今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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『複活祭』

 

 わふっ

 

 地下に落ちたらラーディウルフが居た。何が起きているというのか。

 フーラの巨大な地下には様々な不思議が眠っていると聞くが、まさか狼までもが眠っているとは思っても見なかった。

 だが、今はそんなのはどうでも良い。紆余曲折あったが、俺はラーディと再会することが出来たのだ。

 

 やることはずっと前から決めていた。

 俺は手を伸ばしながら、ふらふらとラーディに近づいた。ラーディは俺の接近を咎めることなく、俺の手は段々とラーディの白銀の毛並みに近づき、辿り着いた。

 その毛皮はとてもふさふさだった。

 

「ありがとう」

 

 俺にはそれ以上の言葉をいうことが出来なかった。折角の再会に水を差すようなしめっぽい言葉は要らないと自分に言い聞かせて、それ以上は口にしなかった。

 

 代わりにラーディの白銀の毛並みを全身で抱きしめて、なでなでして、よしよしした。

 以前に森林で見たときのラーディは傷を負っていたが、今は回復していて無事のようだ。ふさふさの毛並みにつっかかりは無くなだらかな曲線が続いている。

 

 わふっ、わふわふ。

 

 どうした? 何かかゆい所でもあったか? どうだ、俺が掻いてやろう。

 俺はラーディに抱き着いて転がって全身をくまなく、わしゃわしゃと撫でまわした。

 

 わふわふ。

 

 ん? 違う? 掻いてほしい訳ではない? ほうほう、ほうほう、んー、何言ってるか分からん。まあ、分からなくても良いだろ。今はこうやってのんびりダラダラとできれば……。ここは地下の森林エリアだから、俺達の邪魔をするような奴は居ない。ゆっくりやろう。

 

 うぅ……。

 

 どうした? 面倒くさい奴をみるような呆れた顔をしてるぞ。何かあったのか? 今日は特別だ、何でも言ってくれていいぞ。ん?

 ラーディの俺を見る顔がみるみる残念なものになっていく。一体俺の何が不満なのか。俺はこんなにもこいつを愛しているというのに、こいつは煮え切らない態度を取っている。

 

 わふっ。

 

「ちょっ。何するんだよ」

 

 俺の首根っこの服がラーディに咥えられた。ラーディはそのまま地下の森林の中を歩き出し、俺は引き摺られるようにしてラーディと行動を共にすることになった。

 

「何処に行くんだ?」

 

 ぐるる。わふっ。

 

 ……何言ってるか分かんねぇな。まあ良いか。行く場所なんて着けば分かる話だしな。

 俺は黙ってラーディに引き摺られることにした。

 

 フーラの地下は巨大な空間になっていて、その広さは途方もない。具体的な広さは分からないが、感覚としてはもう一つの大地ともう一つの空があるような感じだ。空と表現した理由は……。

 森林から抜けたようだ。今まで俺達の視界を遮っていた枝葉がなくなったことで、俺達の視界が晴れる。

 

 俺が地下にある天井を空と表現した理由は、まるで天井が宇宙のように輝いているからだ。

 遥か上にある天井には光る鉱石が幾つも埋め込まれていて、俺達が立っている地下の大地を照らしている。それらがまるで星空のように見えて、そのおかげで大地は満月の夜のようにそこそこ明るい。

 何もない地下の大地にも草花や木々は生えている。地上とはまた異なった奇妙な種ではあるが、草葉の生い茂る草原であることには違いない。

 俺は自分で歩くからとラーディに言って立ち上がった。ぐっと伸びをして、少し離れた場所にある高台へと眼を向ける。

 

「お前が行きたい場所はあそこか」

 

 草原の先の高台になっている場所に石のオブジェクトがある。俺はそれに見覚えがあった。通称、星見台と呼ばれる祭壇だ。

 星見台と呼ばれているだけあって地下の中では最も高い位置にあり、その上を遮るようなものは地下の空以外には何もない。あそこでなら良い天体観察をしながら儀式ができるだろう。

 ここまで来た俺にはラーディの思惑が分かっていた。

 星見台まではまだ距離がある。少し話をする時間はありそうだ。

 

「お前の話は聞いたよ。ご主人様を追ってここまで来たんだってな?」

 

 これはメメルンから聞いた話で、真偽は定かではない……が、ラーディは俺の言葉が真実であるというように唸り声をあげた。

 俺は話を続ける。

 

「で、今は行き詰っているわけだ。フーラは地上だけじゃなくて地下にも住める広大な土地を持ってるからな。この広大な土地から一人の人間を見つけ出すのは相当な苦になる」

 

 俺の口ぶりにラーディが俺の方へ振り向いてくる。何か訴えたいことがあるようで、俺にはその内容がわかった。

 

「ああ、お前のご主人様な、ほぼ確実に生きてると思うぞ。何なら、あいつら……」

 

 俺は足を止めて周囲、遠くの更に遠くから感じる視線の方へと指をさした。その視線は一か所からではなく俺の四方八方から飛んできている。それらを一つずつ指さすように俺はぐるりと一周身体を回した。

 

「俺らを見張ってる奴らの中にはご主人様の居場所を知ってる奴がいるだろうな。教えてはくれないと思うけど」

 

 わふっ。

 

「教えてくれないのは何故かって? それじゃあ面白くないからだよ。フーラでは意志の強さとそれから生まれる行動こそが面白いと考えられてる。だから、欲しがった物を全て与えるやり方は好まれないんだ」

 

 俺は他国の文化をおおよそにしか把握していないから、フーラの独自の文化がどういうものなのかを良く理解してない。俺が言っている説明がラーディに伝わっているのかはわからない。

 もう少しだけ説明した方が良いだろうか。俺は「そうだな……」と続けた。

 

「今回みたいに求められたものを提示せずにそいつの力で見つけさせるやり方は効率が良いんだよ。ああ、ここでいう効率ってのは娯楽の効率のことな。長く生きる秘訣は人生を楽しむことだろ? んで、人生を楽しむために重要なのは娯楽だ。でも、娯楽には限りがあっていつかは無くなってしまうかもしれない。だから、奴らは娯楽が無くならないようにするために、現れる娯楽はじっくりと育てて長く楽しむやり方を取るんだよ」

 

 ラーディは頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げた。

 ……うーん、ちょっと分からなかったか。そもそも外国では長生きしたいなんて考えが一般的ではないのかもしれない。それとも……まあ俺が考えても無駄な話か。こういう文化的な話は現地に行ってみないと感覚を掴めないものだし、その内に分かる日が来るだろうと思っておくか。

 

 つまりだ。俺は改めた。

 

「だから、お前は己の力でご主人様を見つけないといけない。だが、お前ひとりでこのフーラを駆け回るのが無理だろうってのはわかる。なんたってフーラは広大だからな。流石に一人でなんでもかんでもやるのは無理がある。でも、二人なら可能かもしれない。特にフーラの有力者とパイプを持っている俺なら、お前の要求に応えられるかもしれない。それで、お前は今協力者を求めてるわけだ」

 

 一人でできないなら二人でやれば良い。それはかつてご主人様と一緒に英雄譚に謳われた狼の思考としては至極当然の発想だろう。

 だが、この場にはそのご主人様は居ない。居るのは俺だ。

 つまるところ、ラーディは俺にご主人様を見つける手伝いをしてほしいと言いたいのだろう。そのために俺をこの地に、星見台の祭壇に呼び寄せた。

 俺は星見台の中央に置かれた大きな台に腰を下ろした。ラーディは俺の足元で丸くなって、俺の言葉に耳を傾ける。

 

「ここは儀式場だ。儀式はイベントの一種に該当し、イベントにはその代価に応じた効果が発生する。代価と言ったが準備と言い換えても良いかもしれない。どちらにせよ、大きな効果を求めるなら、それ相応のハードルが必要になるわけだ。今回のハードルはここが女王の御前であること……」

 

 遠くから感じる視線は多い。恐らくはマミー以外にも観戦者がいるのだろう。俺はそいつらをこの場から特定することはできないが、大方の想像を立てることはできる。

 どうせいつものフーラの有力者共だろう。侍大将とかコンコンとかリスディスとか。その辺りが来ていそうだ。あいつらはこういうのが好みだからな。

 となると、このイベントはこれ以上ないハードルだ。ハードルが高ければ高い程、その達成感(効果)は大きい。よっぽどあいつらは俺とラーディの儀式を強固なものにしたいらしい。

 俺としては奴らに良いように使われてるようで若干気に入らないが、俺がラーディをペットにしたいと思っていたのは事実だ。

 

 俺は足元のもふもふを触って、その頭を俺の膝の上に置いた。

 

 うぅ……。がうわう……。

 

 頭をナデナデするとラーディは気持ちよさそうな声をあげた。

 初めてこいつの姿を見たとき、このもふもふに俺は心を奪われたのだ。こいつをペットにできるのなら、こいつと家族になれるのなら、儀式を行うのは俺にとって悪いことではない。

 だけど、この馬鹿広いフーラの何処かに居るご主人様を探す手伝いをやるのは面倒だ。

 だから、俺は条件を出した。

 

「お前が協力者を求めていることも、その協力者に俺を選んだことも理解はした。それに協力するのは悪くない。だがな、その代わりに俺がやりたいことを放置しないといけなくなるのは厳しい話だ。だから、折衷案といこう」

 

 俺はぐっと仰向けになるように身体を後ろに倒した。

 ここは星見台だ。仰向けになった俺の視界は見事なまでに星屑の海で埋め尽くされた。

 ラーディがぬっと顔を出して、俺の視界を占有している星屑の海に入り込んでくる。さっさと話を続けろと言いたげに俺の顔を鼻で突いてきた。

 

「まずは、俺達は互いをもっとよく知るべきだ。そうだろ? 俺達は互いに殺し合った仲だが、まだお互いについて何も知らない。何が好きで、何が嫌いで、何が得意で、何をしたいか。それを俺達は知らないんだ。お見合いすらできてないわけだな。だったら、それを解消する必要がある。互いについてもっとよく知る必要がある。そう思わないか?」

 

 ラーディは「そんなことどうでも良いからさっさと手伝え」と言いたげだったが、俺は無視した。今の俺にはフーラを走り回るだけの熱量がない。やれと言われてもやれないのが現状だ。でも、新たなペットの願いを聞いてあげたい気持ちはある。

 さて、どうするか……。

 よし、ならこうしよう。

 

「俺はこう見えても女王フーラの養子だからな、俺が言えば力を貸してくれる奴はそこそこ居る。分かりやすい所だと、今俺達をのぞき見してる奴がそうだ。あいつらは今は傍観者を気取っているが、俺が頼み込めば動いてくれる奴もいるだろう。俺が動かない間はそいつらの力を借りていいぞ。これならお前ひとりでも十分にご主人様の捜索をやれるんじゃないか?」

 

 …………。わふっ。

 

 よしっ! どうやらそれで良いらしい。

 了解が取れたので、俺は足を折り曲げてから、ぐいっと身体を起こした。

 

「よしっ! これで決まりだな。じゃあ、始めるぞ」

 

 わふっ。

 

 俺とラーディは契約の儀式を始める。家族になるための儀式だ。

 でも、まだ足りない。

 

「儀式はイベントの一種だ。だったら、それな一つぐらいは楽しみが無いと面白くないよな」

 

 くぅん?

 

「分からないか……。まあ、お前はまだフーラに来て日が浅いからな。お前もこっちに長く住めば分かるようになるよ。イベントってのは娯楽として楽しむため、ひいては長生きするためにあるんだ。決して死体を積み重ねてフィーバーするためにあるものじゃない」

 

 うぅ?

 

「まあ、いずれお前にも分かるときがくるよ。つまるところ俺が言いたいのは、今回のイベントにも何らかの楽しい要素が必要だってことだ」

 

 俺は一枚のコインを取り出した。

 

「今日の俺は運が良いんだ。ツキってのがあるらしくてな……。今日の俺は運試しなら負けない自信がある」

 

 地下の空に張り付いた満月が俺達を照らしている。今の俺は賭け事なら絶対に勝てるという虚栄にも似た自信がみなぎっていた。

 

「賭けをしよう。表が出たら俺の勝ちで裏が出たらお前の負けの単純なルールだ。懸けるものは、そうだな……この契約内容を賭けよう」

 

 ラーディの耳がピクリと動いた。

 

「まあ落ち着け、何もお前が不利になるような賭けをしようってわけじゃない。寧ろ、お前に得しかない賭けだ」

 

 俺は賭けの内容を話した。

 

「この儀式による契約はペットの飼い主である俺がお前の権利の一部を得ることが出来るわけだが、もし俺が敗けたらこれを対等な権利にしよう。勿論、俺が勝った場合は契約内容に特に変更はない。……どうだ? おまえには一切の不利益の無い賭けだ」

 

 俺が無茶な賭けに出たのはこの儀式を盛り上げるためだ。イベントというのはギリギリであればあるほど面白い。そして、面白いイベントは俺が最も好むものだ。

 この分が悪い賭けは俺がこの儀式をそれほど大切に思っていることの表れでもあった。

 

 でも、そんな俺の価値観を知らないラーディは俺の思惑を探るように、俺の周囲をトコトコと回った。何か裏があるんじゃないかと俺を疑っている。

 

 しかし、やがて、ラーディは俺が善意でこの賭けを持ちかけたことに気付くと歩くのをやめた。

 俺を馬鹿にするように、ふんっと鼻で笑ってくる。

 一瞬、俺はカチンと来たが、すぐに冷静さを取り戻した。

 

「まあ見てな、今日の俺はツキがあるんだ。俺が絶対に不利なこの状況でも俺は勝ちを拾うだけの運がある。今の俺にはスロットの神がついてるんだ。よーし、行くぞ」

 

 俺はコインを親指の上にのせて、ピンッと星空に向かって弾いた。

 

 くるくるくる……

 

 コインが星屑の海を泳ぐように空中を回転していく。やがて頂点に達し、勢いを失ったコインが自由落下で地面に落ちてくる。そして、

 

 カンッ。

 

 コインが地面に落ちて、数回のバウンドを経て、俺達の前に賭けの結果を示しだす。

 

 結果は裏だった。

 

 ということで、俺の人権はペットと同レベルになった。

 

 




次話で取り敢えず一区切りつくことになります
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