「……巫山戯ているのか」
俺が大聖杯の探索をしていると電話がかかってきた。訳の判らない内容だが、衛宮家に来てほしいというのだ。
此方は暇じゃないと何度も言ったが相手は士郎だ。これが魔術を知っていればよかったのだが、何分民間人すぎる。
「くそ…」
俺は大聖杯を解体という話に不信感を得た。
あの男がそれを許すはずがない。
奴は召喚されていたはずだ、それを何もしないで消えるというのはあり得ない。
今俺は『唯一つ忘れられない絆の剣』よりも強力かつ、あの存在を殺すための宝具何度も投影しようとしていた。
その為にも大聖杯の残滓が必要だったのだが、
「仕方ない、かりだぞ」
衛宮家にアルトリアを連れて行く。
勿論バイクだ、運転はアルトリア。
「なっ、シド!アルトリアさんまで」
「これから出掛けるんでな、それで?話って何だ」
「あっ!お兄ちゃん!」
「クロエか、良い子にしてるな」
「…あっ、アルトリア」
「……えぇ、クロエ」
俺とアルトリアは前の事なんて水に流した。
もういいから、俺と二人でクロエの頭を撫でる。
「やっぱり、お兄ちゃんとアルトリアはお似合いだよ。誰よりも」
「ありがとう、クロエ」「…当たり前だ」
イリヤ、士郎、セラ、リズ、母さんまで見たことのないような顔を俺に向けている。
「何だ、間抜け顔を晒して。士郎、その顔を退けろ。打つぞ」
「怖いぞ、てか…志戸もそんな優しい顔をするんだなって」
「……そうか」
俺とアルトリアはソファに座る。その間にクロエがちょこんと座る。
(クロ……志戸お兄ちゃんの前だと猫被ってる)
俺もアルトリアもそんなクロエに甘くしてしまう。美遊は中々そういうことはしない。
甘えて来るのも俺一人に対してだ。
だからか、クロエが妹ではなく娘のように感じられてしまうんだ。
「…モードレッドよりも良い子だ」
「……(モードレッドは泣いていい)」
まぁ、セイバーからしたら裏切り者だし………はぁ。
「ソレで、話を聞聞かせてもらおうか」
「うん!志戸お兄ちゃん!!」
「イリヤ待って」
クロエに対してニタニタと笑うイリヤ。クロエはただイリヤを睨むだけだ。
「……クロエ」
「はい!」
「それは、自己満足なのかな。それとも、お前なりの信頼の証かな」
――――
私の前でお兄ちゃんがしゃがんでいる。
シロウお兄ちゃんと違って、真に私を理解してくれているお兄ちゃん。私とお兄ちゃんは兄妹、大切な人。でも、イリヤを誂いたかった。
それに…お兄ちゃんに会いたかった。
だから、シロウお兄ちゃんに近づいたし、イリヤに悪戯もする。
でも……
「……残念だ、クロエ」
失望された?幻滅された?嫌だ……お兄ちゃんに捨てられたくない。
「お兄ちゃん……違う、違うのだから……」
「……クロエ、これからはしないな」
「……うん………ごめんなさい」
「……実際どうだ、こっちは。嫌なら、俺とセイバーと住むか?」
「……いい、ママも、イリヤも、シロウお兄ちゃん、セラさんとリズさんも居るから。だから……だから……私は寂しくないよ」
「そうか…でも、士郎には謝れ。人として、ソレは必要だぞ」
お兄ちゃんの言葉は棘がある。
優しくて、鋭くて、だから良い。
お兄ちゃんが真の優しさを向ける相手は家族だけだから。
――――
「それで……上下関係か」
①アイリ
―神の壁―
②キリツグ
―親の壁―
③イリヤ
―お嬢様の壁に―
④セラ・リズ・シド
―メイドの壁・兄の壁―
⑤シロウ
「妥当だな」
「は?」
「アインツベルン家当主に婿入りしたんだよ、親父はな。だから必然的に立場は低くなる。そして、実子であるイリヤがその立場になるのは確実だ」
「あら、一番反発しそうなシドから良いお返事が」
「だが……何故俺も入る?俺は」
「だって……シドも私の子供だから。貴方が私達をどの様に思っているか、自分自身をどう思って居るかは知っているわ。でも……貴方は私の子供の衛宮志戸なの」
年甲斐もなく抱き着かれ、頭を撫でられる。
俺が今まで心の底から母と呼んだのはキャスターだけだった。
「……止めてくれ、母さん。俺は子供じゃない」
「……えぇ、そうね」
「?待てよなら、何で俺は」
「シロウだから」
「何でさ!」
リズに反論する士郎、俺はそれをどんな目で見れば良いのか判らない。
正直、この家族とももうすぐ別れることになる。
卒業さえすれば、俺はセイバーと旅に出るつもりだ。……カレンに捕まってたまるか。
兎に角、付いてくるなら美遊とクロエを連れて行くのもいいかもしれない。
世界を巡って、あの二人に知らない世界を見せてやるのも。
「なら、クロは勿論ここよね!」
―兄の壁その2―
クロ
それにクロエが反発した。
小猫どうしの喧嘩に発展し、二人を俺は捕まえた。
「二人共、喧嘩は止めろ」
「でも、お兄ちゃん!」
「クロはそうやって志戸お兄ちゃんに」
「アルトリア、ゴメンな予定変更だ。泰山に行こう」
その時、イリヤとクロエの顔が死んだ。
「言峰から泰山のクーポンを貰っていたのを思い出した。イリヤ、クロエ、外食と行こうか」
二人揃って首を横に振る姿は笑いを誘う。
カレンのせいで食べれる様になってしまった麻婆。
「シロウ……アレを食べるのか」
「勿論、アレだ」
思い出すのは吐き気を催す程の熱を放射する赤い何か。
「喧嘩、するなら泰山だぞ?」
「「私達、仲良しだよ!お兄ちゃん!!」」
泰山、不味くはないんだ。
………死ぬほど辛いだけなんだ。
――――
「……学校行くのやめるか?この際、いっそ」
俺は憂鬱だった、今更やり直す学問。
どうせ満点が続き、実につまらない。
馬鹿騒ぎは楽しいがそれだけだ、他は……まぁな。
「……金は自分で払ってるし、このまま消えても……はぁ」
「………会いたくねぇ」
それは来るに当たり、下駄箱に入っていた一枚の紙切れ。
忠犬
放課後、保健室に来なさい
何を言われるかわかったものじゃない。
たが、アイツには確かめなければいけない。
俺と同じなのか、それとも別か。
それだけでも………
「来たぞ、カレン」
「……そう、来たのね。忠犬」
「………」
カレンは普段とは違い白衣を着ている。
いや、見慣れているとは言えないが保険教諭の為、何度か顔は合わせている。
だが、シスターのイメージの為か似合わない。
「忠犬、警告よ。近いうちにバゼット・フラガ・マクレミッツが来る。理由は」
「……どうでもいい。俺の家族を壊すなら殺すだけだ」
「シロウ、やめなさい。貴方が死ぬわよ」
普段とは違い、慈愛に満ちた声だ。
それこそ、前に聞いていた声でもある。
「……覚えているのか」
「……えぇ、トオサカとマトウの顔は今でも忘れられないわ」
その言葉とはカレンの結婚報告の時の事だろう。
二人から逃げ回り、教会に行き着いた俺を拾ったカレンは俺を落とした。
あの時はボロボロで藁にも縋りたい思いだった。
妖美なる悪魔に追われ、堕落しかけ、時計塔の屑どもは命を狙ってくる。
そんな時にであったカレンが天使に見えた。
まぁ……人生の墓場に向かったが。
「別にあの二人に子供がいるのは良いわ、でも……忠犬、貴方を独占し……フフ」
けして邪な考えではない、いやある意味邪である。カレンは俺の追いかける二人を嘲笑うのが面白かったのだろう。
俺が二人と何度か会っていても何も言わなかった。その代わり、二人に攻撃することが増したが。
「……それで……俺にはアルトリアが居る。お前に靡く事はないぞ」
「……えぇ、でも元妻としての警告」
「聞き入れるかは俺次第か」
俺は何も言わず保健室から出る。
「生き居れば治しては上げるわよ?貴方は上客だから」
「……死なない」
「……そう」
カレンは何も言わなかった。保健室から出ようした俺をマグダラの聖骸布が包む。
「………なっ」
「おまじないよ……らしくないわね」
抱き締められ、そんな言葉を言われる。
その後、カレンは何も喋らなかった。