。金属同士がぶつかるごとに金切り音が街中に響く。俺は憧れのパラディンと刃を交えられるこの瞬間に興奮を隠せなかった。
だというのにパラディンの奴らは薄情にも俺との戦闘に乗り気ではないようだ。
「どうしてこうなる……。何故、戦わなくちゃならない……」
何故と聞かれても俺は答えを返さない。その答えはさっき提示したから、二度も俺が口にするのは失礼に当たる。問いかけた本人も答えを期待してのものではないだろう。だったら俺が返すべきなのは答えではなく、刃だ。
刃を交えれば相手の全てを感じることが出来る……などという熟練の剣士じみたことを言うには俺はまだ半人前だが、そんな未熟な俺でも一つだけ分かることがある。
「なあ、剣が軽いんじゃないか? もっと力を込めろよ! 本気を出せよ! 俺にパラディンの力を見せてくれよ!」
光の民は自分の身体を労わり、自分の死を恐れることができる人達だ。だから光の民は自分自身を戦闘そのものから遠ざけようとするし、他人を労わることができるから、他人の戦闘行為を咎めようともする。そして、その性質は戦闘中にも引き継がれている。
「何も私達が戦う必要はないはずだ!? 君が本当にパラディンに入りたいと言うのなら、こういうやり方を取らなくても良いはずだ!? 日々の善行を重ねて信頼を得るとか、やり方は色々あって……」
日々の善行ならもう重ねている。俺は既に闇の民を何度も葬ってきた。当然あいつらはリスポーンしてきたが、俺が殺したおかげで少しは己の存在が誤りであることに気付けただろう。
パラディンの問答に意味はない。
俺は言葉を無視して刀を振るった。ガチンと盾とぶつかり俺の攻撃が弾かれる。パラディンが攻撃を防げたことで安堵し、隙が生まれる。その一瞬を見過ごす俺じゃない。弾かれた刀を瞬時に逆手に持ち替えて二撃目を振るう。
が、白い鎧が刃を弾いた。
「やはり、考え直すことはできないのか……。でも、どれだけ君が戦闘を続けても何かが変わることは無い。君が私達に勝つことは無いからだ。私達の鎧と盾はあらゆる攻撃に耐え得るように作られている。君の攻撃には目を見張るものがあるが、意味はない」
「ああ、流石はパラディンの鎧だな。でも、お前らが傷を負っていないのと同じで、俺も傷を負っていないぞ。お前等は死なないことに注意を置きすぎて攻撃が疎かになっているんだ」
パラディンが着ている鎧はさぞかし重いだろう。身体を隠せるだけの盾は邪魔になっているだろう。防御に意識を割き過ぎて肝心の攻撃が疎かになっているのは俺の眼からして明らかだ。重りを身に着けたパラディンが身軽に動く俺に攻撃を当てられないのは当然であり、それはパラディンの弱さに他ならない。
俺の勝機は十分にある。防御が硬いことは俺がここで諦める理由にならない。継続だ。
戦闘が止むことは無く、防御の厚いパラディンと攻撃に厚い俺の戦闘は大きな音を周囲に漏らし続けた。
「君は中々強情な性格をしているね。普通ならとっくに諦めてる頃だよ。その執念は何処から来るものなのかな」
「正義の心。と言っておこうかな」
「とても面白い冗談だね。でも、真に迫るものがある。もしかすると君は闇の民の中でも光寄りなのかもしれない。少しだけ君を見る目が変わったよ」
「じゃあ、俺に入隊試験を受けさせてくれるのか?」
「残念だけどそれはできない。そういう決まりなんだ。この国に法律のような公的な規則は一切ないけど、パラディンには規則があるから私達はこの規則を守らなくちゃならない」
そうか。まだダメなのか。だったら更に俺を見る目を変えてもらう必要があるな。
そうしたいところだけど、
「……人が多いな」
ここは治安維持組織の拠点だから周囲では住民が普通に日常を過ごしている。そんな場所でカンカンと長いこと金属の音を立てていたもんだから傍観者が集まってきていた。
「衆目は慣れてない? 意外だね」
「まあな。クズに囲まれるのは慣れてるんだが、こういうのはあまりない」
「止めるかい?」
「いや、逆だな。俺の力と意志を示す良い機会だ」
パラディン三人が大きく息を吸って吐く。空気が変わった気がした。
「良いだろう。これほどの熱意を見せられて君の意志を尊重しないのは無礼に当たる。闇の民の王と名高い君に礼儀を払うのは忍びないが、街中での戦闘行為を制圧するのも私達の役目だ」
別の奴が異議を唱える。
「良いのか?」
「仕方がないだろう。ここで時間を使う方が面倒になる。シャルルも納得してくれるさ」
シャルルというのはパラディンのリーダーだ。『拝炎祭』で狼と戦っていた時に指揮を取ってた奴だな。
仲間との話を終えたパラディンが俺に最後通告を行う。
「私達は君を殺すつもりで望むつもりだ。それでも良いのであれば、再び刃を交えようか」
「そうこなくっちゃな。それが一番丸く収まるし、何より楽しい……ッッ」
ザッと地面が蹴られる。三方向から同時だった。一斉に俺との距離を詰めてくる。あまりにも完璧すぎるタイミングだ。予めこういう時の攻めのタイミングを打ち合わせしていたのだろう。
パラディンは連携を緻密に行っている事で知られている。もしパラディンに目を付けられたらそれぞれを分散させて各個撃破するのが良いというのは闇の民の共通の認識だ。
三方向から剣の刃が俺へと迫ってくる。ご丁寧にそれぞれの切り込み方向はバラしてあって、どの方位からも逃げるのは困難だろう。
とはいえ、それら三つの刃の向かう先に居るのは俺である。俺は最も脆そうな剣を刀で弾いて逃げ道を作ると、蛇のように剣の間をすり抜けて包囲から脱した。
「……ッ。ひゅぅ……。流石、と言って良いのか」
素直に褒めてくれて良いんだぞ。躱せないはずの攻撃を躱したんだからな。少しは俺のことを見直したんじゃないか? だったらそれは口にすべきだろう。それが俺への報酬だし、聴衆への正しい情報を伝えることになる。俺がクズと同類にされてる今のデマを正すのは良いことだろ?
俺がそれを口にすることは無い。自分から言ってしまえば、まるで俺が言わせたみたいになるのが癪だった。
「さあて、まだまだ行けるよなァ!」
と、俺が息巻いた時、ついに俺の思いが届いたらしい。俺達を観戦していた周囲の人達がざわめきだした。
最初、俺はその程度と思って無視したが、対面するパラディン達の顔色の変わりようから、よっぽどの事があったらしいと気付き、その方へ目を向けた。
そいつはかなりのイケメンだった。
「随分と楽しそうじゃないか。そんなに戦うことが好きなのかな?」
パラディン達のカチャカチャと剣を鞘に納める音が鳴る。どうやらここまでらしい。気に入らないことはあるが、ここでひと悶着起こすのは闇の民がすることだ。
俺は納刀して戦う意志がないことを示すことにした。
「あんたがシャルルか?」
「そうだとも。私がシャルルで間違いない。君は誰だ?」
「デルゲンだ。普段は闇の民の改心を目的として活動をしている」
「なるほど、良い活動だ。デルゲンの活動は悪い噂でしか知らなかったが、実際にデルゲンに会ってみて噂というものが信用ならないものだと思い知らされたよ。私はデルゲンの活動を応援している」
おいおい、まさかパラディンのリーダーが俺を応援してるって? あのパラディンのリーダーが? 俺を? なんてことだ。
俺は冷静にあれるよう努めたが内心めちゃくちゃ興奮していた。が、そんな俺の歓喜に水を差すやつがいた。
「シャルル、あなた本気ですか? この人は確かにそこまで悪い人ではないように感じましたが、そこまで仰るほどではありませんよ」
なんだこいつ。さっきは俺を評価しようとしてたくせに今度は俺にケチ付けやがって。
「そうだろうか。デルゲンの力はこの街に必要な人だと私には感じられた。闇の民であることの足枷を考慮してもデルゲンの意志をそのままにしておくのは惜しい」
ってことは? まさか?
俺は目を見開いて耳をかっぽじってシャルルの続きの言葉を待った。
「む、そこまで期待した表情をされても困るのだが」
俺は期待した表情をやめた。
「いや、そこまで残念そうな顔をされても困るが……。まあいい、端的に言おう。そっちの方が早そうだ」
何かあるらしい。俺は再度期待した。
「光の民のみで構成されるパラディンにデルゲンが入隊することはできないが、パラディンには下部組織がある。パラディンの活動を補助する組織だ。そちらでも良いなら、どうだろうか? 下部組織の入隊試験を受けてみないか?」
俺の力がパラディンに認められた瞬間だった。