幸せというのは誰かと共有したくなるもので、俺は街中でせわしなく走り回っていたクズを追いかけて幸せの共有を試みた。
「ってことがあってさぁ。これは脈アリで良いよな?」
クズは俺に声をかけられてもお構いなしに足を止めない。何やら一分一秒すら逃がせない状況にあるらしく、俺を一瞥してからクイクイッと指で合図を飛ばしてきた。
ついてこいということらしい。移動しながら話そうということだろう。危機的状況にあるとみた。そういうことなら従うか。
俺はクズと並走しながらミルキィとのやり取りを細かく話して俺とミルキィが如何に純愛であるかというのを力説した。最近俺は前に比べてモテているようで割と多くの女性と付き合いがあったりするが、それでも俺はやはりミルキィの魅力には敵わないとまで少々恥ずかしいことも言った。
クズが俺の話を聞いてぼちぼちと悪くない反応を返してくれるから俺は調子に乗ってペラペラと口をまわした。そんなこんなで俺が一方的に話していると、クズが裏路地に入って行き、俺もそれに連れられて裏路地に入っていった。
「なあ、お前は何処に行こうとしてるんだ? 随分と必死に走ってるみたいだけどさ」
クズはそれまでずっと適当な返事しかせずに走っていたが、俺がやっと生産的なことを言い出したからか一度足を止めた。
「ガンザイの武器を追ってるんだよ。お前も知ってるだろ? あのガンザイが『バグサーカス』で生み出した武器だよ」
「ああ、それは知ってるが……。ん? 待てよ。なあ、もしかしてとは思うが、パラディンは負けたのか? ガンザイの武器を追ってるってのはそういうことだよな?」
「なんだ、知らないのか? お前がこれについて情報を持ってないなんて意外だな。ガンザイとパラディンに関してはお前の方が詳しいと思っていたんだが…………そういえばここ数日お前の噂を聞かなかったな。いつもならお前の馬鹿騒ぎが風の噂で流れてくるんだが、イベントが終わってからめっきり無い。お前は何処に居たんだ?」
馬鹿騒ぎの噂ってなんだよ失礼な噂だな。風説の流布とはモラルがなってねーぞ。俺はそんなことを思いつつも俺に起きた話を割と細かく説明した。
「なるほどな。そりゃあ大変だったみたいだな。しゃーねーから俺が説明して──」
遠くから声が聞こえてきた。
「見つけたぞ! こっちだ! 早く来てくれ!」
クズが舌唇を噛む。
「先に見つかっちまったか……。おい、追うぞデルゲン! あれをパラディンに渡すわけにはいかねぇ!」
あれというのはガンザイが作った剣のことだろう。さっきクズが武器を追っていると言っていたから間違いない。それをパラディンも狙っているらしい。
どうやら剣が産まれたきっかけであるイベントが終わっても剣を追って闇の民とパラディンが追いかけっこをしているようだ。
……そんなにやばい剣なのか? 確かに強そうなのは見て分かったが、躍起になって奪い合いが起きるほどのものなのか? たかが剣の一振りに大袈裟な話に思えるが……まあ、それほど強い剣なんだろう。ガンザイは厄介な武器を造っちまったようだな。あいつには打ち上げ花火の製作も依頼してるのにこんな混乱の中で作れるのかね。
俺とクズが声がした場所にかけつけると、そこには既にパラディンとクズが集まっていた。
そこそこ広い幅の通路で、パラディンとクズ達が黒い剣を持ったクズを挟みこんでいる。黒い剣を持ったクズは挟み撃ちにあっているというのに、それを意にも介さず堂々と剣を構えていた。
俺はひそひそとパラディンの近くに寄って事情を伺った。
「ちょっといいか? イベント最終日から何が起きてるのかよくわかってないんだ。教えてくれないか?」
「君は……ああ、デルゲンか。眼を覚まさないって話を聞いていたがやっと目が覚めたのか。本来なら私達は共に戦ってくれたデルゲンの見舞いに行くべきだったのだろうが、一度も行けなくて申し訳ない。見ての通り忙しくてね」
パラディンは敵と対面している状況であるにもかかわらず、俺に謝罪の意を示してくれた。クズとは異なり俺の体調が悪かったことも知っている辺りにパラディンの人柄の良さがあらわれている。
やはり持つべきは闇の民ではなくパラディンだ。俺はパラディンと共に生きていく。
俺とパラディンがそうこうとやり取りをしている間に、前方では激しい戦闘が起き始めた。『黒い剣を持つクズ』と『ただのクズ達』と『パラディン』の三つ巴の戦闘だ。それぞれが求めるのはガンザイが作り出した黒い剣。
その状況下で最も優勢なのは通路で挟み撃ちをされているはずの黒い剣を持つクズだった。
後方支援のために前方で戦っていないパラディンが律儀にも俺に説明をしてくれる。
「イベント最終日、私達は黒い剣を持つガンザイを相手になんとか勝利をしたんだ」
ッ……マジか。黒い剣をクズが持ってる辺り、てっきり負けたんだと思ったが。
「でも、その後に闇の民たちが大挙して襲ってきてね。ガンザイにギリギリの辛勝だった私達はそのまま闇の民の群に負けてしまった」
許せん奴らめ。やはりクズはゴミだな。こんなゴミ生命体は全員滅ぼすべきだ。
俺は目の前で戦っているクズを殺そうと剣を振り上げた。が、止めた。パラディンが俺の腕に手を当ててきたのだ。
「彼らを責めないであげてくれ。あれは私達の配慮が足りなかったから起きた事件だ。イベントの主催は基本的にイベントが始まる前と終わった後にしか表舞台に顔を出すことはできない。主催者が参加者になることは基本できないからね。だから、彼らにはイベントが終わった後のあの時間こそが唯一の自己主張できる時間だったんだ。それをめちゃくちゃにしたのは私達だ。彼らが怒るのも無理はない」
イベント終了後の後夜祭で、闇の民のアナウンスに誰も耳を傾けていなかった景色が俺の頭に浮かんだ。誰もがガンザイとパラディンの戦いに目を奪われ、肝心のイベント後夜祭はガンザイとパラディンの死闘会場になったのだ。
その時は俺も他の奴らと一緒に目を奪われていたから何とも思わなかったが、言われてみれば主催の闇の民連合には痛い話だ。
「それは、そうかもしれないな……。あいつらにも言い分はある、のかもな」
そして、俺は奴らの心の叫びを聞くために目の前で戦闘を繰り広げている闇の民に目を向けた。前方では怒声が飛び交っている。
「それを寄越せゴミ野郎! それはお前みたいなノミ虫が持ってて良いような玩具じゃねぇんだよ! お前なんかは木の棒でも振り回してろ! そいつは俺のもんだ!」
「何言ってんだカスが! その剣は俺が使うためにガンザイに依頼したもんだ! だからそれは俺のなんだよ!」
「お前ら騙されんな! こいつを依頼したのは俺だ! 俺以外の奴が言ってるのは全部嘘だ! おいパラディン! そいつは俺のもんだから最後は俺に寄越すのが筋だよなァ!」
……やっぱこいつらはまとめて殺したほうが良いだろ。醜い。あまりにも醜すぎる。こんな醜悪なモンスターがこの世の中に存在していて良いのか。あやうく現実逃避して戦場で耳と目を覆いたくなっちまった。
俺は今にもクズ共の処分を実行しようと一歩踏み出した。が、どうやら俺が出る幕はないようだ。
ザッ……!
治安維持組織『
侍は全身を包む真っ赤な甲冑と片側にしか刃が付いていない剣を持ったフーラでは特徴的で目立つ剣士だ。
裏路地の割と広い通路にごった返しになっている状態でもその姿を外から確認するのは容易だった。
黒い剣を持ったクズが怯む。最強の剣を持っているというのにえらい震えようだった。
「お、俺の剣を奪いに来たのか?」
そう問われるが、侍は滅多なことでは口を開かない。今回も例に漏れず侍は無口だった。ただただ己の剣でのみ己を語る。
人寺にはそのような決まりか習性か伝統か、はたまたトラウマがあるのだ。俺も詳しくは知らない。興味はあるが、強く知りたいとは思わない。人寺のことだ。その方が誰にとっても都合が良いとでも思っているのだろう。
侍が黒い剣を持ったクズに視線を飛ばす。真っ先に声を発したのは外野のクズだった。
「ま、待て、人寺がその剣を奪うってか? それは……一番困る。考え直すことはできないのか?」
侍は返事を寄越さない。このままでは黒い剣が侍の手に渡るのは確定的だった。
クズがギリッと歯噛みする。
「ここで取られるわけにはいかねぇ! お前らやるぞ! なんとしてでも渡すんじゃねぇ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
なにがクズどもをそこまで掻き立てるのか。俺には理解不能だったが、俺は特にクズの思考を理解したいとは思ってないし、寧ろ理解できなくてラッキーなぐらいだったのでクズに割いていた脳内リソースを引き戻す。
俺とパラディンは大量のクズどもがたった一人の侍相手に生ゴミに変えられていく光景を粛々と眺める羽目になった。
ガンザイが作った黒い剣は無事に侍によって回収され、人寺の管理下におかれることになった。