今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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ラーディとの再々会

 

 スロットの誘惑が俺の足を止めている。

 今俺はラーディという名の狼をなでなでするために森林へと向かっていたはずだったが、不意に眼に入った新台入れ替えの文字によって足止めを喰らっていた。

 どうする? 時間に余裕はあるよな……。

 

 ラーディに会うために意気揚々と飛び出してきたは良いものの、俺はラーディが何処に居るのか正確には知らない。森林に向かっているのは最後に俺がラーディと会ったのがそこだからだ。

 そう考えるとラーディの居場所は実質知らないと言っても良い。時間は十分にあるだろう。

 俺は決断を下した。

 

「よし、ちょっと寄っていくか」

 

 その決断に異を唱える者がいた。

 

「おい、またお前はこんな大事な時にスロットをするのか?」

 

 コンコンだ。狐の耳を隠すために今日も深々とフードを被っているせいで顔は見えないが、持ち前の背の低さと声でこのちっこい身体がコンコンだと分かった。

 丁度良い。俺はコンコンに手を伸ばした。

 

「手持ちが少ないんだ。少しくれないか?」

 

 俺はコンコンによく金をせびっている。つい最近詐欺にあったせいで俺の手持ちは心許ない額だったため、正直コンコンに会えたのは行幸だった。

 コンコンは僅かに眼を細めた後、素直に金を差し出してきた。

 

「ほら、大事に使うんだぞ」

 

 俺は訝しんだ。

 

「前はダメだと言ってなかったか? どういう心境の変化だ?」

「あの後、私もスロットについて考えてみたんだが、お前にはこのやり方が一番良いと思ってな。今回は金を貸してやることにした」

 

 俺はコンコンが何を企んでいるのか気になったが、どうせ俺はこいつに知恵比べで勝てないから、金をくれるというのなら素直に受け取るのが吉だという結論を下した。

 近づいて、コンコンが握っている小包を手に取ろうとして、小包が引かれた。

 俺は騙されたかと思ってコンコンの顔をバッと見た。

 

「ああ、そうだな。スロットというのは運試しの一種なんだろ? それなら私の力が少しは有利に働くはずだ。どうだ? やってみないか?」

「力? ……何を企んでいる?」

 

 俺はよくコンコンに煮え湯を飲まされている。こいつが動き出すときはいつも何か俺の身体に危険が迫っている時だという予感があった。

 

「なあに、何も企んではいないさ。ただ、お前の運気に少しだけ細工をしてやろうと思っているだけだ」

 

 言って、コンコンは六角柱の入れ物を取り出した。中には細い棒が何本も入っている。

 

「一本抜いてみろ」

 

 コンコンがその六角柱の入れ物を俺に向けてくる。

 

「これは何だ?」

「ちょっとした運試しだ。今日のスロットの手助けになってくれるぞ」

 

 運試し。その言葉を聞いたとき、俺は侍大将が昔言っていたことを思い出した。

 たしか、東方の地には運を見るような、そういう術があるという。ツキ詠みって言うんだったかな……。コンコンの出身は東方だ。

 となると、このコンコンの発言に信憑性が帯びてくる。真実である可能性は高いだろう。

 

「じゃあ、やってみるよ」

 

 俺は僅かな警戒心を抱きながらもコンコンの差し出してきた六角柱の入れ物から一本の棒を引いた。

 そして、約束通りコンコンから金の入った小袋をもらった。

 

「そこに書いてあるものを読んでみろ。それがお前の今日の幸運の手助けをしてくれるはずだ」

「……これがか?」

 

 棒に書いてあったのは方角だけだった。頭上に疑問符を浮かべている俺を無視して、コンコンが話を締める。

 

「じゃあな、私はお前の幸運を祈っているよ」

 

 しらじらしいことを言いやがって。

 コンコンはそれだけ言うと颯爽と姿を消した。

 

 その日、俺のスロットはかつてないほどの大当たりを博した。

 

 ◆

 

 ヒャッホォォォォオオ!!!!

 

 俺のテンションは頂点に達していた。スロットが見たことのない回転を見せてじゃぶじゃぶとクレジットが溜まっていく様は見ていて爽快だった。

 かねてより俺はスロットのことを相棒だの友だのと呼んでいたが、内心俺はスロットのことをポンコツだと思っている節があった。

 何度も何度も金を入れても返ってくるのはゴミばかり。そんなスロットに俺は愛想を尽かせていたような気がしていた。

 だが、そんなのは今日までだ。

 今日からは俺はスロットを真の相棒だと思うことが出来る。

 

 スロットは俺に大量の夢と輝く現実を与えてくれた。

 金があれば何でもできる。それはこの永遠の都フーラでも同じことだ。いや、永遠の都だからこそと言うべきか。

 この国は金が無くても生きていくことが出来るほどに繁栄した国ではあるが、それと対称的に娯楽には多くの金を必要とする。ほんの少し腹を満たす程度の小さいプリンひとつ買うのですら一般市民にはそこそこの支出を伴うのだ。

 

 フーラの娯楽を余すところなく体験しようと思ったなら、それにはとんでもない量の富を代償にしなければならない。

 その量を数値にするなら、それはきっと個人で持つことが出来ない程の金額になるだろう。

 もしかすると、フーラ最大の豪商と呼ばれるリスディス商店の総資産に匹敵するかもしれない。

 

 ……流石にそこまではないか。

 だがもし、フーラの娯楽を堪能しきるのにリスディス商店の総資産程の金額が必要だとするなら、今の俺はリスディス商店の総資産と同じ金額を持っていることになる。

 

 否。

 

 持っていたことになる。というのが正しい。

 現在形ではなく過去形である。

 

 なぜこんなことになってしまったのか。俺は路地裏の隅でうずくまるように丸まっていた。

 

 スロットで大当たりして、その金で飲食店に行った。大金だったから、俺は奮発してフーラで最も金がかかると言われている豪華なレストランを選んだ。食事の質だけでなく、接客にも力を入れている高級店だ。

 そこまでは良かった。

 普段から果実しか食わない俺の舌でも絶品だと分かるような美味な料理が大量に運ばれてきて、俺はその高級料理をフーラの果てと呼ばれる絶景を眺めながら食べたのは、この世の贅の限りを尽くしたと思うほどだ。昇天しそうなほどに気持ちが満たされていたのを覚えている。

 

 しかし、その時に俺の酌をしてくれた女が良くなかった。

 後から気付いたがあれは美人局だろう。高級店のスタッフには客で金儲けをしようと思う奴らがいるらしく、端的に言って俺はそいつらにハメられたようだ。

 

 結果、俺は柄の悪い集団に追われることになった。相手は組織による犯行だ。普段の俺ならば多勢に無勢でやられていただろう。

 しかし、今日の俺は一味も二味も違う。咄嗟に案をひらめいた俺は手持ちの大金を使って大量の闇の民を雇うことにした。詳しくは数えていないが、ネズミ算的に人を呼んだから五百は越えていただろう。

 これが功を奏して、俺を襲っていた連中は本拠地ごと闇の民によって壊滅させられた。悪は滅び、俺の金はまだ残っていた。

 俺と悪党の戦いは俺の勝利で終わったのだ。

 

 が、今度は俺が雇った数百の闇の民が俺の金を狙って襲ってきた。やはり奴らはクズだ。雇われの分際で雇い主に逆らおうとするなど。というか、他人の金を奪おうとするなど笑止千万。クズの中のクズだ。

 そんな奴らに負けるわけには行かない。俺は更に財布を叩いて、今度は光の民を護衛に雇った。光の民は戦うことをあまり良く思わない善良な人たちだから集めるのは困難だったが、俺が大立ち回りして街中が混乱していたから、その混乱を鎮めるためにと彼らは快く協力してくれた。

 やはり持つべきは光の民だ。俺は彼らの街を守ろうとする強い意志に支えられて、闇の民との徹底抗戦を唱えた。

 

 かくして、フーラ街の一角で、俺達は存分に争いを繰り広げ続けた。

 俺の懐から全ての金が尽きるまで、俺達はひたすら戦い続けた。

 

「………………あぁ」

 

 路地裏で俺は何故こんなことになってしまったのだとこの世の在り方を疑った。

 つい半日前までは俺はリスディス商店にも迫るだけの大金を持っていたはずだったのに、気付けば懐が素寒貧になっている。どうしてこんな事になったんだと思うも、これといった分かりやすい一つの原因は思いつかない。

 普段行かない高級店に入ったのが悪かっただろうし、そこで美人局に気付けなかったのも悪かっただろうし、その後に闇の民を雇ったのも悪かったし、光の民に協力を仰いだのも良くなかった気がする。

 だが、この中の何かひとつでも欠けていれば今も俺の手の中に金が残っていたと思うと、それらの選択は別に悪くなかったようにも思える。

 すべては結果論に過ぎない。

 

 とはいえ、過去のことを今更考えても意味は無いだろう。俺に残されているのは今と未来だけなのだ。

 立ち上がろう。そして、また新しい明日を…………。警備員? 何故? そうか、俺はやり過ぎたのか。

 立ち上がった俺の眼前には警備員が居た。

 

「少しの間、地下で思う存分暴れてくると良い……」

 

 魔術が行使される。警備員が使う魔術は一つ、転送魔術だ。その送り先はいつもフーラの地下だと決まっている。

 俺達フーラの民は死んでもリスポーンできるから、牢屋に閉じ込めても意味は無い。でも、フーラには時折極悪非道な奴が出現する。

 そう言う奴を一時的にどこかに隔離しておくための方法がこの転送魔術だ。

 

「俺を、送ってくれるのか?」

 

 フーラの地下には滅多に行くことができない。こういう機会でもないと俺達地上の民は地下の世界を訪ねることができない。だから、俺達極悪人に指定された奴らはこれ幸いとばかりに地下での生活を満喫しようとする。

 俺は全財産を失ったが、代わりに貴重な体験を得られるようだ。

 

「次に会う時は少しは大人しくなっていることを期待する」

 

 転送魔術が行使され、俺の身体はフーラの地下に送られた。

 

 ごろんごろん。

 ごろんごろん。

 ぺっ。

 

 俺の身体が森林の中に放り出された。

 

「久しぶりに来たな。さてと、何処に行こうか……」

 

 地下に着いて、俺は眼を見開いた。まさかこんなところで会うとは思っていなかった。

 

「ラーディ……ウルフ……だったか?」

 

 白銀のふさふさを持つ狼がそこにいた。

 

 わふっ。

 

 

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