今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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逮捕とイベントの開始

 

 ヒャッハーーーーー!!!!!

 

 今の俺は大変機嫌が良い。ここ最近抱えていた悩みが一気に解決したことで、枷から解き放たれたように身体が軽く感じる。ぴょんと跳ねれば時計塔の最上階までいける気がするし、声を張れば街全体に響かせそうな気がする。

 これもメンヘラ症の正体とその対処法が判明したおかげだ。ひいてはメンヘラ症の消滅のために花火を打ち上げて、大量のカップルの成立を助けるという作戦のおかげだ。純愛神のために働ける日が遂に来たのが素直に嬉しい。

 今の俺は憑き物が落ちたように心身ともに解放されていた。

 

 ヒャッハーーーーー!!!!!

 

 などと調子に乗って繁華街で騒ぎまくってた俺は颯爽と現れたパラディンに連行された。罪状は業務執行妨害である。恐らくは俺がガンザイの逃亡を幇助したことがバレたのだろう。

 

 ◆

 

 パラディオン地下牢──

 パラディオンには悪質な闇の民に反省を促すために地下牢が設置されている。フーラの民は基本的に自害することで拘束から逃れられるため、本来なら必要価値のない施設だが、実は全く無意味なものではない。

 具体的にはこういう場合に使用される。

 

 俺は綺麗に掃除された牢の中でムスーッと頬を膨らませた。牢の外に居るパラディンがそんなふてくされた態度の俺を見て嘆息吐く。

 

「デルゲンが良い人なのか悪い人なのかわからないな。正直なところ扱いにかなり困っている」

 

 じゃあさっさと釈放してくれよ。推定無罪ってのがあるだろ。

 俺はそのように主張した。

 

「それは出来ない。何故ならデルゲンがガンザイの逃亡を手助けした疑惑があがっているからだ。心当たりはあるはずだ。デルゲンはあの場に居たのだからね」

 

 ……やはりバレたか。流石はパラディンの調査力だな。あらゆるところで隙がない。この精度の高さから見るに、恐らく俺があそこでガンザイを助けなかったなら、ガンザイは確実に捕まっていただろう。

 俺はパラディンに誤魔化すのは無理だと判断し、白状することにした。鎖に繋がれた両腕を上にあげて降参のポーズをとる。

 

「その通りだ。俺がガンザイを逃がした。ちょいとあいつに恩を売っておきたくてな」

 

 俺は嘘を吐いた。恩を売っておきたいなんてのは今考えた嘘だ。あの時の俺はそんな賢い事は考えていない。俺が吐いた嘘は薄氷のように薄く脆かったが、パラディンは無視してこなかった。

 その整った眉根が寄る。

 

「恩を? ガンザイに何を求めたんだ? デルゲンとガンザイの確執は知っている……いや、最近は仲が良いとも話を聞くな……どっちだ?」

 

 情報が錯乱しているようだな。俺がことあるごとにブラックリストに載っているガンザイを敵視していたからこんなことになったのだろう。この混乱は利用できる。

 俺は即座に嘘のシナリオを頭の中に作り出した。

 

「そう、お前の言う通りだ。俺がガンザイに恩を売ろうと思ったのは俺がガンザイを嫌っているからというのが一番の理由だ。あいつは闇の民だが武器職人で商人だろ? 商人魂を持つあいつは信頼を重んじるところがある。だから、あいつに恩を売っておけば、あいつは多少自分が不利になろうが俺の言うことを聞かざるを得なくなるんだ」

「……なるほどな。続けてくれ」

 

 興味を抱いたとき、人は僅かに警戒心を薄める。

 よし、俺への警戒が薄れたな。罪人の口車に乗せられるようじゃまだ甘い。俺は勝利を確信した。ぐいっと釣竿を引き上げる。

 しかし──

 

「その先の話は私が引き受けよう」

 

 シャルルだ。

 

「シャ、シャルル。良いのですか? 今は闇の民のイベントの対策で忙しいはずでは……?」

「構わない。それに、デルゲンには尋ねたいことがあったのでね」

「尋ねたいこと?」

「ああ、イベントについて少し。君は持ち場に戻って良いよ。後は私がやる」

「……わかりました。では私はこれで」

 

 シャルルの命で部下が地下牢を去って行く。

 この場は牢の檻を挟んで俺とシャルルの二人きりになった。しっかりと地下牢に続く扉が閉められていることを確認して、シャルルが口を開く。

 

「まったく、私の部下で遊ぶのは辞めて欲しいものだよ」

「仕方がないだろ? だってあいつが隙だらけだったんだからさ。罪人と会話するってのに警戒心が足りてねぇ。ちょっとこっちがそれっぽい事を言っただけで直ぐに興味を顔に出す。だからそこを付けこまれる。しっかり教育しとけよな」

「そうだな。これは私の教育ミスだ。もっと闇の民には警戒心を持つように教え込ませるべきだった」

「おう、そうしてくれ」

 

 さて、まずは副題が終わったな。

 シャルルが「さて」と切り出して本題に入る。

 

「私は君を許すつもりだ」

 

 ほう……。

 

「私の意志に背いてガンザイを逃がしたことは咎めなければならないことだが、君が私のために多くの情報をもたらしてくれたのは評価したい。特に、今回君がガンザイを逃がしたことで得られたメンヘラ症の情報はとても有意義なものだった。おかげでパラディンの大量の情報からメンヘラ症の情報を引き出すことが出来たよ。まさかメンヘラ症が病気ではなく流行だったとは夢にも思わなかった。この情報をガンザイから引き出してくれたことは大きな成果だと考えている」

 

 シャルルなら許してくれるだろうという考えはあった。シャルルは話のわかる男だ。俺が一度やらかしただけで俺の手柄を蔑ろにしないのは何となくわかっていた。いや、わかっていたというよりは甘えていただけかもしれない。シャルルなら俺のことを理解してくれるだろうと甘えていた。

 甘えるのは良くないことだ。ガキが大人に甘えるならまだしも俺はもうガキじゃない。悪いこととまでは言わないが褒められた行いではないのは確かだろう。

 だが、シャルルは俺の甘えを受け入れてくれた。シャルルなら許してくれるだろうという俺の甘えを拒否せずに受け入れてくれた。

 

「良いのか?」

 

 俺は確認をとった。

 

「ああ、良いとも。デルゲンにはそれだけの価値がある」

 

 シャルル。光の民による治安維持組織パラディンのリーダー、シャルル。

 その器の広さはフーラでも随一だろう。光の民だけでなく、闇の民にも手を差し伸べようとするその心は普通の光の民が持つ光の心の枠組みを超えているかもしれない。

 

 俺の心は震えていた。

 シャルルの目を見据えると、シャルルは強く頷いてくる。

 俺は強い確信を抱いた。やはりこの国に必要なのは広い器を持った光の心だ。闇の心ではない。

 

 俺はシャルルの強い意志に応えようと思って手を伸ばそうとするも、ジャラジャラと鳴る鎖がそれを阻止してきた。

 ……そういえば俺は今繋がれてたんだったな。悪いことをしたから、捕まったんだ。

 

「解放しよう。今鍵を持ってくる」

 

 俺が心からの反省の色を見せたことで、シャルルは俺に枷が必要ないと判断してくれたようだ。

 牢の鍵を取るために扉のほうへ向かう。……その途中、扉がドンドンと叩かれた。

 

「シャルル! イベントが始まりました!」

 

 イベント? そんなのは毎日のように行われてるだろ。何でそんなに大声で慌てたように……?

 そう、呆けた俺は馬鹿だった。俺とは違いシャルルの方はかなり焦っていた。

 

「闇の民のイベントか!?」

「はい! 街に大量の魔蟲が! 早く住民の避難を!」

 

 闇の民のイベント!? 魔蟲!? 住民の避難!? …………ミルキィは?

 

「ミルキィィィィィィ!!!!!」

 

 俺は死んだ。

 

 その数秒後にパラディンが地下に入ってくる。

 

「今の叫び声はデルゲンですか?」

「ああ、そのよう……だ…………。し、死んでる?」

 

 俺は既に死んでいた。牢の中には俺の死体が無様な顔を晒して転がっている。

 パラディンの構成員もシャルルもそれを見て驚愕の顔を隠そうともしなかった。いや、隠せなかったのだろう。

 

「あり得ない……ですよ……」

「いや、これが闇を極めた者の行き着く果てなのかもしれない」

 

 まるで未確認生命体を見たかのようにその存在を否定している。

 

「ですがッ!? 自死を選択してたった数秒で決行に移すなど生物に出来るわけがッ!?」

「……だが、できてしまった。それが彼ら闇の民の力の一端なのかもしれない」

 

 緊急事態だというのに、二人は他のパラディンが来るまで立ち尽くしていた。

 

 リスポーンが終わったら直ぐに行くからね!!! ミルキィィィィィィ!!!

 

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