喧嘩するほど仲が良いという言葉がある。この言葉の解釈は様々だろう。これを大の仲良しと取る者もいれば、それほど仲が良くないと取る者もいる。それは人によって様々だ。
因みに俺はこの言葉をそれほど仲が良くないと解釈している。が、こと今現在において、俺のことはどうでもいい。肝心なのは常に外聞、つまりはミルキィの意見だ。
ミルキィは俺とコンコンを交互に見てから、あらぬことか「二人ってやっぱり仲良いよね」などと言ってきた。この仲良いよねというのは十中八九、大の仲良しという意味だろう。
俺はなんとしてもミルキィの誤解を解かなければならない。男とは行動で示す者。俺はすぐさま…………。行動を起こそうとしたが、コンコンが味噌汁の入ったお椀の中身を箸で回しているのに気づいた。コンコンは怪訝な表情で「おかしいなぁ」などと腑抜けた声を吐いている。
──マズイ。ミスった……。嫌がらせで油揚げを抜いてたんだ……。
俺はコンコンが何か言い出す前に逃亡を企てて席を立った。
「ちょっとトイレに……」
「待て」
「悪い、直ぐに戻るから後にしてくれないか? ちょっと腹の具合が良くないんだ」
もちろんここに戻る気はない。ここを去ったらすぐにでも逃亡するつもりだ。せっかくのミルキィ宅の長期居候初日だが致し方ない。また明日がある。
俺はコンコンの制止の声を拒否した、ものの、腕を掴まれてしまった。ミシミシと俺の腕が悲鳴を上げている。
「油揚げが入ってないみたいなんだが、偶然か?」
「偶然だ。そういうこともある」
「お前、私が油揚げに眼が無いことを知ってるよな?」
「……コンコン、お前はいつも物事を悪い方へ考える癖がある。それは良く無い癖だ。やめた方が良い」
「自分は無実だと?」
「ああ、無実だ。第一、俺が味噌汁をよそう時に油揚げを入れないようにわざわざ手間をかけるとでも思ってるのか? 俺がこまごました作業を好きじゃないのはお前も良く知ってるはずだろ。俺は無実だ」
「そうだな。お前は細々とした作業を避けがちだ。だが、それには例外がある」
「トイレが近いんだ。この辺にしてくれないか?」
俺は結論を避けたかった。このままずるずると口論を続けると負けるのは眼に見えていた。それに、ミルキィが気になる。口論とは言い争いの事であり、言い争いとは言ってしまえば喧嘩だ。喧嘩するほど仲が良いという言葉が俺の頭に浮き上がってくる。
俺は今すぐにでもこのやり取りを終わらせたかった。
くるっと回転してコンコンへ向く。
「コンコン、俺が悪かった。謝らせてくれ。意図せずしてだが、俺はお前の楽しみを奪っていた。これは俺のミスだ。申し訳ないと思っている」
「…………やけに物分かりが良いな」
「俺はいつもこうだったぞ。お前の怖さは良く知ってる。お前と争うのは無駄なんだ」
「まあ、そうだな。……わかった。今日はお前の味噌汁を貰うので勘弁してやる」
よし、それで良い。お前は大人しくいて居れば良いんだ。少なくとも、ミルキィの前では静かにしていてくれ。
俺はトイレに向かう前にちらっとミルキィの顔を伺った。ミルキィに特に変わった様子はない。どうやら今回のはセーフだったらしい。俺の行動が実を結んだわけだ。
◆
トイレから帰ってくる途中、玄関にチラシと手紙があった。今朝がたに配達されたものだろう。丁度良い、ミルキィに持っていくか。
「あれ? この手紙、宛名がデルゲンになってるよ?」
ミルキィに渡したが、それはミルキィではなく俺に宛てた手紙だったらしい。俺はミルキィから手紙を受け取って中を見た。
『準備が出来た。次のイベントの最後に決行する』
次のイベントの最後……準備……、なるほど、ガンザイか。花火の用意が出来たんだな。
俺は以前にガンザイと花火を打ち上げる約束をしていた。その準備が出来たようだ。喜ばしい。純愛神はさぞお喜びになることだろう。花火大会によって数多くのカップルを生み出すのだから、これで俺の純愛教信者としての格も上がるというものよ。
一つ懸念があるとすれば、ガンザイが示すイベントがどれのことかぐらいか……。フーラでは毎日大小さまざまなイベントが開催されている。次のイベントと言われても、どれの事かは判断がつかない。
「こうなったか……」
コンコンが何やらぶつぶつと呟いている。どうやら一緒に投函されていたチラシを見ているようだ。気になった俺はコンコンの持つチラシに首をまわした。そこで、何故かミルキィが俺の身体をブロックしてきた。
「ダメ! デルゲンは見ちゃダメ!」
何がダメなんだ? たかがチラシで。
そう思ったのはコンコンも同じらしい。
「良いじゃないかチラシぐらい。これはどの家にも配られているものだ。プライバシーにかかわるものでもない」
「だけど、そうじゃなくて……。これをデルゲンに見せるのは……。ほら、コンコンさんも分かりますよね?」
「……わからん。何かダメなことでもあるのか?」
「えっと……。今デルゲンは療養中で、あんまり激しいのは……」
「なんだそんなことか。それなら気にするだけ無駄だな。ここで私達が隠してもこいつはどうせ無茶をする。隠すだけ無駄なんだ。寧ろここで明かしたほうが管理できる分マシだぞ」
何か良く分からんが、話がついたようだ。ミルキィが大きな溜息をついてチラシを見せてくれた。それを見て、俺は眼を見開いた。
「侍大将主催の乱闘!? 報酬は『黒死剣』……ってのは、多分ガンザイが作った奴だな。……そうか、ガンザイの武器を誰が持つかを決めようってことか」
「この乱闘は誰でも参加できるらしいぞ。どうする?」
「そりゃ、」
当然参加するに──
「ちょっと待って!!!」
ん?
「今のデルゲンは万全じゃないんだよ! 今だって調子が悪いんだよ! それなのに乱闘なんて……ッ!」
まあ、そうだけど……。いやぁ、そうだよな……。ミルキィがこんなに止めてくれてるんだし今回は……。
「まあまあまあ、良いじゃないか。どうせ死んでも復活してくるんだ。そう難しく考えなくても」
「コンコンさん……。でもデルゲンは──」
「まあまあまあ」
「でも」
「まあまあまあ」
「だけど」
「まあまあまあ」
「って、デルゲンまで!? ダメだよ! だから身体が──」
「「まあまあまあ」」
まあまあまあ。
そう、コンコンの作り出した流れに乗った俺は致命的な代償を払う羽目になった。
ミルキィがつーんと口をとがらせる。
「……やっぱり二人って仲良いよね」
まあまあまあ…………。まあまあ……。まあ……。