今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

32 / 67
新しいペットの居候

 

 居候の朝は早い。俺は居候としてのプライドは誰よりも高いから家主よりも早く起きるように心がけている。居候とは家を使わせてもらっている身であり、居候はその御恩に報いなければならないと考えているからだ。

 それは俺のポリシーであり、俺の意地でもある。俺という人間を説明するにあたって居候の矜持は外すことはできないと断言できるほどには、俺は居候として一家言ある。

 その俺のポリシーを果たすため、今日も今日とて家主よりも早く起きて俺は朝食の支度へと向かった。寝室を出て階段を降りてキッチンへ入る。

 この家は二階建てだから寝室からキッチンへ向かうだけでも一苦労だ。この街ではかなり贅沢な家である。こういう家に住めるのは特別待遇を受けた特別で素晴らしい市民の中でも更に厳選される。なんせミルキィですら一軒家は持ってないからな。この家主は相当に優遇されていることになる。

 

 そんな素晴らしい市民の朝食を作れるとなると俺の腕もなるというもの。俺はビシッとエプロンを身に纏い、食材を手にして最高の朝食づくりに励んだ。一流の居候たる俺の料理能力は高く、俺の手によって生まれる料理は家主に合わせて様々な形をとる。

 家主が最も満足できる朝食を作ることが俺の自慢の一つだ。当然、この家の主の朝の好みも既に把握している。

 

「うおりゃあああああああ!!!!!!!!」

 

 俺の神の如き手が朝食をみるみる仕上げていく。ここの家主は早起きだから急がなくてはならない。

 扉がギギィと開く。どうやら家主が目を覚まして寝室から降りてきたようだ。それと同時に俺の朝食も完成する。

 

 今日の料理を紹介しよう。

 今日俺が家主のために作った料理は………………ドッグフードだ。

 ……家主がキッチンへと入ってきた。

 

 わふっ。

 

「おう、おはようラーディ。今日も良い毛並みをしてるな」

 

 ラーディは先日から俺の新たな家族になった狼だ。大型犬くらいのサイズで白い毛並みと真っ赤な瞳が特徴的なキュートでワイルドなペットだ。そしてこの家の主でもある。

 

 わふっ。

 

 ラーディは朝の挨拶を済ませると、作ったばかりのドックフードの催促をして来た。後ろ足で立って、キッチンに頭を乗せて、尻尾を振り振りしている。さっさとドッグフードを皿に移せと言っていた。

 

「まあ待て、そう焦るな。こういうのはただ皿に盛るだけじゃなくて、もっと上品にだな」

 

 わふふっ

 

「わかったわかった。焦るな焦るな。そこでちょっと待ってろ。すぐに用意してやるから。ほら、いい子だからじっとしてろ」

 

 くぅぅぅん

 

 これだから犬ころは。飯となると途端に目の色を変えやがる。だが、俺は一流の飼い主で一流の居候だからな。そんな家主のおちゃめな一面を受け入れられる度量がある。数多の家主の蛮行に耐えながら居候を続けてきた俺の懐は大空よりも広いと言われている。犬ころの獣仕草なんかちょちょいのちょいよ。

 

「ほれ、今日の飯だ。しっかり味わって食えよ」

 

 テーブルの上に容器を置くと、犬ころは器用に椅子に座ってテーブルに着いた。前脚をテーブルに置き、そして食事前に一つ吼える。

 

 わふっ

 

 食事前の感謝の儀式らしい。ラーディは外国から来た狼だからこの国にはない風習をいくつか持っている。とても興味深い話だ。その内教えてもらうのも面白いだろう。

 ラーディは感謝の儀式を終えると、前脚で容器を固定した。ふんすと鼻を鳴らして、ガツガツとドッグフードに顔を埋める。やはり犬ころ。食を前にして欲求を抑えきれていない。俺の料理の質が高いのもあって、犬ころは完全に食欲に支配されている。ふっ、所詮は犬ころよ。

 俺は食に溺れた犬ころが完食するまで待った。キッチンからひっそりと拝借していたフライパンを片手に持ち、犬ころに見えない位置で構える。

 

 けぷっ

 

 容器を空にしたラーディがげっぷをする。どうやら俺が用意したドッグフードを食べつくしたようだ。

 よしよし、ならもう抑える必要はないな。

 

「死にさらせぇ!!!!!」

 

 俺はフライパンを掲げてラーディへ襲い掛かった。

 ペットの癖して人間の住まいよりも立派な犬小屋を貰った家主が憎かった。俺なんか未だに自分の住まいを持ってないというのに、こいつは犬の癖して分不相応な家に住んでるのが理不尽に思えた。どうして犬ころに一軒家の贅沢な犬小屋が与えられたのか俺には理解できなかった。

 だから、俺には犬ころへの逆恨みとも呼べる怨みがあって、俺はそれを抑えることができなかった。

 

 そんな怨みを込めた一撃をフライパンに込めて犬ころに叩きつける。

 

 スカッ……。

 

 だが、俺はラーディに一撃も攻撃を当てることができずに、そのまま床に伏せられた。俺の上に乗っかったラーディがわふっと吼える。

 

「くそがッ! 離しやがれ! ペットの癖に! ぐえぇぇぇ……」

 

 ぐるる……。

 

 ラーディは室内で暴れるのは良くないとばかりに俺の動きを完全に抑え込んで、ちらちらと周囲に眼を向け始めた。

 俺は何を見ているのか疑問に思ったが、どうやらラーディは壁や床に傷が入っていないかを確認しているようだ。

 やがて確認が終わると、俺を抑えたまま勝利を宣言するように吼えた。

 

 アオォォォォン!!

 

 飼い主よりも上等な家を持ち、飼い主よりも強い力を持ったペットは飼い主なんかよりも立派な知性を持っているようだ。俺は人類を代表して泣いた。

 

 くぅぅん……。

 

 犬ころと人類の種族差に打ちひしがれる俺を犬ころは哀れに思ってくれているようだ。俺の頬をぺろぺろと舐めてくる。

 

「ああ、さっきは乱暴しようとして悪かったな……。こんな飼い主でごめんな……」

 

 俺はそんな感じの反省をしているようなことを言って、ラーディのもふもふの毛皮をモフモフとした。悪くない心地だ。さっきまでの荒んだ心が洗われていくようだ。

 ラーディの毛並みはコンコンほど手入れがされていないが、それでも十分すぎる程に俺の心を癒してくれた。この毛並みもコンコンのようにしっかりと手入れをすれば更に磨きがかかるのだろうと思うと、飼い主として検討せざるを得ない。

 ……ペットの毛並みを整える道具っていくらぐらいで買えるんだっけ。コンコンに聞いた方が良いかな? でもあいつ嫉妬深いからなぁ。俺がラーディの毛並みにお熱だって知ったら怒られそうだし……。まあおいおい考えて行くか。

 

 俺がそんなことを考えながらラーディの全身をくまなくもふもふしていると、突然家の玄関のドアが開いた。

 

「もう! 居るんだったら、ちゃんと呼びかけに応えてよ! って、何やってるの!?」

 

 ミルキィだ。俺とラーディのスキンシップを見たミルキィが慌てたように家に入ってくる。

 だが、何を勘違いしているのか、ミルキィは俺とラーディを引きはがすようにラーディに圧力をかけた。

 

「喧嘩はダメ! 何があったのかは分からないけど、とにかく喧嘩はダメ! ラーディはデルゲンを解放して! 喧嘩はメッだから!」

 

 ああ、そうか。俺の身体はラーディよりも少し小さい。だから、俺達がスキンシップをとると自然と俺がラーディに押しつぶされるような体勢になってしまう。特に、今は俺がラーディに拘束された後のスキンシップだったのもあって、傍から見ればラーディが俺を押さえつけているように見えただろう。

 

 わぅぅぅ……

 

 ラーディは慌てて俺から身を退かした。ミルキィに注意されて心なしか落ち込んでいるようだ。飼い主としてペットの誤解は解かねばなるまい。

 とはいえ、俺がラーディに拘束されていたのは事実だったので、俺はそれとなくラーディをフォローするにとどめた。

 

「いやミルキィ、ラーディは悪くないんだよ。これは俺がラーディにちょっかいをかけたのがそもそもの原因なんだ。ほら、こいつも反省してるみたいだし、大目に見てやってくれ」

 

 俺はそう言ってラーディの隣に立ってその頭をなでなでした。ラーディは「おまえが言うなよ」的な眼で俺を見てきたが、俺は無視した。

 でもミルキィはラーディと同意見のようで、俺を見る目がラーディと同じ目になっている。

 

「それってつまり、またデルゲンのせいってことじゃ……。まあ、デルゲンだし……。でも! これからはラーディも私達と同じフーラの民だから、喧嘩することなく仲良くするようにね! たまになら喧嘩しても良いけど、最後には絶対に仲直りするように!」

 

 ミルキィのこういうビシッとした態度はとてもカッコよくて可愛い。自分なりの正義を確信しているからこそ取れる態度だ。未熟な俺が憧れる姿であり、この国の住民全てが見習ってほしい在り方である。

 

「ああ、肝に銘じとくよ」

「肝とか、そういう変な言い方しないで。こういう時はもっと綺麗な言い方があるでしょ?」

 

 うーん。そうだな……。綺麗な言い方か……。

 

「よろしくな。ラーディ。これからは仲良くしよう。ああ、それと、フーラへようこそ」

 

 わふっ。

 

 ふふふ……これからが増々楽しくなりそうだなァ!

 俺は新たなペットをギラリとした目で睨みつけた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。