今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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面倒くさい男とメンヘラ症の正体

 パラディンがガンザイを追っていくのを俺は指をくわえて見ていることしかできなかった。俺はシャルルと手を組んでいるがパラディンと正式に協力関係を築いているわけではなく、パラディンからしたら俺は闇の民だと誤解をされているままだからだ。

 ガンザイの隠れ家に襲撃を仕掛けたパラディンは皆が隠し通路へと向かっていったがためにここに残ったのは俺一人だけ。

 

 いや、もう一人居たな。

 

 俺がさっき殺したクズが報酬を貰いに戻ってきていた。クズはてっきりガンザイが出迎えてくれていると思っていたようで、俺しかいないのを不思議そうにしている。

 

「何かあったのか? 荒れているように見えるが……」

 

 ここで何が起きたのかを教えなくても良いが、教えても別に悪くはない。俺は俺がシャルルと協力してガンザイを仕留めにかかった事実を伏せてクズに話すことにした。

 

「最近のあいつの行動を不審に思ってたらしくてな。パラディンがガンザイを捕まえに来たんだ」

「そうか、ついにガンザイもお縄につくことになるのか。出てくるには十日か、それ以上はかかりそうだな。…………って、それとこれとは話が別だ! 俺の報酬はどうするってんだよ!」

 

 ああ、そうだな。どうしようか。……いや、確か報酬の入った袋はここに置いてあったはずだ。……あった。これだ。お、結構重いな。

 俺はガンザイが予め用意しておいた袋を渡す。

 

「ほらよ。これに全部入ってるはずだ。確認してくれ」

「サンキュー。これで報酬ゼロだったら流石にガンザイには失望してたところだぜ。おおっ、ずっしりしてんな。あ、因みに実験は失敗だ。パッと見ただけじゃ判別はつかないだろうが、骨に付けられてた金属はない状態でリスポーンされた。だから、その辺を探したら俺に取り付けられてた金属が見つかるはずだぜ」

 

 また失敗か、これは長い実験になりそうだな。ま、俺はもう実験に付き合わなくて良いからどうでも良いんだけどな。実験の行く末は気になるが仕方がない。ガンザイはブラックリストに載るほどの闇の民だ。これが正しい在り方だろう。

 クズが報酬の袋を開いてガチャガチャと中の金額を数えている。随分とほくほくと嬉しそうな笑みを浮かべている。俺は額が足りているかどうかが判明するまで待ってから、ここを後にすることにした。

 

 急に、クズが深刻な声色をだした。

 

「おい、デルゲン。お前、ガンザイを裏切ったのか?」

 

 裏切るとは人聞きが悪いな。俺はただ正義の名のもとに悪の退治の手伝いをしたまでだ。そもそも俺とあいつの協力関係は──

 ──まて、何でそれを知ってるんだ?

 思いもよらずに驚きを顔に出してしまった俺をクズは呆れたように頭を掻いて見てきた。

 

「袋の中に手紙が入ってたんだよ。……はぁ、ちょっと座れ。話をしよう」

「話ってなんだよ」

「良いからさ。少し話をしようぜ」

 

 クズにしては神妙な顔だ。ガンザイからの手紙に何らかの影響を受けた可能性が高い。ガンザイは逃げる直前、何らかの策が残っている風なことを言っていた。

 クズ宛てに書かれた手紙には何かやばい情報が書かれている可能性がある。何だったらガンザイからクズへの指令も書かれているかもしれない。

 

「まあ、少しなら」

 

 普段はこうはならないが手紙の内容が気になった俺はクズの指示に従わざるを得なかった。

 互いに座るとクズがコホンと咳をする。

 

「メンヘラ症の正体とその対処法について書かれてた」

「なッ!?」

 

 嘘だろッ。ガンザイが? 何で? 俺がガンザイを敵に回すことをあいつが知ってたなら、わざわざ手紙にメンヘラ症について書く必要はないはずだ。寧ろ書くとあいつが不利になるだけ。明らかに俺に塩を送る行為だ。

 なにか考えでもあるのか? ……わからん。だが、ここで俺が後手に回ると不味いことは分かる。どうにかしてガンザイの思惑を突き止めなければ……、最悪俺がガンザイに狩られる羽目になる。

 だが、あいつはパラディンに捕まるはずだ。仲間の少ないあいつにできることは限られてる。だが……。

 

 クズが手紙を俺に見えない様に注意しながら開く。俺は頭をフル回転させながらも、クズの言葉に耳を傾けざるを得なかった。

 しかし、俺は少し後にこの選択を悔いる羽目になる。

 

「メンヘラ症の正体は単なる流行らしいな。フーラでは度々観測されてる流行現象らしい」

「りゅ、流行? メンヘラ症がか?」

 

 そ、そんな事があり得るのか? メンヘラ症ってのは好きな人に想いを伝えるために相手を殺そうとする精神的な病気のことだぞ。それが……流行? そんな流行があってたまるか。

 

「俺もにわかには信じがたいけどな。今朝も一人、通りで女に殺されてる男を見たよ。あれが流行だったとは俺も思いたくはない。だが、ガンザイによるとそうらしいな。好きな人に想いを伝えるための流行りのやり方。それがメンヘラ症の正体ってわけだ」

 

 つまりは、どういうことだ? メンヘラ症はそんなに悪い物じゃなかったってことか? 病気じゃなくて流行りってことは……。

 いやッ。

 

「待てッ! おかしくないか!? パラディンや他の奴らがこのことを知らなかったのは何でだ!? あいつらには長年で集めた大量の情報があったはずだ。メンヘラ症が定期的に起きる流行なら直ぐにメンヘラ症の正体は判明したはずだ」

「そりゃあ、あれだろ。メンヘラ症を病気だと認定しちまったのが間違いだったんだろうな。過去の検索を行う時に流行ではなく病気として検索する流れができちまったからその正体を知るまでに時間がかかったんだ」

「……最初から流行だとわかっていればこんなに俺が走り回ることはなかったってことか?」

「まあそうだな。初っ端にメンヘラ症を病気だと言いふらした奴がいなければこんなことにはなってなかったと思うぜ」

 

 愛する人を殺すことで想いを伝える流行り。それがメンヘラ症の正体か……。そんな流行があってたまるかという思いはあるが、ものは考えようだ。

 フーラでは人は殺しても死なない。だったら、死というものを過剰にタブー視すること自体が間違いということになる。間違いというのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも殺人がフーラ独自の解釈を持っても不思議ではない。これを人は文化と呼ぶ。

 フーラ独自の愛情表現の文化……。

 

 俺はメンヘラ症を純愛教の敵だと言って過剰に反応していたが、もしかするとメンヘラ症は寧ろ純愛教の味方だったのかもしれない。殺害するという悪印象が先行しすぎたせいで本質を見失っていたのかも……。いや、これはまだ早計か。純愛神の神託を伺う必要がある。一信者の俺が決められることじゃないな。

 

「それで対処法は? 書いてあったんだろ?」

「聞いていいのか? これはお前が売ったガンザイが書いた奴だが?」

 

 一々刺さる言い方をしてきやがって。極悪人のゴミを売り飛ばしたところで俺に非はないだろ。悪を征するために悪を成すのは俺の流儀だ。

 だがまあ、あいつは悪い奴で、俺はあいつを敵視していたが、無料で施しを受け取ることはできない。

 

 ……なるほどな、これがガンザイの狙いか。今回はあいつが一枚上手だったな。俺に無理矢理にでも恩を売ることで、俺のプライドを刺激したわけだ。俺は嫌いな奴からの施しは受けたくないと思ってるタイプだからな。

 ガンザイめ。流石は俺のことを良く知ってるだけはある。素直にあっぱれだよ。

 

 俺は立ち上がった。

 

「その続きは読まなくて良いぞ。メンヘラ症の対処法は俺が直接聞くことにする」

「お、心境の変化でもあったか?」

「今回はあいつの勝ちってことだ。負けた俺はあいつに従わないといけない」

「はぁ? お前がいつ負けたんだよ。寧ろ勝ったんじゃないか? お前が欲していたメンヘラ症の情報だってこうして手に入ったわけだしさ」

「良いんだよ。これはあいつの勝ちだ。お前が手紙を読み上げるのを止められなかった俺の負けだ。押し付けられた施しはきっちり返さないといけない。例えそれが押し売りだったとしてもな」

「はぁ……?」

 

 クズは理解できないと言いたげな顔をしている。まあ、そうだろうな。これは俺とガンザイぐらいにしかわからん。プライドの話だ。

 

「つーわけだ。俺はちょっとガンザイのサポートに行ってくるよ。といっても、外から扉を開けて退路を作るだけだけどな。流石に俺もパラディンに正面から楯突くことはできないし」

「ま、まあ、お前がそう言うなら。でも、俺としては良かったよ。お前とガンザイは相性が良いと常々思ってたんだ。仲良くやってくれるならそれに越したことは無いからな」

 

 ハッ、俺があの極悪人と相性が良いって? 俺は清廉潔白な光の民だぞ。相性は最悪だ。

 

「仲良くやるつもりはねーよ。あくまでもあいつはブラックリストに載ってる極悪人だからな」

 

 とはいえ、裏をかかれて俺が無理矢理甘い蜜を押し付けられたのは事実。その腹いせをするため、俺はガンザイのサポートをすることにした。

 クズがぼそりと呟いた。

 

「あっちもこっちも面倒な性格してんなぁ」

 

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