今日のイベントも死屍累々   作:卵のかなっしー

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非公式の治安維持組織

 

 非公式治安維持組織『人寺(ジンジ)』。それはこの国における数少ないまともに機能している治安維持組織だ。国を回すためには治安の維持は必須事項と言っても良く、治安が酷い国は国として機能不全に陥る。それを直感的に理解している光の民たちは意識的に治安が悪化しないようにしてくれているが、それでも限界というものはある。例えば、突然爆弾が降ってきたりしたら幾ら光の民でも抵抗しようがない。

 そういうどうしようもないレベルの危機的状況に駆けつけてくれる組織が必要だった。それが非公式治安維持組織『人寺(ジンジ)』である。

 

 爆破テロ容疑を掛けられている俺は命乞いをしていた。

 

「たすけてくれぇ。悪気はなかったんだよ。ただ白熱して周りが見えてなかったというか。丁度良いタイミングでクズ共を纏めて爆破できそうだったから。ちょっとした出来心だったんだ」

 

 俺は侍甲冑を着た侍大将に簀巻きにされて吊り下げられていた。侍大将は『人寺』の頭を務めている超強い剣士だ。俺の刀の師範でもある。

 動きやすそうな和風の甲冑と腰に付けた長物の刀はかつて俺が憧れた姿だ。今は戦闘スタイルの違いからちっとも憧れてないが、昔は俺も長物の刀を振るうんだと張り切っていた。

 

「頼むよぉ。今夜もイベントがあるんだろ? しかも昨晩みたいな闇のイベントじゃなくて光のイベントが。俺も参加させてくれよぉ」

 

 本日、光の民による光のイベントが開催される。昨晩の闇のイベントがよほど光の民の闘争心を刺激したらしく、イベントの内容は昨日のイベントから闇の部分だけを取っ払ったもののようだ。イベントのタイトルは『キャンプファイヤー~昨日の挽回~』とあまりにも安直すぎる。だが、その安直さが光のイベントっぽくて俺は好きだ。是非とも俺も参加したい。

 が、それは許されないらしい。

 ミルキィが腰に手を当てて俺をメッと叱りつけてくる。

 

「もう、またデルゲンは闇の民さん達と喧嘩したの!? しかも今度は街の皆の迷惑になるところだったなんて!?」

 

 俺の連行を聞きつけたミルキィが駆けつけてくれたようだ。簀巻きになっている俺を励ましに来てくれたのだろう。捨てる神あれば拾う神あり。俺は不運に見舞われたが、ミルキィという女神様が拾ってくださった。プラスマイナスで圧倒的プラスだ。不運に見舞われてよかったとさえ思えてくる。

 

「ミルキィ、たすけてくれ。俺は今夜のイベントをミルキィと一緒に過ごしたいんだ。侍大将の説得に協力してくれ」

「ダメ! 今日はそこで反省して!」

 

 な、なんで……。俺がミスしたのはそうだけど、死人は出なかったから良いだろ。というか、どうせ死んでもリスポーンしてくるんだから、俺のミスは実質ミスじゃないようなもんだろ。

 そう思ったが、俺は光の心を持っている光の民だから、繁華街にいた人たちが死んでも良いじゃないかなどとは口が裂けても言わない。代わりにミルキィの俺への愛情に訴えかけることにした。少し気が引けるがやむを得ない。

 

「ミ、ミルキィは俺と一緒にイベントに参加したくないのか? 昨日みたいな闇の宗教じゃない本当の楽しいイベントだぞ。俺はミルキィと一緒に火を囲んで踊りたい」

「はわッ」

 

 雷が落ちたようにミルキィが動揺を露わにした。視線が泳いでいる。今、ミルキィの中で必死の葛藤が起きているのが傍目からでも分かった。

 頑張れ、頑張れミルキィ。その葛藤に打ち勝つんだ。そしたら俺と一緒にイベントデートが出来るぞ。昨日の闇の宗教のようなグロテスクな奴じゃなく、今日のイベントは百パーセント光のイベントだ。きっと良い思い出になる。

 俺は簀巻きの身体でミルキィに念を送った。その念の甲斐あって、ミルキィがビシッと姿勢を整える。俺を指さしてメッとした。

 

「デルゲンはここで反省して!」

「そ、そんなぁ」

 

 ミルキィは意志の強い女性だった。俺とのデートよりも俺が他所様に迷惑をかけたことの方を重く見た。

 そんなミルキィもカッコよくて好き。俺はミルキィへの愛を再認識した。

 

「…………」

 

 侍大将の視線が痛い。でもミルキィが俺に与えてくれた痛みよりは痛くない。

 

「じゃあ、今日はそこで大人しくしててね。大将さん、後はよろしくお願いします」

「後は? え、ミルキィ? 行っちゃうのか?」

「うん、繁華街のみんなが一緒に参加しようって誘ってくれたから。本当はデルゲンも誘って一緒に参加したかったけど、こうなっちゃったら仕方ないかなって」

 

 俺は恐ろしく反省した。まさか俺のちょっとしたミスがここまでの失態になるとは思っていなかった。だが今更反省したところで俺に利益が無かったから俺は反省しなかった。侍大将に殺意を込めた念を送る。

 侍大将はミルキィのお願いにスンと頷いていた。ミルキィの頼み事だ。侍大将が俺をみすみす逃がすことはしないだろう。

 

「デルゲンはしっかり反省するように!」

 

 ミルキィは俺を置いてイベントに行ってしまった。侍大将と俺だけがそこに取り残される。せめて簀巻きのままで良いから俺もイベント会場に連れて行って欲しいものだ。

 などと溜息を吐いていると鬱陶しい奴らが俺の見舞いに来た。

 

「よぉ、デルゲン。良い感じにお仕置き喰らってるじゃねぇかよ」

 

 クズ達が俺を笑いに来たようだ。他人の些細な失敗を笑いに来るなどやはりこいつらはクズだ。

 

「チッ、何の用だよ」

「まーまー、そうカッカするなよ。一緒に血を流し合った仲じゃないか」

 

 このクズ達はさっき俺にぼこぼこにされたクズのようだ。身体に黒いアイテムを身に着けていることからして恐らくそうだろう。俺はクズの顔をわざわざ記憶していないから、クズが再び会いに来ても俺から気付くことはできない。

 

「血を流し合った? 血を流したのはお前等だけだろ。お前らは束になっても俺に傷一つ付けられなかったはずだぞ」

「ん? 何だ気付いてないのか」

 

 気付いてない? 何の話だ。

 

「お前の腹だよ。簀巻きになってるからお前からは見えないだろうが、血で染まってるぞ」

 

 俺はバッと腹の方へ目を向けたが簀巻きになってるせいで見えない。事実ではない可能性がある。俺は確信した。

 

「嘘だな。ほんとに俺が血を流してるのならミルキィが指摘していたはずだ」

「お前は闇の民と喧嘩した後はいつも血を流してるか死んでいる。いつものことをわざわざ指摘してくる奴はいないだろ?」

 

 クズが勝ち誇ったように笑みを浮かべ、聞いてもないのに勝手に説明し始めた。

 

「知ってるか? 暗器ってのは決定力に欠けるから毒を塗るのがセオリーだ。少しの傷でも重傷を負わせられるように色んな毒を塗ってる。俺達の中には感覚神経を麻痺させる毒を塗ってたやつが居たのかもな」

 

 神経毒は感覚を鈍らせ、行動を阻害し、動きの精度を落とす。それぐらいは俺も知ってる。

 ……つまり、俺が最後の最後でミスをしたのはお前等の毒が原因だったということか。許せねぇなぁ。

 

「おい! お前等のせいで俺とミルキィのデートが中止になったんだぞ! どう責任を取ってくれるんだ!」

「お前が街中で爆弾なんて危険物を持ち出したのが原因だろ!」

 

 チッ、元はと言えばこいつらが俺を殺しさえしなければこんなことにはならなかったんだ。

 

「で、お前らは何の用でここに来たんだよ。まさか俺を笑いに来たってだけじゃないんだろ?」

 

 クズたちは少し恥ずかしそうにしていた。ちょっとキモイ。

 

「なんだよ。急にそわそわしやがって」

「いや、なんだ? 嬉しいなって思ってさ」

 

 何がだよ。

 

「お前は自分の事を光の民だって自称するけど、今日戦ってみて確信したよ。お前はやっぱり俺等と同じ闇の民だってさ。俺達を料理するように血の中で舞う姿。震えたぜ」

 

 ……少し誤解があるようだ。

 

「俺は光の民に俺の手柄を見せるためにお前たちを加工してたに過ぎない。勘違いするなよ。俺の行いは常に光の民のためにある。お前たちと同類とは思わないでほしいな」

「恥ずかしがるなよ。デルゲン、ほんとは俺達の血を見て興奮してたんだろ? やけに俺達の内臓をぶちまけるような戦い方をしてたな。あれは闇の民の全てを知りたいというお前の欲求に他ならない」

 

 勝手に人を臓物趣味の変態にするな。

 

「あーもう、お前等帰れよ。今俺は反省に全神経を費やしてるんだ。用が済んだならさっさと帰ってくれ」

「まあまて、本題は別にある。……ちょっと耳を貸せ」

 

 言ってクズが俺に近づいてきた。俺は抵抗したかったが簀巻きになっているせいでなすすべもなかった。クズが問答無用で耳打ちしてくる。

 

「近々リスディス名義のイベントがあるらしい」

「……本当か?」

「恐らく。リスディスのイベントは毎回街全体を使った大規模なイベントだ。となると、準備段階で何らかの情報が漏れ出てくるのは避けられない。情報はそこから引っ張ってこれる……しっかり伝えたぞ」

 

 俺はコクリと首肯した。ギラリと眼が光る。

 これは面白くなってきたな。

 

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