そろそろメンヘラ症に決着を付けなければなるまい。最近色々と立て込んでいてメンヘラ症のことまで手が回っていなかったが、俺が本来やるべきことはフーラの治安を守ることだ。
マミーの作ったこの国を更に良い国にして、この国に住む善良な光の民が更に暮らしやすくするために俺は日々活動しているのだ。
今一度、俺は自分の役目を自覚する必要がある。そう感じた俺はメンヘラ症の正体を探るべく行動を起こした。
まずはメンヘラ症の起源を知ることからだ。何事にも言えることだが、根絶させるためには源を断つのは必須だろう。どれだけ末端を消したとしても源から再び流れてくるのであれば一向に根絶には近づけない。
ということで、俺は俺の知る限り最も起源に近いであろうものを記憶から引っ張り出した。
俺が最初にメンヘラ症に接触したのは繁華街の裏道での出来事がそうだろう。女に告白してフラれた男がガンザイと言う名の武器職人にそそのかされてメンヘラ症にされそうになったのだ。その時は偶々近くに俺がいたおかげでその男がメンヘラ症になることはなかったが、もし、俺がいなかったら男はメンヘラ症になっていただろう。
この事実を俺は深く考えてこなかったが、よくよく考えてみるとガンザイが罪のない男をメンヘラ症にしようとしていたのがわかる。
これからするに恐らくガンザイはメンヘラ症について詳しく知っているはずだ。少なくともメンヘラ症の拡散源の一つがこいつなのは間違いない。なんなら、こいつがメンヘラ症の最初の発生源の可能性もある。許せんなぁ。
そういうことで、俺はメンヘラ症の正体を突き止めるためにガンザイの隠れ家にやってきていた。
繁華街から外れた武器屋の並ぶ裏道の奥深く。その辺りでいくつかのギミックをこなした先にガンザイの隠れ家はある。
僅かな明かりを頼りに階段を下に降りていく途中、壁と同化するように扉がたたずんでいる。知らなかったら扉の存在に気付かずに更に下に降りて行ってしまいそうなくらい影の薄い扉だ。
俺はここに来るのが初めてではないから、扉を素通りすることなく、扉に気付いて中に入ることが出来た。
家主は俺の一寸先の位置に座っていた。
「あれ? デルゲン君の方から来るなんて珍しいね。どうしたの?」
扉の先は人が数人座れる程度の広さしかなく、俺が入るとすぐ目の前に座っていたガンザイと鉢合わせる形になった。
ガンザイは壁に向かって何やら作業をしている最中だったようで、鈍く光沢のある何かを持ったまま突然訪ねてきた俺を見て目を丸くしていた。
俺は返事をするよりも先にズカズカと中に入るとガンザイの隣にドカッと腰を下ろす。それだけで中は随分と窮屈になった。
中の様子を眺めながらガンザイに尋ねる。
「見ない物が多いな。また何か変なのを作ってるのか?」
ガンザイは武器職人だ。こいつが作るものは大概が攻撃を目的としている。俺は普段から戦うことが多いから自然と武器を目にする機会が多くなるのだが、そんな俺にしてもここにある武器には心当たりが少ない。
また物騒な物を作っているのは間違いないだろう。
「うーん、変なのを作ってるってのは否定しないけど、ここにあるのは大概失敗作だよ。今ちょっと実験に熱中しててさ、それが中々成功しなくて失敗作ばかりできちゃうんだよね」
意外だな。こいつが手こずるなんて珍しい。いつもぽんぽんと新作を作ってくるのに。
俺はガンザイがしているという実験に興味が湧いた。本題を忘れてその話を掘り進める。
「どんな実験なんだ? お前が苦労するってぐらいだから爆弾系統じゃないんだろ?」
「うん、爆弾じゃないんだけど、そうだなぁ、何と言えば良いのかなぁ。説明するのはちょっと厄介だねぇ」
「今お前が持ってるナイフみたいなのがそうじゃないのか?」
ガンザイが持っている鈍く光を反射している物はナイフの刃に見える。だが、ガンザイは僅かに首を傾げた。
「確かに用途はナイフ……ではあるんだけどねぇ。実験内容はナイフじゃないというか……。まあ、この道具の目的を説明した方が早いか」
言って、ガンザイが周囲に散らばっていた小さな物体を集めた。それらはどれも違った材質と形をしているようだが、全て赤黒い色で統一されている。
「デルゲン君はよく死んでリスポーンしてるけど、その時に武器を持ったままリスポーンしたいと思ったことは無い?」
「そんなのあるに決まってるだろ。逆にない奴なんているのか? 誰だってリスポーンしてすぐに復讐に行きたいだろ」
通常、俺達フーラの民は死ぬときにその場に服以外の全ての所持していた物を落とす。そして服以外の全てを失った状態でリスポーンする。
有難いことにリスポーンする際には命だけでなく、なんと身にまとっていた服までもが戻ってくる。
全裸でリスポーンしたら恥ずかしいだろうと気を遣ってくれているのだろう。しかし、俺からしてみれば服なんぞよりも武器が欲しかった。
手元に武器があれば、俺を殺した奴を真っ先に殺しに行けるようになるからだ。フーラで殺し合いをしている者達は皆が俺のように服よりも武器が欲しいと思っていることだろう。
「デルゲン君は相変わらずだなぁ。まあ、これに関しては君に限った話じゃないんだけどね。フーラの悪しき文化だよ」
「お前にしてはよく分かってるじゃないか。そう、これは滅ぼすべき文化だ。俺が全ての闇の民を排除した後に俺はこの文化を滅ぼさないといけない…………ん? 何だその顔は」
「いやね? ……まあ、僕としてはそっちの方が有難いから良いんだけどね」
煮え切らない顔と台詞だな。はっきり言えよ。
俺が圧をかけるとガンザイは苦笑した。
「悪いと分かっていながらも悪いことを止めようとしないデルゲン君は大概だよねってことだよ」
「ガンザイ、お前にはわからないだろうが、悪と戦うには時として悪にならないといけない時があるんだよ」
「そういう詭弁も大概だよねぇ。まあ、僕が言えたことではないんだろうけど」
よく分かってるじゃないか。そう、お前が言えたことじゃないんだよ。お前みたいな爆発物製作者の極悪人が俺みたいな光の民に説教垂れるなんて道理に反する。
「で、出来るようになるのか?」
話の流れからしてそういうことなのだろう。ガンザイは今、リスポーンしたときに武器を持ち越せるようにする実験を行っているらしい。これが成功すれば快挙だ。具体的な利点としては時間の効率化とそれによるストレスの減少が挙げられる。
リスポーンした状態から武器を所持していれば、自分を殺した相手を殺しに行くまでの時間は大幅に短縮されることになるため、俺達は今までよりも短い時間でストレスを発散させることが出来るようになる。殺されることによるストレスは大きなものだが、このストレスを短い時間で晴らすことができるとなると、フーラ全体のストレス値は更に低くなると予想できる。
これは明らかな快挙だ。
だが、ガンザイは俺の期待に反して首を横に振った。
「実験は上手く行ってない。というか、そもそも実験に至るまでで結構障害があってね。検証段階にこぎつけられてないんだ。今までとは違って複数人の協力が必要になるから、僕一人じゃ中々進められないってのが現状だよ……」
ガンザイはブラックリストに載るほどの極悪人として名高い。こいつが作る武器が多くの人を殺してきているからだ。かく言う俺もこいつの武器には何度も殺されてきているから分かるが、武器職人ガンザイが作る武器の殺傷力は非常に高く、殺生を嫌う多くの人達にこいつは嫌われている。
そんな奴が大がかりな実験をするための人員を集めていると言って、一体どれだけの人が手伝ってくれるだろうか。ガンザイの手先だと知れた日には光の民からの心象に影響がでる。流石にそんな危険を冒す奴は馬鹿で知られる闇の民の中でも限られるだろう。
「いやぁ、手伝ってくれる人が居れば実験を進められるんだけどなぁ」
チラ、チラ……。
「……なんだよ」
「いやね? 手伝ってくれる人が居ればなぁって思って」
そんなアホが居るとは思えないが居てほしいものだな。お前のことは気に入らないが、武器を持ったままリスポーンできるかもしれないってのは興味あるし、大人しく完成を楽しみに待つことにするよ。
ひと段落ついたので俺は腰を上げた。
「まあ、ほどほどにしておけよ。これは光の民としての忠告だが、最近の闇の民は警戒されてるみたいだからな。酷いことになる前に手を引いた方が良い」
「……警戒される原因になったのは君のせいなんだけどね」
ん? 何でだ?
「知らないって顔してるね。流石はデルゲン君だよ。もっと世間の言葉に耳を傾けた方が良いと思うよ?」
「失礼だな。まるで俺が他人の話を聞いてないみたいなこといいやがって。言っておくが俺よりもお前の方が世間からは遠く離れてるからな」
「そうかなぁ? まあいいや。デルゲン君がこの前闇の民を引き連れて裏社会のドンを襲撃したでしょ? あれのせいでパラディンが警戒を強めてるんだよ。だから僕も大々的に実験を手伝ってくれる人を探せなくなっちゃったんだよね」
つまりは実験が前に進んでないのは半分ぐらい俺のせいだと……。それは悪いことをした……いや、逆を言えば俺のおかげでガンザイの悪事がストップしていると言えなくもないわけか……。するとなると。
……見えたッ!
俺は良い案を思いついたと、パチンッと指を鳴らした。
「なあガンザイ、取引といこうや」
「へぇ、何を交換するのかな?」
「俺がお前の実験に協力してやる代わりに、お前が知ってるメンヘラ症の情報を俺に渡せ。つーかさっさと白状しろ」
すっかり忘れてしまっていたが、俺はメンヘラ症の感染源を求めてここに来たんだ。メンヘラ症については絶対に聞きださないといけない。
「メンヘラ症ね。良いよ。実験に付き合ってくれたら教えるよ」
「決まりだな」
これにより俺とガンザイの人体実験チームが結成されることとなった。