今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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歓迎会

 

 俺は今ラーディの後を付けて動向を追っている。

 こいつはつい最近フーラの民になったばかりだから、上手く街に馴染めているか心配だ。文化が大きく異なる地域からの移住者が新天地の空気に馴染めずに疎外感を覚えることはよくあることだろう。

 俺にはラーディの飼い主として、ペットの動向を確認する義務がある。

 

 俺は繁華街に立ち並ぶ商店の屋根の上を横断しながら、繁華街を歩く大型犬の後を付いて行く。すると、知らない闇の民が俺の隣にひょっこりと顔を出した。

 

「ラーディの様子が気になるのか?」

 

 何だこいつ急に馴れ馴れしく。まあ良い、何か知ってるのなら聞かせてもらうか。

 俺はもの知り顔のクズに情報を吐かせることにした。

 

「そりゃな。なんたって俺達は家族だし、何より俺とあいつは強い絆で結ばれてる。気にならないわけがないだろ」

 

 俺とラーディは『拝炎祭』というイベントで何度も殺し合った仲だ。殺害は本来なら人生で一度しかないビッグな体験であるため、その経験は強く心に刻まれることになる。

 俺とラーディが強い絆で結ばれているのはそのためだ。

 

「なら安心しろ。あいつはお前よりも上手くやってるよ」

「俺よりも? おいおい、それは冗談が過ぎるんじゃないか? 俺はフーラ歴十五年の猛者だぞ。ぽっと出の新人の方が上手くやってるなんてあるかよ」

「まあ見てなって……」

 

 言って、クズは繁華街を歩くラーディへと俺の視線を誘導した。

 俺は百聞は一見に如かずとクズの誘導に従ってラーディへと視線を向ける。

 

「……ガキに人気みたいだな」

 

 ラーディは飴屋のガキどもに大人気のようだった。

 ラーディは大型犬よりも少し大きいぐらいのサイズで、寝そべるとちょっとした大人よりも大きい。その巨体に小さなガキどもがわらわらと群がっている。

 もふもふの毛並みを堪能しようと、押し寄せるように三、四人ほどのガキがへばりついていた。

 

 それを見ている飴屋の店主の眼は爺さんが孫を見るように穏やかだ。今日も飴屋はでっぷりとした腹をぱぁんと叩いている。

 ガキたちはラーディと飴屋の周囲でわーわーと楽しそうにはしゃいでいた。

 その光景はまるで幸せの童話のワンシーンのような理想図があった。

 

 ふ、ふーん、随分と馴染んでるみたいじゃないか。安心したよ。てっきりイベントの時に街中で散々暴れ回ったから、打ち解けるには時間がかかると思ってたんだけどなぁ。

 い、意外と溶け込めてるようで飼い主の俺としては万々歳だなぁ。

 

 俺は内心焦っていた。まさかこんなに早くラーディがフーラの街に馴染めるとは思っても無かった。てっきり、全く馴染めずにラーディが俺に泣きついてくるもんだと思っていたから、早々にラーディが一人でもやっていけると証明されて、俺は一抹の寂しさを感じていた。

 で、でも、いじめられることなく馴染めるのは良いことだからな。俺が抱いている僅かな寂しさはそっと閉じ込めることにしよう。

 

 ラーディがフーラに馴染んでいるのを見て、俺はそのように思った。

 と、クズが興味深いことを聞いてきた。

 

「なあデルゲン、蒼騎士の捜索はどうなってる?」

「……蒼騎士?」

「なんだ知らないのか? ラーディが探してるっていう元ご主人様のことだよ。そいつの捜索は続けてるんだろ?」

 

 何でこいつらが俺よりもラーディに詳しいんだよと思ったが、確かラーディの話は英雄譚とやらで有名な話らしいので俺よりも詳しく知ってる奴がいるのは当然なのかもしれない。

 俺は情報の出所の追求をせずに話を進めた。

 

「ああ、そいつの捜索なら今は泥がやってるらしい。ラーディも偶に捜索に参加してるらしいが、大半の作業量は泥が圧倒してるから気持ち程度の参加だな」

「なるほど、泥はラーディの側についたってわけか。これは面白くなってきたじゃねーか」

 

 泥というのはフーラの有力者の一人だ。そいつはフーラの地下において絶大なる権力を有しており、フーラの地下で何かを探すならこいつよりも最適な奴はいない。

 元ご主人様を是が非でも探したいラーディがこうして街に顔を出す余裕を持てるのは、ひとえにラーディの代わりに泥が捜索を担当してくれているお陰だ。元ご主人様の居場所を知っておきながら隠している奴が居る中で、ラーディに協力的な姿勢を見せてくれている泥には本当に頭が上がらない。

 

「つーわけで今のところはラーディのフーラ移住計画は上手く行ってる。捜索も順調だし、街にも馴染めてるみたいだしな」

 

 俺とクズがそんな話をしている間にもラーディの周囲には様々な人が集まってきていた。子供から大人まで性別問わずで可愛がられているようだ。

 繁華街の人達に囲まれているラーディの顔には『拝炎祭』の時の恐い面影が全くといって言いほど無く、代わりに安らかで穏やかな表情をしている。これが本来のあいつの表情なのだろう。

 それを見ていると俺の心も自然とほだされていく。俺はとても気分が良かった。

 

 よし! あれ、やっちゃう?

 

 新たなフーラの民を歓迎しようじゃないか。俺がそう思ってクズの顔を見ると、クズも俺と同じことを考えていたようで、ニコッと良い笑みを浮かべていた。

 

「デルゲンがその気になると思って、実は既に歓迎の準備は終えてるんだぜ。いつでも行ける」

 

 クズがグッと親指を立てた。

 クズにしては準備が良いじゃないか。お前等も楽しみにしてたのが伝わってきて俺は嬉しいぜ。

 だったら、これはもうやるしかないよなァ!? 俺達の歓迎会をなァ!

 

 クズの準備完了の合図を受けて、俺もグッと親指を立てて返した。

 すぐに作戦が決行される。

 ラーディの耳がピクリと動いた。

 

 わう?

 

 何かを感じ取ったのだろう。ラーディが急に周囲の人を振り払って繁華街の屋根上に跳んできた。

 それを出迎えるのは闇の民の集団だ。今日も厨二カラーが冴える奴らである。

 

「へへっ、また戦えるとは思ってなかったぜぇ。あの時以来だな」

「あの時はリスディスの付与魔術のせいでお前とはまともにやりあえなかったからな。今日こそは存分に血を流し合おうぞ」

 

 わらわらと集まってきた闇の民が各々自分勝手に自己紹介をしていく。俺はそれを遠目から眺めていた。

 クズ共の得物が取り出される。ラーディはクズ共に囲まれていて、状況としては不利と言える。かつてのラーディには無敵の付与魔術があったためこんな状況でも無傷で居られたが、今のラーディにはそんな付与魔術は無いため多勢に無勢で死ぬ可能性は少なからずあるだろう。

 だが、ここはフーラであり、ラーディはフーラの栄誉ある国民である。どうせ死んでもリスポーンしてくるので死んでも問題は無い。

 俺は見に徹することにした。

 

 ぐるぅぅぅ! がう!

 

 ラーディが吼えた。それを境に戦闘が開始される。

 クズ共が我先に血を見らんと連携を忘れてラーディに飛び掛かった。一人一人は雑魚だが、各々が小刀や槍や剣などの多種多様な武器を構えているせいで、対応する側のラーディは困難だろう。

 クズ共は雑魚で馬鹿だが脳無しじゃない。どうすれば勝てる確率が高くなるかを知っている。まあ、勝てる確率が上がるのを知ってるだけで、どのくらいの確率で勝てるのかは分かっていないようだが。

 

 俺の見立てだと勝てる確率は……

 そんなことを考えている内に形勢が見えてきた。

 ラーディはイベントの時に比べると弱体化しているが、実際は弱体化したわけではなく元々の状態に戻っただけだ。イベントの時ほどのぶっ飛んだ力は無いものの、元々備えられていた高い技量は残っている。

 ラーディを襲っていたクズ共が次々と倒されていく。白銀の毛皮には一切の血が付いていない。流石は元英雄のペットだ。

 

 しかし、俺への警戒を怠ったのが運の尽き。俺はクズの死体から拝借した剣を握ってラーディに背後から襲い掛かった。

 

「俺が勝てる確率はァ! ……百パーセントだァ!」

 

 そう声高に主張した俺はラーディの後ろ蹴りによって吹き飛ばされた。

 屋根上から地面に落ちてゴロゴロと瀕死の俺が転がっていく。そして壁にぶつかって俺は血反吐を吐いた。

 

「げふぅッ!」

 

 ラーディはぶっ飛ばした相手がクズ共ではなく俺だったことに気付いたようで、慌てて俺の方に寄ってきた。吐血する弱り切った俺を見て悲しそうに鳴く。

 フーラにおいては死は別れではないため、こんなのは大した問題にはならないのだが、フーラに来たばかりのラーディにはリスポーンの法則は未だに実感を伴っていない。そのせいで、俺の身体が死に向かっているのを辛いと感じてしまうのだろう。

 

 がうぅ……。

 

「へへ、可愛いペットだな。飼い主の怪我を心配して来てくれたのかよ」

 

 くぅぅん……。

 

「チンピラみたいなことはやめろってか? 分かってるよ。でも、こんなのはお前の前だけでしかやらないぞ。今日はお前と殺し合えると思って突撃しただけだ。だからもうこんなことはやらない。なんせ俺はお前の飼い主だからな。お前の白銀の毛並みに相応しい飼い主で居たいんだ」

 

 契約を交わしたことで、今の俺はラーディが何を言っているのかを理解できている。ラーディは俺に死のリスクがあることは止めろと言っているのだ。

 

 でも、俺は……。がはっ。

 

「悪い。俺はここまでみたいだ……。また、会おうな……。なあに心配するな。フーラでは死人は蘇ってくるんだ。お前が悲しむようなことは何もない」

 

 くぅぅぅん……。

 

「てっきりフーラに馴染んでると思ってたけど、まだみたいだな。少し安心したよ。これなら飼い主の務めを一つは果たすことが出来る……。良いかラーディ、覚えておけよ。フーラの住民は死なない。死んでもリスポーンしてくるんだ。だから、死にゆく人に悲しみを向ける必要はない。死にゆく人には笑顔を見せるのが俺達の中のルールだ」

 

 そう、それが俺達のルールだ。

 ラーディは俺の言葉を聞いて何度も首を縦に振った。そして俺が言ったように笑顔を見せてくる。

 よしよし良い子だ。俺は最後の言葉を残すことにした。大仰に「俺達が死にゆく人に伝える言葉は一つだ」と前置きする。

 

「『死んだらまた戻ってこい。そして復讐を果たすために俺を殺しに来い』。これが俺達、戦闘民族のルール…………ぶぎゃッ!」

 

 ぺしっ。

 

 ふざけた事を宣った俺はラーディに潰されて死んだ。

 

 

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