今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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不死の力にまつわる研究

 

 今俺はその辺を歩いていたクズを攫ってきて椅子に縛り付けている。

 不承不承ながらもガンザイの手伝いをすることになった俺は早速その責を果たすため、実験材料を集めてきたのだ。

 

「おい! いきなり連れてこられたと思ったら何だこれは!? 何が目的だ!?」

 

 少しばかりうるさい実験材料だが、このぐらい活き活きとしている方が良い。疲れ切って消沈してそうな奴を実験材料にするのは流石に俺の良心が痛むからな。その点、元気なクズを使うのは俺の精神衛生上良い。

 

「よし、括りつけたぞ。次はどうすれば良い?」

「腕の動脈に注射の針を刺して血を吸い取れるようにして。できなかったら腕を切り裂いてから血をとってもいいけど、死なない様には注意してね」

 

 血が欲しい訳か。それなら腕に切り傷を入れれば済むな。リストカットみたいな感じで死なない程度に……。

 俺はナイフの刃をクズの腕に流れている動脈部分に近づけた。クズがガタガタと椅子を揺らして発狂する。

 

「お、おい! な、何しやがる!? お前等二人して何を企んでやがる!?」

「まあまあ、落ち着けよ。お前も余計な怪我はしたくないだろ? 何もお前を殺そうって訳じゃないんだ。傷口を深くしたくなかったら大人しくしておくんだな」

「あ、デルゲン君、嘘は良くないよ。その人は後で殺すことになるから、ちゃんと訂正しておいてね」

「…………というわけだ。残念だがお前が暴れなかったとしてもお前は死ぬことになる。悪いな」

「クソッ!! 俺を解放しろッ!!」

 

 うるせぇなぁ。栄誉ある実験の被検体になれたことを感謝しろよ。これが成功すればフーラ史に名を残せるかもしれないんだぞ。そのレベルの実験なんだ。

 椅子の上で暴れるクズの腕を抑え込んで、俺はナイフで少しずつ傷を広げていった。

 

「うわあああああ!!!!!!」

 

 大袈裟だなぁ。そんなに深い傷じゃないだろ。

 脈拍と共に腕から血がドクドクと溢れてくる。あまり深い傷ではないため流れてくる勢いは弱いものの、やはり血なだけあって見るだけで痛々しさがある。

 俺は血液の流れに沿うように容器を当てた。腕を伝って流れてくる血液が段々と空っぽの容器を赤い色で満たしていく。

 

「どのくらい必要なんだ?」

「最初の実験だからそんなに多くは要らないよ。ビーカーの四分の一程度で十分」

「あいよ。じゃあ、ここらで止めとくか」

 

 俺は容器の五分の一程度の所で傷を塞ぐように布で抑えた。腕を垂れている分の血液が容器に流れて行って、丁度四分の一程度になる。

 ガンザイが俺の神テクに「うわぁ」と感心した声を漏らす。

 

「やっぱり君えぐいね。人体の扱いに慣れ過ぎてるよ」

「お前とは経験が違うからな。自分で言うのも何だが、傷のつけ方に関しては俺は一家言あるんだ。こういう作業があるなら俺の協力が得られて良かったな」

 

 俺は得意気に鼻を鳴らした。

 

「ああ、うん、参ったな。別に褒めたわけじゃなかったんだけど。あ、その血液はそこの板の上に置いて」

「何だよ。俺の匠な技に少しは感動したのかと思っただろ」

 

 ぶつくさと小言を吐きつつ指示された板の上に容器を置く。

 

「おい、デルゲン、俺の血をどうする気なんだ?」

 

 いや俺に聞かれましても。どうする気なんだろうな。

 俺はガンザイに説明を求めた。ガンザイは血液を弄りながら答えた。俺もクズも一緒になって話を聞く。

 

「リスポーンするときに所持できるものの判定が何かって考えたことはある?」

「判定も何も身体と服だけだろ」

「その身体の範囲と服の範囲は?」

 

 それは、何なんだろうな? そうだな……。

 俺はそれっぽいことを考えて口にした。

 

「生活に必要最低限だとみなされたものじゃないか? 例えば、パラディンのメンバーが死んだ場合は着ている鎧をその場に落とす。鎧の下に何も着ていなかったとしても、鎧は服だとみなされないんだ」

 

 だからパラディンの人達は下半身はパンツを履くようにしているらしい。こういう、リスポーンに伴って身に着けている物を落とすのはよくあることだ。鎧の他には過剰な重ね着も鎧と同じで死んだ場所に落としてしまう。

 

「生活に必要最低限なもの、それはそうだね。じゃあ、その必要最低限っていうのは何を基準にして決めてるのかな?」

 

 そりゃあ……。

 その理由を俺が言い淀んでいる間にクズが答えた。

 

「女王フーラ様が基準だろうな」

「そう、不死の力を司っている女王フーラ様が決めてるんだよね」

 

 俺達フーラの民が死んでも蘇ってこられるのはマミー……女王フーラと契約を交わしているからだ。フーラの国民になるということは女王フーラと契約を交わすことと同義であり、契約をせずにフーラの国民になるのは道理に反する。

 不死の力は女王フーラの力が元になっているのだ。必然、不死の力の基準は女王フーラが基準になる。

 

 ガンザイが容器に何らかの魔術を行使した。中に入っている血液が光沢を見せるようになる。

 

「つまり、女王フーラ様が定める範囲の中に入る武器なら、僕たちは死んだときに武器を落とさずに済むんだ」

 

 な、なるほど? でもそれは……。

 俺が言おうとしたことをまたしてもクズが先に口を開いた。俺とガンザイの実験に興味があるようで、結構熱心に話を聞いていたようだ。

 

「矛盾してんじゃねぇか? 身体と服だけしかダメなのに、武器がその範囲内に入るって。武器は武器だろ。身体や服の範囲に入るならそれは武器じゃない」

 

 ガンザイが言いたいことは分かる。女王フーラが定める服と身体の定義の範囲内に入る武器は、それはもう武器ではない。

 拳を武器だと、長袖を首絞めの武器だと言い張っているようなものだ。それは武器職人として悪名高いガンザイが作る武器ではないように思える。

 

「まあ、言いたいことは分かるけど、まずはこれを見てほしいね。これは二人からしたら何に見える?」

 

 赤黒い石だ。いや、違うな……。さっきクズから搾り取った血液を固めたものか。手のひらよりも少し小さいぐらいのサイズだが、鋭利な部分がある感じからして武器と言えなくもない。

 だが、これを武器と言って良いのかという思いもある。クズも俺と似たようなことを思ったようで微妙な表情をしていた。

 その反応を受けてガンザイもまた微妙な表情をする。

 

「はは、でもこれはまだ試作段階だから、実験次第ではもっと武器っぽくできる……と思うよ」

 

 どういう感じなのかよく分からないが、ガンザイがいけそうだと思うならそうなのだろう。こいつは極悪人だが腕は確かだ。

 クズの命を一つ賭ける価値は十分以上にある。

 

「……なら実験をやってみるか」

 

 俺は人の首を斬るには申し分ない刃物を手にした。

 状況を察したクズがガタガタと椅子を揺らして命乞いを始める。

 

「ま、待て! 早まるな!」

「なんだよ。お前もこの実験には興味があるだろ? これが成功すれば俺達の復讐劇は短時間で片づけられるようになるんだぞ。大人しく礎になれよ」

 

 この実験の目的は武器を持ったままリスポーンできるようにするためのものだ。その検証のためには当然被検体の殺害が必須となる。

 俺はクズの命乞いに耳を貸さずに刃物をクズの首元に当てた。ガンザイに決行の許可を要請する…………も、ガンザイは若干驚いたような顔をしていた。

 

「デルゲン君ってほんとに凄いね。容赦のなさがズバ抜けてるというか、よく躊躇も無しにそんなにあっさりと人を殺せるね」

「闇の民を光へと導くために必要なことをしていたら、気付いたらこうなっただけだ。誰かがやらないといけないことをやっているに過ぎない」

「……うん、そうだね。でも、今は少し待って。その人にはここに戻ってきてもらわないといけなくて、怒ったまま死んで帰ってこなかったら結果が分からなくて困るんだよ」

「それは盲点だった。でも、クズが帰ってくるようにする方法なんてあるのか? こいつらは平気で他人との約束をすっぽかす奴らだぞ。俺が何度騙されたことか。……ゆるせねぇよ」

「おいおいそれは風評被害って奴だ。約束を破るのはお前がデルゲンだからだぞ。他の人との約束はしっかり守るわ」

「なお悪いわ。何で俺だけだよ」

「まーまーまーまー。喧嘩はその辺にして。とにかくそういう訳だから、この人には帰ってきてもらわないといけないんだよね。それで、帰ってきたらいくらかお金を渡すって感じにしたいんだけど、良いかな?」

「……幾らだ」

「えっとね……このくらいでどう?」

「……良いだろう」

 

 ということで二人の間で話が纏まったようで、俺にクズの殺害の許可が下りた。クズの手には先程作った血で作られた石のような刃物が握られている。これで準備は完了だ。

 俺はクズの首に当てた小さな刃物を大きく振りかぶって、振り下ろした。

 

 ◆

 

 それから数分後、さっき殺したクズが帰ってきた。その手には……何も握られていなかった。

 

「失敗だったぜ。俺がリスポーンした時には手ぶらだった」

 

 どうやら身体の一部分である血液を使った刃物は身体だとは認識されないらしい。実験は失敗だ。今回の結果は非情に残念だった。

 ……が、報酬はまた別だ。

 クズがガンザイに金を受け取っているのに便乗して俺も報酬を要求した。

 

「約束通り実験に手伝ったんだからメンヘラ症について教えてもらうぞ」

「んー、実験はまだこれからもやる予定だから、それも手伝ってくれると助かるんだけどなぁ。正直デルゲン君ほど迅速に闇の民を攫って来て殺してくれる人は貴重で助かるんだよね」

「それはまた別報酬で俺を雇ってくれ」

 

 ガンザイが唸る。それから、ごそごそと何かを漁り始めた。

 

「おい、何をしてる。約束通りさっさと話せ……っと、何だこれは」

 

 ガンザイが俺に拳大のものを投げてきた。

 

「新作の爆弾だよ。この前のイベントでデルゲン君が使った爆弾あるでしょ? あれを更に改良したものがそれだよ。これで勘弁してくれないかなぁ?」

「いやだよ。さっさとメンヘラ症にについて吐け」

「……じゃあ、もう一つ付けてあげる。これでどうかな? この前みたでしょ? 恋人を殺害するときに使うナイフ。これも一種のメンヘラ症の情報と言えなくもないよね?」

 

 黒い入れ墨の入ったナイフだ。ガンザイはこれをメンヘラ症に罹りかけた光の民の男に渡そうとしていた。

 メンヘラ症の手がかりとしては一応価値がある……か。

 

「…………良いだろう。お前の実験にも興味があるしな。今回はこれで勘弁してやる」

 

 ガンザイがニコッと良い笑みを浮かべる。

 

「助かるよ。これからも実験の協力よろしくね」

 

 俺とガンザイのやりとりを見ていたクズが微かに呟いた。

 

「闇の民のトップが手を握りやがった。こりゃあ、新時代の幕開けか?」

 

 心外だな。俺は天下の光の民だぞ。失礼なことを言うもんじゃない。これは正義のための協力関係だ。

 

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