「で、なんでヒョロとジャガがこんなに早く起きてんの?」
すでに学園へ行く準備まで済ませた二人を見て、僕は質問を投げた。
僕の場合、アレクシアと偽恋人関係になって以来彼女の早朝稽古に付き合わされて、朝早く学校へ向かわなければならない。ヒョロとジャガは別に用事もないのに、こんな時間で制服への着替えまで済んでいて玄関に立っていること自体がおかしい。
「それは……ノアに頼まれて、彼に付き合って職員室へ行くためだ」
「へぇ、それだけ?」
目が泳いでるぞヒョロ。僕は知ってるよ、君は利益もなしに人助けをするようなキャラじゃないってことを。
「もう潔く吐こうよ、ヒョロ君。この人、ノア君の作った朝食に釣られて早起きしたのですよ」
「なっ!お前も朝食期待過ぎていつもより二時間早く起きたくせに!」
「じ、自分はたまたま今日早起きしただけで……」
「昨日の夜ノアの作ったカレーあんなに食べたのに?」
「ヒョロ君もいっぱいおかわりしたんじゃないですか!」
なるほど、ノアが作った朝食を食べるために起きたのか。しかも昨夜の時点ですでに餌付けされたと。さすが僕が選んだ生粋のモブ友、貴族としての尊厳があったもんじゃないな。僕もないけど。
言い争ってる二人の横に、ノアは頬を指で触りながら、少し照れ臭くも苦笑いをしている。
「昨日夕飯作りすぎて、ガリさんとイモさんには食べるのを手伝って貰いました。それで今朝いち早く職員室へ行かないといけないという事情を話したら、二人が快く案内役を引き受けてくれました。朝食はそのお礼です」
ノアが二人に助け舟を出した。というかなんで敬語?僕と話しているときはため口なのに。
「水臭いぜ、ノア。俺たちはもう同じ釜の飯を食った仲だろう。今更畏まる必要なんてねえよ!」
「そうですそうです。同じ食卓を囲った仲じゃないですか」
うん、お前ら二人の胃袋はもうノアにガッツリと掴まれていることだけが分かった。
「……いいのですか?ガリさん、イモさん」
「当たり前だ!それとヒョロでいいぜ」
「自分もジャガでいいです!」
ヒョロとジャガの言葉に心を打たれたのか、ノアは瞼を閉じ、感無量の面持ちになった。
「ありがとう、ヒョロ、ジャガ。改めてよろしく!」
「おうよ!」
「よろしくです!」
ヒョロ、ジャガ、そしてノア。昨日出会ったばかりのこの三人は互いを見つめ合い、確かな友情が彼らの間に築き始めようとしている……なんだこのナレーション。
三人の青春ドラマを横目に、一足先に玄関を出た。
「急いでるから先に行くよ」
「待て、シド!俺も行く」
「自分も行きます!」
先に歩き出した僕を見て、ヒョロとジャガが慌ててついてきた。一番後ろにいるノアは、律儀にも寮の管理人さんに「行ってきます」と声をかけてから寮の扉から出た。
ゆっくりと僕の隣にまで走り、「改めてよろしく、シド」とノアは僕に二度目の挨拶をした。
「ああ……よろしく」
これは友人ルートの回避が無理そうだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノアと友達になるのがもはや決定事項なら、もういっそ一般モブ三人組の一員から、主人公のモブ友人三人組の一員へジョブチェンジすることにしようそうしよう。朝ラッシュの列車より大分空いている早朝の列車に、僕はノアの隣に座り熟考しているうちに、この結論に辿り着いた。
となれば善は急げ、ノアのキャラ設定から探ってみようと躍起して、色々と聞いてみたところ、興味深い事実をいくつかも判明できた。
まず、ノアは午前の基礎科目で、なんとアレクシア王女ら王族や大貴族出身の魔剣士が集まったクラスに所属しているらしい。他のクラスにはああいうエリートが精々一人二人程度なのに、あの集まりっぷりはもはや政治力が働いているとしか言いようがない。カリキュラム自体は他のクラスとは一緒と聞くが。あのエリートクラスに入れるなんて、さすが主人公。
更に驚くことに、ノア自身は別に大貴族の長男でも、大商会の後継者でも、大司教の隠し子でもなく、ただの平民だそうだ。まあこういうのはストーリー後半で実は何かものすごい血統を持っているとか英雄の生まれ変わりとか設定を盛られるのがよくあるパターンなので今は話半分だけ信じることにしよう。
最後、彼はなんと孤児で、小さい頃から親代わりの師匠と一緒に暮らし、今はその師匠の指示で学園へ通うことになっているという、如何にも少年漫画の主人公っぽい設定。聞いているだけでワクワクしてきたぜ!
それはそうと、ほぼ初対面のやつらにいくらなんても喋りすぎなんじゃねぇ?これから友人になる予定なんだから、信頼されるのは僕にとっても都合がいいけどさ。ひょっとして将来友人を装った敵幹部に騙されるフラグだったりして……うん、これもよくあるパターンだ。
雑談をしているうちに、列車が駅に着いた。僕はヒョロとジャガ、ノアの三人と別れ、王都ブシン流1部の教室へ向かった。
教室に着いた頃、すでに教室内で準備運動をしている人がいた。
肩で切りそろえたツーサイドアップの形にした白銀に輝く長髪に、切れ長い目でルビーのような赤い瞳を持つ美女、アレクシア王女殿下だ。
「遅い、早く着替えて」
アレクシアは僕に一瞥し、また準備運動に戻った。
「はいはい」
僕も無駄口を叩くつもりはなく、早速隣の男性更衣室でブシン流の道着に着替えた。
アレクシアの隣で、僕も一緒に準備運動を始めた。彼女と一緒の動き、というより彼女のほうが僕のストレッチの動きを真似ている、僕が初めて1部の授業に参加して以来。
ストレッチが終わった後、お互い無言なまま素振りを始めた。
いつも通り、力も、早さも、魔力も、技量もない、基礎だけの素振り。僕とアレクシアはこの早朝稽古で、ただひたすらそれを繰り返してきた。
時たま僕の剣に降り注ぐその視線に、僕は気づいていても指摘をせず、ただホームルームが始まる一時間前まで剣を振るのであった。
「あなたの剣に、やはり目を奪われる」
稽古の終了後、制服姿に戻ったアレクシアは僕に言う。
「はいはい、どうせ『でもやっぱり嫌いな剣』とでも言いたいだろう」
僕は彼女が初めての早朝稽古の時に言ったセリフを口にした。
「嫌いな剣……そうね、そう思っている……はずなのに……」
「はずなのに?」
「いいえ、なんでもないわ」
僕の疑問に答えることなく、アレクシアは1部の教室から去った。
思春期のよくあるセンチメンタルだろうと、あまり深く考えずに僕は後から教室を出た。
「あ、そういえばノアのことを聞き忘れた……でも正式な編入は今日からだったけ?まあ、午後にでも聞こうか」
独り言を零し、クラスのほうへ戻ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よっ!色男」
「朝からやってますね。羨ましいです」
クラスの教室に戻った僕を迎えたのは、ヒョロとジャガの茶化す声だった。
「ただの早朝稽古だけだって……というかジャガ、お前のことはまだ許してないぞ」
僕は罰ゲームのことをアレクシアに吐いたジャガに睨みつける。
「今度昼食奢るからもう許してくれよシド君」
「いやだね」
ほぼジャガのせいでモブとして有るまじきラブコメをやらされたんだ。簡単には許さん。
「まあ、お前も毎日アレクシア王女が分けてやった豪華料理を楽しんでるだろう。他にも色々といい思いをしたんじゃないか、グヘヘ……」
顔がいやらしいぞヒョロ。
「だからそんなのないって」
はっきり言う僕。
「ヘタレだなお前」
ガッカリするヒョロ。
もう何度目だ、こんな会話?少し溜息したくなった僕である。
「そんなことより、お前らどうやってノアと知り合ったんだ?」
僕は話題を切り替える。
「ノアと?」
ヒョロとジャガが各々思い返すようなそぶりを見せ、暫くしてから答え始める。
「俺らの部屋って寮の共有キッチンに近いだろう。昨日寮に戻った時そこを通ったら、なんか物凄い良い匂いしてさ」
「ヒョロ君と一緒に見に行ったら、ノア君がそこでカレーを作ってるのを見かけて、ノア君も自分たちのことを気付いて一緒に食べるのを誘ってきて、そのまま友達になりました」
カレーに釣られて平民と友達になる貴族なんて、どこの国を探してもいないだろう。いやここにいたわ。
「そんなにおいしいの?所詮カレーだろう?」
カレーは好きだけど、前世もよく食べるが、如何せんこの世界のカレーは雑なものが多い。学食のカレーもレトルトレベル……でもメイドさんの作ったカレーは結構うまいよな。
「所詮カレー……だと!?お前が食べたことないからそう軽々しく言えるけどよ。カレーだけじゃない、カレーも当然おいしいんだが、ノアの料理はどれも高級レストランレベルだぜ!」
「そうですよ!シド君も食べてみたらすぐ病みつきになりますよ!」
この二人の食いつきっぷり、ノアが主人公キャラでないなら料理に薬でも混入したかと疑いたいくらいだ。
「そんなに美味いなら昼食の弁当も頼んでみたらどうだ?材料費だけでも渡しておけば喜んで作ってくれるかもしれないだろう。メシ代の節約にもなるし」
と僕が適当に言ったら、何故か二人揃って口を閉じた。
しばらくの沈黙が過ぎ、先に口を開いたのはジャガだった。
「……自分もちょっとは考えた。考えましたが……」
「……なあシド、毎日男の作った弁当持って学校に来るのって、流石にちょっとは……その……虚しくないか?」
いや知らんがな。
その気持ちは理解できないが、とりあえず「そだね」と適当に相槌を打った。
駄弁っているうちに、ホームルームのチャイムが鳴った。
今頃ノアはエリートクラスで自己紹介イベントでも進行しているだろう。それを傍観できないのは少し残念だが、今の僕はモブ、モブはモブらしくモブクラスでモブとしての日常を楽しもう。
接する機会なんていくらでもある。シャドウとして、陰の実力者としての主人公との出会いを彼の人生に刻み込むことこそが僕にとってのメインイベント。正直今にも待ち遠しい。暇のうちにイメトレでもしとこう。絶対にカッコいい『初登場』を決めてやる。
あ、そういえばもう一人の主役級キャラとの日常イベントはまだ控えていたわ。僕は今朝会ったばかりのアレクシアのことを思い出す。
昨日は昼休み一緒にいなかったが、その後の王都ブシン流の授業から放課後彼女を寮に送るまでは一緒だった。今朝も一緒に朝練したという、モブとしてあるまじきラブコメイベントの多さ。だがこれもすべて活動資金のため、今しばらくの辛抱だ。ノアも彼女と一緒のクラスに入ったし、いずれは僕に対する興味も失せ、ノアと主人公パーティー結成!とかも十分あり得る展開だ。
今日の昼休みですぐお役御免にしてくれるなら尚更ありがたい。そうならないならならないで、活動資金を存分に稼がせてもらい、ついでにアレクシアのノアに対する好感度をチェックだ。
アレクシアは王族だし、ノアに関する裏情報とかもいろいろと知っているかもしれん。それも探ってみよう。
いつも通り誰にも気付かずに筋トレ&魔力操作の訓練をしながら、脳内でこれからの予定を立て、午前の授業時間はあっという間に過ぎていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼休みの時間、アレクシアはまだ来てないので、先に食堂へ向かおうとしたら、後ろから聞き慣れた足音が響き、その後すぐに僕の肩がガシガシと掴まれた。
「どこへ逃げるつもりなの、ポチ?」
すごい目付きで睨んでくるアレクシアが後ろにいた。
「誤解だよ。僕はただ食堂へ行きたいだけだ」
僕は振り返り、ただ事実を伝えた。
「フン……私を待たずに先に行こうとするとは、恋人失格ね」
「失格か~じゃ僕はこれから振られるってこと?」
さっさと振れ今すぐ振れ。
「振るなんて、そんなひどいことはしないわ」
僕の顔を見つめながら、アレクシアはいつもよりSっ気が倍増したような嗜虐的な笑みを魅せた。うん、これは王女のする顔じゃないな。むしろ女王、それもアレ系の。
「聞き分けのない恋人と犬は、きちんと躾直さないと」
そう言って、アレクシアはごく自然に僕の腕を組んだ。僕は成す術もないままアレクシアに連行された。
食堂に連れられた僕は、何をされるかと思ったら、ほぼいつも通りだった。アレクシアが注文した超金持ち貴族コースを食べさせられ、イチャイチャするだけの恋愛ごっこ。
少し違ったのは、いつもなら自分で食べる時間もあったが、今日はというと:
「ポチ、あ~ん」
アレクシアが切り分けたステーキをフォークで僕の口元まで運ぶ。
「……アア」
僕は言われるがままに口を開け、ステーキを口に入れられる。
「ポチ、私そっちのケーキ食べたいの。あーんして」
今度は僕が食べさせる番で、指示された通りケーキを切り、アレクシアに差し出したが、何に不満していたか彼女は口を開けなかった。
「ちゃんどあーん言いなさい」
言わなきゃダメかよ。
「……ア、アーン」
「よろしい」
これでようやく食べてくれる。
周りほぼ全方位からの棘のような視線に刺され、僕とアレクシアの間、このような食べ合いっこが食堂で堂々と続けられ、今日の昼食はいつもより大分時間が掛かってしまった。
昼食の後、アレクシアは校舎内で僕との恋愛関係(偽)を他の生徒や先生たち(主にゼノン)に存分と見せつけてから、僕を連れて再び王都ブシン流1部の教室へ向かった。
授業前はお互いストレッチをし、授業開始後は基礎知識の復習からマス――軽い実践形式の稽古をし、そこからゼノン先生による個別指導が入る。
稽古中たまにアレクシアは僕に無手の練習をやらせると称し、僕の剣を没収してから襲い掛かる。僕は当然剣がなくとも簡単に返り討ちにできるが、モブの時でそれをやっちゃうと実力がバレてしまうので、大人しくボコボコにされた。
本人がこれを恋人の間のじゃれ合いのつもりでやっていたらしいが、こいつの想像した恋人付き合いはおそらくバラ色ではなく血色だろう。殺人鬼としての素質でもあるんじゃないかこの王女。いつか彼女が自分の殺人衝動を抑えきれず僕以外の他人にぶつけたらヤバいことになりそうだ、知らんけど。
当然ゼノン先生に注意されたが、アレクシアは知らぬ存ぜぬと押し通した。ふざけた時(主に恋人アピールのため)以外は至って真面目に授業に参加しているのが逆にたちが悪い。ゼノン先生も「程々にな」としか言わなかった。
色濃い実技科目の時間が過ぎ、ようやくアレクシアとゆっくり話す暇ができたのは、放課後になってからだ。
「知り合いが今日から僕らの学校に入るらしいけど、君とは同じクラスだと聞いたんだが、知ってる?」
とりあえずストレートに聞くことにした。
「ノア・エスポワールのこと?」
「そうそう、その人」
名前まで覚えているのか。これは手応えありかな。
「あなた、彼とは知り合い?どうやって知り合ったの」
「昨日食堂で、彼が食券買う方法知らないのを見て手伝った。で今朝寮で再会して、同じ寮に住んでるのを知って、そのまま友達になった」
僕はありのままのことを答えた。
「へぇ、あなたも人助けをするのね」
「僕も人助けくらいするよ、たまには」
「いつもお金のこと以外どうでもよさそうな顔しているクセに」
「どうでもよくはないよ、僕も大事なものくらいあるさ。困った人を見て助けたいって気持ちも偶にはある」
僕の返事を聞いて、アレクシアは鼻で笑った。
「ポチの分際で生意気ね……で、何を聞きたいの」
「うん、そうだな……彼、クラスに馴染んでる?」
「馴染んでるも何も、まだ初日でしょう?うちの委員長とはそこそこ仲良くやってるかしら」
怪訝そうにしながらも、アレクシアはきちんと答えた。
「委員長?君が委員長じゃないのか」
少し驚いた、主に王女であるアレクシアを差し置いて委員長職に就く人がいることに。
「推薦はされたけど断ったわ。私がそんな面倒くさい仕事やるわけないでしょう」
「それもそうだね」
納得の答えだ。
「で?それだけを聞くためにわざわざ私に話を振るわけないでしょう、いつも私からの話には適当に相槌だけしているあなたが」
どうやら彼女のゼノン先生に対する嫌味を聞き流していることがバレたようだ。
「そだね……」
針のように鋭く睨んでくる彼女の目を無視して言葉をつづく。
「アレクシアは彼のこと、どう思ってる?」
「どうって……大して興味もないわ。私の後ろに座っていなければ記憶にすら残らないでしょう」
王女の後ろの席か、すごいな主人公補正。でもその割にはアレクシアからの反応は淡白だ。
「えっと、一目惚れとか……してなさそうだね」
『一目惚れ』の『ぼ』の字が僕の口から出た途端、アレクシアは信じられない話でも聞いたかのような引きつった顔になった。
「あなたが『王女が平民と恋に落ちる』みたいな三文恋愛小説の話を真面目に信じれるような頭のおめでたい人だなんて初めて知ったわ」
ドン引きしながら僕から距離を取るアレクシアである。
「もしかして私と表向きの恋人関係になったからって、自分のような貧乏貴族も王女と結ばれられるなんて妄想もしていたり……」
「するわけないだろ」
僕は即答した。
「……あっそ」
いらない心配をなくしてやったのに、彼女はなぜか不機嫌そうに顔を膨らませた。
この後、僕はノアについて他にも探ってみたんだが、彼女はあまり口を利いてくれなかった。
何とも言えない雰囲気の中でアレクシアを寮まで送った後、僕もまた帰路に就いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
六日後の放課後、列車の中で、僕とアレクシアは喧嘩別れした。
喧嘩と言っても、アレクシアに一方的に剣を向けられただけだが、先に彼女の心を土足で踏み込んだ僕にも非があるだろう。
その日の僕は多少だけど冷静ではなかったのかもしれない。好きなものが貶された気がして、僕らしくもなく彼女に突っかかり、彼女の逆鱗を触れてしまった。
姉に対するコンプレックスで、彼女は自分の剣を嫌いになった。しかし僕にとって、基礎を重んじ努力を重ねてきた彼女の剣は、僕が今まで続けてきた剣と重ねられるものだ。今まで貫いてきた信念だけは口先でも背くことができず、僕は自分の気持ちを素直に伝えた。
「僕はアレクシアの剣が好きだよ」
はっきりと言ってしまった。
まさかあのアレクシアがあんな泣きそうな顔をするとは思わなかった。
モブ恋人なのにモブらしくもない言動をとったことには反省しなければならないだろう。
まあともかく、これで王女の偽恋人という身分からは晴れてお役御免だ。
その翌日、今の僕はいつも通りの二人ヒョロとジャガ、プラス一人ノアと魔剣士学園前駅から学園へ向かっている途中だ。
ヒョロとジャガは相変わらず僕からアレクシアとの交際の進展を聞き出そうとしている。こいつらどんだけゴシップ好きかよ。
ノアはというと、下品すぎる話題には苦笑いするが、他の時はただ後ろで、僕らの会話を微笑ましそうに見ているだけだ。君それでいいのか主人公。
そろそろ校門前に着くころ、ノアの表情が突如変わり、険しい顔で僕ら三人を追い越し、進路を塞いだ。
「イテッ!なんで急に止まるんですか、ノア君」
それに気付かなかったジャガがノアの背中にぶつかってしまった。
「どした、ノア?」
ヒョロも不思議そうに問う。
ノアが僕らを止める理由は、僕もすでに気付いた。向こうから、何人もの騎士が僕らに向かって歩いてきたことを。
先頭に率いるのは、金髪イケメンのゼノン先生だ。
ヒョロとジャガも周りの様子がおかしいということをようやく理解したのか、段々と僕らを包囲しずつある騎士らをビクビクと見ていながら、僕の後ろにまで引っ込んだ。
さすが僕の選んだモブ友、実にモブっぽい挙動だ。
「何の用ですか、騎士様」
怯えずにゼノン先生と対峙するノアも実に主人公っぽい。
「君には用がないよ、編入生のノア・エスポワールくん。用があるのは君の後ろにいるシド・カゲノーくんだ」
自分に立ち向かうノアに一瞬だけ驚いた顔を見せ、すぐにきりっとした表情に戻ったゼノン先生が言う。
「これは上層部から騎士団へ正式に下した任務の一環だ。退いてくれないかな」
あくまで公人としての態度をとるゼノン先生である。
それを聞いてもなおゼノン先生に睨みつくノアは、一瞬だけ殺気にも似た気配を漏らしたが、それに気付いたのは僕だけのようだ。
対立した二人は無言なまま睨み合い、両者とも身長が高い故、そばから見たらその圧迫感は半端ないものだった。
短くもない沈黙を経て、「……分かりました」とノアはようやく道を譲った。
「協力感謝する」
固い口調でそれだけを言い、ノアに目もくれずにゼノン先生は僕の前に立つ。
ヒョロとジャガはというと、騎士たちの狙いが僕だと知って、道を譲ったノアの隣にまでこっそりと場所を移り、置物と化した。
「知っているかもしれないが、アレクシア王女は昨日から寮に戻っていない」
いや、初耳である。
もしかして昨日僕に痛い所を突かれたから家出したのかな、本当にアグレッシブな王女様だ。
ゼノン先生は続けて説明し、要は寮の付近でアレクシアのローファー、あと争った形跡を見つかったから、誘拐である可能性が高いと。
そして、最後にアレクシアと接触し、しかも言い争った僕が、今のところの最重要容疑者だ。
隣で聞いているノアの視線が段々鋭くなり、ゼノン先生が話し終わった時はもはや人を殺しそうな目付きだ。いつゼノン先生に襲い掛かるかこっちが冷や冷やしてきた。
やめてくれ、僕のようなモブのために国家権力に歯向かわないでくれ、そういうイベントはアレクシアのような主役級キャラを救うとかのために発生するべきだ!
「一緒に来てくれないか、シド・カゲノーくん」
ゼノン先生が僕に最後通牒を突き付けた。
一つだけ分かったことがある――これあかん奴だな。
幸いなことに、ノアは最後までゼノン先生に剣を向けなかった。
ただ連行される間際に、「また後で」と、僕にしか聞こえない声で囁いた。
とりあえず原作第一章の終わりまで続けたいです
キャラ紹介が終わり、いよいよストーリーが動き始める