今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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モテたい

 

 フーラ繁華街居酒屋

 

 俺が気分を入れ替えようと居酒屋でジュースを一人で飲んでいると知らない男が俺の前の席に座ってきた。

 

「よお」

 

 そいつは闇の民のようだった。優雅にジュースを飲んでていた俺の気分が害される。

 俺は無視することにした。

 

「おいおい、無視はよくねーよ。せっかくお前の実力を見込んで声をかけたってのに、話を聞かずに無視ってのは人情じゃねぇな」

 

 生憎、お前等クズにかける人情など持ち合わせてないんでな。

 俺は無視を決め込んだが、クズが一向に俺の前の席から離れる気がなかったために、渋々クズに反応した。

 

「さっさと話せ」

 

 クズはそれで良いと上から目線で頷いた。

 両手をテーブルにおいて本腰を入れる。そして言った。

 

「俺は笑いの伝道師だ。お前に笑いの何たるかを伝授しに来た。俺と一緒に天下を取らないか?」

 

 はぁ……。俺は溜息をついた。

 また変なのが来たな。闇の民は光の民とは異なり好奇心が強い。そのせいで意味の分からない物に心を奪われて意味の分からないことを言い始める。

 俺はクズがどうしようもない闇の民だと判断して追い返すことにした。

 

「帰れ。お前の戯言に付き合ってられるほど暇じゃないんだよ」

「まあまあ、そう警戒するな。気持ちは分かる。気持ちは痛い程分かるが、ここは俺の顔に免じて許してくれ」

 

 なんでお前の顔に免じてお前を許さないといけないんだよ。

 俺はだるそうな目でクズを見たが、クズは勝手に話を進めていった。

 

「何も最初から天下をとろうってわけじゃねぇ。まずは身近なところで笑いを得て認知度を高めようってのが得策だ。地元から初めて、ゆくゆくはフーラ全体をって感じで広げていくのが良い。……興味がなさそうだな。まあ、お前は才能はあるが情熱があるわけじゃなさそうだからな」

 

 俺の何処に才能を感じてくれたのかは分からんが、さっさと帰ってくれねぇかな。ジュースの味が落ちる。いっそ俺の方が席から離れるってのもありか。それでいくか。

 俺はクズの無駄話に付き合うのが面倒になって席を立とうとした。が、ちょうどそのタイミングでクズが俺の興味をそそる言葉を発した。

 

「面白い男はモテるぞ」

 

 ふぅ~。

 俺は数秒の思考ののちに再び席に座りなおした。クズと面と向かって尋ねる。

 

「詳しく」

 

 クズがふんと笑った。エサに魚が食らいついたのがよほどうれしかったようだ。気分が乗っている。

 

「簡単な理屈だぜ。同じ時間を二人きりで過ごすなら、つまらない男よりも面白い男の方が人気だっていうだけだ。お前も思う時はあるだろ? 一緒にいても何も話さない、話しても当たり障りが無いばかりで面白くない奴。ああいうのはモテないんだよ」

 

 たしかに……。と、俺は一瞬男の言葉に納得しそうな気がしたものの、俺の頭には否定材料がいつくか浮かんでいた。

 が、男の言葉に一理あるのは事実だったので俺は口にしなかった。続きを促す。

 

「それで、どうすれば面白い奴になれるんだ?」

 

 クズはうむと頷いて何なら奇妙なものを取り出した。それは如何にもな呪術道具だった。

 

「これを使うんだ。今なら安くしとくぜ」

 

 無料じゃねーのかよ。

 

「お前から声をかけてきたんだろ。そこは無料にしとけよ。ほら、お試し期間的なアレで。俺と一緒に天下を取りたいんならできるだろ」

「いや、これでも結構奮発してるんだぜ。お前のためを思ってカツカツなんだよ」

 

 俺は嫌な予感がしてクズに尋ねた。

 

「……マルチ?」

 

 クズは大慌てで否定した。

 

「おいおいおい、こんな街中で物騒な事をいうもんじゃないぜ。これは正当な販売だ。いや、冴えない男達への救済活動と言ったほうがいいか。マルチだなんてそんな悪質なことを俺がすると思うか? ほら俺の姿を見てみろ? 俺がそんなクズ野郎に見えるか?」

 

 でもお前闇の民じゃん。

 とはいえ、クズがいつも嘘をついているとは限らない。女にモテるってのに興味を惹かれてしまったこともあり、俺は少しだけ温情を与えることにした。

 人差し指を立てて、「こうしよう」と提案する。

 

「お前がこの居酒屋にいる女性をナンパして、成功したら俺はお前の話をもう一度だけ聞こう。だが、失敗したらこの話は無かったことにする。どうだ?」

「良いだろう。……見ておけ。俺の雄姿をな」

 

 言って、クズが女の吟味を始めた。

 この居酒屋は繁華街の近くにあるのもあって、今日も多くの客で賑わっている。光の民、闇の民、男に女に、流石に子供はいないものの、今日のフーラの賑わいを感じられるような活気があった。

 クズはそんな店内を睨むように見渡して、ナンパするターゲットを一人一人吟味している。

 

「あれは……ダメだな。恐らく彼氏持ちだ。あれは、グレーだな」

 

 ぶつぶつと呟きながら女性を吟味する姿が気持ち悪い。こんな奴のナンパが成功するのかという疑念が湧きあがる。

 だが、クズの熱意は本物だった。

 

「決まったぞ。あの二人で来ている女だ。本当なら一人客を狙いたかったが、居酒屋に独りで来る女はそうそういねぇからな。二人組で妥協した」

 

 クズは行く気満々だった。あからさまな死地だというのに、一切の怖気を見せなかった。

 その男気に当てられて、俺はついついクズを気遣うような言葉を吐いてしまう。

 

「い、いくのか?」

 

 俺は言外に止めた方が良いと言った。

 だが、クズは俺の制止の声を聞かなかったことにした。スッと席を立って、俺に背中を向ける。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 それだけ言い残して、漢は前人未到のナンパへと向かった。

 

 そして数分後、ゴミクズが頬を真っ赤に染めて戻ってきた。

 

「ダメじゃん」

「ダメだったわ……」

 

 こいつは漢ではあったようだが、面白い男ではなかったようだ。

 クズは醜態を見せたというのに、そのまま家に帰ることなく再び席に座った。テーブルに置きっぱなしになっていた呪術的な商品をぐいっと俺に突き出す。

 

「この失敗は俺が真に面白い男ではなかったがために起きた事件だ。こいつは関係ない」

 

 はぁ。

 俺はすっかり興味を失せているという雰囲気をだしていたが、心の中では面白い男、モテる男の話には興味津々だった。

 これを手に入れれば俺がモテる男になれるのか? 嘘だろうことには違いないが、万が一と言うこともある。

 クズはナンパに失敗したが、あの漢の背中は確かなものだ。全くの嘘というわけでもないだろう。

 俺の心は揺れ動いていた。

 

「い、いくらだっけ?」

 

 クズがうむと力強く頷いた。

 

「さっき俺が提示した額よりも安くしよう。これは俺がミスをしてしまったことの謝罪分だ」

 

 クズが提示した額は俺の手持ちギリギリだった。これなら借金をせずに買える額だ。一々コンコンに金を貰いに行かなくてもすぐにこの場で買える。

 

「うーんそうだな……。買おう……かな……」

 

 買おう。

 俺は財布から金銭を取り出してクズに渡した。

 

「毎度あり」

 

 クズが、否、笑いの伝道師が俺から料金を受け取ると、満足に笑みを浮かべて席を立った。

 その場には俺と呪術的な商品がぽつんと取り残される。

 俺はちらちらと周囲を見てから、その購入したばかりの呪術的な物を弄った。

 そして十数分後。

 

「詐欺じゃん」

 

 普通に詐欺だった。

 次に会った時はこの詫びをせねばなるまい。

 フーラは広いようで狭い。いずれ会う時はあるだろう。

 

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